第131話 負け戦だった
さっきから大爆笑している小野さんは目に浮かんだ涙を拭い、息を整えている。
その間にもゲームは止まらず進んでいき3レース目がスタート。
「あっ!」
ここで初めて小野さんが出遅れた。
最初の内に少しでも距離を離しておきたい気持ちがあるが、そう簡単なことではない。
1周目終盤、被弾することもあったがギリギリの所で俺が1位をキープしていた。
やっぱりプロコンやりやすいぞ。
ジョイコンよりもコントローラー自体大きいし、ボタンも大きいので押し損ねることもない。
前に誰もいない道を悠々と走っていると、急に左の視界から小野さんの操作する車が飛び込んで来た。
「えっ!? どっから来た!?」
さっきまで後ろにいたはずなのに、いつの間にか俺と並走し始めた小野さんに驚きの声を上げる。
「ふふん、ショートカット」
そう一言だけ説明すると、カートを俺にぶつけてくる小野さん。
一瞬ハンドルが取られるも、元に戻して俺も小野さんの車体にぶつけ返す。
「わっと、危ない」
すると右隣から七月さんの嘆きの声が。
「ぬわぁぁぁ!」
どうやら小野さんの使ったショートカットを使おうとして失敗したらしい。
七月さんの今日何回目か分からない情けない声を聞き流しながら、俺と小野さんはデッドヒートを繰り返す。
アイテム合戦をするも、二人共運がよく順位は変わらず。
だが、最後の1周が半分くらい過ぎた時にそれは起こった。
「おらぁ喰らええぇぇ!!」
いつの間にか下位に転落していた七月さんからの咆哮。直後に車体に雷が降り注ぎ操作するカートが小さくなって速度が落ちた。
「「なっ!」」
もどかしい気持ちになりながらもアクセルを押しカートを進める。
その間に七月さんが一気に距離を詰めてくるのがマップで分かった。
ほぼ三人共並んだその時、例のショートカットの場所が迫って来る。
2周目は小野さんと1位を争っていたので、ショトカして失敗するリスクの方がデカいと判断してやらなかったのだが……。
この均衡具合、恐らく小野さんはショートカットを選んでくるはず。七月さんは1周目も2周目もショトカを選んでいたのを横目で確認済み。
俺が普通の道を選んだ場合、二人がミスするしか勝つ未来はない。
だが俺がショトカを選んだ場合、そこにはまだ希望がある。
今までで2回1位を取っている小野さんに勝つ為にはここで1位を取らないともっと点差が開かれる。
選択肢は二つに一つ。
ショートカットの場所がやってくる。
俺が選ぶ選択は――。
「よっしゃ!」
「くぅっそぉぉ!」
「なぁーっ!? うそうそ! 最悪ぅぅ!! よくもやってくれたなぁラギっちぃ!」
3レース目、結局最後は三人全員ショートカットを選択した。
その結果、俺は1位を取る事に成功。2位は七月さん。そしてまさかまさかの7位に小野さんだ。
小野さんがこの順位まで落ちた理由、それはショートカットの道の細さにある。
細い道で俺と小野さんはぼぼ並走状態。なので車体がぶつかり合うのだが、それで小野さんがコースアウトしてって感じだ。
俺は無事にショトカを成功させ、小野さんが落ちてる間に七月さんも成功させてゴール。
「やった……1位だ」
ようやく取れた1位を噛みしめながら、小野さんとの点差も数点まで縮まった事に嬉しさが込み上げてくる。
次がラストレース。まだこの試合では一回しか七月さんに負けてないし、点差があるから大丈夫だろう。
これ勝てるぞ。コスプレをせずに済むぞ!
俺がまだ勝てる可能性がある事を考えている時、小野さんと七月さんはアイコンタクトで何かを示し合わせ、頷き合っていた。
そんな事知る由もない俺はコスプレを掛けた最後の闘いを前に深呼吸する。
そして遂に、最後のレースが始まろうとしていた。
これで小野さんに勝ったらコスプレをしなくて済む。そう思うと緊張してきた。
コースは――
「ん? なにここ。めっちゃ短くない?」
「そう、ここ1周めっちゃ短いんだよね。その代わり7周だけど」
「うんうん! それにここ柵もあって落ちないんだよ!」
「へーそうなんだ?」
どうやら最後の最後で初心者向けマップを選んでくれたらしい。何だかんだ言って二人共優しいんだよな。
でもこれなら負けないぞ。俺はもう1位を取れるくらいの操作技術を持ち合わせているんだからな。
これなら余裕かもしれない……と、思っていた時期が俺にもありました。
始まってから分かった。このコース、所謂運ゲーコースだ。
「え待って、今どっから甲羅飛んできた!?」
「ちょっとここにバナナ置いたやつ誰っ!? 私も置いとこーっと」
「うわぁぁぁぐちゃぐちゃだぁ!」
四方八方から飛んでくるアイテムの数々。CPUも合わせて全員がクラッシュしまくって目まぐるしく入れ替わる順位。
このコース1位になる方が難しそうなんだが!?
