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やさしさの宿るものたち  作者: なおパパ


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7/20

第7話 「おはようの魔法」

お立ち寄り頂き、ありがとうございます!


朝の光が、薄いカーテン越しに部屋へ差し込んでいた。

佐伯悠斗は、布団の中で目を開ける前に、

隣から聞こえる寝息に気づいた。


山本里奈は、すやすやと眠っている。


(……かわいいな)


そう思う余裕があるのは、

自分がすでに起きてしまっているからだ。


本当は、もっと一緒に寝ていたい。

でも、里奈は朝が弱く、悠斗は朝が強い。

同棲を始めてから、生活リズムの違いが少しずつ積み重なっていた。


ほんの少しのストレス――


「……起こすのも悪いしな」


悠斗はそっとベッドを抜け出し、

キッチンでコーヒーを淹れた。


そのとき──


リビングの棚に置かれた、

古い目覚まし時計がふわりと光った。


光は小さく震え、丸い輪郭をつくり、

やがて小さな妖精の姿になった。


精霊リンクが、目覚まし時計に宿ったのだ。


(……あ。ゆうと…りな…

 ふたり……すき……

 でも……けんか……しそう……

 ぼく……てつだう……!)


リンクは幼い決意を胸に、

時計の中へすっと溶け込んだ。


その日の朝。

悠斗が出勤の準備をしていると──


ジリリリリリリッ!!


「うわっ!? なんで今鳴るんだよ!」


まだ6時前。

いつもより1時間以上早い。


里奈が布団の中でむくりと起き上がった。


「……え? え? もう朝……?」


寝ぼけた顔で時計を見る。


「……6時!? なんで!?」


悠斗は慌てて時計を止めた。


「ごめん、俺じゃない。勝手に……」


(ゆうと……じゃない……

 りな……おきて……

 ふたり……いっしょ……)


リンクは必死にアラームを鳴らしたつもりだった。


しかし──


「……眠い……」


里奈は再び布団に倒れ込んだ。


悠斗は苦笑した。


「……まあ、こういう日もあるか」


翌朝。

今度は逆だった。


悠斗がまだ夢の中にいると──


ジリリリリリリリリリッ!!!


「うわっ!? なに!?」


時計が、里奈の枕元だけに向けて

小さく震えながら鳴っていた。


里奈は目をこすりながら起き上がる。


「……あれ? 今日、私が先に起きた……?」


悠斗は布団の中で混乱していた。


「なんで俺の方は鳴らないんだ……?」


(りな……おきた……

 ゆうと……ねてて……いい……

 ふたり……けんか……しない……)


リンクは“平和”のためにやっているつもりだった。


しかし──


「……なんか最近、時計おかしくない?」


「だよな……」


二人は顔を見合わせた。


さらに次の日。

朝の6時半。


静かな寝室に──


ジッ……ジリリリリリリリリリッ!!!


突然、全力のアラームが鳴り響いた。


「うわあああああっ!!」


「ひゃあああああっ!!」


二人は同時に飛び起きた。


時計は、まるで踊るように震えている。


(おきて……!

 ふたり……おきて……!

 なかよし……して……!)


リンクは全力だった。


しかし──


「……なんでこんなにズレるの?」


「ほんとだよ……」


二人は顔を見合わせ、

そして──


ぷっ、と笑ってしまった。


「なんか……変な時計だね」


「でも……まあ、悪くないかもな」


二人の笑顔を見て、

リンクは胸をいっぱいにしていた。


(ふたり……わらった……

 よかった……)



その日の夕方。


仕事から帰ってきた悠斗が玄関を開けると、

見慣れない靴が一足、ちょこんと並んでいた。


「……あれ?」


リビングから、明るい声が聞こえる。


「りな姉ー! この部屋めっちゃ広いじゃん!」


「ちょ、ちょっと美羽! 勝手に開けないで!」


山本里奈の妹、美羽が突然泊まりに来ていた。


「お邪魔してまーす、佐伯さん!」


「お、おう……」


美羽は元気いっぱいで、

そのテンションに部屋の空気が一気に明るくなる。


だが──

その夜から、リンクの“ズレた奮闘”はさらに加速した。


翌朝。


ジリリリリリリリリリッ!!!


「うわっ!? またかよ!」


悠斗が飛び起きる。


しかし、隣の布団では──


「……すぅ……すぅ……」


里奈は全く起きる気配がない。


(りな……ねむい……

 ゆうと……おきて……

 おはよう……して……)


リンクは“優しさ”のつもりで、

里奈だけ二度寝させていた。


美羽はというと──


「りな姉、起きてよー! 今日学校なんだけど!」


「……あと5分……」


「いや、もう無理だって!」


美羽が揺さぶっても、

里奈は目覚まし時計の“守り”により、

ふわふわと夢の中に戻ってしまう。


悠斗は苦笑した。


「……なんか、最近この時計すごくない?」


「ほんとだよ……なんでりな姉だけ起きないの……?」


二人は顔を見合わせ、

そしてまた笑ってしまった。


さらに次の日。


朝の7時。

静かな寝室に──


ジリリリリリリリリリッ!!!


「ひゃあああああっ!!」


今度は美羽の枕元でアラームが炸裂した。


「なんで私!? りな姉じゃなくて!?」


「ご、ごめん美羽……私も知らない……!」


悠斗は布団の中で頭を抱えた。


「……これ、絶対おかしいよな」


(みう……おきた……

 りな……ねむい……

 ゆうと……がんばれ……

 ふたり……けんか……しない……)


リンクは全力で“平和”を守っているつもりだった。


だが──


「なんでこんなにズレるの?」


「ほんとにね……」


三人は顔を見合わせ、

そして、また笑った。


「なんか……この家、朝だけコントみたいだね」


「……まあ、悪くないかもな」


悠斗がそう言うと、

里奈も美羽も笑った。


リンクは胸をいっぱいにしていた。


(みんな……わらった……

 よかった……

 よかった……)


その日の夜。

美羽が帰り、部屋が静かになった頃。


里奈が、ふと目覚まし時計を手に取った。


「ねえ悠斗……最近、朝バタバタだけどさ」


「うん」


「なんか……楽しいね」


悠斗は照れくさそうに笑った。


「まあ……悪くないよな。

 こういうのも、同棲って感じで」


二人が寄り添って笑うのを見て、

時計の中でリンクは小さく跳ねた。


(ふたり……なかよし……

 ぼく……うれしい……)


リンクの体が、ゆっくりと光に溶けていく。


(もう……だいじょうぶ……

 ふたり……あさ……わらえる……

 ぼく……つぎ……いく……)


光は時計からふわりと抜け出し、

夜の部屋の空気の中へ漂い始めた。


悠斗と里奈は気づかないまま、

寄り添ってテレビを見ていた。


(つぎの……がんばってるひと……

 さがす……)


リンクの光は静かに消え、

新しい朝へ向かって旅立っていった。



お読みいただき、ありがとうございました。

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