第71話(前編) ヴェルトン memory ⑥ ~ 父はバーテッツ、母はジュリエッタ。煙突掃除人形アルコバレーノ誕生 ~(前編)
71話目です。
作者の僕は『ロ○オの青い空』というアニメが好きなので、イタリア風の国アイルクリートで物語を書くのなら煙突掃除に関する話も入れたいと前から思っていました。
(※今回の話は、前編と後編に分かれています)
(※今回の登場人物たちについては、「○第66-72話の主な登場人物の紹介」の回をご参照ください)
(引き続き回想シーン)
ケルビニアン暦1963K年8月。
来年1964K年2月に行われるアイルクリート第一魔法大学の学長選挙まであと半年。
ヴェルトンはプロト・ジェムストーンの完成品である「グラン・ジェムストーン」を開発するため、ひたすら原料となるマジェールストーン(※1)を自身の魔法で合成していた。
ヴェルトン「ハァ…ハァ…」
「思っていた以上に疲れるな…」
「何度合成してもまるで終わりが見えてこない…」
「だがやらねば…これを完成させない限り私の実績には…」
その時、研究室にバーテッツが来て、
バーテッツ「苦戦しているようだな、ヴェルトン…」
ヴェルトン「バーテッツか…」
バーテッツ「顔色が悪いぞ、少しは休んだらどうだ?」
ヴェルトン「バカを言うな…今踏ん張らねば、選挙で負けてしまうだけだ…」
ヴェルトン「元国会議員であるサンドロ理事、水力魔法を専門とするアデルフェルト教授、関数魔法の権威であるコルディーラ教授…」
「すでに3人が立候補を考えているのだ…」
「この3人に勝つためにもグラン・ジェムストーンの完成は必須だ…」
「1個でもいいんだ…急いで完成させ、変身できる人間を見つけなければ…」
バーテッツ「そこまで言うんなら仕方ないな…」
「だが俺は骨休めのために外出するぞ…」
ヴェルトン「分かった…帰ってくるのを待ってるぞ、バーテッツ…」
「ハァ…ハァ…」
大学を出て一人街中を歩くバーテッツ。彼は高台にある街の公園のベンチで、小石を手に取り、
バーテッツ「…」
バーテッツは手に取った小石に魔法をかけた。すると小石は銀色の小さい金属に変わった。
バーテッツ(心の中で)「(物を金属化する魔法…第一魔法大学の教授たちですら使うことができない希少な魔法をこの俺が習得するとはな…)」
「(プロト・ジェムストーンの完成のために久しぶりにたくさんの金属を触ったからなのか、それとも金属製の義手を合成させた影響なのかは分からんが、気がつけばこの魔法が使えるようになってた…)」
「(本来なら俺はすぐにヴェルトンにこの魔法の事を話したほうが良いのだろうが、今のお前相手では無理だろう…)」
「(俺が金属魔法を使えるようになったことを知れば、お前は俺の魔法に興味を持って、ますます研究にのめり込むだろう…そうすればお前は魔力の使い過ぎなどにより命を落としてしまうかもしれない…)」
「(分かってくれ、ヴェルトン…)」
「(友であるお前の命を守るために、今は秘密にしておきたいのだ…)」
(心の中で)「(しかしこの金属魔法が使えるになってから時折発作が起きる…)」
「(まだ魔法を完璧に使いこなせていないということなのだろうな…)」
「(まあ今のところヴェルトンに発作を見られてはいないが…)」
ヴェルトンや魔法のことを考えるバーテッツであるが、高台からの街の景色が目に留まり、
バーテッツ(心の中で)「(それにしても煙突が増えたな、このアイルナポリの歴史地区(※2)にも…)」
それから2ヶ月後の1963K年10月。
アイルローマ市(※3)教育委員会の教育長が大学を訪れた。
大学の女性職員「ヴェルトン先生、教育委員会の教育長が大学へお見えになりました」
「先生にご相談したい事があるそうなのですが…」
ヴェルトン「何、教育長が私に用があると?」
大学の女性職員「はい。魔法道具学の先生たちの中で一番キャリアのあるヴェルトン先生とお話ししたいと…」
ヴェルトン(やつれた表情で)「いいだろう…選挙に勝つためにもここは会っておくか…」
「教育委員会の代表者にな…」
ここで近くにいるバーテッツが、
バーテッツ「ヴェルトン、会うのはいいが魔法アイテムの開発依頼だけは避けろ」
「グラン・ジェムストーンの開発であんたは身も心もボロボロなんだ」
「そんな今のあんたに新しい道具を作るなんてできるわけがない…」
ヴェルトン「バーテッツ…私の心配をしてくれるのは嬉しいが、そういうわけにもいかんのだよ…」
ヴェルトン「教育長からの信頼を得ることができれば、それは選挙戦で有利に働くはずだ…」
「だから今退くことなど…」
疲れ切っているヴェルトンは教育長に会うため研究室を出た。
バーテッツ(心の中で)「(ヴェルトン…確かに警告はしたぞ…)」
