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第24話 青春には体力が必要


「何気にサイデ初めて来た」


「え、私も初めて」


 サイデに着き、土曜だから混んでるかなと思ったが幸いな事にタイミングよく席も空いていて直ぐに座る事が出来た。


 女子二人、男子三人という配置。


 男子というガタイがまぁまぁあるのにプラスして三人、そして荷物があり座れるか不安だったが、七月さん達の方に荷物を置かせて貰って少し窮屈だがなんとか座ることができた。


「「え、やっす!」」


 俺と七月さんはサイデが初めてだったのでメニュー表を見て同じ反応を示す。七月さんと目が合うと同時に同じセリフを言った事が面白くて、少し恥ずかしそうに笑い合った。


 他の三人は来た事があるらしいので俺達の初々しい反応に微笑みを浮かべている。


 少し恥ずかしい。





 その後、光が手際よくスマホで注文を済ませ100メートル走やリレーの話、先生がアイスを奢ってるなんてびっくりしたよねと今日の体育祭の事について雑談に花を咲かせていると直ぐにご飯が到着した。


 ちょっと量は少ない気もしたがそれでもこの量でこの値段は安い。それにさっきカラオケでソフトクリームも結構食べたし、ジュースも飲んだから寧ろ丁度いい量だ。


 何も食べてなくても1000円くらいでお腹はいっぱいになりそうな感じだったのでお財布に優しい。


 こりゃ皆サイデに食べに来るわけだ。






 それぞれご飯を食べ終わり一息つくと会計どうするんだろうという疑問が頭に浮かんだ。


 これは割り勘なのか? いや誰かが奢るのか? 誘った俺が奢るべきか……? でも俺海に誘えって言われただけだしな。海が奢るべき?


