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第71話(後編) ヴェルトン memory ⑥ ~ 父はバーテッツ、母はジュリエッタ。煙突掃除人形アルコバレーノ誕生 ~(後編)

(※第71話の後半部分です)

(GWの休みを利用して1話分書き上げました)

(引き続き回想シーン)


体を壊すほど己の魔力を酷使したヴェルトンは入院することになった。

そして後日アイルローマ市内の病院で…


ヴェルトン(ベッドの上で)「バーテッツ、見舞いに来てくれたことに感謝するよ…」

バーテッツ(浮かない顔で)「立場的には共同研究者なんだ。会いに行かないわけにもいかんだろ…」

 「…」


バーテッツ「それでどうなんだ…体は回復しそうなのか?」

ヴェルトン「自分の予想以上に体は疲れていたよ。そのせいで満足に体を動かせない…」

 「疲労感がなくなったとしても、その後リハビリもしなければならなくなったよ…」

バーテッツ「体を休ませ、さらにはリハビリか…」

 「これでは来年の選挙に間に合いそうもないな…」

ヴェルトン「そうだな…学長になるという私の夢は消えたよ…」


ヴェルトン「だが実績はこれからも作っていくつもりだ…」

 「私は2年後の3月に65歳となるが、その後は非常勤として大学に残るつもりでいる…」

バーテッツ「しかし非常勤だと制限もあるのだろ?」

ヴェルトン「ああ、24時間自由に使える自分専用の研究室がなくなるんだ…非常勤の講師が独自の研究を行う場合、共同研究室でしかできない…」

バーテッツ「共同研究室か、確か大学院生たちも使える実験室だったな?」

ヴェルトン「その通りだ…複数の人間が利用することから、研究室を使える時間も限られている…」


バーテッツ「そんな部屋であのグラン・ジェムストーンの開発を行うくらいなら、大学を離れ、魔法研究所の職員にでもなればいいじゃないか?」

 「定年を迎えた教授たちの中にはそういう道へ進んでいる人間もいるんだろ?」

ヴェルトン「そうだな。そのほうがジェムストーンを完成させやすいだろうな」

 「だがバーテッツ、私は第一魔法大学を心から愛しているのだよ…」

 

ヴェルトン「私は高校を卒業し、2浪してこの大学に入学した…」

 「20歳から63歳の今に至るまで、43年もこの大学でずっと過ごしてきたのだよ…」

バーテッツ「ならばあんたにとって第一魔法大学は母校でもあり職場でもあるということか…」 

ヴェルトン「ああ、第一魔法大学は私の人生にとって何ものにも代えられない唯一の場所なんだ…」

 「私の職場は第一魔法大学だけでありたいのさ…」


バーテッツ「穏やかだな、ヴェルトン…」

ヴェルトン「バーテッツ?」

バーテッツ「学長になれるのなら、悪魔に魂を売っても構わん。そんなことを言っていた以前のあんたと比べると、今のあんたはだいぶ穏やかだ…」

ヴェルトン「そう思ってくれるか…気を失ったことで私の頭も冷やされたのかもな…」

バーテッツ「…」

 (心の中で)「(だが体が回復すれば、やはりお前は無謀な真似を…)」


その時病室に看護師がやって来て、

女性看護師「ヴェルトンさん、お薬の時間ですよ」

ヴェルトン「おっと、もうそんな時間だったか…」

バーテッツ「ヴェルトン、薬を飲むのか?」

ヴェルトン「ああ、疲労回復のためにな…」

バーテッツ「そうか、なら俺はもう帰るぞ……」

 「…」

 (心の中で)「(しばらく会いに来ないかもしれないがな…)」


ヴェルトンに対して複雑な気持ちのバーテッツ。病院の個室を出ようとするが、その時…

バーテッツ(苦しそうに)「うがっああ!」

ヴェルトン「バ、バーテッツ!?」

女性看護師「どうしたのですか!?右腕が銀色に光っていますよ!」


バーテッツ(心の中で)「(くっ、こんなときに発作が起きるとは…)」


女性看護師「大丈夫ですか!とても苦しそうですよ!」

バーテッツ(大声で)「お、俺に構うなああ!!」

女性看護師「ああっ!?」

バーテッツの光る右腕を直視した女性看護師は体が金属となってしまった。

女性看護師(金属化して)「…」


ヴェルトン「なっ!?」

バーテッツ「ハァ…ハァ…」

ヴェルトン「バーテッツ!お前まさか金属化の魔法を!?」

バーテッツ「くっ!」

バーテッツは逃げるように病室を飛び出した。

ヴェルトン「待て!待つんだ、バーテッツ!」


ヴェルトンはこの日から22年バーテッツと会うことはなかった。



それから半年ほどが経った2月15日(1964K年)、大学内ではヴェルトン抜きの学長選挙が行われた。

選挙に立候補した、サンドロ理事・アデルフェルト教授・コルディーラ教授の3人を抑え当選したのは、現学長カルドバーノより手厚い推薦を受けたジュリエッタ准教授(ヴェルトンと同じ魔法道具学専門)であった。