「……」
「(ヴェルトン…苦しんでいるお前の姿を見て、俺が楽しい気持ちになれるとでも思うのか…)」
「(お前には「友」の気持ちというものが分からないのか……)」
「(今のお前は違うのだ…情熱を持ってプロト・ジェムストーンの実験に臨んだあの時のお前とは…)」
「……」
バーテッツはやるせない気持ちでいっぱいだった。
なんの情熱も持たず、藪から棒に研究を行い、身も心も壊れていくヴェルトンの姿を見て、バーテッツの心は少しずつ歪み始めていった…
一方、そのヴェルトンは大学の応接室で教育長と話をして…
教育長「ヴェルトン教授、ここアイルローマ市に限らず、今アイルクリート各地の住宅などで煙突が増えていることはご存じでしょうか?」
ヴェルトン「ええ、暖炉は年々普及していますからねぇ…」
教育長「暖炉は今や生活に欠かせないものです…特に寒い冬の時期には重宝するでしょう…」
ヴェルトン「しかし暖炉の煙突には煤が溜まる…」
「定期的に掃除をしなければなりませんよね」
教育長「そうなのですよ、その掃除が今問題になっているのですよ…」
教育長「火災を防止するため、熱効率のためなどと、以前と比べると街に並ぶ煙突は細くて幅の狭いものへと変わりつつあります」
ヴェルトン「細い、狭い、そのような構造では掃除の仕方も変わっていくでしょうな」
教育長「そうなんです。大人では入りにくい構造をしているのです…」
「だから狭い煙突を効率よく掃除するために「小さな子供たちにやってもらおう」という意見さえも出始めまして…」
ヴェルトン「なるほど…それは確かに深刻な状況ですな」
「掃除により大量の煤を被れば、間違いなく子供たちの健康に影響が出ますよ」
教育長「「コーティング魔法により幼い子供たちを煤から守ればいい」などという意見も出ましたが、それだけでは保護者の方々もご納得できないでしょうね…」
ヴェルトン「仮にコーティング魔法で煤対策をしたり、体をよく洗ったりしても、煙突内で体が挟まったり、窒息死してしまう可能性だってありますよ」
教育長「コーティング魔法をかけたとしても呼吸のための空気は必要でしょうからね…」
ヴェルトン「いずれにせよ煙突掃除は子供たちにとって何のメリットもありませんよ。「子供を使おう」という腐りきった考えなど、即排除しなければなりません」
教育長「ヴェルトン教授、私もそのように思っております…」
「ですが……」
ヴェルトン「分かりますよ。だからこうして教育長は私のもとを訪ねてきたのではございませんか」
「子供たちに代わる掃除の道具を私に作ってもらうために」
教育長「ヴェルトン教授、おっしゃる通りでございます…」
「この依頼引き受けていただけますでしょうか?」
教育長はヴェルトンに深く頭を下げた。
ヴェルトン「ご安心ください、教育長」
「私も教職者の端くれとして、子供たちのためにできることをいたしますので…」
ヴェルトンは「子供たちに代わる煙突掃除の道具を作る」という教育長の依頼を引き受けた。
後日、研究室では、
ヴェルトン「よくやってくれたな、バーテッツ……」
「幼児の体を再現した金属製のからくり人形を完成させてくれるとは……」
バーテッツ(気乗りしない表情で)「卒業生のおトミにだってできたことだ…防具職人の俺にとってそんなに難しい作業ではないさ…」
ヴェルトン(心の中で)「(おトミか……)」
「(魔力で動くからくり人形作りの仕事を楽しんでいればいいが……)」
男子のゼミ生①「先生、あとは魔力を注いで動くかどうかですね」
女子のゼミ生①「このからくり人形が完成して、量産に成功すれば多くの子供たちが過酷な煙突掃除をしなくて済むわ」
女子のゼミ生②「ヴェルトン先生、お願いします」
ヴェルトン「ま、任せてくれ……」
「が、学長になるためにも、ここはやらねばな……」
男子のゼミ生②「だ、大丈夫ですか、先生?」
「何かふらついているようにも…」
ヴェルトン「し、心配しなくてもいい……」
「そ、それよりも早く魔力を……煙突掃除人形に、ま、魔力を……」
「……」
バタ…
ヴェルトンはその場に倒れ込んだ。
男子のゼミ生③「ヴェ、ヴェルトン先生!」
女子のゼミ生①「大変だわ!早く保健室の先生や事務員さんたちを呼ばなきゃ!」
バーテッツ(心の中で蔑むように)「(ヴェルトン…どこまでもバカな男だ……)」
「(グラン・ジェムストーンの開発だけで手一杯だったというのに、余計な神経を使って……)」
「…」
魔力を使い過ぎたヴェルトンは過労により入院することに。
そしてこの日以降バーテッツが大学内の工房に来ることはなかった。
彼が大学内で最後に作り上げた物がこの煙突掃除人形であった…
(※後編へ続きます)




