第112話 光が俺の保護者みたいになってる件
その後保健室から冷やすものを持ってきてくれた先生の指示に従い、着替えたりして保健室で休むことになった。
幸い、俺の競技はもう終わりだったので誰かに迷惑をかける事が無くて済んだのは良かった。
卓球で2位だったのと、バドで倒れたのは配信のネタになるな……とか考えているといつの間にか眠りについていた。
「ん……んんぅ」
自然と目を覚ますと視界に映ったのは七月さんの姿だった。
「あ、柊くんおはよ。起こしちゃった?」
「ん、いや全然。気持ちよく寝れたよ」
「そっか、ならよかった」
極限まで疲れていたからか深い眠りにつけたのだろう。頭がスッキリしている。
相対的に、身体の方は滅茶苦茶重いが。
「うっ……いててて……」
やはり体に鞭打って、限界を超えてまで動いてしまったせいで筋肉が悲鳴を上げている。
「大丈夫?」
椅子から立ち上がり駆け寄って来た七月さんに支えながら身体を起こす。
保健室の壁に掛けられた時計をチラッと確認すると、もうクラスマッチが終わる時刻。
そんなに寝ていなかったらしいが、もう帰る時間。
寝ていて凝り固まった身体を伸ばそうとすると――あ、これツリそう。
反射的に俺は伸びをするのを止めて気持ち悪さの残る中、大人しくベッドから足を出す。
「大丈夫? 一人で帰れる?」
「大丈夫大丈夫」
七月さんがまるで小さい子供にでも言うかのようなセリフで俺の事を心配してくれるが、舐められたものだ。
こんなもので帰れないわけがな――地面に足をついた瞬間、ビシッと全身に電流が走ったかのような痛みを感じる。
「う゛っ!」
思わず身体がふらつき倒れそうになるが、素早く七月さんが支えてくれた。
「ほら言ったじゃん。絶対大丈夫じゃないよね。親に迎えとか来てもらう?」
支えられた七月さんに諭されると俺は大人しくベッドにリターン。
「親はこの時間仕事だから無理だね」
わざわざ仕事を抜け出してまで来て貰うわけにもいかない。
俺が調子に乗って無理し過ぎたせいで、ただの自業自得。そんな事で親に迷惑をかけるわけにはいかない。
中学の頃散々迷惑かけまくったんだから、この先はなるべく迷惑なんてかけたくないのだ。
「んーしょうがない、バス使うか」
バスで通学することも出来るが、お金が勿体ないので俺はいつも歩いて登校している。
最近まで全然運動することが無かったから運動不足を補うためみたいな。
まぁ一番の理由はバス停も家から少し離れた所にしかないし、そこそこ歩かないと行けなくて交通の便が悪いからだ。
「じゃあ私もついていくよ」
「いや大丈――」
「どこが?」
はい、すみません。
言いかけた俺にジト目を向けられ思わず顔を逸らす。
「お言葉に甘えさせてもらいます」
「はい、よく言えました」
厳しい表情を和らげると、まるで小学生くらいの子供に向けるかのような微笑みを向けて来る七月さん。
俺はそんなプレイに興味はないぞ。……ないぞ。うん、ない……やっぱりなくはないかもしれない。
七月さんの肩を借り昇降口に向かう途中、丁度帰る所だったのか海がいた。
あ、いい所に。七月さんと代わって家まで送って貰えないか頼んでみよう。
七月さんの言う通り、俺は今誰かの補助が無いと帰れる状態ではない。だが、その役目を必ずしも七月さんにしてもらう必要はないのだ。
なんか奢ると言ったらきっと海なら食いついて来るはずだ。
「あーごめんお、俺……用事があるから~それじゃ!」
チラチラと何故か七月さんの様子を伺いながらぎこちない笑みを浮かべると、海は後ろ手を振りながら帰って行った。
…………うそだろ!? 海が奢ると言っても食いついて来なかっただと……。
あの乞食の海が……?
よっぽど外せない用事だったんだな。
しょうがないと割り切って隣を見ると七月さんがニコニコと張り付けたような笑顔で海に向かって手を振っていた。
え? 七月さん海に何かやったのか……?
「ん? どうしたの柊くん、ほら行こ?」
「う、うん」
その後桃沢さんとも会ったのだが、どうやらバイトの面接日らしい。桃沢さんなら絶対受かると思うけど、不安そうな顔をしていた。
やっぱり面接は陽キャの人でも緊張するらしい。
靴を履き替えるのすら大変だったが、七月さんの助けを借りながらなんとか昇降口を出る事が出来た。
はぁこりゃ長い道のりだぜ……。
いつもそんなに長く感じない昇降口から校門までの距離が、いつもより倍以上遠く感じる。
距離は近いのに、遠くに感じる。まるで恋愛ドラマかなんかのワンフレーズみたいだな。
「ねぇあれ」
「えー! 距離ちか!」
周りの好奇な視線を受け、恥ずかしくて地面を見つめながら歩く。
恥ずかしい。助けて光――
「お、七緒お前大丈夫か?」
後ろから声を掛けられ首を回すとそこにいたのは今まさに心で救いを求めた相手、光だった。
「おぉ、お前は神か」
「は? お前まじで大丈夫? 頭やられたのか?」
「やられてない大丈夫」
それにしても酷い言いようだ。そんなにキモがらなくてもいいじゃん。
「七月お疲れ」
「松山くんも、お疲れ様」
「光、肩貸してよ」
そう、丁度いい所に来た。これ以上七月さんに迷惑をかける訳にはいかないのだ。
その点光になら迷惑をかけても悪態を吐きながらも何だかんだ許してくれる。
光は「あー」と頭を掻きながら申し訳なさそうな顔をすると
「俺も肩貸してやりたいのは山々なんだが、今日もバイト入れてんだよな。ほんとすまん」
そう言って謝る光に俺は頷き返す。
「そっかー大変だな」
ほんとこいつずっとバイトしてないか? それもクラスマッチで身体動かした後だぞ?そんなに働くのが好きなのか? もしかして新手の変態か?
「七月も悪いな。七緒の事頼んだわ」
「うん、任せてよ」
ドンと胸を張り気合を入れ直す七月さん。
いやそんなに気合を入れなくても……。
「まぁその代わりと言っちゃなんだが――」
ガコン、といつの間にか自販機で飲み物を買っていた光。
「これやるよ」
そう言って差し出されたのはスポーツドリンクだった。
こいつ優しいかよ……。
お礼を述べながら俺の代わりに七月さんが受け取ってくれる。
さっき死ぬほど水飲みまくったからあとから頂くとしよう。
「七月は……お茶でいいか?」
「うん……。え、私にもくれるの?」
「まぁ七緒が迷惑かけてるしな」
七月さんの返事を聞かずにお茶を買う光。
「ありがと」
「おう、そんじゃ七緒の事頼んだな」
「うん」
光は七月さんに俺の事を任せると、バイトの時間が迫ってるのかスマホで時間を確認して駆け足で去って行った。
「…………」
いや待って、なんか光が俺の保護者みたいになってる件について。




