第129話 この二人、初心者に優しくない
「で、スニッチは分かったんだけど何のゲームやるの」
小野さんと二人で七月さんを見る。
「そりゃあ……」
少しの溜めの後、液晶に視線を向けたので俺達はそれを反射的に追った。液晶に映ったゲームの名前を七月さんはニッと笑いながら口に出す。
「――マルオカートでしょ」
マルオカート、通称マルカーはスニッチよりも前のゲーム機種の時から存在する世界的に有名なレースゲーム。
ただレースするだけのゲームではなく、コース中に様々なアイテムがランダムで出て来るボックスが存在するのだが、それを拾い、出たアイテムで妨害やら加速やらしつつ1位を目指すゲームだ。
勿論単純な操作技術も必要になってくるので、アイテム頼りだけで勝てる訳でもない。
しかし、厄介なのが最下位に近ければ近いほどより強力なアイテムが出ること。しかもそのアイテムは使うと打開して上位に近付けるくらいのアイテムだったりする。
中にはわざと最下位をキープして、最後の1周とかで強力なアイテムを使い1位を取る人もいるらしい。
それだけアイテムというのは重要な要素になってくるのだ。運も味方につけないと勝てないゲーム、それがマルオカートだ。
俺も小さいころはやっていたが、スニッチが出てからはやった事がない。
スニッチを買うよりもPCを優先して買ったからな。というかPCがあればゲーム出来るし、他のゲーム機はいらない気もする。
まぁマルオカートはPCで出来ないのだが。
「妹から借りて来た」
「ちゃんと許可取った?」
「取ったよ。私を何だと思ってるの柊くん」
そこは許可取ってるのか。それなら先生にも確認して欲しいものだが。
こんなハラハラした状態で対決しないといけないの色々と辛いぞ。
ゲームモードはグランプリ。順位毎に貰えるポイントが違い、4レースして1番ポイントが高かった人が勝利のモードだ。
「よーし! 負けないぞ~!」
腕まくりをして準備万端といった感じの小野さん。七月さんも軽く腕を伸ばして「よし」と気合を入れている。
俺はというと……。
「ねぇこれカートってどれ選べばいいの? なんかタイヤも選べるじゃん。え、なにこのパラシュートみたいなの」
全然知らないマルオカートにあたふたしていた。
二世代くらい前の機種でしかやってなかったので、新しい機能に困惑して助けを求めると二人とも目を丸くしている。
どうやら二人ともやった事があるらしい。大方、下の子達と一緒に遊んでいるんだろう。
助けを求めるも、「これ対決だから」と言って教えてくれない七月さん。
こうなったら妹に頼むしかない。兄を助けてくれるのが妹というものだろ?
俺は小野さんに視線を向けて、至って真面目な表情で語り掛ける。
「妹よ、これはどれを選べばいいんだ。教えてくれ」
妹と言われた小野さんは一瞬笑顔になったが直ぐに開きかけた口を閉ざす。
「ごめんねお兄ちゃん。これ、勝負だから」
ニッと片方の口角を上げ挑発するような笑みを浮かべる小野さん。
くそ、ダメだったか。この二人、初心者に優しくないです。
「柊く~ん? 早くしてね」
「あ、はい」
諦めた俺は適当にカートやタイヤなどを選び準備オーケーのボタンを押す。
というか、テレビ画面に繋げてないから画面小っちゃいな。俺が真ん中でディスプレイ見れてるから文句なんて言えないが。
「あ、柊くんアシスト機能消しなよ」
「え? どれ?」
「もう、やったげるから」
七月さんはそう言うとコントローラーを横から強引に奪い取る。
「はい、出来た」
「あ、ありがとう」
他のは教えてくれなかったのにこれはやってくれるの? え、待ってもしかしてアシスト機能って実はめっちゃ強いやつなのでは……。
「やっぱり――」
「いくぞー!」
アシスト機能を付けて貰おうと声を上げた瞬間、それに被せるように七月さんはコースを選んでスタートボタンを押した。
無慈悲にも始まるコースの紹介ムービー。そして自分のカートが映し出される。
カウントダウンが始まり、2に変わったところでアクセルと思わしきボタンを長押し。
スタートダッシュで加速する為だ。これは昔からあるやつで、どうやらまだ変わっていないらしい。
0になると同時に動き始める車。
「あ、最悪」
「おっ先~!」
「え、ななっち速っ!?」
俺はアクセルを踏むタイミングが早かったらしく、黒い煙を上げてエンストしてしまった。
やっぱりブランクは伊達じゃない。
スタートで既に出遅れた俺は何も知らない新コースにも苦しみ、アイテムの出し方もあまり分からず滅茶苦茶落下しまくった。
ギリギリ周回遅れにならずに済んだものの、1レース目は最下位。
七月さんは1位、小野さんは4位という結果だった。
「ふふん、こんなもんだね」
「くっそぉ! ほんと甲羅うざいぃ! ななっち許さん!!」
どうやら上位争いの二人はアイテムをぶつけ合い楽しそうにしていた模様。
勿論俺は最下位なので完全に蚊帳の外だ。
「柊くん下手くそだね~」
「あはは、お兄ちゃん頑張れ~?」
二人の煽りを受けるが俺は動じない。何故ならこの1レースでもう何となく操作感が身についたからだ。ジャンプの仕方も分かったし、アイテムの使い方もわかった。
全然知らないアイテムが出た時はそっちに意識が向いて落下してしまう事もあったが、もう大丈夫だとこの時の俺は思っていた。
2レース目、コース理解が足りず加速キノコを使うタイミングをミスって折角途中まで8位だったのに11位に転落してしまった。
あとミサイルになって高速で自動的に進んでくれるアイテム、あれカーブの直前で効果切れるの止めてくれませんか?
折角ミサイルで抜いたのにミサイルのせいで元の順位に戻ったんだが。
3レース目は曲がり角が多すぎてドリフト加速で曲がり切れず落下連発。
何あの金色の連続で使えるキノコ。難し過ぎるんだけど。
「このコース嫌い!」
「私も嫌いぃ」
どうやら二人も苦戦している模様だった。
え、嫌いとか言いながら普通に2位と3位なの? あと小野さんがカーブする時身体も曲がるタイプで隣の俺に傾いて来るからやりにくかった。
わざとかと思ったけど、そんな様子じゃないしお兄ちゃんはそんな事で一々怒ったりしないよ、うん。
「え待って、雷のタイミング最悪過ぎるんだけど……」
「あはははは!! 柊くん落ちてる!」
「にゃはは! ラギっちどんまい過ぎる!」
最後の4レース目。俺は2周目でジャンプしたタイミングに運悪く雷のアイテムを喰らいそのまま落下してしまうも、何とか巻き返し4位という上々な順位だった。
「最後の運悪すぎない?」
「あははは! 確かにあれ滅多に起きないもんね」
「ラギっち逆に運良いよ!」
よくねーよ?
……おかしい、もっといい順位を取るはずだったのに。




