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やさしさの宿るものたち  作者: なおパパ


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第19話 「鍵はここにある」

色々、試行錯誤しています。。。。

遠藤幸喜、六十五歳。

今日から“無職”になった。

定年を迎え、

雇用延長も終わり、

ついに会社を完全に離れた。

「……さて、どうしたもんかね」


朝の食卓で、

妻の順子が湯気の立つ味噌汁を置いた。

「ゆっくりすればいいじゃない。

四十年も働いたんだから」

「ゆっくり、ねぇ……」


言葉とは裏腹に、

胸の奥はざわついていた。

(人生100年時代なんて言うけど……

俺はそんなに生きる気がしない。

健康寿命なんて、あと5年だろう)

残りの人生をどう使うべきか。

何をすれば後悔しないのか。


考えれば考えるほど、答えは見えなかった。

タマが足元にすり寄ってきた。

「お前はいいよなぁ。

悩みなんてなさそうで」

タマは「ニャー」と鳴いた。



午後。

幸喜は、昔のアルバムをめくりながら、

学生時代の写真を眺めていた。

「……あの頃は、楽しかったな」

ふと、

当時の彼女とドライブした記憶がよみがえった。


(あの車……鍵、どこにやったっけ)


その“思念”に反応して、

本棚の裏でふわりと光が生まれた。

光は震え、

丸い輪郭をつくり、

小さな精霊の姿になった。

新しい精霊──ミミ。


(……ひっく……

かぎ……ここ……

ここに……あるのに……

だれも……きづかない……)


ミミは泣きながら、

本棚の裏に落ちている古い車の鍵を指さした。

鍵には、

学生時代の彼女からもらったキーホルダーが付いている。


(こうき……さがしてる……

これ……これ……!

でも……とれない……!)


ミミは必死に鍵を押すが、

小さな体ではびくともしない。


(ひっく……どうしよう……)



その頃、幸喜は──

人生の残り時間について、

深く悩んでいた。

(俺の人生……このままでいいのか?

やり残したことは……なかったか?)

その“不安”に反応して、

部屋の隅にふわりと光が生まれた。


リンクだ。


(こうき……つらい……?

ぼく……てつだう……!)


リンクは、

本棚の裏で泣いているミミに気づいた。


(あ……だれ……?)


(ぼく……リンク……

きみ……ないてる……?)


(かぎ……ここ……!

こうき……さがしてる……!

でも……とれない……!)


リンクは鍵を引っ張ろうとしたが──


(……うごかない……!

どうしよう……!)


リンクは慌てて部屋を見回した。


(たすけ……いる……!

あ……タマ……!)



リンクはタマの首輪に宿り、

タマの目の前で光を揺らした。

タマはその光に反応して、

本棚の裏へ向かった。


(タマ……ここ……!

ひっぱって……!)


タマは前足を突っ込み、

器用に鍵を引っかけた。


ガラッ。


鍵が飛び出した。


(やった……!

ミミ……でた……!)


ミミは鍵にしがみつきながら、

目を回していた。


(ぐるぐる……ぐるぐる……

たすけて……)


タマは鍵をおもちゃだと思い、

じゃれ始めた。


(ひゃあああああああ!!

やめてぇぇぇ!!)


リンクは慌ててタマを止めようとするが、

タマは楽しそうに鍵を振り回す。


(タマ……まって……!

ミミ……とんじゃう……!)


部屋は大騒ぎだった。



「タマ、何してるんだ?」


幸喜が部屋に入ってきた。


タマは鍵をくわえたまま、

幸喜の足元にぽとりと落とした。


「……これは……」


幸喜は鍵を拾い上げた。

その瞬間──

学生時代の思い出が鮮明にフラッシュバックした。


ドライブした道。

笑い合った彼女の顔。

若かった自分。

胸が熱くなった。


「……会いたいな。

あの頃の自分に」



幸喜は決意した。


「……よし。

少し旅に出てくる」


順子は驚いたが、

静かに頷いた。


「気をつけてね。

行ってらっしゃい」


幸喜は車に乗り込み、

学生時代を過ごした街へ向かった。


車中泊をしながら、

昔の思い出の場所を巡った。


しかし──


どこも変わっていた。


アパートは建て替えられ、

ドライブした道は整備され、

思い出の場所には、

もう何も残っていなかった。


(……そうか。

あれから45年も経ったんだ)


幸喜は、

静かに悟った。


(過去には戻れない。

でも……

残りの人生は、まだ間に合う。)


(最後の瞬間に、

“悔いはない”と言えるように──

残りの人生は自分に正直に、大切に使おう)


幸喜は、

清々しい気持ちでハンドルを切った。


帰るべき場所へ。


お読み頂き、ありがとうございました。

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