第102話 先行き不安なクラスマッチ
「皆も夏休み気分が抜けきらないとは思うが、ちゃんと話は聞いとけよー。んでちゃんと生活習慣も元に戻せよー」
先生の言葉を歯切りにクラスのザワザワした空気感は無くなり、再び話を聞く雰囲気に戻る。
「じゃ、聞いてなかった七月のためにもっかい言うぞー」
そこで再びクスクスとした笑いが零れ、名指しされた七月さんは少し恥ずかしそうに苦笑する。
「今月の後半にはクラスマッチがあって、その後の11月には文化祭がある。文化祭の準備はクラスマッチが終わってから徐々に始めて行くことになっているから忙しくなるぞー」
クラスマッチと文化祭という言葉を聞いた途端に再びクラスがザワザワと騒がしくなる。
心躍る行事が立て続けにあるのだ。そりゃ浮足立つのも分からなくはない。
今から「クラスマッチ絶対勝つぞ」という意気込みをする部活をしている人達や「文化祭何やる何やる!?」とはしゃぎ始める女子達を宥めるように「はいはい静かにー」と先生が声を張り上げた。
「文化祭はまだ先の事だからまた近くなったら追々話し合いとかするとして、まずはクラスマッチだー。これからクラスマッチでそれぞれ何に出るかとか話し合ってもらうぞー」
隣の七月さんもソワソワと目を輝かせていて、楽しみなのが伝わってくる。
クラスマッチに文化祭か……。
去年の俺はクラスマッチでバスケ経験者だったからと半ば強制的に出場する羽目に。
バスケをするだけで当時の事がフラッシュバックしてしまい、思うように身体が動かなくて味方に迷惑をかけまくるという散々な結果。
顔も真っ青だったらしく、体調不良だと思われた俺はその後もずっと見学することになった。
今年はバスケにだけは絶対に出たく無いなと思いながら先生の話を聞いて行く。
黒板になんの種目があるかが書き出されていき、それを眺めながら俺はどの種目なら迷惑をかけないか考えていた。
「体育祭もしたのにまた運動するのか……」とぼやいている如何にも勉強にしか興味がなさそうなメガネくんに、確かにーと棒読みながらも共感した。
そこでホームルームの終わりを告げる鐘が鳴る。
「あー、一旦休憩のあとまた話し合うから黒板にあるやつで出たい種目2つ考えとけよー」
「え! じゃあ先生1時間目はこの話し合いっすか!?」
一軍筆頭の陽キャ野球部がうっきうきで先生に確かめる。
みんな気になっていたのか、その質問の答えを知りたくて一瞬で静寂が訪れる。
先生はわざとらしく一泊間を置き「そうだ」と告げた瞬間クラスは大盛り上がり。
その様子に先生も表情を和ませながらこの後もやる事があるのか教室を後にした。
「ひゃっほー! 最高じゃ~ん!」
そう口に出して喜んでいる七月さんに俺も微笑みを浮かべ同意する。
「ねね。柊くんは何に出る?」
「うーん……バスケは無いかな」
「あー……なるほどね?」
七月さんは左上を向いたあと、気まずそうに笑う。
俺の過去を知っているから何となく理由を察して理解を示してくれたんだろう。
「七月さんは?」
気まずくさせないように質問すると七月さんは「うーん」と唸って考える仕草をした。
「バレーとバドミントンか卓球かなぁ」
「いいんじゃない?」
俺もバドミントンとか卓球にしようかな。チームの人に迷惑をかける事は無さそうな気がするから。
「明奈~」
桃沢さんから名前を呼ばれた七月さんは「ごめんちょっと行ってくる」と俺に断りを入れて席を立った。
一人になった俺の所に二人で話していた海と光が近寄って来る。
「二人は何に出るか決めた?」
「まー俺はサッカーと野球に誘われたからそれに行くことになったな」
誘われた……?
