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黒髪の寵姫  獅子伯年代記Ⅰ    作者: vientoverde
第七章 かなしいお知らせ

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続報は悲報 ~おまけに胸まで痛むこと(2)


 「――聞いてるこっちが辛くなるで」


 ジョシュは重たげに、自分の左胸を擦った。


「……そも大事な娘なら、あんな評判悪いバカボン公のトコへやらんわなあ」


 フォン・ブリゼ侯爵家だって、実の娘なら絶対に側妃になどさせない。

 本来は大公正妃になるはずだった正当な婚約者である娘を、一方的に婚約破棄されている。大事な自慢の娘を盛大に虚仮にされたのだ。

 ならば臣従関係を解消してもおかしくない程の屈辱ではないのか? 

それを今度は養女を仕立ててまで、ホイホイ側妃を献上する。その行動も思惑も、イアルには理解不能だった。


「どうにも実家で粗末にされてて。そいでまた養女に出されて。あんなポンコツに側女に差し出されて。挙げ句、この終わり方じゃあ――」


 可哀想過ぎるだろ。ジョシュの再三の貰い泣きはしごく自然な反応だった。

聞いた限りでは、ジョシュと思いを同じくする善男善女達が街道筋に花を手向けているそうだ。農繁期でクソ忙しいのに、赤の他人だけが痛ましいと悼んでくれる。近隣の一般領民達からは大いに同情が寄せられているらしい。


「お貴族さんの考えることは、まっことわからん」


 イアルにだってわからない。


「せっかく貴族のお姫さんに生まれて。おまけに賢く育っても、幸せとは限らんのだな……」


 イアルの胸までずっしり重くなる。


 『縁は切れている』――?


 何気に引っ掛かりを覚えたものの、イアルの思考は情緒的に流れた。

侯爵家と子爵家。どちらが葬儀を出してくれるのか。或いは、ちゃんと葬儀を出すと思っていいのか。それも気になるが、このまま死んだことにされてしまうのである。それはいいのか。それでいいのか。


(このままみんな、一切合切の縁が切れてしまう――)


 断片的伝聞だけでもロクでもなさげな実家。そっちはともかくとして、地元には懇意の知人友人くらいはいるだろう。中には会いたい人間、せめて無事を知らせたい相手だっているはずだ。


「儂等も、暇を見て聖母教会まで献花に行くかと言うとるんだ」

「領都の聖母教会へ?」

「うん」


 ドミネ教が決して意気軒昂にブイブイいわしてはいない西の辺境領だが、領内随所に聖母教会がある。領都にあるのが一番古くて大きい。広く信心を集めていて、引っ切り無しに参拝客が訪れる。巷では「祈りの灯りの消えない」教会だと評判である。 

 万事に偏狭なドミネ教にあって、聖母だけは何処でも嫌われずに受容されていた。この世に生きとし生けるすべての母子を守護する流儀は、異教徒すら拒まないからだ。聖母のこの寛容さ、間口の広さがあったから、新興宗教だったドミネ教はたかだか数百年でこうも信仰圏を広げたのだと考えられている。


「なんだかな。その姫さん、聖母教会のゆかりの方らしいんだよ」


 それで領都の聖母教会にも、献花台が設けられているのだとジョシュは教えてくれた。ここで再び感じたザラつきを、やはりイアルはするりと見逃してしまった。



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