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追放された聖騎士と家族を失った少女の二人旅  作者: たわしまつわ


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第八話 冒険者ギルド

 話し合いの後、二人はいつも通りの生活をしていた。

 公衆浴場に行き、夕食を済ませ、そして就寝。しかし、新しい目標が決まったことで、生活にも張り合いが出ていた。

 翌日は二人共仕事にも出かけた。旅の支度にも金はかかる。少しでも稼いでおく必要があったのだ。祖母を埋葬した直後だが、その悲しさには完全に蓋をして、仕事に打ち込む二人だった。

 そして、夕方、セイジの案内で冒険者ギルドを訪れた。

 この世界には魔物があちこちにいて、魔物が巣くうダンジョンも数多く存在していた。魔物は人に害成す存在で、人間からすれば討伐の対象だった。

 魔物は倒されると消滅して魔石を残す。その魔石は重要なエネルギー源として様々な産業で活用されている。そこで魔物を専業で討伐する冒険者を保護、育成するために冒険者ギルドが設立されていた。王国からも運営資金が提供されており、国中あちこちに冒険者ギルドの支部が存在していた。

 冒険者はギルドに無料で宿泊できる制度がある。食事は提供されないが、何泊でもすることができるのだ。そのおかげで冒険者は安心して魔物討伐に打ち込み、稼いだ分を自分の利益にできるのだった。

 そしてセイジはアイリと一緒に冒険者登録をして、その制度の恩恵を得ようと冒険者ギルドを訪れたのである。

「すみません、冒険者登録をしたいのですが」

 セイジが声を掛けると、受付の若い女性職員が愛想良く応じてくれた。

「初めての登録ですね。では、こちらに必要事項を記入して下さい」

「えっと、こちらの女の子、アイリというのですが、彼女の登録もしたいのですけど」

 さすがにそれを聞いた職員は驚いた。

「そういう前例は確かにありますけど、いいんですか? その年で魔物の討伐はかなり厳しいと思いますよ」

 年齢が低すぎる場合、登録時に魔物の討伐ができることを証明しなければならないのである。つまり、一度魔物と実戦をする必要があるのだ。もちろん、仲間が一緒でも構わないが。

 その説明を聞いて、セイジは納得した。ギルドとしても、際限なく登録者を増やすわけにもいかないのだろう。

「分かりました。もちろん大丈夫です。登録を進めて下さい」

「承知しました。そちらのアイリさんも用紙にご記入ください」

 セイジとアイリはそれぞれ登録用紙に氏名や年齢、出身地、前職などを記入していった。

 職員はセイジの聖騎士という単語にも、アイリの商店見習いという単語にも特に反応は示さなかった。そして説明を続ける。

「こちらが仮発行の冒険者証になります。手をかざして下さい」

 言われた通りにすると、冒険者証は淡く発光し、表面に文字や数字が浮かび上がってきた。魔法の仕掛けで所持者の能力を表示させるようになっているのだ。

 それによるとセイジは聖騎士のレベル七十三。ヒール、ハイヒール、ホーリーシールドなどの魔法が使えることがしっかりと表示されていた。聖騎士団で修業してきたことが冒険者としても役立つのを知って、セイジは少しうれしかった。

「な、ちょっとセイジさん、いいですか」

 その数字を見て驚いた職員が、急に小声で話し掛けてきた。

「冒険者証の表示に誤りはないはずなので、本当にそのレベルなのだと思います。だとすると、他人には教えないようにした方がいいと思います。あまりにレベルが高すぎるので、他の冒険者から妬まれて、厄介事に巻き込まれるかもしれません」

 そんなこともあるのかと思ったが、ここはうなずいておく。

「分かりました。レベルは口外しないようにします」

「それからアイリさんはスカウトメイジですか。その年で複数職というのも珍しいですね」

 探知魔法や潜伏魔法が使えるスカウトと、攻撃魔法が使えるメイジの複合職である。ただし、現時点で使えるのは探知魔法サーチと、楯の魔法マジックシールド、風の攻撃魔法ウィンドカッターの三種となっていた。

