第三十七話 パーティへの手助け
ラージアント三体は通路の先、少し開けた場所にいた。六人は静かにその場へ接近し、戦闘態勢を取る。
「行くわよ」
ソフィアの合図でパーティが突撃する。先頭は戦士のガイスン、シーフのセラタスがそれに続き、メイジのメアリー、ヒーラーのソフィアの順である。
ラージアントが突撃してくる人間を認識したようで、交戦態勢に入った。とは言え、アントの攻撃は噛みつきと体当たりくらいで、それも大した威力がない。
最初の一体に戦士のガイスンが当たった。文字通り、楯を構えて正面から激突したのである。派手な音を立てて、アントがのけぞる。
その攻撃が決まったところで、続いていたセラタスが一撃見舞うのかとセイジは思った。だが、セラタスはそのアントを無視して、右側のアントに斬りかかっていく。
続くメアリーも同様で、彼女は左側のアントと対峙していた。
「誰が追撃するんだ?」
セイジが不思議に思っていると、メイスを構えたソフィアが突進してきた。ガイスンの楯を食らって動きの鈍ったアントに、頭上から強烈な一撃を見舞う。力一杯振り下ろされたメイスがアントの頭部を砕く。
魔物は倒されると魔石を残して霧状になって消えていく。このアントも強烈な一撃によって倒され、魔石を残して霧状になって消えていった。
ソフィアとガイスンが即座に動いて、メアリーが対峙しているアントの元へと向かった。
メアリーは回避に専念し、アントの攻撃をひたすらに避けていた。
「どうして魔法で倒さないんだろう」
アイリの疑問はもっともである。初級魔法一発で倒せるはずだ。
そう思ってみていると、先程の手順が繰り返された。
ガイスンが楯で強烈な打撃を加え、アントの動きを封じる。そこにソフィアがメイスの一撃を叩き込み、アントの頭部を粉砕する。倒されたアントが魔石を残して霧状になって消えていった。
「残り一体」
三人がセラタスが相手をしているアントの元へ向かう。
セラタスも短剣こそ抜いているが、あまり反撃はせず、回避優先で戦っていた。そこはさすがシーフ、メアリーと比べて安定して攻撃を回避できている。長時間でも耐えられるので、彼のところが後回しにされたのである。
そしてまた同じ手順が繰り返される。
ガイスンの楯でアントの動きを封じ、ソフィアが打撃を加えるのである。ラージアントはやはり弱く、ソフィアの一撃でまたも倒されていた。そして魔石を残して霧状になって消えていった。
「全員無事ね。異常はない?」
リーダーのソフィアがパーティメンバーの具合を確認する。戦闘後に仲間の無事と異常の有無を確認することは大事で、次の戦闘に備えて必ず行っておく必要があるのだ。
仲間全員から異常なしと伝えられ、ふうとソフィアが大きな息をつく。
「私達の戦い方は見て頂いた通りです。何かご助言ありますか?」
ソフィアからセイジにそんな言葉が向けられた。セイジがしばらく考え込む。結局、攻撃したのはヒーラーのソフィアだけで、他の三人は防御か回避に専念している。悪いとは言い切れないが、一人一体倒しても良いのではないだろうか。
「全て一撃で仕留めたのはさすがだった。だが、魔物を倒すのは少しでも早い方がいい。長引けば、その分負担も大きくなるし、ケガなどの危険も増えるからだ。そう考えると、ガイスンやセラタス、メアリーがラージアントを倒しても良かったように思う」
セイジの言葉はパーティの痛い所を突いたらしい。三人が肩を落としてそれぞれに言った。
「俺の攻撃、うまく魔物に直撃させられないんだ」
「俺の場合、攻撃を当てられても威力が足りなくてな」
「私の魔法もうまく命中させられないんです。それで一番攻撃力があるソフィアがアタッカーとして魔物にとどめを刺して回っているんです。負担を掛けて申し訳ないと思ってはいるのですが……」
三人が意気消沈した表情でセイジを見た。
セイジとしても三人を責めるつもりはない。しかし、アタッカーのソフィア一人に攻撃を任せた戦い方では、討伐に限界があるのも確かだ。
「魔物の数が多い時はどうするんだ。五体もいたら、ソフィア一人じゃ厳しいだろう」
その言葉でより三人が困った表情になる。代わってソフィアが答えた。
「実はその通りです。今までも魔物の数が多い場合、戦闘せずに撤退していたんです。セイジさん、数が多くても勝てる方法ってあるんですか」
だからいつもこのパーティは稼ぎが少ないのである。何とかしなければと思っていたソフィアも体裁を捨てて、セイジに尋ねてきた。
「今から訓練というわけにもいかないしな。とにかく、実戦の中で魔物を倒す腕を身に付けるしかないだろう。とは言え、今のままで魔物を討伐するのも危険がありそうだしなあ」
セイジが考え込む。しかし、名案は浮かんでこなかった。
そこで意見を言ったのはアイリだった。
「いっそのこと、レベルを上げたらいいんじゃないかな。セイジがいれば、深い階層の魔物でも大丈夫だし、でかいのを何体かセイジに倒してもらったら、レベルも上がると思うよ」
前回のダンジョンで、アイリはそうやってレベルが上がり、できることが増えた実績がある。確かに強くなるには手っ取り早い。しかし、安易にレベルを上げるのは良い事ではないだろう。
「アイリの言いたいことも分かるが、ソフィアさん達だって、自力でレベルを上げたいと思ってるはずだぞ」
「そうかなあ。ソフィアさん達はどう思う?」