もはや1位になれたら奇跡だろってレベルの運コース過ぎる。うんこーす……とかしょうもない事を考えている暇ではない。
余計な思考を振り払い、俺は取り敢えずアイテムを取り損ねないように画面に集中する。
正直自分がどういう状況なのか把握するのすら難しい中、気が付くと残り2周。
順位は今現在4位だがここから全然最下位だってあり得る。
うわ、キノコかよ。
キノコを使い加速して3位になった、残り1周だ。
七月さん達はまだ後ろだし、このまま逃げ切りたい!
バナナを後ろに付けつつ甲羅などの攻撃を回避しながら残り半周になった。
これいける!! 勝てる!!
そう思った矢先。
「うわっ!」
前を走っていたCPUが爆弾を落としていって、運悪く爆発に巻き込まれてしまった。
でもまだ6位だ。大丈夫。
クラッシュモーションが終わり、アクセルを踏み徐々に加速し始めた瞬間――後ろから炎の玉が何個も飛んできた。
俺はそれを間一髪の所で避けるが、柵に反射して返って来る火の玉。
俺の運転技術を舐めるなよ。
「うわ、ちょイカ墨やめっ――」
避けようと画面に集中した瞬間、アイテムにより画面が墨で覆われ迫ってくる火の玉が見えなくなる。
あぁ終わったこれ。
勝てない事を察するも、もしかしたら避けれる可能性に賭けてアクセルを踏み続ける。が案の定クラッシュ。
その瞬間「いぇーいゴール!」とコントローラーを持ったまま両手を上に掲げて喜ぶ七月さん。
まだ小野さんはゴールしてないっぽいし、諦める訳にはいかない。
再びクラッシュモーションが解けて加速し始めたタイミングで、「ひゃっほー!」と楽し気な声を上げる小野さん。
チラリ。何事かと小野さんの画面を見るとキラキラと光って爆速で近くのCPUのカートを吹っ飛ばしているのが目に入った。
聞こえて来る陽気な音楽。俺の画面には警告表示と危険を知らせる音が響く。
「お兄ちゃんお先~っ! どーん!」
「うわ、おい! ぶつけんな!」
スター状態の小野さんのカートにぶつかられ吹っ飛ばされる俺の車。
クラッシュしている間に次々とゴールしていくCPU達。
再び走り出した頃には俺以外の全員がゴールしたらしく、操作できなくなり強制的にレースは終了。
「まじか…………」
嘘だろ、あと半周くらいで3位からここまで落ちる事あるんだ……。
終盤に怒涛のアイテムによる被弾を喰らった俺はなんと、最後の4レース目を最下位で終える結果になった。
前のレースで1位を取ったから勝てると思っていたのに……。
俺を挟み、いぇーいとハイタッチする二人。
最後の最後で運ゲーで負けたが、合計のスコアはどうだろう。七月さんには勝っている気がするが。
ドキドキ。俺の文化祭での運命が今決まろうとしている。
画面に映ったその結果は……。
「いぇーい!」
2位に小野さん。七月さんは5位。
そして俺はというと七月さんの1つ上の順位。つまり4位だった。
1位から5位までのスコアはかなりの僅差で、俺が最後のレースで最下位じゃなかったら小野さんにすら勝てそうだっただけに結構悔しい。
だが肝心の七月さんには勝ったのだ。
「うそ……ギリギリで負けた……」
「よっしゃ、七月さんに勝ったからコスプレは無しね」
コントローラー変えて貰ってよかったと安堵していると「「ん?」」と聞き捨てならないとでも言うように二人が小首を傾げた。
「いやいや、柊くん。こはるには負けてるから負けだよ?」
「え?」
「そうだよ。うちに負けてるからコスプレだよ?」
あれ? おかしいな。話が違うぞ……。
「私達に勝ったらってさっき言ったじゃん」
「言ってたっけ?」
「言ってたよ」
「言ってた言ってた!!」
思い返してみれば、確かに言ってたかもしれない。俺が勘違いしていた。どうやら最初から2対1の負け戦だったらしい。
「やっぱりコントローラーは関係なかったでしょ?」
「え、いや最後の運じゃん」
全然こっちのコントローラーの方がやりやすかったし。最後運コースでさえなければ俺は1位だったと思うんだが。
「それにしても俺が不利過ぎじゃない?」
卑怯だぞと抗議の声を上げると、流石に七月さん自身も自覚はあったようで引きつった笑みで頬をかく。
「だってそのくらいしないと柊くんゲーム上手いから勝てないと思ったんだもん」
腕を組んで唇と尖らせる七月さん。
上手いと言われるのは嬉しいが、流石に数年ぶりともなるゲームなのだから操作方法くらいは教えて欲しかった。
まぁ勝負が着いた今、文句を言ってもしょうがない。
最初は拒否権なんてなくて強引にさせられたが、最終的に対戦を受け入れたのは俺だし。
てか久しぶりにするマルオカート凄い楽しいな。PCあったら他のゲーム機いらないとか言ったけどやっぱいるわ。




