続報は悲報 ~おまけに胸まで痛むこと(1)
(行方不明じゃなく、絶命したと断定。か――)
しかし、ジョシュの続報は具体的過ぎる。なんで一般領民がこうまで詳細を知っているのか?
「あなた、色々とずいぶん詳しいようだけれど……そんな内容まで、どこで聞いたの?」
イアルの疑問を、ゼフィネさんが上手に代弁してくれた。今日も二杯目の果実水を出してやるついでに、ごく自然に先を促す。
「んにゃ、みんな知ってるよ?」
おかわりを注いでもらったジョシュはあたり前のように答えた。
「旧街道挟んで、村も町も、どこもかしこもみいんな、今この話で持ち切りだもん」
領境を越えて、噂の伝播が異様に速い。
農繁期である。捜索に携わる人手を誰彼構わず掻き集めた結果、情報が駄々洩れになったものか。
――いや、問題は参加したウチの騎士見習い達だよな?
馬で駆け付けて駆けずり回り、彼等が痕跡を集めたはずだ。仕事も早いが、情報漏洩も速い。まるで早馬を継いで情宣しているかのような勢いだ。いったい情報統制はどうなっている?
(どこの隊だ? 出張ったのは誰の班だよ?)
管理職でないイアルでも、頭が痛くなる。口が軽いにも程があるだろう。規律が緩過ぎる。それでも辺境騎士団か。
だがすぐに思い直した。あえて口の軽い騎士見習い達を選んで、セインに連れて行かせたのだ。
「はあ――……」
ひと通り語り終えたのに、ジョシュ爺さんはまだ腰を上げようとはしない。
実はまだ本題に入ってはいなかった。本当にゼフィネさんに聞いて欲しかったのはここからだった。それは心臓に悪いばかりか、胸の痛むような噂だった。
「何でも、元は中原あたりの子爵家のお姫さんだったらしいけども……」
――身許情報まで、拡散されてるのか。
「なんとも、はあ。可哀想でなんねえよ――」
噂というのは尾鰭が付く。だからどこまでが事実なのか、予め割り引いて考えねばならない。だがジョシュまでが知る内輪の裏話は、誰の胸をも重くした。
『中央の地――中原へは知らせますか?』
おそらくは内緒であろうフォン・ブリゼ侯爵家の人間達のやり取りを、誰かが漏れ聞いていたようである。格式高い二大侯爵家にしては脇が甘い。
『あの実家、子爵家へか?』
辺境領のずっと東には、中央の地と呼ばれる一帯がある。そこは弱中小の貴族達が割拠する土地で、名前ばかりの「中央」だった。単に、北の王国と公国のちょうど中間あたりにあるが故の呼び名である。真ん中にある。だから「中央」の地だ。またさらに東端では大草原と境を接していた。それで中原なんて呼ばれ方もする。
何もない場所だ。土地は痩せて地味にも乏しい。どの領地も中小程度の規模で、伯爵家以上の家格はないそうだ。王国、公国の各臣下が入り交じり、何故か所々にまるで嫌がらせのように王領直轄の飛び地がある。
おそらくは正真正銘の僻地だ。あれこそ辺境じゃないかとイアルは思っている。ただし、この地に辺境伯は置かれていなかった。
おそらく中原にあるのは、大陸最古のドミネ教女子修道院くらいである。
聖母教会の古刹であり、常に巡礼者が絶えないと言われている場所だ。逆に言うとそれくらいしかなくて、他には何にもない。
ちなみにそこは聖ソフィア女子修道院という。色んな意味で超有名である。
だが、最も世に名を馳せている『駆け込み聖堂』の機能については、当地西の辺境領では非常に馴染みが薄い。
『どうせ誰も来るまいて』
侯爵家の者達はそう言い切っていたそうだ。
普通は来る。誰かしら実家の者が。そういうものだ。
『来るわけがない。とうに縁は切れている』
まともな身内なら、せめて亡くなった場所を身に来るくらいはするはずだ。
『子爵家は、形見の引き取りさえ拒否するだろうよ』
『しかし、弔いをどうするか。相談くらいはしませんと……』
『――あの家が、今更殊勝に葬儀など出すと思うか?』
会話を立ち聞いた人間も、黙って胸におさめておけなかったのかもしれない。
口が軽いのには変わりないが、その心境だけは推察する。
『有り得んな。間違っても墓など拵えてはくれるまいよ』
――ほんと、心臓に悪いからよ。
達観したようなラウルの言葉が蘇る。
ああ、ラウルさん。これ、ホント心臓に悪い。悪過ぎるよ。でもそれ以上に。
――どうせその内、嫌でもわかる。
イアルにも嫌でもわかってしまった。これは心臓に悪いだけじゃない。
そうじゃなくて、むしろ痛いんだ。胸が痛い。でもって、痛過ぎた。




