第125話 あきななのダル絡み電話凸
「よし、じゃあ真面目な話はこれくらいにして一人でヴァルやってきますかね!」
【待ってました】
【きたきたきたー】
【やっとか】
【待ちわびたぞ】
しんみりとした空気を一変するために気合を入れ直し、一度伸びをする。
そしてマッチング開始のボタンをマウスでクリックしようとした瞬間――ティロンティロンという呼び出し音がヘッドホンから流れて来た。
誰かからディストの通話がかかってきたのだ。
相手を確認してから通話に出る。
「もしもし?」
『もしもーし?』
聞こえていなかったのか、俺はもう一度「もしもし」と声をかける。
【あきななだ!?】
【え? あきなな? 今日は配信休むって言ってたよね】
【デュオですか? デュオですかっ!?】
『あ~やっと出たぁ』
聞えて来たのはいつもの元気な声ではなく、ふにゃふにゃとした声。
「配信してるよ」
『えー、あーうん』
「もしかして今の話聞いてた?」
『えー? 今の話ってなにー?』
なんだよ聞いてなかったのかよ。タイミング的に聞いてたのかと思ったぞ。
なんて説明しようか迷っていると『それよりもさー』とあきななは言葉を続ける。
『昨日話あるって言ったのにさーあっ?』
昨日、日和さんとエテをやっていた時にコメントしてきたやつか。
その場のノリ的なコメントだと思ってたが、まさか本当に話があったとは。これもしかして説教的な愚痴的な事を言われるやつか……?
「いやあきなな体調悪いって言ってたから……」
てきとうに言い訳をすると、あきななは不貞腐れたような声を出す。
『まぁ確かに配信終わる頃には私寝てたけど……寝てたけどさぁ! 起こしてよ!』
「えぇ……」
【理不尽www】
【説教始まったぞ】
【困惑のラギ】
【なに痴話喧嘩?】
『なにあのメッセ。【大丈夫? お大事に】って』
え、なんかダメだったかな。
『ふへへ、そんな事で昨日のことは誤魔化せませんからねー!』
無邪気な子供のように一人ではしゃいでいる七月さん。
『それに席も離れちゃったしさぁ……』
情緒どうなっとるこいつ。
【え?席ってなんのこと?】
【離れちゃったって?】
文脈的に俺とあきななが席離れちゃって悲しんでるみたいに聞こえてしまうのも無理はない。
俺はあきななの発言に動揺しつつもそれをリスナーにバレないように嘘の補足をする。
「あぁあれね。席替えであきななが仲いい子と席離れちゃった話ね。確かに悲しいよなー」
『あっ!――そうそう!』
ようやく自分の失言に気付いたのかあきななは慌てて同意してくる。
危なすぎるだろ。
あきななと俺が実は同じ学校に通っていて、しかも同じクラスで席替えがあるまでは隣同士だったことなんてバレる訳にはいかな――いや別にバレても問題ないのか……?
でもただでさえ今でも俺があきななと仲良くすることをよく思っていないアンチがいるのに、俺達の関係がバレたらどうなる事が分かったもんじゃない。
なるべく厄介毎は避けるに越したことはないよな。
『って、そんな事で話を逸らしても私は浮気許してないからね!』
「いやだから、付き合ってないのに浮気ってなんだよ」
『ふーん。そうなんだ、私なんてもういらないんだ。そっかラギくんにとって私はそんなものなんだ』
どうやら俺の声は口を尖らせる七月さんには聞こえていないようだった。
【そうだぞ浮気はダメだぞラギ】
【メンヘラあきななだ】
【なんか今日いつにも増して様子変じゃね?】
なんかこいつまだ熱あるんじゃ?
これは取り敢えず謝っとかないと長くなりそうだ。
「ごめんって」
『やだ』
「……ごめん」
『私も他の人と浮気するから』
「いや、えぇ……それは……」
別に付き合っても無いからしてもらっても構わないけど……。
口に出したら絶対また機嫌悪くなりそうだったので堪える。
『ダメなの?』
「だ、ダメ」
『なんで?』
「なんでってそりゃ……」
彼女と付き合った事もないし、こんな風に浮気を詰められた経験も無い俺はどうすればいいか分からずあたふた。
救いを求めるようにコメント欄に視線を向けると
【ラギの困惑顔が浮かんでくるwww】
【絶対面倒くさいって思ってるでしょw】
【今きた、なにこれw】
全然助けてくれる様子がない。寧ろ滅茶苦茶面白がってるだけだった。
見世物じゃねぇんだぞ!……見世物だけど。
どうしようかと悩んでいると、ある一つのコメントが目に入る。
【好きって言え!】
他に思いつかなかった俺は覚悟を決めて――
「好きだから」
通話越しとはいえ、同級生の女の子。恥ずかしくないわけがない。
顔が熱くなるのが自分でも分かる。
『それで?』
「それで……」
これだけじゃ足りないのか……。
【うっひょぉぉぉ!】
【きたきたきたきた】
【いいぞラギ!!!!!】
「他の男の人とやらないで欲しい……」
『ふふふっ』
あきななは満足そうに笑うと、挑発的な口調で言い放つ。
『も~ラギくん私の事好き過ぎでしょ~。しょうがないから許してあ・げ・るっ』
「だる」
【口に出てるぞw】
【これはあきななの勝ち】
【こりゃ離れ離れになる未来が見えませんな】
【同意】
【杞憂だったな】
恥ずかしい思いをさせられながら面倒くさいメンヘラムーブに付き合わされた俺の身になってみて欲しい。
悪態の一つでもつきたくなる。
因みにだがゲームを始める直前に通話がかかってきていたので、俺は未だゲームを始められていなかった。
会話が一区切りついた所であきななに尋ねる。
「もう体調は大丈夫なの?」
『ん~? 多分大丈夫だよー』
このふわふわしているあきななの言葉は信用ならんな。
『私も一緒にヴァルやるー』
「いいけど、熱測って? なかったらいいよ」
『むー分かった』
頬を膨らませるとあきななが席を立つ音が微かに聞こえた。
体温計を取りに行っているんだろう。
【体調悪いってツニートしてたもんな】
【絶対熱あるだろこれw】
【情緒不安定なの熱のせいかw】
「ほんと今日のあきななおかしいよ。これで熱なかったら頭の病院行った方がいいよね」
【それなw】
【言い過ぎ】
【あきなな大丈夫かな】