後日カルドバーノ学長は4月より新学長となるジュリエッタを学長室へ呼び…


カルドバーノ現学長「ジュリエッタ新学長、改めてよろしく頼みますぞ」

ジュリエッタ新学長「カルドバーノ先生、本当に私などが学長になってよろしいのでしょか?」

カルドバーノ「自信をお持ちください、新学長」

 「あなたは学長選挙に立候補し当選したのですから、何一つ問題はありませんよ」

ジュリエッタ「ですが准教授であるこの私が選挙に立候補できたり、当選したりできたのは、現学長であるカルドバーノ先生の強い推しがあったからでして…」

カルドバーノ「あなたは入院してしまったヴェルトン先生に代わり、先生のゼミ生たちの面倒をよく見ていただいたのだ、それは教職者として良い姿勢ですよ」

 「何よりあなたはヴェルトン先生が引き受けた教育長の依頼を引き継ぎ、煙突掃除人形に魔力を注ぎ完成させたのです」

 「それは紛れもない大きな功績ですよ」

 「あなたの煙突掃除人形により、何人もの子供たちが過酷な煙突掃除をせずに済んでいるのですから」


ジュリエッタ「小さい子供たちに長時間の煙突掃除をさせれば、健康面だけでなく、子供たちの教育の機会さえも奪うことになりますからね」

 「私としてもそれだけはどうしても避けたかったのです…」

カルドバーノ「ご立派ですよ。そういった広い視野で子供たちやその周りの環境を見ることができるのは」

ジュリエッタ「カルドバーノ先生、それほどまでにお褒めいただき、誠にありがとうございます…」


カルドバーノ「新学長となったあなたではあるが、これからは大学に居る時間よりも、煙突掃除人形を作る工房に出向く時間のほうが多くなるでしょう」

 「工房の職人さんたちと協力し、多くの煙突掃除人形を作り上げてください」

 「それが子供たちの未来を守ることに繫がるのですから…」

ジュリエッタ「職人さんたちとの協力ですか…」


ジュリエッタは「職人」という言葉を聞いて、同じ職人という肩書きを持つバーテッツのことを話し始めた。


ジュリエッタ「それにしても防具職人のバーテッツさん…」

 「密かに金属魔法を習得していたなんて…」

カルドバーノ「そうですね、それは本当に驚きですよ。金属魔法は合成魔法や記憶魔法以上に希少な魔法ですからね」

 「この第一魔法大学どころかアイルクリートの各魔法高校や魔法大学、魔法研究所などでも使える者は現在確認されていないくらいですから」


ジュリエッタ「煙突掃除人形の原型を製作したのはバーテッツさんなのですよ」

 「あの方も今回の人形製作においては功労者であるはずなのですが…」

カルドバーノ「それでいて非常に希少な金属魔法を習得したわけですからね」

 「彼は本来良い意味で注目されなければならない人物なのでしょうけど…」

ジュリエッタ「病院から逃げ出したバーテッツさんは今や指名手配の身、騎士団もその行方を追っているということで…」


カルドバーノ「しかし彼の金属魔法を浴びた看護師の方が無事で何よりでしたよ」

ジュリエッタ「そうですね、二週間ほどでお体が元に戻ったのですから」

カルドバーノ「看護師さんの健康状態はその後問題なかったようですしね、本当に幸いでしたよ…」

ジュリエッタ「おそらくバーテッツさんの金属魔法はまだ完璧ではなかったのでしょう…だから看護師さんのお体も元に戻り…」

カルドバーノ「逆に完璧な魔法となっていたら、看護師さんは間違いなく助からなかったでしょうね…」


ジュリエッタ「あらゆるものを金属に変えてしまう魔法、想像すると恐い面もありますね」

カルドバーノ「だからこそ騎士団も彼を探しているのですよ」

 「暴走すれば何が起きるか分からないのが魔法です。うまく制御できなければ周りのものが次々と金属に変わってしまうでしょう」

 「大きな被害が出る前にバーテッツ氏を見つけなければ…」


ジュリエッタ「…」

 (心の中で)「(バーテッツさん…どうか出頭してくだい…)」

 「(それがあなたのためなのですから…)」



その頃、とあるアイルローマ市市議会議員の邸宅では…


最初の煙突掃除人形アルコバレーノ「…」

