第23話 ご飯のお誘い
「いやぁ、こんな大声で歌えると気持ちいいね」
「たまにはいいかもね」
初めてのカラオケで最初の方は少し緊張したけど歌う毎に純粋に楽しむ事が出来た。
それに普段こんな大声で歌う事はないからストレスも発散できたし、解放的な気持ちになってスッキリしている。
「てか海、声やば」
「大声出し過ぎだろまじで」
「いやぁだって、楽しくてつい」
「聞いてるこっちが苦しくなる」
「はは、おもろ」
感情的に歌っていた海は見事に喉が枯れて凄い変な声になっていて面白い。俺も喉に少し違和感はあるが、海みたいにかっすかすで裏返るような聞いててこっちが苦しくなるような声にはならなかった。
海と俺は会計の方法が分からなかったので後ろから操作方法を見ながら料金を財布から取り出す。
「ほーん、これそうやってするんだ。まぁ俺は分かってたけどね」
「そのキモい声でその変なしったかするのやめろようね海」
「あからさまに分かる嘘をキモい声でするな。より惨めに見えるぞ」
「言い過ぎだろ!」
そうやって三人で迷惑にならないように小声で騒いでいると突然「あれ? 柊くん?」と名前を呼ばれた。
その声に反射的に振り返るとそこには七月さんと渡辺さんがいた。
「おぉ……七月さん」
俺が振り返った事で海も振り返ると、海はさっきまでの騒がしさはどこへやら。俺の袖に隠れて身を縮こまらせていた。
こいつ人見知りとかじゃなくて単に女子が苦手なのか?
「やっほやっほ! 偶然だね!」
「どうも」
渡辺さんに会釈をされ会釈をし返す。
渡辺さんって口数少なくてどう接していいか分からないから少し気まずさがあり、七月さんの方に視線を戻す。
「んね、偶然だね。……あれ? 二人だけ?」
「そうだよー」
「あ、そうなんだ?」
てっきり昼にいた四人で来ているものだと思っていたので少し驚いているとそれを察したのか七月さんはふわっと笑った。
「本当はこはると彩香とも来たかったんだけどね、こはるは家族でご飯行く約束してたらしくて。彩香は彼氏とデート」
「そうなんだ」
こはる、小野こはるさんは確か小っちゃくて元気な子だった気がする。
彩香さん……えーと苗字は確か桃沢さんだったかな? 清楚系ギャルって感じだけど結構皆に優しくて男女隔てなくフレンドリーに接しているイメージがある。
桃沢さんって彼氏いたんだ。
まぁそりゃあれだけコミュ力高くて美人なら恋人くらいいてもおかしくないか。というか、昼に一緒に写真撮った四人全員いてもおかしくないくらい顔も可愛いし皆から好まれるような性格をしていると俺は思う。
渡辺さんは口数は少ないけどよく教室で七月さんが甘えているのを見かけるのできっと包容力があって細かい所に気付いたり気遣いが出来る優しい人なんだと勝手に思っている。
そんな人達と俺が一緒に映ってる写真を誰かに見られでもしたら、これ俺殺されないかな大丈夫かなと不安になる。
「でもまぁ二人でいっぱい歌えたし楽しかったね!」
「うん、でも二人だと歌える曲探す時間が足りなかったかも」
渡辺さんはそう言うと柔らかい笑みを浮かべ静かに笑った。
その表情を一目見るだけで、あぁ渡辺さんって優しい人なんだなというのが伝わって来た。
カラオケ二人だと歌う曲探すのに時間が足りないのか。確かに三人でもギリギリとかだったからカラオケの最適な人数は四人くらいなのかもしれない。
話に一区切りついた所で七月さんと渡辺さんはタッチパネルで会計をし始めた。
するとチョンチョンと俺の脇腹をつつく本当に人見知りなのか怪しい人間がいた。
「なに?」
「折角だから皆でご飯でも食べない? ほら、七月さん達も誘ってさ」
「あー……いや自分で言えよ」
「やだよ、どんな風に思われてるか怖いし!」
「光、ご飯どうする?」
「おい何か言ってよ!」と横でうるさい海はほっといて、時間も丁度良さそうだったので光に聞いてみる。
「あー、俺は大丈夫」
「どっちの大丈夫?」
「いけるって方の大丈夫」
「だってさ海。どうする? 七月さん達も誘うの?」
「うんうんうんうん、女子いた方が絶対楽しい。それに俺が嬉しい」
尚更自分で誘えよと突っ込もうかと思ったがあんまり話したことがない女子に「ご飯行かない?」と急に話しかけるのは確かに勇気がいる気がした。
それにある程度関係値がある俺が誘った方が、来てくれる確率も上がるのかもしれない。
会計が終わった頃を見計らって俺は海に軽蔑の目を向けた後に七月さんに声を掛ける。
「二人はこの後予定あるの?」
「んー? いや特にないけどどうして?」
「その、よかったら皆で一緒にご飯でもどうかなって」
俺もこういう風にストレートに誘うのは初めてだったので気恥ずかしくて目を逸らしながら頬を掻く。
「えー! いいじゃん! 私は全然いいよ! 優衣はどう?」
「明奈が行くなら私も行くよ」
「ごめんね、二人ともありがとう」
光と海の方に視線をやると、海は七月さん達にバレないように小さくガッツポーズをしてクルクル回っていた。
光はスマホで多分だが妹に連絡しているのだろう。
俺もそれを見て、母さんにご飯は食べてくるからいらない旨を連絡した。
五人となった俺達は取り敢えずお店から外に出ることに。店に入った頃は青空が広がっていたのに、今はもう赤く染まって徐々に暗くなり始めていた。
そっか、暑かったから忘れてたけどまだ夏じゃないんだった。
五月の終わりなのにこんなに暑いとか、夏どんだけ暑くなるんだろうと思っていると「どこ行く?」と七月さんが皆に尋ねてきた。
ご飯に行く事は決まったけど、どこに行くかとか何を食べるとか何も決まっていなかった。
「なんか食べたいものとかある人いる?」
「私は何でもいいよ!」
「私も何でも大丈夫」
光が俺の番だと言うような視線を送って来たので俺も考えてみるが、中々思いつかない。
「んー……俺も何でもいいんだよね……」
そこでご飯に行こうと言い始めた海が遠慮がちに口を開く。
「無難に、サイデリアとかどう……かな?」
「あー、サイデね? いいじゃん、サイデでいいか?」
女子とご飯行けるというのに緊張しているのかさっきよりも更に口数が少なくなっている海を不思議に思いながらも返事をする。
「おっけー」
「いいねいいね! サイデいこー!!」
渡辺さんもコクンと頷き皆の了承を得た光は先頭を歩き始めた。
こういう時に光って頼りになるよな。率先してやってくれて、リーダー気質だよな。世話焼きだし。
顔もそこそこ整っているし身長も平均くらい。歌も上手かった。あれ? こいつ完璧人間過ぎね?
いやでも結構ウザい時があるのとシスコン気味な所とか悪い所もあったが、それでもお釣りがくるくらいに良い要素が強いな! と歩きながら一人勝手に嫉妬心を抱いた。




