第123話 俺のヒロインは光だったのかもしれない
『あ、ラギくんごめん落下死しちゃった』
「何やってるの!?」
『えへへ、ごめんごめん~』
自然とタメ口で突っ込んでしまうと、日和さんは心なしか少し嬉しそうに謝っていた。
タケの時もそうだったが、やっぱりタメ口って嬉しいものなのだろうか?
「はい、起こしま……いや待って無理だな敵来てる」
『頑張れラギく~ん!』
日和さんの声援を背に頑張ってみるものの、やはり3対2の状況では初手から不利。しかも初動という事もあり物資も十分ではない。
一人ダウンさせた所で野良の味方がダウンしてしまい2対1。
【ジンを倒したんだから余裕だろ】
【ここからが見せ場だぞラギ】
なんとか二人目をローまで持って行くことは出来たが、人数で押されて呆気なく倒されてしまった。
『うわ~惜しいっ! あはは、ごめんね~。ポイントめっちゃ減っちゃった~』
「全然問題ないっす」
日和さんがずっと同じランクで停滞している理由ってもしかして、時折出るポンコツプレイのせいではないかという考えが頭に過る。
【あー流石にか】
【なんだ、こんなもんか】
【ジンを倒したのまぐれ】
「いや流石に初動での人数不利はキツイって。それに何回も言ってるけどジンさんを倒せたのは本当にまぐれで運がよかっただけで。チームの皆のお陰だからね?」
『あー! 私もカスタム見てたけどあの場面すっごい興奮した!』
「えっ見ててくれたの? なんか恥ずかしいな」
『全部見てたよ~惜しかったねぇ』
【ひよりんの口から興奮って……】
【なんか……えっっだよな】
【俺も興奮してきた】
頼むからコメント欄黙っててくれ。
『ラギくんめっちゃカッコよかったよ~』
「えっあっ、ありがとうございます」
『こ~ら、また敬語ー』
「あっハイ。ありがと」
【羨ましい】
【ずるい】
【死ね】
【キョドってて草】
キョドるのはしょうがないだろう。大人の女性にかっこいいとか言われて狼狽えない方が難しいってものだ。しかもそれが日和さんほどの人なら猶更。
というかナチュラルに暴言吐いて来るやつおるんだが。俺の扱いなんか雑じゃない?
【死刑死刑死刑】
【誰かギロチン持ってきて】
【背中に気を付けろよラギ】
日和さん、俺いつかあなたのリスナーに殺されるかもしれません。
「おはよう」
挨拶すると隣の席で机に突っ伏している七月さんはゆっくりと顔を上げる。
「おはよぅ……」
昨日言っていた体調がまだあまりよくないのだろう。
そっとしておこうと話しかけないでいると、七月さんは机に頭を付けたまま睨んでくる。
「昨日は随分とお楽しみだったみたいで……」
「いやそういうのじゃないからね?」
他の人が聞いたら誤解されそうな事を言うのは止めて欲しい。
「私というものがありながらー……」
「いや、俺達付き合ってないからな?」
机に突っ伏しているので声は籠っていて周りにはあまり聞こえていないっぽいが。
もしかして体調悪すぎて配信でのノリと学校でのノリがごちゃ混ぜになってるのか……?
「私の事もう必要なくなったんだー……。いらなくなったらポイするんだー……」
腕の間からチラチラと俺の様子を伺ってくる七月さん。
いやこれ絶対わざとやってるな。
「この前した約束破るんだー……」
どうしたんだ今日の七月さんは。
俺は溜息を吐くと七月さんに顔を寄せる。
「どんな事があっても仲良くする……でしょ? ネットでもリアルでも」
ピクッとする七月さんから離れて俺は苦笑交じりに続ける。
「ちゃんと覚えてるよ」
俺の返答に満足したのか七月さんは「ん」とだけ返事をすると、スヤスヤと寝息を立て始めた。
どうやら体調が悪いのは本当だったらしいが、それなら変な事言わずに静かに休んどけばいいのに。
なんかメンヘラちゃんみたいだったな。
数分後、ホームルームの始まりを告げる鐘が鳴ると七月さんは眩しそうに目を細めながらのそりと起き上がる。
その顔は気だるそうで。いつもの元気で引き締まった表情が抜け落ちている。
「大丈夫?」
「うん……」
か細い声で返事をする七月さん。
「無理はしないでね……?」
心配しながら顔を覗き込んでいると、教室が一気に騒がしくなる。
「しゃぁあ!」
「待ってました!」
「やっとか」
「席近くになれますように、隣になれますようにっ」
「ひゃっほー!」
皆の会話を聞くに、どうやら席替えをするらしい。
本当は夏休み明けてからする予定だったらしいのだが、先生が忘れていたとのこと。
席替えの結果、俺は窓際の後ろから二番目。そして七月さんは廊下側とかなり離れてしまった。
これがアニメとかラノベだったらまた偶然近くの席になったり~とかするんだろうけどここは現実。
そんな都合のいい事が起こるはずもなく。
あれ、海と桃沢さん隣になってる。滅茶苦茶仲良さそうに話してるし……。何かあの二人結構進展してない?
もしかしてもう付き合ってるとか……? と考えていると、俺の斜め前に光が座った。
「よっ七緒」
「おぉ! 光~!」
そういえば、光と仲良くなったのって2年にあがってから席が近くて話しかけてくれたのがきっかけだったっけ。
また席が近くなるなんて――
「俺のヒロインは光だったのかもしれん……」
「お前何言ってんのキモいんだが」
「酷くない?」
やれやれと溜息を吐く光に、俺が相手じゃ不服かと抗議する目を向けるとどこからか視線を感じ教室を見渡す。
ん? なんかあのメガネ女子、凄いガンギマった目でこっち見てるな。心なしか頬が上気している気もする。
……なんか怖いからあんまり見ないどこ。
「七月どうかしたのか?」
光が指差す方を見ると渡辺さんに支えられながら教室を出て行く七月さんの姿があった。
「あぁ、なんか昨日の夜から体調悪いらしい」
「へーそうなのか」
キツイのを我慢していたのか、それとも悪化したのか。心配だ。
「なんで夜から体調悪いの知ってたんだ? あーもしかして七月と夜通話とかしてたのか? そっかそっかぁー」
「うるさいぞお前」
小野さんも体調崩してたし、季節の変わり目か。俺も気を付けないとな。
「七月と席離れて寂しい?」
「ほんとお前はさぁ……」
ニヤニヤと目を細めながらからかってくる光。
どっかのプロを見て逃げ出した配信者みたいに厄介だなこいつ。
昼を過ぎると、体調がマシになったのか七月さんは教室に戻ってきて午後の授業は普通に受けていた。
そこまで酷くなかったみたいで安心だ。
小野さんといい、七月さんといい皆真面目過ぎだと思う。
俺だったら体調良くなっても絶対その日はダラダラ過ごす。そして出来る事なら次の日も休んでアニメとかゲームとかしまくるのに。




