第108話 特訓の成果
そして迎えたクラスマッチ当日。
「ラギっち! 今日は遂に練習の成果を見せる時だよ! 頑張ろー!」
「うん、頑張ろう!」
小野さんは拳を突き上げ、相変わらずの快活さ。
気合も十分に俺達の第一試合が始まる。
「光~、なんか七緒キャラ変した?」
「あいつ感化されやすいから」
「あーなるほどね」
どうやら光と海も応援しに来てくれているみたいだ。
「「「頑張れ~!」」」
七月さんに渡辺さん、そして桃沢さんの三人も来ていた。
その声援に小野さんはラケットを持った手でぶんぶんと笑顔で手を振り返す。
うわっ、あぶねぇ……もうちょっと近かったらラケット直撃だった。
試合が始まる前から怪我をする羽目にならずに安心する。
声援に反応しないのも感じ悪いよなと俺は会釈をした。
なんかスマホ構えてたけど、もしかして写真撮られたかこれ。
あれ? 今日の七月さんセンター分けだ。ボーイッシュでかっこいい。
俺が女子なら惚れてた。
「「がんばれよー」」
遅れて来た熱の籠ってない光と海の声援に俺は苦笑で返す。
審判が来て対戦相手と握手を交わし、ジャンケンをして俺達にサーブ権が渡りそれぞれ配置につく。
いよいよ始まる。
緊張で俺の心臓はバクバクだ。小野さんに迷惑かけないようにしないと……。
訪れるコートの静寂。
小野さんがピンポン玉を左手に持ち、サーブの構えをする。
さぁ準備は整った――試合が始まる。
第一試合、サーブを打つと返ってこず、それで点を取る事が多かった。
返って来たもののそれをまた打ち返すとそこで終わったりとラリーというラリーが続かなかった。
それもそうだ。体育の練習時間の時、最初は俺と小野さん。練習相手の人達も初心者でなんら問題はなかったのだが、俺達の上達が早くて直ぐに練習にならなくなった。
それを見かねた相手の子達が気を遣ってくれて先生に相談すると、俺達の相手は途中から卓球部になっていた。
卓球部に結局練習では勝つことは出来なかったものの、それなりにいい勝負ができるレベルにはなっていた。
まぁ主に小野さんがだが。俺は打ち返すので精一杯な感じだった。
そんなわけで一試合目は余裕で勝つことができ、小野さんとハイタッチを交わす。
まぁ俺の凡ミスで普通に失点しまくったりもしたんだが。
「いいねいいね! ラギっち緊張ほぐれたんじゃない?」
どうやら小野さんには俺が緊張していたのがバレていたようだ。
「いや、まだ全然緊張してるね」
「あはは! まだしてるんだ」
そりゃそうだ。俺のメンタルは意外と弱いんだからな。マンボウみたいに弱いんだ。
あれ、そういえばマンボウ最弱伝説はガセだってこの前見たな。
マンボウに失礼だったかもしれない、訂正しよう。ともかく、俺はメンタルが弱いんだ。
汗一つかいていない涼しい顔の小野さんは七月さん達の方に行き、勝利を分かち合っていた。
緊張もしてないし、ウォーミングアップにすらなってなさそうな小野さんのメンタルとフィジカルの強さを目の当たりにして俺は思わず苦笑いが出た。
第二試合、サーブレシーブは出来る相手だったのだが二人の息が合っておらず、交互に打つことに慣れていないのか、もたついてミスを連発していた。
難なく勝利を収めると直ぐに第三試合が始まる。
ここまで来ると相手もかなりうまい人達が来るかと思って身構えたが、弱い所と当たって接戦で勝ち上がって来た人達だったらしい。
この試合も危なげなく、俺もスマッシュを決めたりしてだいぶ調子が良くなってきた。
第四試合、準決勝。
ここで卓球部とあたる事に。
一進一退、いい感じの試合展開になるが相手は俺と同等かそれ以上にメンタルが弱いのか、緊張していて表情が硬い。
まぁ卓球部として素人の俺達に負けるわけにはいかないというプライドもあるのだろう。
最初の方はラリーが続きいい勝負をしていたのだが、相手が途中一度ミスをし始めるとその後もミスを連発。
その隙を逃さず、立て直す暇を与えることなく俺達が勝利した。
そして迎えた決勝戦。
まさかここまで勝ち上がれるとは思っていなかった。
