第三十八話 連携して戦うパーティ
六人はその後もグルトン北のダンジョンの地下一階を探索した。魔物の姿を求めて、順に内部を巡っていった。
「ジャイアントワーム二体、この先にいるぞ」
しばらくして、シーフのセラタスがそう告げてきた。ジャイアントワームは全長三メートルほどの巨体を持つ、ムカデ型の魔物である。レベル一の時にはかなり厳しかった相手だ。それが二体。
「ここまで来たんだ。戦おう、みんな」
ソフィアが意気高くみなに告げる。レベルアップと先程の勝利とを経て、戦えるという自信が湧いていたのだった。
「よし、やろう」
「ああ。俺達なら勝てる」
「私も積極的に魔法を使ってみる」
パーティメンバーのガイスン、セラタス、メアリーもやる気十分である。
「それで作戦だけど、ガイスンが一対一で一体を抑えている間に、三人でまずは一体倒そうと思う。セラタスに攻撃を引き付けてもらって、メアリーの魔法でダメージを与えて、私がとどめを刺す。それでどうだろう」
ソフィアが作戦を提示してきた。確かにこれなら仲間の戦力を最大限に発揮できるだろうと、三人も同意した。
「セイジさん、どうでしょう」
ソフィアもセイジの強さを知ってから、そうやって意見を求めるようになった。決して過信せず、強い人物の意見を謙虚に聞こうとする姿勢は立派なことだとセイジは思う。
「作戦はそれでいいと思う。ジャイアントワームの弱点は頭だ。そこに魔法を直撃させれば、大きな隙ができるだろう。頑張れよ」
セイジのお墨付きも出たことで、ソフィアが強くうなずいた。
「よし、やろう、みんな!」
四人は臨戦態勢を取って、魔物の元へと突撃していった。
「お前の相手は俺だ」
二体いるうちの一体に、戦士のガイスンが楯ごと体当たりした。強い衝撃を受けて、ワームの体が揺らぐ。しかし、それだけではさすがに倒せない。
今度はワームの方から攻撃が来た。尻尾を使って薙ぎ払いに来る。
「その程度の攻撃は、俺には通用しない」
ラウンドシールドを使って、うまく攻撃を受け流す。そして反撃に剣を突き出す。それがうまく関節に当たり、多少だが傷をつけることに成功した。
「よし、このまま一体は俺が引き受ける」
そうしてガイスンが戦っている間に、他の三人も別の一体との交戦に入っていた。
まずはセラタスが接近し、弱点だと教えられた頭部に斬撃を振るう。ワームが身をよじってそれを頭部横の硬い場所で受け止める。
「そう簡単にはいかないか」
それでも諦めず、セラタスは短剣を振るう。ワームが身をよじりながら、その攻撃を避け、尻尾を振って反撃を振るってくる。セラタスがその一撃をさっと避ける。
そうしてしばらく互いに攻撃を避け合う展開となった。
「さすがセラタス、うまく引き付けてくれたわ。メアリー、用意はいい?」
「もちろん。隙を見つけたら魔法を撃つわ」
戦っている後方では、ヒーラーのソフィアとメイジのメアリーが隙ができるのをじっと待ち構えていた。
しばらくして、ワームの攻撃に変化があった。尻尾の攻撃に加え、大きな口を開いて噛みつきに来たのである。大きく開かれた口は絶好の隙だった。
「今! ファイアボール!」
メアリーが火球の魔法を放った。高熱の拳大の火球が真っ直ぐに飛び、開かれたワームの口の中に激突する。その高熱に焼かれてワームの頭部が歪んだ。動きも鈍り、頭部ががら空きである。
「とどめ!」
ソフィアが接近し、頭上からメイスを力一杯振るった。彼女の攻撃力は戦士並に高く、その一撃でワームの頭部は見事に砕けていた。ワームが動きを止めて地に倒れ、そして魔石を残して霧状になって消えていった。
「よし、まずは一体」
ソフィア達が一人で戦っているガイスンの元へ急ぐ。
「お待たせ。さすがガイスン、見事な粘りね」
「楯の扱いには自信があるからな。任せてくれ」
これで四対一である。
セラタスが早速とばかり、ガイスンが攻撃を弾いた隙に、ワームの頭部に斬撃を加えた。それが見事に入り、深い傷ができる。
そしてガイスンも同様に斬撃を放った。ワームの頭部、セラタスの一撃とは反対側をざっくりと斬り裂く。
