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黒髪の寵姫  獅子伯年代記Ⅰ    作者: vientoverde
第七章 かなしいお知らせ

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続報は悲報 ~心臓に悪いこと その三発目



 (もう死亡推定されちまったのか……)


 ジョシュ爺さんの追加情報は、短くまとめるとそういうことだった。

早々に望みなしと断定され、捜索隊も既に撤収されたようだ。


 結論も早いが、引き揚げも早過ぎる。

これではまるで、犠牲者はそそくさと見捨てられてしまったかのようだ。

野盗に襲撃されただけでも痛ましいのに、ろくに悼まれてさえいないみたいだ。


(せめて農繁期でなければ、もう少し粘ってもっと形見らしい持ち物ぐらいは集めただろうに……)


 聞けば聞くほど、それはあらためて心臓に悪過ぎる話だった。



 『公都へ向かう次の側妃を乗せた馬車が《《野盗》》に襲撃された』


 これが既に聞いた通りの、大前提だ。逃げて来た複数の随行達が当事者で、故に何ら疑問を持たれることなく、事実として認定されてしまった。


『馬車は逃げる途上で、崖の上から転落した』


 最前の雨でどの路も濡れていた。後から後から次々に見付かった物証痕跡が、このもっともらしい推論を補強した。よってすんなりと、推論から『旧街道で消えた花嫁達の生存可能性は限りなく薄い』結論へと直結したのだ。


 ――しかしエライ即断だ。速過ぎないか? 


 辺境領からの加勢班は、せいぜい一日二日しか活動をしていない。被害者は貴族で、しかも公都へ送る側妃だ。拙速な印象は否めない。


(第一、出来過ぎてる)


 判断材料は、ほぼほぼその加勢班が集めたものらしかった。


 捜索本隊ではなかったが、辺境領の騎士見習い達は精力的に調べを進めた。

そして新たな痕跡を見付けた。谷底で横転していた馬車の次は、その無惨な残骸にも行き当たったのだ。

 場所は川岸。折からの雨で増水し急流となった川沿いを探して、折れた馬車の車軸や破損した車輪の一部が散乱するのを発見したという。

 車軸には花嫁のものと思しきヴェールの一部が絡まっていた。車輪の方には血の付いた護衛騎士の装束の切れ端が引っ掛かっていたそうだ。


 この段階で、人間の方だけは川に投げ出された線が濃厚になった。さらには目撃情報まで拾えた。  


「それにな、ゼフィネ様。なんでも川漁師連中が、馬車の車輪やら馬やらが流されてくのを見てたらしいんだよ」

 

 少し前にまとまった雨が降って、川漁師達が仕事を再開できそうか様子を見に出ていた。その際、車輪やその他の馬車の木材が浮き沈みしつつばらばらと、折から増水した川に流されていくのが垣間見えたという。溺れる馬の脚が見え隠れしていたとの証言も出たそうだ。これが決定打になった。

 ああこりゃもうダメだな。これ以上は探しても見つかるまい。そう見切られたようだ。

 

『骸の方は、もう上がらないだろう――』 


 そしてダメ押し。漁師達は口々にそうも言ったそうだ。流れを熟知した地元の漁師達が断言するなら、異論の余地はない。輪番領の責任者に結論を急がせるには、もうじゅうぶんだった。


 人も馬も都合よく川に落ちた。花嫁に護衛騎士、たぶん御者も。

複数の目撃情報による裏付けは、細かに湧くはずの疑念を軒並み吹っ飛ばした。

 不明者達は皆、分け隔てなく流されました――で片付けられたのだ。


 各領の捜索隊が集まる中で、一時は蜂の巣をつついたような騒ぎだったそうだ。だが早々に諦めたから。ぽろぽろと応援が合流しても、それ以上捜索範囲は広がらなかった。おそらく、まともに探したのは辺境領からの加勢班だけだ。


