第72話 バーテッツ memory ① ~ オスクリタ監獄、謎の老婆の声 ~
72話目です。
同じ回想シーンではありますが、この話では回想の主がヴェルトンではなくバーテッツとなっております。
(※今回の登場人物たちについては、「○第66-72話の主な登場人物の紹介」の回をご参照ください)
(引き続き回想シーン)
ここはアイルクリート東部、ドロースミルタ村(※1)。
標高3000m級の山々が立ち並ぶ麓の村。村の牧場では羊などを育てている。
女性看護師に金属魔法をかけてしまったことで、アイルローマ市内(※2)の病院を飛び出したバーテッツはこの村へと来ていた。
しかしバーテッツは疲労困憊のようで…
バーテッツ(心の中で)「(ハァ…ハァ…)」
「(まさかアイルローマからこんな田舎の村にまで来てしまうとはな…)」
「(だがあれからどうにも止まらないんだ…俺自身の魔力も、発作も…)」
「…」 ドサッ…
蓄積していた疲労によりついに倒れてしまったバーテッツ。
だが彼の魔力は暴走し、近くの牧場の羊たちが銀色に輝く金属へと変わっていった。
村の兵士たちが金属化した遠くの羊たちに気づき、
アイルクリート兵①(ローマナイト)「何だ!?向こうの牧場の羊たちが銀色になっているぞ!」
アイルクリート兵②(ローマナイト)「どう見ても異常だ!現場に行って確かめねば!」
兵士たちは現場に駆けつけ牧場主から話を聞き、
牧場主「この羊たちは私の牧場で育てているのです…」
「どうしてこんなことに…」
アイルクリート兵②(ローマナイト)「それでは急に体が金属になってしまったというのか!?」
一人の兵士が何かに気づいた。
アイルクリート兵③(ローマナイト)「おい!牧場の近くで誰か倒れているぞ!」
倒れていた人物はバーテッツであった。兵士たちは彼に近づき、
バーテッツ(気を失っている)「…」
アイルクリート兵①(ローマナイト)「60代くらいの中年男?何者なんだ?」
アイルクリート兵②(ローマナイト)「柵や羊、この男の周りだけ銀色の金属と化している…」
アイルクリート兵③(ローマナイト)「そうなるとこの男は稀少な金属魔法の使い手なのか!?」
アイルクリート兵④(魔法使い)「だとしたらむやみに触れるのは危険だ!」
「我々の体も金属になってしまうかもしれないぞ!」
アイルクリート兵①(ローマナイト)「しかしこのまま放っておくわけにもいかないだろ!」
アイルクリート兵⑤(聖侶)「ならば私がこの男を厚いバリアで包む」
「それで何とか運ぶしか…」
兵士たちに助けられたバーテッツであるが、彼が指名手配されている被疑者であると分かると、バーテッツは回復後その身柄をアイルローマ市に引き渡された。
アイルローマ市に戻るとバーテッツは市内の監獄(オスクリタ監獄(※3))へと収容された。
バーテッツ「自分では制御できない魔力が暴走しただけだというのに、それで犯罪者扱いされるとはな…」
アイルクリート兵⑥(看守)「黙れ!制御できようとできまいと被害を出せば、もう加害者だ!」
アイルクリート兵⑦(看守)「そなたは魔法犯罪者として後日裁判にかけられる」
「それまでは大人しくしているのだ」
看守の兵たちはひとまずバーテッツから離れた。
牢屋の中で横になるバーテッツ。
バーテッツ「凄腕以上の防具職人と称された俺がこんな牢屋に入れられるとはな…」
「まあ思わず逃げてしまい、すぐに出頭しなかった俺にも責任はあるんだがな…」
「…」
(心の中で)「(あの時思わず逃げてしまったのは、看護師を金属にした罪から逃れるためではなく、ヴェルトンに金属魔法を知られたからなのだろうな…)」
「(ヴェルトン…お前との友人付き合いもここまでになりそうだ……)」
その時バーテッツの心に何者かが語りかけた。
謎の老婆の声「(ヒッヒッヒッ!まさかこんな魔力のすごい逸材に出会えるとはな)」
「(人生、まだまだ捨てたもんじゃないわい)」
バーテッツ「なんだ!?心の中から誰かの声が聞こえる!?」
謎の老婆の声「(口に出すな)」
「(看守どもにバレたら面倒じゃ)」
バーテッツ(心の中で)「(何なんだ!俺の心に語りかけるお前は一体誰だ!?)」
謎の老婆の声「(それよりもお主、ここからすぐに出たくはないか?)」
「(出たいのなら、この私の言うことに従うのじゃ)」
「(自己紹介ならその後でも遅くなかろう)」
バーテッツ「…」
(心の中で)「(お前が誰だか知らないが、遠慮させてもらおう…)」
