第124話 活動の方向性
「今アクトまだ全然時間あるんだ」
【せやで】
【そうだよ】
ヴァルやエテなどのランクには一定期間ごとにランクがリセットされるのだが、まだそれまでは時間がたっぷりありそうだった。
「いやぁ時間あるなら久しぶりに最高ランク更新目指して頑張ってみようかなって思ったんだけど……」
【お!? いいじゃんいいじゃん】
【ランク詐欺だから適正ランクまで早く上げてください】
【けどなんだ……?】
俺のランクは至って適正なんだが。その証拠にここ数ヶ月全然勝てなくてプラチナにスタックしている。
でももうすぐ文化祭の準備が少しずつ始まるらしいし、10月は忙しくなるのが予想された。
だから配信頻度もまた減ってしまうだろうことをリスナーに説明すると残念がる声が上がる。
【えーーーーまた頻度減るのか】
【まじかぁ】
【リア充死ね】
悲しんでくれるとは思ってなかったので嬉しい反面、申し訳ない気持ちになる。
【今が一番配信頑張るべき時期だろ】
【↑確かに、折角伸びてるのに勿体ないよな】
コメントの言う通り、伸びている内に出来るだけリスナーを増やすのが配信者界隈ではセオリーだ。
バズったネタを擦れるだけ擦って人気を得る。
実際俺とあきななもてぇてぇという形で擦っていたから事実安定して数字を取れていた。
「確かに伸びたいなら配信頻度を落とすのは悪手だと俺も分かってる。でも、俺は正直言うとあんまり数字に興味はないんだよね」
【そうなのか】
【0人の時嘆いてなかった?】
【ほんとうに?】
「あはは、俺も配信初めた当初は伸びたらいいなとか。もっと皆に見られたいなって気持ちがあったんだけど、ずっと底辺配信者として活動してて思ったんだ。俺には圧倒的なゲームセンスも無ければトーク力もない。それに加えて声が良い訳でも特徴があったりするわけでもない。だから、あぁ俺には無理なんだなって悟って。それで上を目指すのを諦めたんだ」
【そんなことないぞ】
【ゲーム俺より上手いから安心しろ】
【声、私は好きだよ】
励ましてくれるリスナーの優しいコメントに思わずふふっと笑みがこぼれる。
「でもそんな時にあきななとのショート動画がバズって、その後も翔琉さん主催のカスタムに出させていただいてそこでもバズって。今こんな風に沢山の人に見られてて正直ビビってる」
「最初は嬉しかったけど、こんないっぱいの人に見られるのって凄い緊張するし……俺はつくづく配信者に向いてないんだなって自覚した。正直アンチコメも怖いし」
【確かにアンチコメは怖い】
【ラギって意外と繊細だよね】
【緊張するの可愛い】
【アンチとか気にしたら負け】
男女の配信者が仲良くしていると大抵炎上したり、リスナーのお気持ち表明があったりしてアンチコメが増えるのだ。
だが何故か幸いな事に俺達へのアンチコメは今の所少ない。
でも無い訳じゃないし、当然俺達の目にも入って来る。
その数件でも怖いし、辛い。
ちょっとしたことがきっかけで炎上する昨今、いつそういうのが増えるか分からない。
だからこれ以上伸びなくてもいいし、なんなら減ったっていい。
俺は今、あきななやいつも欠かさず見に来てくれるリスナーが数人いるだけで充分楽しいのだ。
「俺はこれ以上別に求めてない。だから活動の方向性とかそういうの皆は気にしなくていいからね」
俺の話を時折相槌を打ちながら静かに聞いてくれた皆は思い思いのコメントを送ってくる。
【ほーい】
【楽しいのが一番だよな】
【俺はそういうラギが好きで見てるからな】
【じゃあランクチャレンジはお預けか】
「時間ある時は勿論やるし、文化祭が終わって時間が出来たらやるつもりだよ」
【まぁリアル最優先でええんやで】
【俺達の事は気にするな】
【無理はしないでね】
「なんかいつもよりコメントの皆が優しくて泣きそう」
【だまれ】
【無様に泣け】
【きっしょ】
【優しくして損したわ】
急に加速する罵倒コメント。
おかしい、なんで急に皆罵倒し始めるんだ。
俺にそういう趣味はないぞ。
と、流れるコメントの中でとあるコメントが目に入った。
【あきななの活動方針もそれなん?】
「あきななの活動方針……あー」
そういえば、七月さんって何か目標にしながら配信してたんだっけ? それとも俺と同じようにただ楽しいからやってたんだっけ?
何か言っていたか思い出せない。
「正直そんな話してないから分かんない。あれだね、もし俺とあきななの活動方針が違う方向のものだったらいつか関わりなくなって絡みもなくなるかもね」
俺も活動始めた当初、一緒に遊んでいた人達はいつの間にかいなくなってたり、するゲームが違ったりして疎遠になってるし。
ネットの関わりなんて所詮そんなもの。
配信者に限らず、Vtuberなど活動者の寿命はそう長くない。
3カ月程で辞める人もいるレベル。1年以上続いているのは半分以下という話もよく聞く。
ニューチューブなどで稼げるようになった今、自分も! と夢と希望を持ってやり始めたが思うように行かず萎えたり、病んだりして諦める人が多いのだ。
俺も止めそうになったが、折角買ったパソコンやら機材が無駄になるのが勿体ないし嫌だったので、趣味に舵を切ったのだ。結果今もこうして活動している。
七月さんとネットでもリアルでもずっと仲良くするという約束はあるけれど。それは時と場合によって果たせなくなることもある。
その時はきっと七月さんも許してくれるだろう。
【えーそれは嫌だな】
【ずっとてぇてぇしててくれ】
【結婚したら関係ないじゃんね?】
【↑天才か!】
【あと二年後くらいか……】
【二人の絡み見れなくなるのは悲しいな】
俺とあきななが関わらなくなった未来を想像して悲しみの声を上げるリスナー達。
結婚て……どんだけ俺とあきななの絡み好きなんだよ。
正直俺はあれのどこがいいのか未だによく分からないが、皆が楽しんでくれるなら今はそれでいいか。俺も何だかんだ楽しいし。