「私、魔法を使ったことがないんですけど」

 これまで普通の家庭生活を送ってきたから、魔法の修練などは積んだことがない。アイリとしても使えると表示されているが、それを自分が使っている姿を想像できないでいた。

「分かりました。では、魔法の練習場へどうぞ」

 職員に案内され、ギルドの地下へと三人で下りていく。

「魔法は自分の魔法力を消費して、イメージ通りに発動するものです。まずはサーチから。周囲に何がいるのか遠くを見渡すイメージをしながら、魔法を発動させてみて下さい」

 職員がざっくりと説明する。アイリがその言葉にうなずく。

「遠くを見渡す、ですね。分かりました」

「それができたら、サーチと唱えて下さい」

「はい。サーチ」

 アイリが魔力を込めて魔法名を唱える。すると、アイリの視界が一気に開け、人間がいることが感覚として伝わってきた。

「なるほど、ここに三人、上の階に十何人か人がいますね。あと、ギルドの前の通りに人が何人か行き交ってます。見えないところにいる存在をこうして探知できるんですね」

 これにはセイジも驚いた。冒険者証は本人の潜在能力を的確に判定していたのだ。すると、あと二種類魔法が使えることになる。

「次は魔法の楯を。見えない壁を自分の前に作るイメージで、マジックシールドと唱えて下さい」

「はい、マジックシールド」

 淡い魔法の楯がアイリの目の前に展開されていた。試しに職員が木剣で斬りかかるが、見事にそれを弾き返していた。

「いいですね。解除にはリリースと唱えて下さい」

「はい。リリース」

「それからウィンドカッターですが、刃物を投げつけるイメージで、ウィンドカッターと唱えて下さい」

「刃物、包丁とかかな。いきます。ウィンドカッター」

 すると圧縮された空気の刃が目の前に生じて、それが真っ直ぐに飛んでいった。そして金属の壁に当たり、甲高い音を立てる。

 三つの魔法を無事に使うことができ、アイリは安心半分、興奮半分の不思議な気分を味わっていた。

「すごいです。私にこんなことができたんですね」

「使うのは必要な場面だけにして下さいね」

「はい、分かりました。ありがとうございました」

 アイリが深々と頭を下げる。それにしても、この短い時間に魔法の伝授ができるんだから、ギルドの職員とは大したものだとセイジは思った。

「では、説明の続きです。本日発行した冒険者証には仮の印がついています。今日から三日以内に魔物を討伐して魔石を持ち帰って下さい。場所はどこでも構いませんが、一番早いのは王都の北にあるホルクレストのダンジョンですね。その魔石と引き換えに、冒険者証の仮の印を取り、正式に冒険者として承認いたします」

 なるほど、魔物を討伐すればいいのか。それなら大丈夫だろう。セイジは聖騎士時代に何度か魔物を討伐した経験がある。問題があるとすれば、アイリにどこまでやらせるかということだけだ。

「分かりました。明日にでも行ってきますよ」

「では、説明は以上です。何かご質問などはありますか?」

「いえ、大丈夫です。ホルクレストのダンジョンには以前行ったことがありますから。ありがとうございました」

 一通り話を聞いて、セイジは職員に頭を下げた。アイリが慌ててセイジをまねる。職員は笑顔でセイジ達を見送ってくれた。


「じゃあ、明日は仕事を休みにして、ダンジョン行きだな」

「そうだね。じゃあ、帰りがけに三橋屋さんに伝えておかなきゃ」

「俺も卸売市場に伝えに行ってくる。後で家で合流しよう」

 二人はその場で別れ、それぞれの職場に明日は休む旨を伝えに行った。

 そして、用件を伝え終えて、家に戻った頃には日も沈もうとしていた。

 合流した二人はそのまま公衆浴場へと向かう。

 風呂を終え、夕食を取り、そして就寝。

 翌日、昨日宣言した通り、魔物を討伐しにダンジョンへと向かう。

 ダンジョンの壁面は不思議な素材でできている。淡く発光していて、十分に視界が効く。これはかつて世界を席巻した魔族達が、人間にはない技術で造ったものだからと言われていた。

「ダンジョンは初めて。ちょっと怖い。セイジ、頼りにしてるからね」

「大丈夫だ。危ない目には遭わせないから」

 そうして二人でダンジョンの中へと潜っていく。

 そして魔物と遭遇した。

 相手はジャイアントホーネット三体だった。ジャイアントホーネットは体長六十セントほどの蜂型の魔物だ。攻撃はそれなりに厄介だが、初級者でも十分に倒せるくらいの強さしかない。

「魔物と戦うのも久しぶりだ。遠慮なくいくぞ」

 セイジがアイリをかばって前に出て、腰の剣を抜く。刃渡りが少し短めの、愛用の佩剣である。名工の作で、入手時に貯えた給金をかなりはたいた逸品である。

 ジャイアントホーネットは不規則な軌道で飛び回るのが厄介だ。人間の不意を突いて襲い掛かってくる。しかし、セイジは恐れない。

 突っ込んできたホーネット一体をごくあっさりと斬り裂く。魔物も不思議な存在で、倒されると魔石を残して霧状になって消えるのだ。このホーネットもそうやって消滅していった。

 初めて魔物を見たアイリは怖さを感じつつも、セイジに対する信頼感がそれを上回り、安心して戦いを見つめていた。そして初めて見る聖騎士団副団長の実力は本物だった。あっさりと魔物を倒すのを見て、やはりすごい人だったんだと改めて思っていた。

 そしてもう一体。ジャイアントホーネットが霧状になって消える。

「残り一体、アイリが倒してみるか」

 セイジがそう提案してきた。せっかくの機会だ、自分にできるか試してみようとアイリも即決した。危なかったらセイジが助けてくれる。

「分かった。やってみる」

 そしてホーネットと対峙する。アイリは不規則な動きを無理に追わず、体の力を抜いて魔法の発動を準備する。

「刃物を投げつけるイメージで。今、ウィンドカッター!」

 目の前に迫ってきたホーネットに魔法を放つ。圧縮空気の刃は見事にその体を両断していた。そしてそのホーネットが魔石を残して霧状になって消えていく。

「やった、倒せた!」

 これで無事に三体のジャイアントホーネットを倒したことになる。

 そしてセイジが自分とアイリの無事と異常の有無を確認した。戦闘後にその確認をすることな何より重要なのである。セイジにその説明を受けて、アイリも納得した。

「さあ、魔石を持って冒険者ギルドへ行こう」

「これで私も冒険者の一員なんだね。なんだか不思議な気分」

 二人は顔を見合わせて笑った。


 そして冒険者ギルドで、冒険者証の仮の印を取ってもらった。これで正式に冒険者証を入手したことになる。旅先にギルドがあれば、そこで無料宿泊できる権利を手に入れたのである。

 こうして少しずつ旅の支度は進んでいったのだった。

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。 追放されたセイジが、アイリとクリスタとの穏やかな暮らしの中で、少しずつ新しい居場所を見つけていく流れが温かかったです。 特に、クリスタが亡くなった後も、悲しみの中で食…
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