第130話 泣きの一戦
4レースを終えての順位発表画面に映り変わり、1位はなんと小野さん。そして2位は七月さんだった。
「やったぁぁ!」
「くぅぅぅ! あと1ポイント差じゃんんぅぅ!」
凄い接戦だ。そしてゲームでも勝つ小野さん、基本スペックが高すぎませんか?
小野さんも俺と同じで器用貧乏ではあるけど、それをちゃんと活かせる器用貧乏なんだろうな。
陸上で結果を残した小野さんと何も結果を残していない俺との差はそこだろう。
いや待って、運もあるとは言え俺は元プロのジンさんに勝ったんだよな。それは結果を残したと言ってもいいのでは!?
俺も成長しているのかもしれないと一人で頷くが、マルオカートの順位は10位。
CPUより弱い俺って……。
「いぇーい柊くんもコスプレっコスプレっ!」
「ラギっちのコスプレ~!」
リズムに乗ってノリノリな二人。
やめろほっぺをツンツンしてくるな。
「ねぇ、俺と小野さんジョイコンなのに七月さん一人だけプロコンってズルくない?」
コスプレをすることを受け入れたくない俺は抗議の声を上げる。
てか操作方法を教えてくれなかったのも酷い。最初から不利過ぎたぞ、この戦い。
「ほら小野さんも言ってよ」
小野さんもジョイコンだったので同意してくれるかなと振ると「えー?」と首を傾げた。
「うちはジョイコンでも全然大丈夫だけど」
「そうだよ、その証拠にこはるはジョイコンで1位取ってるんだよ?」
確かに……。
「ほら柊くん、負けたからって言い訳しないよ」
確かに負けた今となってはただの言い訳でしかないけど、そうだけど……理不尽だ。
「七月さんは、初心者に勝ってそれでいいんだ?」
「ん? いいよ?」
試しに挑発するような事を言ってみるが何でもないようにケロッと言う七月さん。
「コントローラーが関係無いなら俺もプロコンでやってみてもいいよね? 七月さん、ジョイコンでも俺に勝てるんでしょ?」
どうやらこの煽りは効いたようで、七月さんは「はぁ」とわざとらしく溜息を吐いた。
「はぁしょうがないなー柊くんは。じゃあそれでもう一戦やろっか。これで私達が勝ったら文化祭でコスプレだからね? 分かった?」
「うん、それでいいよ」
隣でニコニコと聞いていた小野さんは「よっしゃー次も負けないぞ~!」と再び気合を入れ直しストレッチをする。
その間に俺と七月さんはコントローラーを交換。
「うわ、柊くん手汗すご」
「あぁそれはごめん……」
そんなん言うけどこのプロコンも湿ってるぞ。デリカシー無いとか言われるの嫌だから口には出さないが。
相変わらず何を選べばいいか分からないカートのカスタムは、二人が選んでる物を真似してみた。
「うわ、真似すんなし」
「いやいいじゃんこんくらい、同じカスタムだと勝てる自信ないんだ?」
「ふん、そんな事ないし。勝手にすれば?」
なんか今日の七月さんはツンデレ色が強いな。絶対ツンデレヒロインのアニメ観たなこれ。
もう4レースもしたというのと、プロコンで操作しやすいのもあり今度は1レース目からいいスタートを切れた。
スタートダッシュもミスらなくなり、加速してからのスタート。勿論二人も成功している。
順調に周回してアイテムもしっかり使い、順位をキープ。今はなんと4位だ。
「ラギっちはや!?」
「うそうそ、負けたくないよ!?」
どうだ、これが器用貧乏の力だ。
小野さんは少し前の1位を走っていて、七月さんは俺の直ぐ後ろ。
ふふふ、これが同じ車で走っているのとプロコンの力。
アイテムボックスを拾うと出たアイテムは加速するキノコ。
どこで使うのが1番いいのかとかはまだ分からないので速攻使い、七月さんとの距離を少し離した時、横から不敵な笑い声が聞えてきた。
「ふふふ、喰らえっ!」
七月さんが意気揚々と言い放った瞬間、警告音と共に追跡してくる赤甲羅のマークが表示される。
「うわ、最悪」
それを防ぐ術はなく、俺のカートは甲羅にぶつかられクラッシュ。
「へへ、じゃあね~」
その間に俺の横を走り抜けていく七月さん。
くっそ、甲羅かバナナとかあれば防げたのに。なんでさっき来たアイテムはキノコなんだよ。
自分のアイテム運の無さを恨みながら発進する。
次にアイテムを拾うとなんと運がいいのだろうか、赤甲羅が3つ出た。
俺はニヤリと口を歪ませ、一瞬の迷いも無くその内2つを前に投げる。
クラッシュしてる時に抜いてきたCPU二人に当たり、そいつらを抜かす。
チラッと七月さんの画面を確認すると3位。そして俺は4位。
さっきの仕返しだ。当たれ!!
前を行く七月さんのすぐ後ろに赤甲羅が迫る。しかし七月さんは全然気にした様子もない。
甲羅が遂に七月さんの操作するカートに当たった――と思ったらカシュっという音を立てて消えた。
どうやら直前のアイテムでバナナか何かをカートの後ろに付けて守っていたらしい。
そして七月さんはクラッシュすることなくそのままゴール。次いで直ぐに俺もゴールした。
「くっっっそ」
「あれ投げたの柊くん?」
無言で頷くと七月さんは「あはっ」と声を漏らす。
「残念私バナナ持ってました~」
くそ、アイテム運良すぎだろ。
「ちょっと二人共~遅いよー」
と、マップで見ただけでも分かるくらいに独走していた1位の小野さんが不満げな声を出す。
「小野さん早すぎ」
「ほんとそれ、追い付けないって……」
「えへへ、でしょ~。このコース得意なんだ~」
正直あんなに差をつける事が可能なのかと驚いた。
2レース目は七月さんがスタートダッシュをミスり、そのままアイテム運もよくなくて俺よりも下の順位になっていた。
直ぐ前の小野さんの後ろを走っていると、アイテムを拾う。
しかしまたもやコインという使い道が分からないアイテム。コースの中にもコインは落ちていて最大10枚まで拾えるっぽいのだが、イマイチこれの存在が分からない。
被弾したら落ちるし何だこれ本当に。
「えいっ!」
「はぁっちょっ!?」
コインの事を考えていると小野さんがバナナを地面に置いて行くのが視界に映る。
しかし見えたところで小野さんと俺の距離はそんなに離れていないので急には止まれないし、ハンドルを切る事も出来ない。
結局俺はバナナを踏んでしまってクラッシュする。
「あはははっ!」
「もー!」
小野さんに不満の声を上げていると、今度は俺が加速し始めたタイミングで後ろから迫っていた七月さんから緑の甲羅が飛んでくる。
「当たれっ!!」
「うわ危なっ!?」
甲羅は俺の右擦れ擦れの所で横切って柵に跳ね返って行った。
緑の甲羅は追跡型じゃないので投げた方向にだけ飛んでいき、反射したりする感じのアイテム。
「いだぁっ!?」
七月さんが謎の被ダメボイスを上げている間に俺はゴール。
「何で私が投げたやつが跳ね返って私に当たるんだ。意味わかんないっ!」
自分で投げた甲羅で自爆したらしい七月さんもぶつぶつと文句を言いながらゴールした。
ふっ、ざまぁみろ。さっき俺に当てた罰だな。
「あはっ!! っ~~~! ……ひぃ、はははは!!」
因みにそれを見ていたらしい小野さんは息が出来なくなるくらい大爆笑していた。
痛い小野さん、面白いのは分かったから俺の肩を叩かないで。




