第128話 放課後理不尽ドキドキゲーム対決
『いやぁコスプレ何しよー』
通話の先でそう呟く七月さんの声に俺は作業していた手を止める。
「大変そうだね」
こうしてたまに、配信していなくても通話を繋げてお互い作業をしたりしている。
殆ど無言なのだが、時折愚痴をこぼしたり、雑談したりもする。
『柊くんは私に着て欲しいやつとかないの?』
「特にない」
脳裏に浮かんだのは昼に海が言っていたコスプレ達。でも、それを口に出したら俺がそういうの好きなやつみたいに思われそうだったので適当に受け流す。
『えーー冷たいなぁ。ほら何かない? 例えば、アイドル衣装とかキョンシーとか巫女さんとかとか! シスターとかもありだよねぇ!』
「そうだね、ありだね」
失言しないように作業に意識を向けあしらうと七月さんは『ねぇ、聞いてる?』とワントーン低い声で尋ねてくる。
「き、聞いてます」
その声に思わず背筋を伸ばすと七月さんは不満げに声を漏らす。
『ならさぁ、柊くんも何がいいか一緒に考えてよ』
「えぇ……だって七月さんなら何着ても似合うと思うから分からん」
『えっ……そうかな……?』
「え? そうでしょ」
元の素材が良ければ何を着ても凄く似合うと思う。
例えば、小柄な小野さんがシスターのコスプレをしたとしてもロリシスターとかそういうのになって可愛いと思うし。
桃沢さんがナースを着ればギャルで少しエッチな感じになっていいと思う。
渡辺さんだったら真面目系だから警察官も似合ったりするけど、ギャップを狙ってフリフリのアイドル衣装的なのを着るのもありだと思う。
そう考えるとやっぱり七月さんは結構何でも似合いそうな気がする。どんなキャラにでもなれそうなポテンシャルはあるし。
『どわっ!?』
「え!? なにどうしたの?」
急に大きな声を出す七月さんにびっくりすると共に、何かあったのではないかと不安な気持ちを抱く。
『いや今コスプレのやつ調べてるんだけどね』
「あぁうん」
『エッチなの多すぎる!!』
何だよ心配して損した。
『凄いんだよ。胸の所がハート型に空いてたり、太もも見えるのもあるし。なんならもう下着見えちゃってるじゃん!! っていうやつもあったりしてさぁ!! わぁ……』
興奮気味に説明され思わず脳内で思い浮かべながら沈黙を貫く。
『これはけしからんですわぁ……』
まるでオッサンの様な事を呟く七月さんに呆れ笑いを浮かべていると、「てかさ!」と急に話を振ってくる。
『柊くんはコスしないの? やりたい人は全然していいって先生言ってたじゃん』
「言ってたね。でも俺はいいかな」
『えぇぇぇーー』
「それに自腹じゃん」
『そうだね自腹だね』
「やだよ」
わざわざ文化祭の時にしか着ないコスプレ衣装に何千円も払うなんて勿体ないじゃないか。
それならその分のお金で美味しいデザートを買ったり、ラノベやグッズを買ったりした方が有意義だ。
『えー……』
何故か落胆する七月さんに俺は苦笑い。
俺なんかがコスプレをした所で誰得だよ全く。あぁあれかな、ネタ系で笑われればいいのかな。
でも仮にネタ系コスプレして皆の反応が微妙だった時俺はその空気に耐えられる気がしないぞ。
きっと文化祭が終わるまでトイレで過ごすことになる。
『そうだ! じゃあこうしよう!』
起こり得る悲惨な未来を想像しているとパチンと手を叩く音の後、七月さんが声を上げた。
『ゲームで負けたら柊くんもコスプレして?』
「ゲーム?」
『そう! ゲーム!!』
「ゲームってなんのゲー――」
『ってことだから、じゃね!!』
え……?
俺の質問も承諾も一切受け付けない七月さんの行動に俺はただただ唖然とする。
通話切るの速すぎだろ。あぁこれはあれだ、拒否権なんてきっと無いんだろうな。
一体どのようなゲームで対決しなければならないのか、俺はその日戦々恐々の思いで眠りについた。
翌日ゲームで挑まれると覚悟していたのだが、特段何が起こるでも無く至って普通の学校を送ることになり困惑する。
遂には授業が終わり、放課後になった。
対決しないならしないに越したことはないので、何も言ってこないならいいかと七月さんを遠めに眺める。
七月さんはまだ友達と談笑中で、見ている俺に気付く様子もない。このままこっそり帰ろうと決めた俺はそそくさと廊下に逃げ出し後ろを振り返る。
「ふぅ、バレてないな」
追ってこられても面倒なので足早に階段に向かうことに。
チラチラと後ろを振り返り確認するも七月さんが追ってくる様子は一向になく、警戒を解き角を曲がると――
「……柊くん? なに勝手に帰っているのかな?」
階段の踊り場で腕を組んで仁王立ちしている七月さんの姿があった。
自分の目を疑い、教室の方と七月さんを交互に見やる。
え? なんで? さっきまで友達と話してて教室にいたはずじゃ……。
驚いて声も出せないでいると、七月さんは上目遣いでずんずんとこちらに近寄ってきた。
「逃げるのはダメだよ?」
ニッコリと不敵な笑みを浮かべながら肩を掴んでくる七月さん。
「は、はい……」
こうなったらもう本当に逃げられない。
抵抗しても無駄だと確信した俺はされるがまま、首根っこを掴まれ教室に連れ戻された。
教室に連行された俺は強制的に椅子に座らせられる。
「はい柊くん。昨日言ったコスプレを掛けたゲームするよ」
「それ俺承諾してないんだけど」
「柊くんに拒否権あると思う?」
「あるでしょ」
「「ないよ」」
無いんだ……。てか小野さんどっから現れたし。
「こはるもやる?」
「なにを~?」
何か分かってなかったのに言ったのかよ。
七月さんが小野さんに事情を説明すると、二人して俺を見てニヤリ。
え、なに怖い。
「よし、じゃあやろっか!」と言って七月さんが鞄から取り出したのはスニッチ。
「え? 学校に持ってきて大丈夫なの?」
「ん? 大丈夫大丈夫」
まぁスマホも使っていいし、スニッチもいいのかと自分なりに納得する理由を見つけると七月さんは「多分」と小声で付け足した。
多分……? 俺怒られたくないんだけど。
せっせと机の上に準備をし始める七月さんに俺はやっぱり止めようと口を開こうとした瞬間、近くから持ってきた椅子を隣に置いて座る小野さん。
そして七月さんも反対側に同じように椅子を近づけて座り、物理的に逃げ道をふさがれた俺は諦めの溜息を小さく吐いた。
こうなったら、先生にバレる前に決着をつけた方が早そうだ。