ここで話をパーティの四人に振った。四人は顔を見合わせ、困った顔で相談を始めた。
「強い人の助けをもらってレベルを上げても少しならいいんじゃないかな」
「しかし、自力でレベルを上げた方がいいのは確かだろ」
「そんなことを言ってると、レベルが上がるの、いつになることやら。せっかくの機会だから甘えてもいいんじゃないか」
「レベルアップで強さは増すかもしれないけど、戦いの腕が上がるわけじゃない。そこは自力で鍛えていくしかないのは分かってるよね」
四人の間でも意見は真っ二つに割れていた。レベルを上げたいのは山々だが、自力で上げたいのも確かだった。しかし、このままでは魔物の討伐でまともに稼げない状態が続いてしまう。
最終的にはソフィアの意見に他の三人も納得した。
「この先も冒険者を続けるなら、少しはレベルが上がった方がいいのは確かだわ。その後で、地道に魔物を討伐しながら腕を磨けばいいと思う。私達、このままじゃ、まともに稼げないまま時間ばかり過ぎてしまう。セイジさんのいるこの機会に、レベルを上げさせてもらいましょう」
そうして意見がまとまったところで、改めてセイジに頼んだ。
「セイジさん、お願いします。少しだけレベルを上げて下さい」
セイジとしても、ギルドのノルマである銀貨十枚分の魔石を取るのに、どちらにせよ深い階層の魔物を倒す必要があったのも確かだ。彼らを一緒に連れていってレベルを上げてやるのは構わない。
「分かった。このダンジョンも地下三十階層だったな。なら、地下十階あたりで何体か倒すことにしようか」
話が決まったところで、六人は移動を開始したのだった。
そして地下十階。
ここでパーティの四人はセイジがいかに強いのかを、実際に目の当たりにすることとなった。
マンティコア、ガーゴイル、アイアンゴーレム、アースジャイアントなどレベル一の彼らでは刃が立たない魔物を、セイジは事も無げに一撃で倒していくのである。
結局、七体ばかり魔物を倒したところで、パーティメンバーは全員レベル三に、ついでにアイリもレベル六に上がっていたのだった。
「さて、このくらいでいいだろう」
稼ぎとしては銀貨三枚分に相当する。ノルマには足りないが、ソフィア達四人をどうにか強くするのが今回の目的だ。稼ぐのは明日でいい。
「二レベルの差は大きいですね。何かこう、力が湧いてくる感じがします。これなら浅い階層の魔物なら、簡単に倒せる気がします」
「それは良かった。じゃあ、また一階で魔物討伐だ」
「分かりました。頑張ります」
そして六人はまた元の階へと戻っていくのだった。
「ジャイアントバット五体、ちょうどいい相手だ」
シーフのセラタスが魔物を発見し、みなに伝える。
「私も戦います。それでちょうど一人一体ずつですね」
アイリもここで参戦の意を表した。自分の腕を試したいらしい。
「了解した。なら、早速戦ってみよう」
ソフィアがそう言って、五人が臨戦態勢で魔物の元へと突撃した。
一番手はアイリだった。彼女は以前にも同じ相手を倒したことがある。
一体のバットの間合いに入り、相手の攻撃を誘って、それをさっと回避する。もし何かあっても後にはセイジが控えていると思うと気も楽だ。
そして、至近距離から魔法を発動させる。
「ウィンドカッター!」
圧縮空気の刃が真っ直ぐに飛び、バットの体を真っ二つに斬り裂いた。見事に一撃で仕留めたのだった。そしてバットが魔石を残して霧状になって消えていった。
わずか十一才の少女が魔物を倒す様子を見て、パーティ四人も俄然やる気を出した。
二番手はソフィアだ。得意のメイスを振りかざして突進する。バットが襲い掛かってくるのをかいくぐり、強烈な一撃をお見舞いする。バットの体がひしゃげ、そしてそのまま魔石を残して霧状になって消えていった。
戦士のガイスンも負けていない。得意の楯の防御でバットの攻撃を弾き返し、剣を鋭く一閃。見事にバットの体を両断していた。
シーフのセラタスも素早い動きでバットの攻撃を器用に避けていた。そして隙を見て短剣を横薙ぎに振るう。それがバットの体を両断し、彼も見事に一撃で仕留めていた。
メイジのメアリーも、いつもなら回避してばかりだが、今回は回避した直後に魔法を発動させた。
「ウィンドカッター!」
アイリと同じく風の魔法を使った。空中を飛び回る相手には有効だということを、実際に見て良く理解したのである。その一撃は見事にバットの体を両断した。バットが魔石を残して霧状になって消えていく。
「みんな見事だったわ。無事なのは見れば分かるけど、異常はない?」
ソフィアがいつも通りパーティの状態を確認する。三人から異常なしと返答があった。ついでにアイリも異常なしと答えていた。
ソフィアが安堵し、そして改めて感心して言った。
「セイジさんの言う通り、パーティの仲間を信頼することも大事ですね。二レベル上がったおかげもありますが、こんなに簡単にジャイアントバットを倒せるだけの力が、うちのパーティにはあったんですね。それを改めて知ることができて良かったです」
その言葉を聞いて、セイジもうなずく。
「それは良かった。俺もついてきた意味があるってものだ。とりあえず、みなの攻撃力が確認できたところで、もう少し討伐を続けよう。他の魔物でもきちんと戦えることを証明して欲しい」
「はい。分かりました」
四人がうなずく。そして魔物の討伐はまだ続くのだった。