 侯爵領の面々の到着を待たず、方針は全て固まってしまった。

フォン・ブリゼから人が来る頃には、後は馬車の紋章と痕跡である衣類の切れ端を確認してもらうだけという段階になっていたのだ。

 やがて侯爵家の人間達が臨場した。思いの外に早かったのは、ちょうど侯爵領からも花嫁を出迎えに向かっていて、途上で旧街道筋からの早馬とうまく行き会ったからだという。


『間違いない。当家の紋章です』


 崖上からの馬車の紋章追認は、すぐに済んだ。花嫁の輿入れ車両だから見間違いようがなかった。

 引きちぎれたヴェールも確認された。素材は侯爵領名産のレース。端切れでも、特別に編ませた意匠部分は判別できたそうだ。護衛騎士の装束も、領内の織元の御誂えだから容易く識別できた。彼等の作業はこれくらいだ。


 ――段取りが良過ぎる。


 残された痕跡の発見。それによる被害者の特定。畳み掛け、押し切るように生存可能性を連続で否定する複数の目撃証言。


 疑問を差し挟む余地がなく、他の可能性は考えられないと思わせることに成功している。もう否定しようがないのだと、自然にそう思い込ませていた。


 これでもう、誰も側妃を探さない。


『野盗の襲撃は事件』

『人馬共に濁流で溺死。死因そのものは事故』


 輪番領からの責任者は、侯爵家の面々と辺境伯家の加勢班を前にそう宣告した。まだまだ絶賛農繁期。とてもこれ以上の人手は割けない。

 ともかく形見――痕跡は拾えた。よってこれにて終了。そして捜索は打ち切られ、速やかに全員が撤収した。


 あまりにもスイスイと進み過ぎた気がして、イアルは寒気すら覚える。


 後はどう報告するかだけの問題になっている。

行方不明者達の生存は絶望的で、犠牲者には花嫁も含まれる。どう伝えれば、旧街道の物見台に関わる人間達への追及が最小限で済むか。そちらに主眼が移ったのだ。


「随行連中は、みんな無傷で生き残ってるもんで恐れ戦いてるそうだよ。どんなお咎めを被るかって」


 のうのうと我先に逃げ出したのだ。責任が問われないわけがない。だが随行達への断罪も糾弾も処分も、この際どうでもいい。


(誰かが絵を描いてる――)


 出来過ぎなのだ。まるで何もかもが上手く用意されていたかのように。

巧みに計画されてる気配、人為的な匂いがぷんぷん漂っている。だからイアルは、気色が悪い。


 お館様だ――

 やることは大胆。だけど細部は周到。


 イアルの直感は確信に変わっていた。

残された痕跡――証拠も証人も、おそらく全部事前に仕込んである。配置したのはイーサンだ。あいつは緻密で抜けや穴がない。

 馬車を落とすとかの力技はエヴァンだろう。黙って働き、貝のように口が堅い。実働部隊にはもってこいだ。絶対にお連れになっていたはずだ。


(きっと撤収の速さまでも、お館様は織り込み済みなのに違いない)


 自分は決して察しがよい方ではないし、それほど頭が回る方でもない。イアルはそう自覚している。だが、こういう勘はほぼ外れない。


 ――頼む。誰か、違うと言ってくれ。


 最初にジョシュが訪れた夜、イアルは眠れなかった。

ジョシュ爺さんの衝撃的な世間話から類推される仮説は、あの夜とことんイアルの安眠を妨げた。考えたくもないのに、導き出される結論が自ずとイアルの動悸を速くした。


 あれは知らない、他所の姫君だ。俺は知らないはずの方だ。

 災難に遭って落命したのは、俺の知らない存在だ。


 ――もういい。これ以上は知りたくない。


 しかし既にイアルの中では答えが出ている。自分の知覚は鋭敏ではないが、それでも不穏な推論はずべて事実なのを、どこかで知っていた。



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