第109話 器用貧乏の実力
他の人の競技を眺めながら休憩していると、自分の番は終わったのか光が隣に座って来た。
「お疲れ七緒」
「ん、光もお疲れ。どうだった?」
「おう、サッカーも野球も取り敢えず1勝ずつしてきた」
「おぉ凄いじゃん」
光は活躍したのか怪しいが、まぁこいつは縁の下の力持ち的な立ち位置なのだろう。
周りがよく見えてるからな。
「七緒は2位だったってな」
「あぁうん、負けちゃった」
誰かから聞いたのか、俺は苦笑すると光はバシッと背中を叩いてくる。
「2位でも十分凄いだろ。俺も途中まで見てたけど、卓球部相手にあんだけ戦えれば凄いもんだ」
「まぁそうだね」
「最初お前らが練習始めた時は交互に打つのすら苦戦してたのに、二人共成長速度えげつないな」
励ましてくれているのか、タオルで汗を拭いながら感嘆の声を漏らす光。
「あはは」
素直に褒められるのは何か照れくさいな。
次の試合があるのか光は水を飲んで立ち上がると「じゃ行ってくるわ」と手を挙げた。
「お、頑張れー」
俺も手を挙げ声援を送ると再び一人の時間が訪れる。
『二人の成長速度えげつないな』
さっきの光の言葉が頭の中で何度も繰り返される。
俺は昔から、色んな事が普通の人より出来るようになるのは早かった。
漢字や計算、運動だって料理だってそうだし、ゲームだって例外ではない。
けど直ぐに頭打ち。これ以上練習しても今よりも少ししか上手くなれない、強くなれないと自分で分かる。今までもそうだったから。
勿論成長が止まってから滅茶苦茶練習をしたりはしたことがないから分からないんだが。
大抵途中で飽きたり諦めたりしている。
だってずっとそれだけを続けてても上手くなる保証なんてどこにも無くて。誰かが保証してくれるわけでもなくて。
ただただ出口があるかも分からない暗闇のトンネルを一人で歩き続けるみたいなもの。
もしこれ以上、上手くも強くもなれないならその為に費やした時間が無駄になるだけ。
それが怖くて俺はいつも妥協している。
別にそれで生活する上で困った事は無い。だってやろうと思えば何でもそつなくこなせる。
だから困った事なんて無いのだ。
自分には突出した、誰かに自慢できたり誇れたりするものがないだけで何ら困った事は無い。
俺は皆に褒められるような凄い人間じゃない。
「やっほ」
自分の器用貧乏っぷりにセンチな気分になっていると、今度は七月さんが隣に座ってきた。
「ん」
「もう少しで柊くんの番だよね?」
「そうだね」
次はバドミントン。今回は一人だ。
誰にも迷惑をかける事も無いし、さっきの卓球で疲れたから適当に負けるかと今までの俺ならそう思っていた。
「どう? 本気でやってみて楽しかったでしょ?」
自分の目論見通りだったでしょというように目を細め微笑んでくる七月さんに苦笑を漏らす。
「うん、楽しかった」
「でしょでしょー! でもほんと惜しいよねぇー2位って1番悔しくない?」
確かに、初戦で負けたらここまでの悔しさは無かったのかもしれない。もしかしたら優勝できるのではという目前で負けた俺の心は、七月さんの言う通り悔しさでいっぱいだ。
目の前で笑顔で握手が交わされコートから人が去っていく。
「悔しいからちょっとバドも本気でやってくるわ」
言いながら七月さんに流し目を送り、伸びをしながらコートに歩いて行く。
「がんばれ! 応援してる!」
背中に声援を受け、後ろ手に応えネット近くまで辿り着く。
対戦相手も揃った。
――さぁ、俺の全盛期よりかは遥かに劣っているが、この二週間で取り戻した体力、そして爆速の成長速度を見せつけてやろうじゃないか。
気合十分に対戦相手と握手を交わそうと手を伸ばすと、申し訳なさそうな弱々しい声を掛けられる。
「あの~多分ですけどコート間違ってます……」
「……え、あ、すみません」
指を差された方を見るに、俺のコートは一つ隣だったらしい。
