第三十六話 初心者達のパーティ
その日の夕方近く、セイジとアイリは、王都から七番目に当たるグルトンの町に到着していた。この町は人口約三万人。通りを眺めていても活気がある。通行人もみな表情が明るい。豊かな町なのだろうと思った。
到着してすぐに、まずは町の役場へと向かう。アイリが王都でもらった住民証明を元に、両親がこの町にいるかどうかを調べてもらうのである。受付でその旨を話すと、役場の職員が台帳を調べてくれた。結果はまたも他の町と同じで、同名の人物は住民にいるが、夫婦でもなく年代も異なるので別人だろうという話だった。
二人は職員に礼を言って、ついでにこの町に冒険者ギルドがあるかどうかを尋ねた。すると、あるという返事で、この町の北にダンジョンがあり、それを目当てに冒険者が多数滞在していると言う。冒険者達が稼ぐ金が、町の賑わいに一役買っているのだという話だった。
前にミルタスの町に立ち寄った時、冒険者はギルドに無料で宿泊できる制度を利用した。条件があり、魔物を討伐して銀貨十枚分の魔石を入手する必要があったが、戦いに関してはセイジが圧倒的に強く、二日でそのノルマを達成していた。アイリもそのついでにレベルが五に上がっている。
「今回はどうしようか。私はせっかく来たんだし、またダンジョンに行ってみたいって思うんだけど」
アイリの方から寄り道の提案があった。旅の目的を忘れたわけではないが、せっかくなのでいろいろな経験をしたいと思っているのだった。
「ダンジョンね。分かった。アイリの希望通りにしよう」
セイジとしては、この旅が終わった後に、アイリがどうやって身を立てるかも考える必要があると思っていた。冒険者がその選択肢の一つに入るなら、今のうちから魔物討伐を経験しておくことは役に立つと考えていた。
そこで二人は町の冒険者ギルドへと足を運んだ。
夕方近くの時間帯は冒険者ギルドもそこそこ混雑している。ダンジョンでの魔物討伐を終えた冒険者達が、魔石を換金するためである。この日も五か所ある受付に順番待ちの列ができるほどだった。
セイジとアイリもその中に混じって順番待ちをすることにした。
待たされることしばらく、ようやく二人の前にいたパーティの順番になった。男女二名ずつ計四名のパーティで、年の頃は十代半ばくらいだろうか。見た感じ、まだ討伐に慣れていない初心者という感じだった。
「こちらの魔石ですと、銀貨一枚銅貨二十枚ですね」
稼ぎの額も少ない。前回、セイジは一日で銀貨七枚を稼いでいる。やはり初心者なのだろう。相当苦労して討伐したのに、この稼ぎでは割に合わないだろうなと、セイジは密かに同情していた。
「ふう。これじゃあ食事代で全部消えるわね。仕方ないけど」
リーダーらしい少女が、受付の女性の職員から金を受け取った。仲間達も稼ぎの少なさに苦笑していた。
「ありがとうございました。では、また明日」
その四人パーティはギルドの二階へと歩き去っていった。ここのギルドも一階が諸施設、二階より上が宿泊施設になっていた。あの四人も無料宿泊できる制度を利用しているようだった。
そしてセイジ達の順番となった。
「俺達、ここのギルドに泊まりたいのですが」
「では、まずは冒険者証を確認致します」
言われた通りに冒険者証を出すと、受付の職員が驚いた表情になった。
「こっちのお嬢さんのスカウトメイジっていうのも珍しいですけど、セイジさんの聖騎士レベル七十三って何ですか。こんな高いレベルの人、見たのは私も初めてです」
「王都のギルドでもミルタスのギルドでも言われました。レベルは極力隠すようにとも言われてます。何でもトラブルの元だからと」
「そこまで分かっているなら結構です。それで、このグルトンギルドへの宿泊希望ですね。ミルトンと同じと思いますが、魔物を討伐して銀貨十枚分の魔石を確保することが条件です。もちろん、稼いだお金は全額お渡ししますのでご安心下さい」
「承知しました。泊めて頂けるなら、その条件で構いません」
セイジが返答すると、その女性職員が思い出したように言った。
「あ、そうだ。それとは別件になるのですが、一つお願いをしてもよろしいでしょうか」
「はい、何でしょう」
「申し遅れて済みません。私、ギルド職員のメリッサと申します。お願いというのは、先程のパーティの事なのです」
「さっきの若い四人組ですね」
「そうです。あの四人、グルトンに来てから十日ほどになるのですが、どうにも討伐がうまくいかないようで、毎回稼ぎが銀貨一枚少々なのです。安全に戦っているのは分かるのですが、これでは成長できず、当然稼ぎも少ないままで、下手をすると冒険者に向いてないと辞めてしまう可能性もあります。なので、セイジさん達にご支援ご指導頂き、彼らがもっと稼げるようにしてもらえると助かるのです。報酬として一日銀貨二枚が出ます」
なるほどとセイジは思った。確かに若い世代が成長してくれないと、安定して魔物が討伐できなくなる。しかし、向いてないと辞める者もいれば、成長して才能を発揮し強い魔物を倒せる者がいるのは当然のことだ。そこまでして助力すべきなのだろうか。
その思いが表情に出たようで、メリッサがため息混じりに言った。
「もちろん、冒険者を希望する者全てが高いレベルになれるわけではありません。途中で引退する者も数多くいます。ですが、それは何らかの育成指導を行った上で、それでもダメなら辞めるという形であるべきです。ギルドとしても冒険者の育成は重要事項ですから」
確かにそうだ。冒険者の保護、育成もギルドの大事な職務だろう。ギルドに無料で泊るという恩恵を受ける以上、そのギルドに協力するのも自分達の役割かも知れないと、セイジは考えた。
