第106話 誰でもいいわけじゃない
日は過ぎ去り、土曜日の朝5時。俺は小野さんにとある公園に呼び出されていた。
どうしてそうなったか説明する。
クラスマッチの種目を決めた次の日の体育の授業からはそれぞれの種目を練習するという内容だった。
ただ練習と言ってもクラスマッチ自体、体育祭とは違い交流を目的とした行事の為、寧ろお遊びという表現の方がしっくりくる。
勿論、中にはしっかり勝ちに行く熱の入った野球部だったり真面目な人もいたが、殆どの人は談笑しながらって感じ。
俺もダラダラとやりたかったのだが、小野さんから練習しようとの誘いを受けて卓球をずっとさせられた。
バドミントンの練習もしたいと逃げたのだが、何故か小野さんがコーチをし始める始末。
それで俺が全然体力がない事を怒られ今に至る。
恐らくは走らされるんだろうことを悟って、眠い目を擦りながら欠伸をしていると少し離れた所から駆けてくる音が聞えた。
「ラギっちおはよー!」
「んあ、おはよう」
寝起きでまだ声が出ない俺とは対照的に、いつも通りの元気で澄んだ声の小野さん。
常時元気なのね。その元気の源は一体何なのか気になるところではある。
太ももが露わになっている通気性の良さそうな、青色のラインの入った黒のショートパンツに同じようなデザインのTシャツ。
いかにも滅茶苦茶ランニングするみたいな恰好だ。
てかパンツ短すぎない? こんなもんなの?
世の中の男子には目の毒ではないかと心配になる。
俺の服装は一応まだ暑いし走るならと考慮して昔バスケの時着ていたもの。
中1の頃から身長はそこそこ大きく、164ほどあり成長もする事を見越して少し大きめのを買っていてよかった。
いつも長ズボンしか履かないので、久しぶりに足が出ている感覚に少し違和感がある。
「ラギっちそれって中学の時のバスケの練習着!?」
マジマジと俺の服に目を向ける小野さん。
「うん、そうだよ」
「えー!! 凄い似合ってる! カッコいい!」
「そうかな、ありがと」
「うん!」
そんな直球で褒められると照れるな。
「じゃあ、走るか」
照れを誤魔化す為に走り出そうとすると小野さんは「ちょっとちょっと!」と袖を掴む。
「まずは準備運動しなきゃでしょ? 怪我しちゃうよ」
「……そうだね」
走るだけだし別にいいかなと思っていたけど、小野さんのいう通り万が一があるかもしれない。
俺は素直に従い、小野さんと一緒にしっかり準備運動をした。
何気準備運動も真面目にやると疲れるんだよな。
公園の外周を3周程した頃、俺の息はもう絶え絶え。
そんな様子を見かねた小野さんが「休憩しよっか」と言ってくれた。
俺はお言葉に甘えて少し休憩することに。
時間にしてまだ30分も経っていない。
俺もバスケをしていた時は滅茶苦茶走れてたのになぁと脳内で言い訳をしながら小野さんに買ってきてもらった水をあおる。
休憩もそこそこに一人でまた走り始めた小野さんをぼーっと眺める。
本人から聞いた話によると小野さんは毎朝のように走っているらしい。
親が共働きだと言っていたし、下の子の世話もあって大変だろうに本当に体力が凄い。
下の子の世話もしないといけないからこうやって体力をつけているのか。それとも下の子の世話をしていたら自然と体力がついてきたのか。
どっちが先だったかは分からないが、これだけ運動神経がよくて足も速い小野さんが何の部活にも入らないのはやっぱり勿体ない気がした。
実際ボーリングだって上手いし、卓球だって授業で一緒に練習していたら直ぐに上手くなっていた。
上達速度が普通じゃないし、アホっぽい言動のわりに器用だ。
でもまぁ、もう二年生の中盤。今更部活に入っても遅いのかもしれない。
「ラギっち! ほら休憩終わり! 走るよ走るよ!」
俺が考えに耽っている間に一周していた小野さんに促され立ち上がると、重くなった足を踏み出した。
そしてまた俺がぜーぜーと息を切らしてもう無理そうというタイミングで小野さんは徐々にスピードを落とし始める。
それに合わせるように俺もスピードを落とすと肩で息を整えながらゆっくり歩く。
「はぁはぁ……ふぅ……。今日はこのくらいにしとこっか!」
「はぁはぁはぁ……う……ん……はぁはぁ」
俺よりも多く走っているはずなのに小野さんは涼しい表情をしていた。
やっぱり体力化け物だ。絶対一緒に卓球出ない方がいい。
酸素が足りない中、そんな事が頭に浮かぶ。
「なんで小野さんはそんなに俺と一緒に組みたかったの?」
「え?」
息も整ってきたので尋ねると小野さんは「んー」と視線を空に逃がす。
「ラギっちと一緒に出たかった……それだけじゃ――」
小野さんは眉を少し顰めると俺の目を正面から見てくる。
「――ダメ?」
困り顔で首を傾げる小野さんに俺は反射的に「いや」とかぶりを振る。
「全然ダメじゃない」
だけど、勝ちに拘る小野さんならば俺とじゃなければ。それこそ卓球部とかそういう経験者の人と組めば優勝だって見えてくるはず。
「だけど俺とだと勝てないよ?」
勝ちに拘りは無いの? という意味を込めてそんな質問を投げかける。
「ん、ラギっちは分かってないなー」
小野さんはムスッとするも直ぐに笑顔を向けてきて。
「勿論勝ちたいよ。でもね、うちはラギっちと一緒に出て勝ちたいの。誰でもいいわけじゃない。ラギっちとだから一緒にやりたいなって、勝ちたいなって思ってるの!」
「なるほどね」
「うん!」
ただ勝つんじゃなくて、誰と勝つか……か。
確かに俺もこの前のエテカスタムでタケさんとあきななと一緒だったから楽しくて、勝った時はより一層嬉しかったのを思い出した。
小野さんの気持ちを理解した俺は、気持ちに応えるためにちょっと頑張ってみようと朝から疲れた体に鞭を打ちながら家に帰った。
シャワーを浴びたらなんか疲れからか色々面倒になって、やっぱり頑張るの止めようかなと決意が揺らぎかけたのは秘密だ。




