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追放された聖騎士と家族を失った少女の二人旅  作者: たわしまつわ


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第四話 三人での生活

 仕事を終えて帰宅すると、まずは三人がそれぞれの部屋に朝干しておいた洗濯物を片付ける。

 そして風呂の支度をして公衆浴場へと向かう。

 昨日と同様、受付で代金を支払い、貴重品を預けて木札を貰う。

 そして男湯、女湯のそれぞれに分かれて風呂に入る。

 荷運びの仕事で体も程良く疲れていて、風呂に浸かるのはとても気分が良かった。

 そして家に戻り、夕食の支度をする。台所も狭く、またクリスタとアイリの手際が良いので、残念ながらセイジの出番はない。精々が料理を運ぶくらいである。

 そしてのんびりと会話しながら、三人で楽しく夕食を取る。

「卸売市場の仕事はどうだった?」

 アイリが尋ねてくる。心配をしている様子はなく、単にどんな具合だったかを聞きたいのだと表情が語っていた。

「荷物を下ろしたり積み込んだり、とにかくひたすら体を動かす仕事だったよ。単純だけど大変な仕事って感じかな」

「そうなんだ。体、きつくない? 疲れてない?」

 今度は多少の心配が混じっている。やはり心優しい娘なんだなと、うれしく思いつつ、大丈夫だということを笑顔で伝える。

「聖騎士時代、ずっと鍛えてたからね。重さ三十キロの甲冑を着て戦うことに比べれば、このくらいはどうということはないよ」

 聖騎士という言葉を使った時、セイジの心がわずかに痛む。失ったものの大きさを感じてしまうからだ。それでも今はこの二人がいる。まだ出会って二日目だが、すでに大切な存在になっていた。

「そうなんだ。さすがだね」

「そう言うアイリの方はどうだった?」

「私は雑用だから。掃除とか商品の補充とか棚の整理とか、誰でもできる仕事だよ。三橋屋の店主さんも優しくしてくれるし、お仕事楽しいよ」

 こんなちょっとしたやり取りがうれしい。互いの心の距離が縮まっているのを感じられるからだ。

「よかったですね、セイジさん。仕事があなたに合っていて何よりです。さあ、良く食べて仕事の疲れを癒して下さいな」

 祖母のクリスタも優しく言葉を掛けてくれる。警備などの仕事でピンと張り詰めた雰囲気も好きだったセイジだが、こうして心を開いてのんびりくつろげるのはとても良い気分だった。


 夕食の片付けでもセイジの出番はない。クリスタとアイリが手際良く済ませてくれるからだ。

 その後はお茶を飲みながら、寝る時間まで雑談をして過ごす。

 この日はセイジが子供の頃の話を尋ねられ、本当に久しぶりに自分の過去について他人に話したのだった。


 セイジは孤児である。物心ついた時には、児童養護施設、いわゆる孤児院で生活をしていた。だから、実の両親の顔も名前も知らない。

 六才の時、養子を探していた騎士の家に引き取られた。ランベルトと言う名の騎士だった。その妻はセシリアと言った。二人の間には子がなく、家を継がせられる素質のある子どもを探していたのだった。

 二人はセイジにとても親切だったが、騎士の心得を身に付けさせるため、家の中でも公の場と同じような言葉遣いをしていた。そうやって一線引かれたような養父母との関係は、冷たくはなかったが温かいとも言えないものだった。しかし、細かな所まで気に掛け、良く話を聞き、優しく諭してくれる立派な養父母だった。だから、セイジも二人を大切に思うようになり、立派な騎士の跡継ぎが欲しいという願いに応えようと努力した。

 八才になって騎士の幼年学校に入学すると、セイジは余計に努力するようになった。狭い騎士社会の中で、セイジが養子だということはみなが知っており、養父母の名を汚さないために良い成績を収める必要があったのだ。その甲斐もあって、学問でも武芸でも常に上位の成績を維持した。加えて回復魔法の素質がセイジにはあった。武芸に優れ、魔法も使えることで、将来は立派な聖騎士になるだろうと、周囲から期待されるようになった。

 十二才で騎士学院に入学。ここでも実直で誠実な人柄と、努力を積み重ねたことによる高い実力を評価され、常に上位の成績を維持していた。心無い学友の中には、元は孤児のくせにと蔑む者もいたが、セイジの実力だけは認めざるを得なかった。

 そうして優秀な成績で学院を卒業すると、即座に聖騎士としての叙任を受けた。そして犯罪者の捕縛や魔物の討伐で功績を上げ、順調に位階を上げていった。残念ながら養父母は高齢のため、セイジが二十才の時に相次いで病気で亡くなっている。二人はセイジが立派な騎士になったことを喜び、今後も活躍してくれることを望みつつ、この世を去ったのだった。

 セイジが聖騎士団副団長になったのは二十二才の時である。責任ある立場として、団員達の育成に心を砕きつつ、貴族達の不正を糺すことに尽力していた。だが、それが彼らの恨みを買い、逆に私腹を肥やしているのだと陥れられ、聖騎士団を追放されてしまったのである。


「そうかあ。セイジも苦労してきたんだね」

「立派です。セイジさんが良い人柄なのにも納得がいきました」

 話を聞き終えて、アイリとクリスタはそんな言葉を掛けてくれた。今までの努力は、聖騎士の身分を失っても、十分に意味のあることだったのだと、二人の言葉を聞いてそう思った。

