第25話 今この時間を
〇渡辺優衣視点〇
柊くん達と別れてから私達はメイクとか化粧品を見るためにお店に向かって歩いていた。
すると明奈が「楽しかったね」と柔らかい笑みを向けてくる。
「そうだね」
「それにしても優衣は相変わらず歌下手くそだよね」
「なっ、やめてよそれ言うの」
「でもそういう所、いつものしっかりとしたイメージとギャップがあってちょー可愛いよ!」
「それ褒めてる? 貶してる?」
「えぇ?! そりゃ勿論褒めてますとも!」
「ふふ、そっか。ありがと、でも歌が下手な事実は変わらなくない?」
「あ……ごめん」
「全然大丈夫だよ、ふふ」
「な、なんで笑うの?!」
「んーん、なんでもない」
この子は本当、あの頃とは変わってよく笑うようになったし凄く表情がコロコロ変わるようになったな。本当に私なんかよりも何倍も可愛らしい。
その可愛さに惹かれて厄介な人達に絡まれたり、妬まれたりする事もある。性格も明奈は男女隔てなく優しいから余計にだ。 だから私が明奈の事を守らないと。前みたいに辛い思いはこれ以上させない。
「そういえばトイレ遅かったね、柊くんとなんか話してたの?」
「まぁちょっとね」
「え、何話してたの?」
「んー? 内緒」
「えー! 何それもっと気になるじゃん!」
「別に変な事は話してないよ? ただ、明奈と仲良くしてくれてありがとうって言っただけ」
「へへ、なにそれ」
明奈は少し照れくさそうに笑うと一瞬顔を俯ける。
「優衣? 本当にもうあの時の事は気にしなくていいからね? 寧ろあれが普通っていうか、私が優衣と同じ立場でもきっとそうしてたからね? だから……」
明奈がそれ以上言う前に私はそれを遮るように言葉を被せる。
「分かってる。明奈がもう気にしてないのは何回も言ってくれてるから。でも自分自身が許せないの。だからこれは私の自己満足」
「……そっか、分かった。私と一緒にいるの辛いなら無理はしないでね」
「それはない! 明奈といるの……楽しいし……」
「あはー!!!! 優衣がデレるの珍しー! 可愛いぃ!」
暗い会話を無かったかのように吹き飛ばす明奈の声に少し驚きながらも恥ずかしさがこみあげてくる。
「照れてる照れてる~!」
「ほんとにやめて……っ」
「ほんと、優衣って褒められるのには慣れてるくせに可愛いって言われるのには慣れてないよねー」
私は明奈みたいに人と積極的に話すようなタイプではないし、基本的に無口で無表情な方が多い。だからそんな私が可愛いと言われる事なんて無い。みんなからは真面目でお堅くて怖い人と思われてるだろうから。
でも私も女子。可愛いと言われたら嬉しくなっちゃうよ。
「あ、明奈も可愛いよ」
お返しとばかりに私も声を振り絞って反撃すると明奈は目を丸くして一瞬固まる。
「そ、そうかな。えへへ、ありがと」
なにこの可愛い生物は。明奈は結構常日頃から可愛いと言われ慣れてるはずなのに何でこの反応をしたの?!
「明奈なんで照れてるの? いつも言われてるのに」
「いやそりゃ、まぁ……いつも色んな人に言われてるけどさ。それってお世辞だったりその場の流れだったり皆いるからそんなに恥ずかしくはならないんだけどさ……」
「だけど?」
「こう、面と向かってしかも一対一で言われたらそりゃ照れますとも?!」
「あはは、そっかそっかやっぱり可愛いね」
「もー?! 優衣やめてね?!」
「明奈が始めたんじゃん」
傍から見たらくだらないやり取りだとは思う。けど、今こうしてくだらないやり取りを出来ている事実が嬉しかった。
昔の私達の関係じゃ、こうなるなんて夢にも思ってなかったのに。
いつかきっとこういう関係も終わってしまうのかなと思うと少し悲しくもあった。それこそ、最近柊くんと仲がいいみたいだし。
明奈と柊くんが恋人になったらこういう時間も減るだろう。だから、私は今この時間を大切にしようと思った。




