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黒髪の寵姫  獅子伯年代記Ⅰ    作者: vientoverde
第七章 かなしいお知らせ

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続報は悲報 ~おまけに胸まで痛むこと(1)


 (行方不明じゃなく、絶命したと断定。か――)


 しかし、ジョシュの続報は具体的過ぎる。なんで一般領民がこうまで詳細を知っているのか?


「あなた、色々とずいぶん詳しいようだけれど……そんな内容まで、どこで聞いたの?」


 イアルの疑問を、ゼフィネさんが上手に代弁してくれた。今日も二杯目の果実水を出してやるついでに、ごく自然に先を促す。


「んにゃ、みんな知ってるよ?」


 おかわりを注いでもらったジョシュはあたり前のように答えた。


「旧街道挟んで、村も町も、どこもかしこもみいんな、今この話で持ち切りだもん」


 領境を越えて、噂の伝播が異様に速い。

農繁期である。捜索に携わる人手を誰彼構わず掻き集めた結果、情報が駄々洩れになったものか。


 ――いや、問題は参加したウチの騎士見習い達だよな?


 馬で駆け付けて駆けずり回り、彼等が痕跡を集めたはずだ。仕事も早いが、情報漏洩も速い。まるで早馬を継いで情宣しているかのような勢いだ。いったい情報統制はどうなっている? 

 

(どこの隊だ? 出張ったのは誰の班だよ?) 


 管理職でないイアルでも、頭が痛くなる。口が軽いにも程があるだろう。規律が緩過ぎる。それでも辺境騎士団か。

 だがすぐに思い直した。あえて口の軽い騎士見習い達を選んで、セインに連れて行かせたのだ。


「はあ――……」


 ひと通り語り終えたのに、ジョシュ爺さんはまだ腰を上げようとはしない。

実はまだ本題に入ってはいなかった。本当にゼフィネさんに聞いて欲しかったのはここからだった。それは心臓に悪いばかりか、胸の痛むような噂だった。


「何でも、元は中原あたりの子爵家のお姫さんだったらしいけども……」


 ――身許情報まで、拡散されてるのか。


「なんとも、はあ。可哀想でなんねえよ――」


 噂というのは尾鰭が付く。だからどこまでが事実なのか、予め割り引いて考えねばならない。だがジョシュまでが知る内輪の裏話は、誰の胸をも重くした。


 

 『中央の地――中原へは知らせますか?』


 おそらくは内緒であろうフォン・ブリゼ侯爵家の人間達のやり取りを、誰かが漏れ聞いていたようである。格式高い二大侯爵家にしては脇が甘い。


『あの実家、子爵家へか?』


 辺境領のずっと東には、中央の地と呼ばれる一帯がある。そこは弱中小の貴族達が割拠する土地で、名前ばかりの「中央」だった。単に、北の王国と公国のちょうど中間あたりにあるが故の呼び名である。真ん中にある。だから「中央」の地だ。またさらに東端では大草原と境を接していた。それで中原なんて呼ばれ方もする。


 何もない場所だ。土地は痩せて地味にも乏しい。どの領地も中小程度の規模で、伯爵家以上の家格はないそうだ。王国、公国の各臣下が入り交じり、何故か所々にまるで嫌がらせのように王領直轄の飛び地がある。

 おそらくは正真正銘の僻地だ。あれこそ辺境じゃないかとイアルは思っている。ただし、この地に辺境伯は置かれていなかった。


 おそらく中原にあるのは、大陸最古のドミネ教女子修道院くらいである。

聖母教会の古刹であり、常に巡礼者が絶えないと言われている場所だ。逆に言うとそれくらいしかなくて、他には何にもない。

 ちなみにそこは聖ソフィア女子修道院という。色んな意味で超有名である。

だが、最も世に名を馳せている『駆け込み聖堂』の機能については、当地西の辺境領では非常に馴染みが薄い。


『どうせ誰も来るまいて』


 侯爵家の者達はそう言い切っていたそうだ。

 普通は来る。誰かしら実家の者が。そういうものだ。


『来るわけがない。とうに縁は切れている』


 まともな身内なら、せめて亡くなった場所を身に来るくらいはするはずだ。


『子爵家は、形見の引き取りさえ拒否するだろうよ』

『しかし、弔いをどうするか。相談くらいはしませんと……』

『――あの家が、今更殊勝に葬儀など出すと思うか?』


 会話を立ち聞いた人間も、黙って胸におさめておけなかったのかもしれない。

口が軽いのには変わりないが、その心境だけは推察する。


『有り得んな。間違っても墓など拵えてはくれるまいよ』



 ――ほんと、心臓に悪いからよ。


 達観したようなラウルの言葉が蘇る。

 ああ、ラウルさん。これ、ホント心臓に悪い。悪過ぎるよ。でもそれ以上に。


 ――どうせその内、嫌でもわかる。


 イアルにも嫌でもわかってしまった。これは心臓に悪いだけじゃない。

そうじゃなくて、むしろ痛いんだ。胸が痛い。でもって、痛過ぎた。



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