二つも大きな傷があるのなら、魔法の効果も出るはずだ。そう考えたメアリーが再度魔法を発動させる。
「ファイアボール!」
拳大の火球が放たれ、ワームの頭部を直撃する。傷口から高熱が入り込み、ワームの頭部を焼いていく。ワームの動きが鈍り、まるで苦痛に苦しんでいるかのように体をよじらせた。
「みんなありがとう。とどめ!」
仲間の攻撃が見事に成功したことで、大きな隙ができていた。ソフィアが先程と同じように大きくメイスを振りかぶり、ワームの頭部に振り下ろす。ぐしゃりとひしゃげる感触がして、ワームの頭部が潰れる。そのまま地に倒れ、魔石を残して霧状になって消えていった。
「完勝ね。異常はない?」
例え完全勝利でも無事と異常の有無の確認は怠らない。まだ冒険者になり立てではあるが、基本はしっかりと身に付けていた。
三人から異常なしとの返答があり、ようやくソフィアも一息ついた。
「安定した戦いぶりだった。見事な連携だったぞ」
セイジが四人を褒めた。彼らの連携の良さが見事に生きていた。攻撃の威力がレベルアップによって増したことも勝因の一つだろうが、それ以上に一人一人がしっかりと力を出し切った成果だと言えた。
「ありがとうございます。この調子で頑張ります」
ソフィアが答え、三人がうれしそうにうなずいた。
次の相手はボーリングビートル一体だった。
体長は二メートル少々とさほど大きくはない。しかし、昆虫型特有の硬い体表を持つ魔物だった。レベル一の頃は倒すのが難しかった相手だ。
「作戦はどうする? こいつの硬さには手を焼くんだよな」
ガイストが尋ねると、ソフィアが考えをまとめて答えた。
「とにかく、表面に傷をつけて、その傷口にファイアボールを打ち込んで、内部から焼くのがいいと思う。問題は、どうやって表面に傷をつけるかなんだけど、ガイスンが攻撃を防いでいる間に、私とセラタスでしつこく攻撃するよりないと思う。もちろん、ガイスンも隙があったら剣で攻撃してくれ。メアリーはとどめの一撃を頼む。それまでは待機だ」
他の三人も作戦としてはそれしかないと思ったようで、分かったと答えながらうなずいていた。
「よし、戦闘開始だ」
ソフィアの合図で四人が突撃していく。
今回も、最初はガイスンである。楯を構えて突進し、ボーリングビートルと正面からぶつかる。その激突は全くの五分だった。ガイスンが半歩下がって距離を取る。
ビートルの攻撃は体当たりと噛みつきだけである。さほどの脅威ではない。ガイスンが最初の噛みつきをラウンドシールドで捌く。
「セラタス、合わせてくれ」
ソフィアがメイスを振り上げて突進し、ビートルの頭部に振り下ろす。ワームの頭部を砕いた一撃だが、ビートルはさすがに硬く、わずかに傷をつけるだけで終わる。
「もういっちょ!」
セラタスが短剣を振り下ろし、ソフィアが与えた傷の場所を正確に狙って斬撃を加えた。高らかな金属音と共に、傷口がわずかに広がる。
ビートルが攻撃を嫌い、反撃の頭突きをしてきた。二人はさっと避けて後方へ下がる。代わりにガイスンが前に出て、先程と同じようにその一撃を楯で見事に捌いた。
「みんな、大変だけど頑張って」
メアリーの応援が入る。メイジの彼女はこの攻撃には加われない。とどめの一撃が打てるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだった。歯がゆい思いをしていたが、それも役割分担なので仕方がない。
「任せて。その硬い体、必ず穴を開けてやるから」
ソフィアがビートルの隙を突いて、繰り返しメイスの一撃を加えていく。確かに硬いが、全く歯が立たないわけではない。頭部の同じ場所を繰り返し狙うことで、わずかずつだが傷が広がっていく。
セラタスもソフィアと同じ場所をしつこく狙っていく。斬撃を放つ度に少しずつ傷口を広げていく。
ガイスンも守ってばかりでなく、斬撃でその傷を狙っていく。
長い時間の戦いになったと四人は思っていたが、それでも過ぎた時間は五分程度だった。思いの外早く、三人はビートル頭部の傷口を広げることに成功していたのだった。