「(兵士どもの言うことなど聞きたいとは思わんが、ここから逃げ出す理由もない…)」
「(たとえ裁判の判決で懲役を科されようと、その先には酒だけを飲んでのんびりできる生活が待ってるだろうからな…)」
謎の老婆の声「(フッフッフッ…自分に科せられる判決が甘いものだと思っているようじゃな…)」
「(じゃが偶然の魔力だとしても、それで許してくれるほど世の中は甘くないぞ…)」
バーテッツ「…」
「(判決が出てから考える…ひとまずほっといてくれ…)」
謎の老婆の声「(ならば仕方ないな…じゃが代わりにお主の金属魔法について知識を教えてやろう…)」
バーテッツ(心の中で)「(何!?俺が金属魔法を使える人間だと分かるのか!?)」
「(お前、看守どもの話でも聞いたのか…)」
謎の老婆の声「(それは違うぞ。お主の魔力には鉄を触ったような独特な感覚があるからのぉ、それでもしや金属魔法の使い手ではないかと思ったのじゃ…)」
バーテッツ(心の中で)「(第一魔法大学の教授たちさえも俺の放つ魔力には気がつかなかった!だがお前にはそれが分かるというのか!?一体何者なんだ!?)」
謎の老婆の声「(私のことがようやく気になったか…ならばまずはドロドロに溶けた金属をイメージしてくれ…)」
「(お主の魔力ならばその姿を変えられるはずじゃ…)」
バーテッツ(心の中で)「(溶けた金属に姿を変えろだと?)」
謎の老婆の声「(そうじゃ、水銀のような液体ボディーとなり、体を床に染み込ませるのじゃ。そして内部を移動し、地下5階にいる私のところに来るがいい…)」
バーテッツ(心の中で)「(今の俺にそんなことができるというのか?)」
謎の老婆の声「(己の魔力を信じるのじゃ)」
「(魔力だけならお前さんは大魔導士といえるレベルじゃぞ)」
バーテッツ(心の中で)「(大魔導士?この俺が?)」
謎の老婆の声「(まあとにかく試してみるのじゃな)」
「(お主なら間違いなく成功するであろうから…)」
バーテッツ「…」
(心の中で)「(何者かは分からないが、一回会って話を聞いてもいいかもな…)」
バーテッツは水銀のようなドロドロの金属をイメージした。すると体が変化し、
液体金属状になったバーテッツ(心の中で)「(な、なんだと!?)」
「(本当に俺の姿が変わってしまったというのか!?)」
謎の老婆の声「(さすがじゃな、大魔導士)」
「(私の目に狂いはなかったよ)」
「(ヒッヒッヒッ!)」
液体金属状になったバーテッツは牢屋の床に体を染み込ませ、建物内部を移動していった。
その後兵士たちがバーテッツのいた牢に駆けつけ、
アイルクリート兵⑥(看守)「どういうことだ!?牢の中にいた被疑者No.13(バーテッツ)は一体どこへ!?」
看守の兵たちが周りを見ると、
アイルクリート兵⑧(看守)「床に液体金属!?」
「まさか奴は体を液体金属に変えて牢から出たというのか!?」
液体金属となったバーテッツは謎の老婆がいる牢へとたどり着き、
バーテッツ(ドロドロの液体金属の姿)「(声の主はお前か)」
「(言われた通り来てやったぞ)」
謎の老婆(小声で)「(フッフッフッ、来てくれたことに感謝するぞ、大魔道士…)」
バーテッツ「(それでは早速金属魔法について知っていることを話してもらおうか)」
謎の老婆「(話してやるさ、ここから脱出した後でな…)」
バーテッツ「(何…)」
謎の老婆「(私の目的は液体金属となったお前さんの姿をコピーすること…)
「(この監獄から脱出するために力を貸してもらおう…)」
バーテッツ「(ムッ!?)」
老婆はコピー魔法を使い、バーテッツのような液体金属状の体となり、そして…
(回想シーン終わり)
場面は再び現代(2050K年)の魔法大学へ…
ヴェルトン博士やバーテッツたちの過去については、今後も書いていく予定ですが、ひとまずここで区切り、話の場面をクレードや助手のティムたちがいる現代(86年後の2050K年)へと戻します。
次回もよろしくお願いします。
☆※1…村の名前の由来は、イタリアの世界遺産「ドロミーティ(ドロミテ山塊)」(自然遺産 2009年登録)
※2…市の名前の由来は、イタリアとバチカンの世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂」(文化遺産 1980年登録 1990年拡張)より
※3…監獄の名前の由来はイタリア語で「闇」などを意味する『oscurità(オスクリタ)』より
(☆:物語初登場の世界遺産)