「こんなにいい人に家を守ってもらえるのって、すごく運がいいことだね。セイジ、これからもよろしくね」

「こちらこそ。食事や寝床をもらえてる分、お役に立ってみせるよ」

 セイジも真剣にうなずいていた。

「それに、アイリやクリスタさんといると、すごく気持ちが温かいんだ。身分を失った俺を受け入れてくれて、こうして話も聞いてくれて、すごくありがたいなって思ってる。だから、俺にできることは何でもするつもりだ」

 真剣にそう言ったところ、クリスタは無言で微笑みを浮かべ、アイリは立ち上がってセイジの背をパンパンと叩いた。

「まだ固いよ。もっと気楽でいいからね。セイジもやりたいこととか、やって欲しいことがあったら、遠慮なく私達に言ってね」

 心優しい少女の言葉が身に染みる。

「分かった。俺も二人の事、遠慮なく頼りにさせてもらうよ」

 その言葉を聞いて、アイリが穏やかな笑みを浮かべた。セイジも笑顔を返して、少女の心意気に答えるのだった。


 そしてアイリはクリスタと一緒の部屋で、セイジはかつて両親が過ごしていたという部屋で就寝となる。

「寝る場所がある、一緒に暮らしてくれる人がいる、それがこんなにうれしいことだとはなあ。明日からも二人のために頑張ろう」

 失った身分や仕事に未練はあるが、後戻りができない以上、前向きに生きていこうと、二人のおかげでそう思えるようになったのだ。その恩を返すためにも頑張っていこうと気持ちを固めたのだった。


 そして翌朝。目覚めるのはセイジが一番早かった。水桶を持って井戸端へと下りる。

 顔を洗って水を飲み、そして水桶に水を汲んで、台所の水瓶まで何往復もして運ぶ。今まではアイリが一人でやっていたのだが、昨日からそれを引き継いだのだ。

 その途中、アイリが起きてきた。

「おはよう、セイジ。水汲み、ありがとう」

「おはよう、アイリ。今日もいい朝だな」

 アイリもセイジと同じように井戸端へ行き、顔を洗って水を飲む。

 それからしばらくして、クリスタが起きてくる。その頃には水汲みも終わっていて、アイリは朝食の支度に取り掛かっている。

「おはよう、おばあちゃん。すぐ朝食できるから」

 アイリが手際よく調理を進め、やがて食卓に朝食が並ぶ。

「いただきます」

 三人で唱和して食事を取る。まだ二度目の朝食だったが、セイジにはこれが普通の日常のように感じられていた。

 朝食が終わると、後片付けをして洗濯をする。井戸端で洗って、部屋の中に干しておく。

 そして仕事に向かう。卸売市場は朝も早いので、出かけるのはセイジが一番早い。

「クリスタさん、アイリ、いってきます」

 聖騎士の頃には使わなかったこの挨拶にもなじんできている。やはり出かけてくることを伝える相手がいるのは気分がいい。

 そしてセイジは二日目の仕事へと向かったのだった。


 仕事を終えて家に戻り、二人の出迎えを受ける。

 洗濯を片付け、公衆浴場へ向かう。

 そして夕食と雑談。就寝。

 翌日はまた朝食と洗濯を済ませて仕事へ。

 そんな日々が八日ほど続いた。

 単調な日々だったが、決して退屈ではなかった。

 荷運びの仕事は単純だが、体もついでに鍛えられるし、同僚達とも打ち解けて話もできるようになり、陽気で活発ないい仕事場だった。唯一、荷が重いので落とすと危険なのが難点である。油断して荷を落としそうになった同僚を何度か救ったのがセイジだった。

 家に戻ればアイリとクリスタが出迎えてくれる。二人と話すのはとても気分が安らぐ感じがして良かった。生活費に乏しく金がかけられない分、クリスタとアイリの料理は質素ではあったが、十分においしい。

 時折、アイリもセイジに甘えてくるようになった。

「セイジの体って、見た目以上に硬くて頑丈なんだね」

 背中に抱き着きながら、アイリがそんなことを言ったものである。抱き着かれたセイジの方は、華奢な少女の体に温かさを感じつつ、とてもいい匂いがすることに気分の良さを感じていた。この少女の存在だけでも、とても心が癒されるのだった。

 一度、休みの日に三人で大広場へと観光に出かけた日があった。

 のんびり花壇などを眺めながら、広場を歩いて見て回った。

「年のせいか、こんな風に草花を眺めると、気持ちが落ち着くんですよ」

 クリスタはそう言いながら、いろいろな花の名前や特徴をアイリとセイジに教えてくれたものだった。

 アイリも花は好きでじっくりと見ていた。きれいな少女が花を飽きずに眺める姿はとても微笑ましいものだった。

 セイジはこれまで努力の虫だったので、残念ながら花を愛でる気持ちをあまり理解できないのだった。それでも一人だけ花が好きではないのも少し悲しいものがあるので、真剣に花を眺めて美しさを感じる努力をしていた。そんなセイジの姿を見て、クリスタもアイリも苦笑していたものである。


「セイジがうちに来てもう十日かあ。すっかりうちの一員になったね」

 夕食を取りながら、アイリがしみじみと言った。本来関わりのなかった元聖騎士が、家族の一員になったことをうれしく思っているのだった。

「ありがとう。二人のおかげで毎日が楽しいよ」

 セイジも心からそう答えた。聖騎士の身分を失った痛みはまだあるが、これからもこうやって三人で支え合いながら生きていけばいいのだと、気持ちもずいぶん楽になっていた。こんなゆったりした日々が今後も当分は続いていくのだろうと、疑いもしなかったのである。

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