もしかして優勝もあるんじゃないか!? と少し期待してしまうのもしょうがない。
「ラギっち、遂にここまで来たね」
「うん、今凄い楽しい」
「でしょでしょ!! 絶対勝とうね!」
「おう!」
「「「がんばれ~!」」」
七月さん達の声援を背に、対戦相手と挨拶をする。
もちろん卓球部との対決。
いざ始まった試合は、相手の怒涛の攻めに返すのが精いっぱい。やっと巡って来たチャンスにスマッシュをするも余裕で返され、粘りに粘るもどんどんと点差は開いて行く。
「ラギっちこっからだよ!」
「うん!」
俺の折れかけそうな心を励ましてくれる小野さんに応え、スマッシュやドロップショットなどの回転の緩急に惑わされながらも必死に食らいつく。
少しずつ点も取れ始めるが、点差は中々縮まらない。
最後のあがきの様に少し追い付くも、最後は一気に突き放されて負けてしまった。
「ふぅはぁ……あちゃー負けちゃった~」
「はぁはぁ……はぁ……強かった……」
小野さんは一度深呼吸をすると直ぐに呼吸を整え、負けたとは思えない程スッキリした笑顔を向けて来る。
「でも2位だよラギっち! 2位、2位っ!」
ピースをしながら白い歯を見せはしゃぐ小野さん。そのまま七月さん達の方へ駆けて行く。
待って、卓球もこんなに息切れるんだな……。
「……はぁはぁ……ふぅ」
そうか、2位か。
配信で皆に2位だったよって報告したらどんな反応するかな。驚くかな……いや、何か【絶対嘘だ】とか信じて貰えそうにないかもしれん。
やっと呼吸が整い始めたので俺も小野さんの後を追う。
「凄かったよこはる! 頑張ったねー!!」
「ほんと凄いねこはる」
「頑張ったねこはる。はい、タオル」
「えへへ、でしょ~! あ、ゆいちゃんありがと!」
思い思いに小野さんを褒める中、ここでも気を遣える渡辺さん。
このグループのお母さん的存在だよなと会話を聞きながら近くで立ち止まる。
皆が俺に気付くと次は俺に労いの言葉をかけてくれた。
「柊くんお疲れ様! 凄かった!!」
「お疲れ様。よくこはるに付いていけたね。素直に尊敬だわ」
「柊くんもお疲れ様。2位おめでとう」
「ありがとう」
今までの特訓の辛い日々を思い出したら少し泣きそうになる。
因みに光と海はそれぞれ試合中らしくここにはいなかった。
水分補給をしてタオルで汗を拭っていると、突然小野さんが腕に抱きつくように身体を寄せてくる。
「ラギっちラギっち! 写真撮ろ写真っ!」
「試合前七月さんが撮ってなかった?」
「撮ったけど、分かってないなぁ柊くん。それはまた別だよ!」
「そうそう!!」
代わりに七月さんが説明すると小野さんはそれに大きく頷く。
また別なんだ……よく分からない。
ぐいぐいと腕を引っ張られ、小野さんの控えめな胸の感触を意識しないようにしつつ、俺は手を伸ばしてきた渡辺さんに荷物を渡す。
まじで気が利くな渡辺さん。
「はい、じゃー撮るよー!」
七月さんが手際よくスマホを構え、片手を上げる。
「うん!」
え、この絡めた腕はこのままなの!? 距離近くない?
汗ばんだ小野さんの腕と俺の腕が絡んでいて少し気持ち悪いが我慢する他ない。
でもこの近い距離が不思議と嫌ではなく、当たり前といった感覚に陥る。
一緒に戦った故の信頼関係や仲間意識、絆が芽生えたからだろうか。
「ほら、ピースしてラギっち!」
小野さんに見上げながら純粋な瞳を向けられ、俺は素直に従う。
というか小野さん髪乱れてるけどいいのか。
小野さんの無邪気な子供のようにボサボサした髪を見ると自分は大丈夫かと不安になる。
俺は軽く髪を整えるとカメラに向かってピースする。
結果は、2位。
序盤、対戦相手にも恵まれた事からの順位だが、ここまでの結果を残せたことに自分でも驚いている。
中学の頃の部活とは違うが、ここ数週間の特訓はまるで部活みたいで。
腕を掴む手に力を入れ、頭をコテンと預けてくる小野さん。
久しぶりに全力で身体を動かすのも悪くないなと顔をほころばせた瞬間、シャッター音が鳴り響いた。
――カシャ
――カシャカシャ
――カシャカシャカシャカシャ
撮り過ぎじゃね?




