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追放された聖騎士と家族を失った少女の二人旅  作者: たわしまつわ


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第三十五話 祖父と孫との別れ

 翌朝、いつもの通りセイジとアイリが起き出し、井戸端へ行く。顔を洗って水を飲んでいると、ダニエルとタスマンも起き出してきて一緒になる。

「まだ二泊なのに、ずいぶんこの家になじんだ気がする」

 とはアイリの弁である。その言葉に、違いないとばかり、他の三人がうなずいていた。

 朝食は今日もアイリが作った。タスマンも手伝う。明日には出発してしまうのだから、せっかくの機会とばかりにアイリの作り方を良く学んでいた。

 朝食後、セイジがダニエルに回復魔法を使った。

「この回復魔法で完治のはずです。今日、仕事に出たら、具合を確かめてみましょう」

「そうか。本当にありがたい。セイジさんには何とお礼を言って良いやら」

「その分、この家に泊めていただきましたから、それで十分ですよ」

 ダニエルはとても元気になっていた。三日前の腰の痛みは完全になくなっている。これなら満足の行く仕事ができると張り切っていた。

「よし、それじゃあ行ってくる」

 ダニエルがセイジと一緒に仕事に出かける。

「僕もそろそろ行かなきゃ。それじゃあアイリさん、いってきます」

 タスマンも明るい顔で出かけていく。

 留守を預かったアイリは、昨日と同じように家事を始めた。


 アイリはこの日も家事をさっさと終わらせ、町の中を散策していた。

 昨日の牧場でミルクをもらい、パン屋でパンを買って大広場で食べ、市街地や商店街を見て回って過ごした。

 日が傾く前には、食材を買い出して家に戻る。

 しばらく待っていると、いつものようにタスマンが戻ってきた。

「ただいま、アイリさん。今日も家の仕事ありがとう」

「おかえりなさい。お仕事、お疲れ様」

 挨拶を交わすと、この日もアイリがお茶の用意をしようとした。

「ちょっと待って。せっかくだから、アイリさんに習ったやり方を試してみたいんだ。僕に入れさせてくれないか」

 なるほど。タスマン少年は向上心もあるし、やはり立派な少年だなとアイリが感心した。

「うん、分かった。じゃあ、試してみて」

 アイリも快く作業を譲る。

「えっと、茶葉の量はこのくらいで、ポットを軽く温めて……」

 ポットに湯を注いで温める。その湯はカップに移し、カップも温める。ポットに茶葉を入れ、お湯を注ぐ。蓋をしてしっかり蒸らす。三分ほど待って、カップの湯を捨て、少しずつ二つのカップに茶を注いでいく。最後の一滴までしっかりと注ぎ切る。

 そして二人で実際に飲んでみる。アイリほど上手ではないが、きちんと基本を守っているおかげで、十分においしい仕上がりだった。

「すごいね。一回教えただけなのに、こんなに上手になるなんて」

 アイリがタスマンを褒めた。実際自分でも上手にできたと満足していたようで、タスマンはとても喜んでいた。好きな相手に教わったおかげなのだからなおさらである。

「教え方が良かったおかげだよ。アイリさんにお茶の入れ方を教わって上手に入れられるようになったのは、すごくいい思い出になるな。うれしいよ」

 そう言って、タスマンが満足そうにお茶を飲む。アイリとしても、喜んでもらえて何よりだと思う。

 ちょうどそこへダニエルがセイジと一緒に帰ってきた。

「ただいま。完治したぞ。もう大丈夫だ」

「おかえりなさい。おじいちゃん、本当?」

「ああ。荷車も問題なく引けた。仕事もばっちりだ」

「セイジもおかえり。良かったね、完治できて」

「ただいま、アイリ。ダニエルさん、張り切り過ぎてたから、少し冷や冷やしたけどな。とにかく、もう大丈夫だ」

 一気に家の中が賑やかになる。アイリがこういう旅の寄り道もいいものだと顔を緩めていた。この家の二人と仲良くなり、こうして温かな交流ができることは良い事だと思う。

 タスマンが気を利かせて、帰ってきた二人の分のお茶を入れた。腕が上がったことを自慢したい気持ちもあった。

「おお、タスマンもお茶の入れ方が上手になってるな」

 ダニエルがうれしそうにお茶を味わう。

「アイリさんのおかげ。僕も教わった成果が出せるようになったよ」

「おお、そうか。アイリさんにも家の仕事をたくさんしてもらって、本当にお世話になったのう。改めて礼を言う。ありがとう」

「私もお二人のお役に立てて何よりでした」

 本当に良い少女だとダニエルとタスマンがしみじみとうなずく。

 セイジとアイリも二人に喜んでもらえて良かったと思っていた。


 その後、四人で公衆浴場に行き、そして夕食の支度である。ここでもタスマンがアイリからいろいろと教わりながら、その支度を手伝っていた。

「なるほど、結局、野菜を切ったり味付けの用意をしたり、そういう事前の準備が大事なんだね。分かった。僕もこれから頑張ってみる」

 この日は豆の煮物、ベーコンと野菜のソテー、野菜スープとパンというメニューだった。アイリが手際良くそれを作っているのを見て、手順を学ぶことができ、タスマンも大いに納得していた。