「これならいける。メアリー、頼む!」
「任せて。ファイアボール!」
高熱の火球がビートル頭部の傷を直撃し、炎が体内に入り込んで焼いていく。かなり硬いビートルも、体内から焼かれて動きを止めた。そして地上に倒れると、魔石を残して霧状になって消えていった。作戦が図に当たった形での勝利だった。
ここでもソフィアはきちんと仲間の無事と異常の有無を確認し、それが終わってからふうと大きく息をついた。
「無事に勝ちました。セイジさんのおかげですね」
レベルアップで攻撃の威力が上がっていたことが大きいとソフィアは感じていた。実際はそれほどの差はなく、レベル一でも五分のところが八分になるだろうが倒すことはできたはずである。結局のところ、強くなったという自信が戦いの効率を上げ、正確な攻撃に反映されていたのだった。
「俺達、強くなったな」
「ああ。同感だ。前より身軽に動けてる気がする」
「私も自信をもって魔法が撃てるようになったよ」
「私もだ。メイスの威力が上がっている感じだ」
四人がそれぞれ感想を言い合う。硬いボーリングビートルを安定して倒せたことでみな自信に満ちていた。
「よし。この調子でいくわよ」
ソフィアの言葉に三人も力強くうなずいた。
それから四人は一階の魔物を討伐して回った。
次の相手はヒュージマンティスが四体。体高二メートルほどの昆虫型の魔物である。腕に位置する場所にカマのようなものが生えていて、見た目以上に攻撃力がある。
しかし、レベルが上がった四人の敵ではなかった。
四人は一人一体ずつ相手にした。
「ここで返す!」
ガイスンが楯で攻撃を弾いた後、即座に斬撃を放った。マンティスのカマの付け根に当たり、それを斬り飛ばす。
「よし、とどめ!」
ガイスンが剣を振りかぶり、マンティスの頭上から一撃を見舞った。その一撃はマンティスの頭部を両断し、上半身にまで及んでいた。体を斬り裂かれたマンティスが地に倒れ、魔石を残して霧状になって消えていく。
一方でセラタスも見事な戦いぶりをしていた。
繰り返されるマンティスの攻撃を鮮やかにかわしていく。そして隙を見て、頭部に斬撃を加えた。その一撃が見事に決まり、マンティスの頭部を斬り飛ばす。首から上を落とされて、マンティスが地に倒れ、魔石を残して霧状になって消えていく。
メアリーも自信をもって戦っていた。
魔法の必中距離にまで接近すると、マンティスの攻撃を受けない場所から魔法を発動させた。
「ファイアボール!」
彼女も同じように弱点の頭部を狙った。高温の火球が頭部に直撃し、一気にそれを焼き払った。マンティスが頭部を失って地に倒れ、魔石を残して霧状になって消えていく。
そしてソフィアである。ヒーラーだがアタッカーの彼女は、マンティスの間合いに入っても落ち着いていた。カマが振り下ろされた瞬間、必要最小限の動きでそれを避ける。そして見事な後の先の一撃で、メイスを力一杯に頭部へと振り下ろした。マンティスの頭部が潰れ、地に倒れる。そして魔石を残して霧状になって消えていった。
「よし、全滅させたわ。みんな異常はない?」
「異常なし。絶好調だ」
確認に対する返答も明るく、自信に満ちたものだった。
「了解。じゃ、どんどんいきましょう」
そして四人は何体もの魔物を討伐した。
ワイルドベアー三体、ラージウルフ五体、ジャイアントスパイダー三体などをあっさりと倒していった。
いつもと違って稼ぎも順調だ。それがさらに余裕をもたらし、自信をもって魔物と対戦できる原動力となった。
そして最後に、ジャイアントホーネット十体と交戦した。
さすがに数が多く、序盤こそ回避に専念して苦労はしたが、隙を突いて数を減らし、魔物達の攻撃力を落としていった。その結果、ほんの五分ほどの戦闘ですべて倒すことができたのである。
「よし、今日はここまでにしましょう」
ソフィアの言葉に三人もうなずく。今日は十分に魔物を倒し、魔石を入手することができた。レベルも上がって強くなれた。申し分のない成果だとみな思っていた。
「ご苦労様。みんなよく頑張ったな」
そんな彼らに、セイジも労いの言葉を掛けるのだった。