「アルコバレーノ」と名付けられたバーテッツとジュリエッタの煙突掃除人形がブラシを持ち、邸宅内の煙突をきれいに掃除していた。

煙突掃除人形アルコバレーノ「…」


アルコバレーノの掃除ぶりを離れた所から見ている市議会議員(元貴族の家系・50代男)とその妻は、

市議会議員の妻「あの煙突掃除人形ちゃん、24時間休まずにせっせと仕事をしてくるのよぉ」

 「大した発明品ですことぉ」

市議会議員「さすがは第一魔法大学だよ。あれだけの品を作り上げてくれたのだからな」

妻「ただ原動力はやっぱり魔力なのよねぇ」

 「定期的に魔力を補充していかないと、掃除人形ちゃんも使い物にならなくなっちゃうみたいで…」

市議会議員「ハッハッハッ!それも魔法文明社会の生き方だよ!」

 「魔力を上手く応用し、生活に役立てていかないとね」


夫婦は少し話題を変え、

妻「あの最初に作られた煙突掃除人形ちゃん、「アルコバレーノ」って名前なのよね」

市議会議員「arcobaleno(※4)…アイルクリート語で「虹」を表す言葉か…」

妻「「煙突内の灰や煤に負けず、虹色の明るい輝きを放っていてほしい」というのがお名前の由来らしいわ」

市議会議員「虹色かあ…銀色の金属ボディに赤や青などの虹の色が所々ペイントしてあるのはそういう訳だからかなあ?」

妻「そうなんじゃないかしら。その辺りははっきり聞いていないけど」


続いて、

市議会議員「しかしアルコバレーノも随分働いてくれたな」

 「そろそろ休憩させてあげるか」

妻「そうね。エネルギーである魔力を注いであげましょう」


市議会議員はアルコバレーノを庭に連れ出し、

支持者の魔法使い「それでは先生、煙突掃除人形に魔力を入れます」

市議会議員「よろしく頼むよ」

アルコバレーノ「…」

アルコバレーノに魔力が込められた。


市議会議員はアルコバレーノに話しかけ、

市議会議員「アルコバレーノ、空を見上げてごらん」

アルコバレーノ「…」 クイ…

アルコバレーノは首を動かし、空を見た。

そこには青く美しい空が広がっていた。

アルコバレーノ「…」


市議会議員「君の名前の由来となった虹は出ていないが、きれいな空だと思わないか?」

アルコバレーノ「…」

金属できたその目にもはっきりと映っていた。果てしなく広がる「青い空」が…


休憩が終わり、煙突掃除人形アルコバレーノは再び黙々と煙突内を清掃していた。

言葉を話すこともなく…


このアルコバレーノは当時様々な家や建物に回されていた。一件の屋敷で煙突掃除が終わると、また別の家や建物などへ…そのためアルコバレーノは2日後にはこの市議会議員夫婦の邸宅を出て、また別の場所で使われることになっていた。


代わりとなる別の煙突掃除人形たちが作られるまで各地で掃除をしなければならなかったアルコバレーノ。

そんなアルコバレーノにもし意思があるのなら、「自分の体、原型を作ってくれたバーテッツを父」と、「魔力を与えて体を動けるようにし、アルコバレーノと名付けて虹の色をペイントしたジュリエッタ准教授を母」だと思うことであろう…


煙突掃除人形アルコバリーノにとっては父と呼べるバーテッツであるが、彼は病院から逃げ出した後……

次回は、バーテッツの行方について書きます。

よろしくお願いします。


※1…「マジェール・ストーン」とは魔力を帯びた特殊な石や鉱物の総称。現在クレードたちが持っているグラン・ジェムストーンもマジェール・ストーンを素にヴェルトン博士が開発した物。

魔法大陸ムーンリアスではよく採れる鉱物である。

※2…歴史地区の名前の由来は、イタリアの世界遺産「ナポリ歴史地区」(文化遺産 1995年登録)

※3…市の名前の由来は、イタリアとバチカンの世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂」(文化遺産 1980年登録 1990年拡張)より

※4…元ネタはイタリア語。『arcobaleno』は「虹」を意味する。

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