恥ずかしい、死にたい。
カッコつけたのにも関わらずコートを間違えた恥ずかしさと、卓球ばかり練習していたせいで最初は全然上手くいかなかったが、徐々に羞恥心も忘れ試合に意識が集中する。
相手も初心者だったのでこれも卓球同様、サーブレシーブで終わる事が多かった。
ラリーを数回するも俺がスマッシュとまではいかないが、強く打ち返すと相手が取れずに終わるような感じで、難なく二試合目も勝利。
二試合目はラリーが続いたお陰で俺が成長出来る時間を沢山もらえた。何回も打ち合い、身体に馴染ませる事に成功。
スマッシュを打つ機会も何回かあり、ちょっと楽しかった。
三試合目、やはりここら辺までくるとバド部と戦うことになるらしい。
相手は緊張しているのか、かなり身体が縮こまっていて、それは試合が始まっても変わらなかった。
動きが硬く、ぎこちない。
ラリーは続くが相手がミスったり俺がスマッシュをすると取れていなかった。
どんどんと得点を重ねていき、ちょっとの事では負けないくらいの点差になるとある事を思い付いた。
相手には少し悪いけど、俺の練習相手になって貰おう。
その結果、一試合目は返すのが精一杯だったのに、今ではある程度自分の狙ったところにコントロールして打つことが出来るようになった。
スマッシュを打つも最初はミスを連発していたが、シャトルがどういう風に飛んできた時に打つといいか。大体この距離だと打てるなとか、どのくらい自分に余裕があれば打てるか。
他にも打つタイミング、ラケットの角度、力加減。そして左手を伸ばし手で距離をはかる事の大切さを試行錯誤の後に理解した。
試合の中で成長しているのを実感しながら点差を確認する。
ミスをし過ぎたがまだ1点差ある。ここからは1点もやらない。
「ふぅ……」
深呼吸して心を落ち着かせると、サーブを放つ。
返って来たシャトルを左に打ち返し、その後右に打つ。
拾われるもそれも予測の内、今度は弱めに打ち手前に落とす。
相手はそれにも反応し、ダッシュで拾おうとしたがラケットは空を切った。
よし、狙い通り。
これでもし返されても、甘いふんわりとしたのが返って来たらスマッシュを打てばよかったし、スマッシュを打てなかったとしても今度は奥を狙うという選択肢もあった。
そこからは余裕――かと自惚れていたのだが、俺が練習としてミスし続けたから緊張も解れていたようで、それに加えてプライドもあるのか相手がかなり粘って長いラリーが続くことが多くなった。
「はぁはぁ……ありがとうございました」
無事に勝つことは出来たが、ラストの驚異的な粘りを見せられ、俺は卓球の疲労もあり息も絶え絶えになっていた。
流石に少し休憩したかったが、俺達の試合が長引いたせいで直ぐに次の試合をやる羽目に。
「はい、柊くん」
自分の競技はもう終わったらしい七月さんは三試合目の途中から応援してくれていた。
「ありがと」
差し出されたタオルを受け取り汗を拭うと、次にキャップを開けたペットボトルをくれた。
タオルを首にかけ、腰に手を当て身体を支えながらペットボトルの水をあおる。
「ぷはっ……はぁ……」
「凄いね。また経験者に勝ったじゃん」
「まぁ……たまたまだよ」
そう、たまたま相手がよかっただけ。卓球の時もそうだ。
俺の実力は大したことはない。普通より少し出来るだけでそれ以上にはなれない。
「頑張れ! ここが踏ん張りどころだよ!」
「うん」
そうは言っても卓球から続く試合の数々に、俺の足腰は疲労が蓄積して思うように動かない。
少し走るだけでも直ぐに息が切れるくらいにはもう俺の体力は無くなっていた。
正直限界だ。でもこの感覚――懐かしいな。
自分を限界まで追い込んで鍛えて、日々努力していた頃を思い出す。自分の限界を試す時。自分がどれだけやれるのか試すような状態。
嫌いじゃない、むしろ――好きだ。