海に目線を送ると首を横に振る。
どうやら海は誘われてないらしい。
俺と海は誘われていないのに、光だけ誘われているという事実に負けた気がして二人で光を睨む。
「あ、そういえば今朝七月がお前の……」
そこで光は何を思ったのか言葉を止めた。
「え、なに?」
「いや、やっぱなんでもない」
七月さんが俺の……? 一体なんだろうと不思議に思っていたが光が出した次の話題に意識が向く。
「それよりも海。お前桃沢とどうだった?」
「はっ!? い、いや別に普通だけど……」
いきなり話しを振られ動揺する海に俺は追い打ちをかける。
「桃沢さんと夏祭りデートしてたよな」
「えっ!? な、なんでそれを!?」
どうやら俺と七月さんには気付いていなかったらしい。
「え? 夏祭りデートもしたのか?」
「『も』……?」
光と俺がお互いに首を傾げ、情報交換することに。
するとどうやら動物園にも行っていた事が判明。
俺が家でだらけている間に海は随分と頑張っていたようだ。
「も、もういいだろ別に! てか、七緒は何に出るの!?」
自分の話をされるのに耐えられなくなったのか海は顔を赤くしながら話題を元に戻してきた。
俺達としてもこれ以上からかうつもりも無いし、純粋に頑張って欲しいと思っているので海のその会話に乗っていると授業を始める合図が鳴る。
話も早々に、それぞれ違う競技に出ることになりそうだなと少し残念に思いながら席に着いた。
その後、先生が戻ってきて学級委員に進行を託すと話し合いが再開された。
まずは自分が出たい種目に名前を書き、それで定員オーバーしなかったものはそれで決まりになる。
やはりドッヂボールやバドミントンとかは人気がありジャンケンになったりもした。
俺は見事バドミントンでジャンケンに勝つことができ、チームプレイが必要な競技に出る必要はなくなった。
卓球は人気が無いらしいので直ぐに決まった。
そして後に俺にとっては最悪な宣告がなされた。
「言い忘れてたが、卓球は人気が無いから男女ペアのダブルスだぞー。去年も同じだったから分かってたと思うが……」
……完全に忘れていた。俺は去年卓球に出ることが無かったから失念していた。
ペア……どうしよう。一緒に組んでくれるペア……七月さん確か卓球出るって言ってたよな。
「七月さんって卓球出るよね?」
「うん、バドミントン出たかったけどジャンケン負けちゃったからね」
「じゃ、じゃあ……ペア組――」
「ラギっちー! うちと卓球ペア組もー!!」
言いかけた言葉を遮るように前の方に座っている小野さんが大きな声を掛けて来た。
「小野~近くいって話していいからちょっと静かにしろー」
先生からの許しを得た小野さんはトトトっと軽やかに駆け寄って来る。
「ねね、ラギっち。うちと卓球ペア組まない?」
「べ、別にいいけど……」
チラッと先程ペア組もうと言いかけた事が気がかりで七月さんを見る。
「もしかしてななっちと組む予定だった……?」
「いやまだ決めてなかったし二人で組んでいいよ! ほら、なんか卓球委員長の数え間違いで女子一人多いみたいだし。ソフトテニスが逆に足りないっぽいかな?」
七月さんが、首を捻って数え直している委員長に指を差す。
「でもいいの……?」
気遣ってくれたのかと申し訳なさそうな表情を向ける小野さん。
「いいのいいの! その代わり、二人で優勝目指してね?」
七月さんは目を細めからかうような笑顔を浮かべた。
そんな無茶な……。俺の下手くそ具合を舐めないで欲しい。感情の起伏で直ぐに特大ホームランを打ってしまうんだぞ。
「うん、任せて!!」
俺の冷めた感情とは裏腹に、小野さんは七月さんに譲って貰った恩もあるのか、やる気マックスの様子だった。
「柊くんも頑張ってね?」
してやったりといった悪戯っ子の様な笑みを向けられ、こうなった小野さんは止められないぞと言われている気がした。
「ラギっち! 頑張ろうねっ!」
拳に力を入れ、鼻息を荒くし目の中に炎が浮かぶかの勢いに俺は気圧されながら、卓球にしなければ良かったかもという後悔の念を抱いた。
「がんばる……」
「ラギっち? やる気が足りないぞー!?」
「やる気、本番には間に合わせるね」
「あはは、なにそれ~!」
小野さん、夏休み明けで皆に会えた事が嬉しくてテンションバグってないか……?
「小野~! もう少し静かにしろ~!」
「はーい!」
ほらまた先生に注意されてるし。




