第四十一話 戦いの後で
ソフィア、メアリ―、ガイスン、セラタスの四人はそれからしばらくの間、魔物の討伐を続けた。
ジャイアントスパイダー、レッサースコーピオン、ボーリングビートルなどと戦ったが、レベルが上がって強さを増した彼らの敵ではなかった。作戦が的確だったこともあり、全ての戦いで完勝していた。
この日、合計で三十体ばかり倒したところで、一行はダンジョンから引き揚げることにした。
「良く戦ったわ。それでもまだ余裕があるんだから、レベルが上がったのは大きいわね」
「本当にそう。魔法の残り回数にも余裕ができたのは大きいわ」
「俺も楯で守るだけじゃなくて、反撃できるようになれたしな」
「俺も回避の動きがすごく楽になったよ」
四人は口々に戦いやすくなったことを話していた。
セイジはそれを聞きながら、どうやら今日もかなり役に立てたようだと思い、内心で喜んでいた。そんなセイジの様子を見て、アイリもまたセイジが満足していることを喜んでいたのだった。
冒険者ギルドに戻り、魔石を換金した。昨日と同じくギルド職員のメリッサが対応してくれた。
セイジの収入は銀貨七枚。昨日の三枚と合わせて、ギルドに泊まるためのノルマを果たしたことになる。
ソフィア達パーティも銀貨四枚銅貨三十枚という額になった。魔物が強くないので一体当たりの金額は落ちるが、それでも数をこなしたので過去最高の収入を得ることができたのだった。四人はそのことを大いに喜び、セイジに礼を言ったのだった。
「セイジさんのおかげでレベルが上がって、多くの魔物を倒せるようになりました。おかげで収入にも余裕ができましたし、冒険者として生活していける見通しも立ちました。本当にありがとうございました」
四人が頭を下げる。
「役に立てて俺も良かったよ。この先も頑張ってくれ」
セイジの返答に、メリッサも礼を言った。
「セイジさんのおかげで、ソフィアさん達パーティも立派な冒険者になれました。ギルドとしても、新人さん達がこうして強くなれて、この先の活躍に期待できるのはとて喜ばしいことです。本当にありがとうございました」
「そう言って頂けるとうれしいですね」
「今日も新人育成の報酬として銀貨二枚が支給されます。どうぞお受け取り下さい」
「ありがとうございます」
合計銀貨九枚。一日の収入としてはかなり大きな額である。これなら少しくらい余分な出費をしてもいいかとセイジは思った。
「よし、せっかく知り合えたんだし、もし良かったらソフィアさん達に夕食をご馳走しよう。どうかな」
アイリが目を丸くした。セイジが他人におごると言い出すのを初めて見たからである。そのセイジはとても気分が良さそうな表情をしていた。そう言えば、以前少年と病気の母を助けた時も、自分で稼いだ金を全額食費として渡していたことを思い出した。結局、性分として他人を助けることを優先してしまうのだろう。セイジらしいことだとアイリも納得した。
「いいんですか。でしたらお言葉に甘えようと思います」
リーダーのソフィアが遠慮なくその提案に同意した。他の三人もありがたい話だとうなずいている。
「よし、じゃあ、片付けと風呂を済ませたら、ここに集合な」
「分かりました。よろしくお願いします」
「メリッサさんも良ければご一緒に」
セイジが彼女も誘った。この二泊の間、世話になったのだからお返しするのは当然だというのがセイジの感覚である。
「いいんですか。うれしいお誘いですね。では、ぜひご一緒に」
その返答にセイジは満足そうにうなずいた。
その日の夜、セイジとアイリは冒険者ギルドのロビーで待ち合わせをした。ソフィア達パーティ四人とギルド職員のメリッサを食事に誘い、この場所に集合ということにしたのだった。
しばらくして、五人が姿を現した。
「お待たせしました」
全員、公衆浴場に行ってさっぱりした後である。
パーティメンバーとしては、夕食がセイジのおごりとあって、多少の遠慮がありつつも、世話になった人達と食事できることを喜んでいた。
「とは言っても、いつもの料理屋で申し訳ないな」
さすがに人口三万のグルトンの町でも、夜までやっている料理屋は少ない。冒険者が良く立ち寄るため、その客を目当てにギルド近くの料理屋はいつも開いでいるので、結局はそこになるのだった。
「そんなの構いませんよ。どんな料理でも、大勢で賑やかに食べれば楽しいものだと思いますよ」
こういうところできちんと良い言葉を返してくれるのがメリッサである。伊達にギルド職員をしていない。他人をフォローする言葉が上手である。
「じゃあ、行こうか、みんな」
セイジの言葉で、総勢七名が近くの料理屋に移動する。
店に着いて要望を伝える。
「七名、同席をお願いしたいんだが」
「分かりました」
店員が四人掛けのテーブルを二つくっつけた。そこにセイジとアイリが隣に座り、その正面にメリッサ、その横にパーティ四人が二人ずつ向かい合わせに座った。
そしてセイジが料理を注文する。ステーキ、パスタ、揚げ物、ソテー、サラダ、パンなどを、適当に取り分けて七人で食べられるようにとお願いした。注文される側も要するに宴会料理だと思えばいいと判断し、承知しましたと即座に引き受けている。
