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やさしさの宿るものたち  作者: なおパパ


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第12話 「開かない扉の向こう」

お立ち寄り頂き、ありがとうございます。

実家の玄関を開けた瞬間、

懐かしい畳の匂いがふわりと鼻をくすぐった。


「……変わってないな」


佐々木直人、三十五歳。

十年数年ぶりに帰ってきた家は、

昔とほとんど同じだった。


ただ一つ違うのは──

祖母がもういないということ。


母からの電話で訃報を聞いたとき、

胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


―……俺、何してたんだろうな


高校を中退して、家を飛び出し、

街で遊び回っていた若い頃。

両親の言葉は煩わしく、

家にはほとんど帰らなかった。


でも、祖母だけは違った。


「なおと、元気かい」

「無理しなくていいよ」


いつも静かに話を聞いてくれた。


その祖母に、

何年も会わないまま別れが来てしまった。


「……バカだな、俺」


直人は、

祖母の部屋の前で立ち止まった。


扉には、古い鍵がかかっている。


母が言った。


「直人が来たら開けてあげてって。

 おばあちゃん、あなたに渡したいものがあるみたいでね」


でも──

鍵はどこにあるのか分からなかった。


直人は、

部屋の隅に置かれた古い棚を開けた。


その瞬間──

小さな金属の鍵が、

ころん、と床に落ちた。


「……あった」


拾い上げた鍵は、

どこか温かい気がした。


そのときだった。


鍵がふわりと光った。


「……え?」


光は小さく震え、丸い輪郭をつくり、

やがて小さな妖精の姿になった。


精霊リンクが、

祖母の部屋の鍵に宿ったのだ。


(……あ。ひかり……

 このひと……かなしい……

 “あえなかった”……って……

 ぼく……てつだう……!)


リンクは幼い決意を胸に、

鍵の中へすっと溶け込んだ。


直人は鍵を持ち、

祖母の部屋の前に立った。


以前は、扉を開けたら、いつも笑顔の祖母が居た。


でも、今は、、、


判っている。判っているけど、それを認めたくない自分が居る。

今、扉を開けた時、誰も居なかったら。。。

居ないのは判ってるけど。。居てほしいけど。


暫く扉の前に佇むが、開ける勇気が湧いて来ない。でも、


「……開けるか」


扉に一歩、近づいた瞬間──


カチャッ。


鍵が勝手に回った。


「うわっ!?」


直人は驚いて、思わず鍵を手放す。

鍵はぽとりと床に落ちた。


(なおと……いこう……

 あけて……)


鍵はころころと転がり、

扉の前で止まった。


直人は苦笑した。


「……なんだよ、これ」


でも、

胸の奥が少しだけ軽くなった気がした。


直人は鍵を拾い、

そっと扉を押した。


ギィ……。


扉がゆっくりと開く。


祖母の部屋は、

昔と同じだった。


畳の匂い。

古いタンス。

窓辺の小さな観葉植物。

そして──

机の上に置かれた、

一冊のアルバム。


直人は、

ゆっくりとアルバムを開いた。


そこには──

幼い頃の自分と祖母の写真が並んでいた。


運動会。

七五三。

誕生日。

ただ一緒に散歩した日。


「……ばあちゃん」


胸の奥が、

じんわりと熱くなった。


ページの隅には、

祖母の字でこう書かれていた。


“なおとが笑ってくれれば、それでいい”


直人の目に、

涙がにじんだ。


(なおと……

 おばあちゃん……

 ずっと……すき……だった……)


リンクの幼い声が、

胸の奥にそっと触れた。


直人は、

アルバムを抱きしめた。


「……ごめんな、ばあちゃん。

 俺、もっと早く帰ってくればよかった」


その言葉は、

静かな部屋に溶けていった。


アルバムを閉じると、

直人は机の上に置かれた小さな木箱に気づいた。


祖母が大切にしていた、

古い桐の箱。


「……これ、ばあちゃんのだ」


蓋には、

直人の名前が丁寧な字で書かれていた。


“なおとへ”


胸の奥が、

ぎゅっと熱くなる。


直人は震える指で蓋を開けた。


中には──

古い手紙が一通と、

小さな鍵がもうひとつ入っていた。


手紙を開くと、

祖母の丸い字が並んでいた。


“なおとへ

 元気にしていますか。

 あなたが家を出てから、

 私はずっと心配していました。”


直人の喉が詰まった。


“でもね、

 あなたがどんな道を選んでも、

 私はなおとのことが大好きです。”


涙が、ぽたりと落ちた。


“いつか帰ってきてくれたら、

 この部屋を開けてください。

 あなたが笑ってくれた日々は、

 私の宝物でした。”


直人は、

手紙を胸に抱きしめた。


「……ばあちゃん……」


声が震えた。


(なおと……

 おばあちゃん……

 ずっと……なおと……

 まってた……)


リンクの幼い声が、

静かに響いた。


直人は、

木箱の中のもうひとつの鍵を手に取った。


「……これ、どこの鍵だろう」


部屋の中を見回していると、ふと、目の前を光が過ぎった気がした。

無意識にその光を目で追うと、その光は部屋の奥へ


(なおと……

 こっち……ここだよ……)


鍵は、

祖母の部屋の奥にある小さな引き出しにぴたりと合った。


カチャリ。


引き出しの中には、

直人が幼い頃に描いた絵が何枚も入っていた。


家族の絵。

祖母の絵。

自分の夢を描いた絵。


「……全部、取っておいてくれたんだ」


胸の奥が、

じんわりと温かくなった。


(なおと……

 だいじ……に……されてた……

 ずっと……)


リンクは、

鍵の中で小さく震えていた。


直人は、

祖母の部屋をゆっくり見渡した。


「……俺、ばあちゃんに何も返せなかったな」


そう呟いたとき、

鍵がふわりと光った。


「……え?」


光は小さく震え、

やがてリンクの姿になった。


(なおと……

 かえせた……よ……

 きてくれた……

 それで……じゅうぶん……)


直人は、

涙を拭いながら微笑んだ。


「……そうか。

 そうだよな。

 帰ってきたんだもんな、俺」


リンクは満足そうに頷いた。


(なおと……

 もう……だいじょうぶ……

 こころ……あったかい……

 ぼく……うれしい……)


リンクの体が、

ゆっくりと光に溶けていく。


直人は、

その光を見つめながら呟いた。


「……ありがとう」


(なおと……がんばれ……

 つぎの……がんばってるひと……

 さがす……)


光はふわりと宙に舞い、

静かな部屋の空気の中へ消えていった。


直人は、

祖母の部屋の窓を開けた。


夕暮れの風が、

優しく頬を撫でた。


「……ばあちゃん。

 俺、もう一回ちゃんとやってみるよ」


その声は、

どこか晴れやかだった。


そして、

閉ざされた扉の向こうにあったのは──

祖母の愛と、

忘れていた自分自身だった。



お読み頂きありがとうございました。

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