 そして四人が挨拶を唱和し、食事となる。

「ありがとう、アイリさん。おかげで毎日おいしい夕食を食べることができたよ。本当に助かったよ」

「うん。本当に助かった。僕もいろいろ分かったことがあるし、明日から頑張るね。ありがとう、アイリさん」

 ダニエルとタスマンはおいしそうに食べながら礼を言った。この調子なら、明日からの食事も大丈夫だろうと、アイリもほっとする。

「セイジさん、アイリさん、わしらのために三日も使ってくれたことに、改めて礼を言う。回復魔法に仕事の手伝い、家の仕事までやってくれて、本当に助かった。これで何度目か分からないが、とにかくありがとう」

 ダニエルとタスマンが二人揃って頭を下げる。

「いえ、困った時こそ助け合いが大事ですから」

「この家での暮らしは楽しかったですよ。お二人とも仲良くさせてもらえましたし。こちらこそありがとうございました」

 セイジとアイリも頭を下げた。

「本当にいい出会いでしたな。これで出発なのが寂しいくらいですよ」

「うん。僕も。せっかくセイジさんやアイリさんと仲良くなれたのに、お別れなのはかなり残念です」

 セイジとアイリもそれには同感だった。心温かな二人と一緒に暮らしている時間は、とても楽しいものだった。

「旅ってやっぱり大変なんですか?」

 最後の機会に聞いておこうとタスマンが尋ねてきた。セイジにしてもアイリにしても旅については素人なのだが、それでもすでに王都から六番目の町であるここキリナスまでやって来ている。それなりに経験も積んでいた。

「荷物が制限されているから、できることが限られちゃうかな。道具を使って何かするとかは無理だから、食事が全部外食になるの。着替えも時々宿で洗濯しないといけないし。その辺の不自由さに慣れてしまえば、後はのんびり歩いて町から町へと移動するだけだから、言うほど大変じゃないの。むしろ楽しいと言ってもいいくらい」

 セイジの代わりにアイリが答えていた。彼女としても、思うところはいろいろとあるのだが、結局楽しいに落ち着くのだった。

「冒険者ギルドで泊まった時も良かったな。条件として、銀貨十枚分の魔物を討伐しなきゃいけなくて、セイジと一緒に魔物を倒して回ったの。魔物は確かに怖くて危険なんだけど、倒す力があるなら大丈夫なんだよ。セイジは物凄く強いからね。どんな魔物も簡単に倒せるんだよ」

「え、そんな危険な事してたのかい?」

「うん。私、これでも冒険者の登録をしてあって、スカウトメイジのレベル五なんだよ」

「それはすごい。じゃあ、アイリさんも魔物が倒せるんだ」

「弱い魔物に限るけどね。一人でも倒したことあるんだよ」

 そんな調子で、アイリとタスマンの会話が主だった。最後の夕食なので、二人共話したいことがたくさんあるのだった。

 セイジとダニエルがそんな二人を微笑ましく眺めていた。少女と少年の交流は心温まるものだった。


 翌日、朝食を済ませたところで、いよいよセイジとアイリが出発する。ダニエルとタスマンも二人を見送った後は仕事に出かけるのだ。別れの時間はあまり長くは取れなかった。

「二人共、本当にありがとう。良き旅を」

 ダニエルが心を込めて言い、二人と握手を交わす。

「セイジさん、アイリさん、お世話になりました。僕達もこれからの生活を頑張っていこうと思います。お二人も元気に旅をして下さい」

 タスマンも同じように二人と握手を交わす。

「ダニエルさん、タスマンさんもお元気で」

「では私達はこれで出発します。お世話になりました」

 セイジとアイリが軽く頭を下げて歩き出す。

 ああ、行ってしまうんだな。そんな寂しさをダニエルとタスマンの二人は感じていて、二人の姿が見えなくなるまで見送ったのだった。


 街道を歩きながら、セイジとアイリはのんびり二人で会話していた。

「いい二人だったな。出会えて良かった」

「そうだね。二人の役にも立ったし、いい時間だったね」

 次の町まではまだまだ時間がかかる。いくらでも話をする時間はある。

「ところでさ、私、タスマンさんに好きだって言われたんだよ」

 アイリが思い出したようにセイジに告げた。セイジとしては反応に困る発言だったが、無難な返事をした。

「そうか。アイリは良い娘だからな。タスマン少年としては、とても魅力的に見えたんだろうな。その気持ちは分かるぞ、うん」

「あれ、あんまり驚かないんだね」

 そうなのである。ダニエルと一緒にそうなんだろうと態度や視線を見て気付いていたのだった。

「ま、まあ、見ていれば分かるくらい、タスマン少年も分かりやすくて、アイリの事、じっと見てたりしてたからな」

「そうなんだ。セイジはそうと知ってて、心配じゃなかったの。私もタスマンさんと一緒にいたいとか言い出したら困ったんじゃない?」

 さすがというべきか、中々痛い所を突いてくる。

「まあ、大丈夫だろうとは思ってた。アイリが両親に再会するまでは、そっちを優先すると思ったし。それに、いくら相手に好きだと言われても、アイリの方から好きになるとは思わなかったしな」

「うーん、納得いかない。もうちょっと、こう心配だったとか思ってくれてもいいんじゃないの?」

「そりゃあ大事な旅の相棒が取られたら困るけどな」

「だったら、最初にそれを言って欲しかったな」

 アイリが少し膨れた。セイジが苦笑で答える。

「悪かった。でも、タスマン少年に好かれたのは、アイリにとっても貴重な経験になったと思うぞ。だから、良いことだったんだよ」

 セイジの言葉に、アイリがその背中を叩いた。

「ありがとね。黙って見守ってくれて。貴重な経験を無駄にしないよう、これからも私、良い人でいられるように頑張るからね」

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