 安いと言っても五人。4000円くらいではあるが、俺はもうバイトしていないのであまりお金は使いたくない。


 でも七月さんや渡辺さんという女子の手前、何も言わずに俺がスマートに奢るのもカッコいいのでは?! という邪な考えが浮かぶ。


 悩んでいると隣にいた光が伝票を持ち席を立とうとしたところで海が口を開いた


「待てよ光、ここは俺が奢るぜ」


 できた人間の光の奢りそうな雰囲気を感じ取ったのか海が伝票を奪い取る。


 確かに妹思いだったりするし、光なら奢りそうではある。


「え、待って待って自分の分は自分で払うよ?!」


「私も払うよ」


 海の言葉で奢られるのは申し訳ないと七月さん達は払おうとするが海は「い、いやいや大丈夫、たった4000円だし払うよ!」とその提案を断る。


 海、お前バイトしてないって言ってなかったか……? バイトしてない人間の4000円の出費は中々にでかいぞ……。


 たった4000円って4000円は十分大金なのにと心の中で見栄を張ろうとする海に哀れみを抱く。


「海、まじ?! ありがとう、ご馳走さまでーす」


「ごちになります」


 ここまで言ったらもう引くに引けないであろう海を立たせるために俺と光は少し煽るようにお礼を言うとそれで諦めたのか七月さん達も渋々といった感じだったが頷いた。


「ありがとね、中村くん。ご馳走様!」


「中村くん、ありがとう。ご馳走様です」


 女子に名指しでお礼を言われたのが嬉しいのか海は「うん」と小さい声で呟き「へへ」と気持ちの悪い笑みを零していた。


「ちょっとトイレ行ってくるわ」


「あ、じゃあ私も」


「いてら」


「いってらっしゃーい!」


 海が会計をしてくれている間に俺はトイレに行くことにした。渡辺さんもトイレらしいが少し気まずい空気のまま一言も交わすことなくそれぞれトイレに入っていった。


 先にトイレを済ませた俺は流石に渡辺さんを置いていくわけには行かず、トイレから少し離れた場所で待っているとドアを開けて渡辺さんが出てきた。


 渡辺さんはまさか俺が待っているとは思わなかったのか目を見開いて一瞬硬直した後少し駆け足で俺の元に来た。


「待っててくれたんだ」


「まぁ、うん」


「ありがとう」


「いや、こっちこそ急な誘いだったのに一緒にご飯ありがとね。ごめんね二人の邪魔して」


 元々七月さんと二人で静かに女子でしか出来ない話とかもしながらご飯を食べる予定だったのなら申し訳ないことをしたなと思い謝る。


 渡辺さんは前を向きながらその言葉を聞くと、少し視線を上げて淡々と返事をした。


「ううん、大丈夫。明奈が楽しいなら私はそれでいい」


 前を向いているはずなのに、横から見る渡辺さんの目はここではないどこか違う所を見ているような気がした。


「そっか? ありがと」


 その目の先には何が映っていて、何を思っての発言なのか少し気になったが俺はまだそれを踏み込んで聞けるような仲じゃない。


「それよりさ、前から気になってたんだけど明奈といつの間に仲良くなったの?」


 渡辺さんは思い出したかのように俺の方に顔だけ向けて質問してくる。


「七月さんから何か聞いてないの?」


 七月さんと渡辺さんは親しい仲に見えるからてっきりどうやって仲良くなったか言っているものだと思っていたのだが。


「いや、聞いたけどなんか『一緒にゲームして仲良くなった』っていうふわふわした回答しかもらえなかったから」


「あ、そうなんだ……」


「どういう経緯で一緒にゲームをするってなったかが分かんなかったから。二人、前まで全然話してなかったからさ、気になって」


 渡辺さんにも配信をしていることは言っていないのか。それにしても説明が下手過ぎるし逆に怪しまれると思うんだけど!?


 確かに話す様になったきっかけは身バレからで配信でゲームコラボとかして仲良くなったりしたけど、なんかもっと他にこうあったでしょ! と心の中で七月さんに突っ込みながら俺は何て答えようか考えを巡らせる。


「あーと……ちょっと前に放課後忘れ物して教室に取りに帰ったら七月さんがいたんだけど、それで話しかけられてゲームが好きなのをお互いに知ったんだよね。それで今度ゲームしようって誘われて一緒にゲームして仲良くなっていった感じ……かな……?」