その点、アイリはもっと明快だった。
「要するに強くなれなくて困ってるわけでしょ。手伝ってあげようよ」
相棒にそう言われるとセイジも弱い。
「分かりました。俺達で良ければ、助力致しましょう」
「助かります。では、明日の朝、顔合わせといたしましょう」
いつも通り二人で一部屋。無事ギルドの宿舎に泊まることができた。食事は自前なので、自然と料理屋頼みになる。ミルトンの町と同様、ギルドの近くに食事のできる店があり、二人もそこで世話になった。
そして翌朝。料理屋で朝食を済ませ、ギルドのロビーで待機する。メリッサの言葉に従い、今日は面倒を見る若手パーティを待った。
しばらく待っていると、昨日の四人組が姿を現した。ダンジョンに行くことを受付の職員に伝えるためである。万一戻らなかったら、捜索隊が編成されることになる。ダンジョンに行くには必要な手続きだった。
「私達に指導者ですか?」
十代半ばの少女の声が響いた。見た目大人しそうだが、気が強いらしく、言葉に遠慮がない。明らかに声に不満の色があった。
「セイジさん、お願いします」
メリッサに呼ばれ、セイジ達が四人の元へとやってくる。
「こちらはセイジさんとアイリさん。セイジさんは高レベルの冒険者ですから、いろいろとご指導頂けると思います」
「セイジです。どうぞよろしく」
「アイリです。レベル五のスカウトメイジです。よろしく」
二人が名乗ると、仕方ないとばかり少女が肩をすくめて答えた。
「分かりました。どうせこの二人と一緒じゃないと、ダンジョン行きの許可を出さないんでしょう。今日一日は同行をお願いします」
先程からメリッサと話しているこの少女がパーティのリーダーのようだった。燃えるような赤い髪に黒色の瞳。表情は意志の強さを感じさせる。
「私はソフィア。ヒーラーのレベル一で十五才。このパーティのリーダーです。仲間もみなレベル一で十五才。ついこの前、冒険者学院を卒業したばかりです。みんなもそれぞれ名乗っておいて」
ソフィアに言われ、メンバーが次々名乗りを上げる。
「メイジのメアリーです」
明るい金髪をした、こちらは少し気が弱そうな感じの少女だった。瞳の色も青とアイリと一緒で、見た感じ姉妹に見えなくもない。
「俺はガイスン。戦士だ」
栗色髪の少年だった。鎧こそ革製の胸当てだけだが、楯だけは立派なラウンドシールドを持っている。そして腰に剣。体格も良く、中々に強そうだ。
「セラタスです。シーフです」
最後にくすんだ銀髪の少年が名乗った。やや小柄だが、その分敏捷性がありそうで、シーフに向いた感じをしていた。
「うちのパーティは以上四名よ。何か聞きたいことは?」
ソフィアは相手が誰であっても気の強さを隠そうとしない。それが持ち味とも言えるし、欠点になることもあるだろう。
「いや、今は特にない。後は実際にダンジョンに行って、みんなの戦いぶりを見てからかな」
セイジも生真面目に答える。自分に何ができるかは分からないが、冒険者になり立ての少年少女に、できるだけのことはしてやりたい。
「ごめんなさい、セイジさん、でしたね。ソフィアの口が悪くて」
そう言ったのは大人しそうなメアリーだった。
「これからご指導いただく相手なんだから、少しは相手を立てる言い方をした方がいいよと思うよ」
見た目に反し、メアリーもしっかり者のようだった。
「分かってるわよ。セイジさん、アイリさん、どうもすみませんでした。以後気を付けます」
素直にソフィアが謝る。気は強いが、パーティの仲間が言うことには耳を傾けることができる少女だった。
「俺達は構わない。それより、準備ができているなら、早速出発しよう」
セイジも言い方くらいで文句を言わない質である。気分を害した様子がないのを見て、ソフィア以外のパーティメンバー三人が安堵する。
「そうですね。行きましょうか、ダンジョンへ」
そうしてセイジとアイリは四人パーティと一緒に出発した。
グルトンの町を出て北に三十分ほど歩いたところにダンジョンの入り口があった。岩山の下、大きな口を開けているような感じに洞窟がある。
「では、相談した順番で」
ここへ来る道すがら、六人でダンジョン内を移動する順番を相談していたのだった。移動中に魔物の襲撃を受けても大丈夫なよう、安全確保のためには必要な事柄である。
先頭はシーフのセラタス。戦士のガイスンがそれに続き、メイジのメアリー、ヒーラーのソフィアの順である。その後にアイリが続き、殿軍はセイジが努める。
「悪いわね。一番厄介な最後尾の守りを担当してもらって」
ソフィアがそう言った。ここは自分がやるべきだと思っていたのである。
「気にするな。変な遠慮はいらない」
セイジの言葉にソフィアがうなずく。まだ年は若いが、自ら希望して冒険者になっただけあって、ダンジョンでは変な遠慮が生死の境を分けることがあるのを十分承知しているのだ。
ここもミルトン北のダンジョンと同じく、壁面が発光する不思議な材質でできている。おかげで明かりを持ち歩く必要がない。そして通路はとても広く、幅も高さも四メートルを超えるほどであった。
「さあ、行きましょう。セラタス、頼んだわよ」
「分かってる。俺に任せてくれ」
そして一行は、一階の奥の方へと魔物を探して、通路を進んでいく。
しばらくして、セラタスが全員を止めた。
「魔物だ。ラージアントが三体」
体長一メートルほどの蟻の形をした魔物である。様々な種類の魔物の中でも一番弱い種類だ。ソフィアが即座に交戦を決めた。
「さっさと倒すわよ。セイジさん達は私達の戦いを良く見ていて下さい」




