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完全朱里くん目線です。
__の後から場面が変わります。
二人の元に戻る。
「ごめん、やっぱり今日は帰る」
そっか、こちらこそ急に言ってごめんね、と太田さんは答えた。
「じゃあ、また今度機会があったらってことで」
とりあえず島田がまとめ、二人と別れて家に向かう。
別れ際に見た藤崎の顔が忘れられない。
眼鏡越しの瞳には涙がたまっていて、後ほんの少で決壊してしまいそうだった。
藤崎は島田のことが好きだ。
鈍い、天然。と、言われている俺でもわかった。
きっと聡い島田のことだから藤崎の気持ちに気づいていたのだとおもう。
だとしたら、なぜ?と思う。
島田の口から藤崎のことを聞いたことがあった。その時の島田は彼女のことを大切に扱っているように感じた。だから、あんな風に傷つけるようなことはしないのでは、と思う。
でも、
俺だったらあんな顔させないのに。
不意に浮かんだ言葉に驚く。同時に体の動きが止まった。
『朱里、恋っていいな』
ニヤけた顔をした島田の声が蘇る。
そして、俺はようやく、今まで彼女に対して抱いていた、好奇心のようの、甘い感情の正体に気がついた。
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「朱里が呼び出すなんて珍しいね」
あの日は金曜日だったので、翌週の月曜日の昼休みに島田を呼び出した。
「島田、お前、先週、藤崎の気持ち気づいてて、彼女といるところみせたよな?」
前置きなんて言わずに切り出す。聡い奴だから気づいていないわけが無い、という確信を持って聞いた。
真っ直ぐに奴の目を見て問うと、決まり悪そうに笑った。
「うん。気づいてた」
あっさりと認めた。
じゃあなんで、と言いかけると島田は被せるように言った。
「でも、もうオレから卒業できたと思って」
「は?お前何言ってんだよ!?」
あんまりな言いようについ、声が尖る。
しかし、島田は冷静に言った。
「最近朱里と一緒にいることがよくあるでしょ?
だからあの子も周りが見えるようになったんだって思ったから」
どういうことだ。全然理解できない。
表情に出ていたようで島田は答えた。
「あの子のオレへの感情は恋なんかじゃない。家族、特に兄に対するような愛情なんだ。
でも、いつの間にか周りに流されて恋だって勘違いしたんだよ」
でも、そんなの…
「なんで、島田が言い切れるんだ?」
藤崎の気持ちは藤崎のものだ。いくら付き合いが長いからと言って決めつけていいものではない。
すると、島田は言った。
「オレさ中2の頃みずきとデートしたことがあるんだよ。でも、いくら近づいてもあの子はいつもと変わらなかったんだよ。安心しきった表情。ちょうどお兄さん(さつきさん)に見せるのと全く同じの」
ね、男として意識してないでしょ?
苦笑しながら島田は言った。
「それに、オレ自身もみずきのこと妹にしか見れてないんだよ」
島田は続けた。
「その頃、だんどん恋愛とか彼女とかに興味が出てきて一番近くにいたみずきのこと好きなんじゃないかって思った。だから、そんな感じでみずきに接してた。そうしたらある時、さつきさんに言われたんだ。
『お前は本当に、女としてみずきのことが好きなのか』って。
オレ、とっさになんにも言えなかった。だから、確かめたくてデートした。
でも、二人っきりでいてもなんともないんだよ。大切だし、好きだけどキスしたいとかはまったく思わなかった」
で、みずきの方もさっき言った通り、と島田は肩をすくめた。