飲み物はセイジとメリッサはエールを頼んだが、パーティ四人はアイスティーにしていた。アイリも同じである。ここラスティア王国では飲酒に年齢制限はなく、十五才のパーティメンバーでも問題なく酒は飲めるのだが、まだ年若く、あまり酒が得意でないために断ったのだった。
飲み物が揃ったところで、セイジが音頭を取って乾杯をした。
「若い冒険者達の成長を祝して、乾杯!」
「乾杯!」
そして各自が食べ物を口にする。特に年若いパーティメンバーは空腹だったこともあり、食欲旺盛だった。
最初に口を開いたのはメリッサである。
「持ち帰った魔石で、ソフィアさん達の戦果は分かっていますが、セイジさんの目から見て、四人の戦いぶりはどうでしたか?」
やはりギルド職員なのでその辺が気になるようだった。
「そうですね。元からあった素質が、レベルアップで自信を付けて、見事に発揮されるようになった感じですね。一人一人の戦闘力も十分で、数の多い魔物も見事に倒していました。硬い魔物が相手の時は、しっかり連携を取って確実に倒していました。楯役のガイスン、回避のセラタス、火力のソフィアとメアリー、しっかり自分の役割を果たしていて良かったです。低階層の魔物なら何でも倒せるくらいに強くなったんじゃないでしょうか」
セイジも正直に、誇張抜きで四人の戦いぶりを褒めた。褒められた四人が食事の手を止めてみな両手を振っていた。
「いや、自分達だけじゃ、ここまでできなかったですよ」
「セイジさんがレベルを上げてくれたおかげです」
「たった二日で強くしてくれたことには感謝してますけど」
「そんなに褒められると、さすがに気恥ずかしいです」
四人がそれぞれ自分達の力だけじゃないことを意識していた。しかし、実際に魔物を倒せたのは紛れもなく彼らの実力である。
「謙遜しなくていい。それに強さにはまだまだ先がある。これからも自分達の力で鍛えて強くなってくれ」
それを聞いて、その通りだと四人がうなずく。
「その通りですね。このご恩に報いるためにも、さらに強くなって一流の冒険者を目指します。ありがとうございました」
「礼はメリッサさんにも言ってくれ。元々、彼女の依頼だったんだから」
「ありがとうございました、メリッサさん」
四人は口々に礼を言う。四人全員素直な質で、だからこそセイジの助力で一気に成長できたのだった。
「私はギルド職員として、新人育成っていう必要な仕事をしただけですよ。依頼した相手がセイジさんで本当に良かったです。そう言えば、四人はセイジさんの強さを目の当たりにしたんでしょう?」
「そうなんです。どんなに強い魔物でも一撃必殺。凄まじい強さでした」
「はるか遠い目標ですが、少しでも近づけるよう頑張ります」
メリッサがやはりとばかりうなずくと、エールに軽く口を付けた。
「やはりそうなんですね。さすがです。私も見てみたいくらいですよ。でも、そんなに強いセイジさんが、どうして旅をしているんですか。どこかの冒険者ギルドで魔物を討伐していても十分以上に稼げるでしょうに」
セイジがアイリを見た。話してもいいか確かめたのだ。アイリとしても別に構わないと、視線で返答してきた。
「俺が行き場を無くして困っていたのを助けてくれたのが、ここにいるアイリとその祖母に当たる人だったんだ。その祖母が亡くなって、アイリはかなり前に家から出ていった両親に祖母のことを伝えるため、両親探しの旅をすることになったんだ。俺は二人に恩を返すため、アイリに同行して一緒に旅をしているんだ」
メリッサとパーティの四人が目を細めた。家を出ていった両親を探すということは、その両親はアイリを見捨てたということになる。口には出さないが酷い親だと思ったのである。
それに、まだ十代前半で旅に出るとは思い切ったものだとも思っていた。それに付き合うセイジも人が良過ぎる。とは言え、そのおかげで助けてもらえたのは自分達も同じなので心配する筋合いではないだろう。
「そっか、アイリちゃんも苦労してたんだね」
メリッサはそう言ったが、アイリは首を振った。
「旅暮らしは少し大変ですけど、セイジのおかげで毎日楽しいですよ。この町で一緒にダンジョンに潜ったことも、冒険者ギルドに泊まったこともいい思い出です。心配してくれてありがとうございます。でも、私達は大丈夫です。ちゃんと両親を見つけて、きちんと話をしようと思ってます」
それを聞いていたメリッサが感心した。
「アイリちゃんってすごい子ね。考えも行動もしっかりしてる。この先、どんな風に成長するのか楽しみね」
同感だとばかり、セイジやパーティの四人がうなずく。
その後も七人で会話が弾み、結構長い時間話し込んでいた。
知り合えた人達とこうして楽しい一時が過ごせたことに、セイジもアイリもとても満足していたのだった。
翌朝、セイジとアイリがメリッサに出立の挨拶をした。
「二泊の間、お世話になりました」
「世話になったのはこっちの方。とは言え、まだ旅は続くわけですし、どうかお気を付けて」
メリッサがそう言って、セイジとアイリの順に握手を交わした。
そこへソフィア達四人も見送りに現れた。
「セイジさん、アイリさん、良き旅を」
「ありがとう。四人も、これからも頑張ってくれ」
四人とも握手を交わす。
「それじゃあ、俺達はこれで」
「お世話になりました。みなさんもお元気で」
セイジとアイリが笑顔で出発する。見送ってくれた五人も同じように笑顔を返した。
そして二人の旅はまだ続くのだった。