「そうだったんだ……。明奈説明省き過ぎでしょ……」


 溜息を吐きながら苦笑する渡辺さんに俺も愛想笑いをする。


「教えてくれてありがとね」


 こっちに身体ごと向けてお礼を伝える渡辺さんの目からは優しさが滲み出ていた。俺はその目に惹かれながら「うん」と返すと渡辺さんは言葉を続ける。


「――それと、明奈と仲良くしてくれてありがと」


 そう言って渡辺さんは今までに見た事のない優しい笑みをふわっと浮かべた。


「っ……?!」


 その今まで見た事ないような表情に驚いて言葉が直ぐに出てこなかった。


 渡辺さんっていつも表情が硬くて真面目で男子相手には少し怖いイメージがあったけど、こんな風に笑うんだ……。


 勿論七月さん達といる時は笑っていて楽しそうな感じではあるのだが、その笑顔を他の人、ましてや男子に向けた事なんて見た事が無かった。


「ん? どうしたの?」


「いや、なんか渡辺さんって七月さんの事凄く大切に思ってるんだなって」


「まぁそうだね。大切だよ」


 こういう質問は照れくさくてはぐらかされるかと思ったが渡辺さんはあっさりと肯定した。


 そして目を伏せると「だから二度と辛い思いはさせたくないの」と顔を曇らせる。


「そ、そうなんだ」


 なんの事か分からず俺は困惑しつつも相槌を返すと、言うつもりじゃなかったのか渡辺さんはハッと口を手で押さえてた。


「いや、ほら……明奈に近づいてくる人達って大抵下心で近付いてくる人ばっかりだったからさ」


「俺もそうかもしれなくない?」


「あはは、そうかも。まぁでもなんだろうね。明奈が話してて楽しそうだし、話してる所を見てても、こうやって実際に話してみても柊くんからはそんな感じしなかったから」


「そうなんだ」


 なんだろう、所謂女の勘というやつだろうか。あれは意外と当たるらしいからバカにできない。


「だから何かあった時、私が近くにいない時とかは明奈の事よろしくね」


「え、あ、うん。任せて」


 会話の中での情報量が意外と多くて勢いに負かされ頷いてしまった。


 でもまぁ、友達だし七月さんが困っていたら助けるのは当たり前だ。



 重い話にならないように渡辺さんは気を遣っただけで、きっと本当はもっと辛い事があったんだろう。


 人には皆辛い過去の一つや二つある。俺にだって誰にも話していない過去があるし。


 気にはなるけどとてもデリケートな話だ。まだ信頼関係も出来ていない今の俺が聞いていい話じゃない。

 もっと仲良くなったら、聞くことが出来るのだろうか。いや、聞くことが出来る仲になったとしても、俺はあまり聞きたくないな。そもそもそんな仲になれるのかな。







「ほら、みんな待ってるからそろそろ行こ」


「うん」


 もう既に会計を終えていたらしく、お店の外に出ると皆待っていた。


 辺りは仄暗くなり、街灯の光が地面を照らし始めていた。


 六月が近いからかいつの間にか雨雲が空を覆っていてより暗く感じる。



「遅かったな」


「4000円……」


「おかえりー!」


 と三者三様だった。


 海は多分払ってから4000円という大きな存在に気が付いたんだろう。後悔に打ちひしがれている様子が面白かった。


「んじゃ、時間もいい時間だしここらで解散にするか」


「おっけ-……」


「おっけぃ」


「今日は奢ってくれてありがとね中村くん!」


「ありがとう」


「い、いえいえ」


 七月さんに名指しされ渡辺さんからもお礼を言われた海はさっき抱いていた後悔が嘘かのように、照れながらニヤついていた。


 単純なやつだな。


「柊くんも松山くんもありがと! 楽しかった! それじゃ、私達ちょっと買うものあるからじゃね!」


 あ、やっぱり用事あったんだ。無理にご飯誘っちゃって悪かったな……。


 七月さんに手を振りながら渡辺さんのお辞儀にお辞儀を返して見届けると俺達三人はゆっくりと無言で歩き出す。


「……」


 二人とも何も話さないので様子を見てみると光はまたスマホで連絡か何かをしていた。海に至っては顔を下に向けてふへへと気色悪い笑みを浮かべていた。


「海、よかったな。女子と一緒にご飯食べれて」


「んぇ? あぁ、うん。そうだねよかった。マジでありがとうね」


 意外にも海がすんなりとお礼を言ってきたのが珍しく少し面食らったが、悪い気はしないので「うん」と微笑む。



「あ、待って。二人はお金返してね。奢るとは言ってないから」


「いやバリバリ『ここは俺が奢る』キラッって感じで言ってただろ。な、七緒?」


「ぶふっ、それな? 言ってたわ」


 光が唐突な誇張した海の真似をするので思わず吹き出すと海はそれでも「言ってない!」と言い切った。


「お前、払ってから4000円のでかさに気付いただろ」


「グッ……」


「七月さん達から名指しでお礼言われて嬉しかったからそれでいいんじゃねーの?」


「ま、まぁ……それは嬉しかったけど……」


「まぁ払ってもいいけど、自分から奢るとか言っておきながらやっぱ返してはまじでカッコわりぃからな?」


 光が意地の悪い笑みを浮かべながら煽ると海は恨めしそうに光を睨む。だが、光の言っている事に共感したのか何も言い返して来なかった。


 俺はそれを見て少し不憫に思ったので「今度何か奢るって」と笑いかけると「よっしゃ」と直ぐに機嫌を取り戻していた。


 そんなに高いのは奢るつもりはないけどね……。






 それにしても今日は楽しかったな。体育祭が終わってから初めてのカラオケ、そしてまさかの七月さん達と一緒にご飯。

 こんなの昔の俺からしたら想像もしていなかった。



 これが青春か……。青春するのってめっちゃ体力いるな。





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