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やさしさの宿るものたち  作者: なおパパ


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第18話 「冬の帰り道」

お立ち寄り頂き、ありがとうございます。

伊藤凛、二十八歳。

冬の冷たい風が、仕事帰りの頬を刺した。


「……今日も疲れたな」


会社はブラックではない。

でも、仕事量は多く、毎日が慌ただしい。

学生の頃は、こんな生活になるなんて思っていなかった。


(あの頃は……もっと自由で、楽しかったな)


ふとよぎる思い出を、

凛はすぐに振り払った。


(現実逃避してる場合じゃない。

 明日も仕事だし)


そう自分に言い聞かせながら、

凛は駅からの帰り道を歩いていた。


そのとき──

道端に、一匹の野良犬が座っていた。


白い毛並みの、

どこか人懐っこい顔をした犬。


凛を見ると、

嬉しそうに尻尾を振った。


「……かわいい」


思わず足を止め、

凛はしゃがみこんだ。


手袋を外し、

犬の頭をそっと撫でる。


犬は目を細め、

凛の手に頬を寄せた。


「寒いのに、こんなところで……」


その瞬間だった。


手袋がふわりと光った。


凛は気づかない。

街灯の反射だと思った。


しかし犬は──

その光に反応して耳を立てた。


手袋の光は小さく震え、

丸い輪郭をつくり、

やがて小さな妖精の姿になった。


精霊リンクが、

手袋に宿ったのだ。


(……あ。ひかり……

 このひと……つかれてる……

 “むかしのじぶん”……

 ぼく……てつだう……!)


リンクは、

犬にだけ見えていた。


犬は嬉しそうに尻尾を振り、

凛の外した手袋をくわえ、

小走りに走り出した。


「えっ、ちょっと……!」


凛は慌てて立ち上がり、

犬を追いかけた。


「返してよー!」


犬は振り返りながら、

まるで“ついてきて”と言うように尻尾を振った。


犬が走り抜けた先の路地は、

凛が昔よく通った道だった。


(……懐かしい)


犬は嬉しそうに尻尾を振り、

リンクの光を追いかけて走り続けた


凛はその後ろを追いながら、

息を切らした。


「ちょっと……待ってってば……!」


でも、

どこか懐かしい道を走るうちに、

胸の奥が少しだけ温かくなっていた。


犬は、

凛の記憶の中にある場所へと導いていった。


小さな公園。

冬の夜でも明かりが灯る古い商店街。

学生の頃、友達とよく寄り道した橋。


「……ここ、よく来てたな」


凛は思わず立ち止まった。


犬は、

リンクの光を追いながら公園のベンチへ向かった。


凛が追いつくと、

犬は手袋をそっとベンチの上に置いた。


「……返してくれるの?」


犬は尻尾を振り、

凛の手に鼻を寄せた。


リンクは、

手袋の中で小さく光を揺らした。


(りん……ここ……すきだった……

 “たのしかったじぶん”……

 おもいだした……?)


凛は、

ベンチに腰を下ろした。


「……学生の頃、よくここで友達と話したな。

 将来のこととか、恋のこととか……

 あの頃は、なんでもできる気がしてた」


犬は凛の足元に座り、

静かに寄り添った。


(りん……がんばってる……

 でも……つかれてる……

 すこし……やすんで……)


凛は、

犬の温もりに触れながら小さく息をついた。


「……ありがとう。

 なんか、ちょっと楽になったかも」


リンクは、

その言葉に胸をいっぱいにしていた。


(りん……わらった……!

 よかった……!)


犬は手袋を凛に返し、

その横で丸くなった。


凛は手袋をはめながら、

夜空を見上げた。


「……明日も頑張れるかな」


犬は小さく「ワン」と鳴いた。


リンクは、

その横で光を揺らした。


(りん……もう……だいじょうぶ……

 こころ……すこし……あったかい……

 ぼく……うれしい……)


リンクの体が、

ゆっくりと光に溶けていく。


犬はその光に気づき、

小さく尻尾を振った。


(ありがとう……)


リンクは微笑み、

光の粒となって冬の夜空へ舞い上がった。


凛は、

犬の頭をそっと撫でた。


「……ありがとう。

 また会えるといいな」


犬は嬉しそうに尻尾を振り、

静かな夜道へと消えていった。


凛は、

少しだけ軽くなった心で家へ向かった。


冬の帰り道は、

昨日より少しだけ温かかった。



お読み頂きありがとうございました。

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