第二十三話 魔物討伐を続行
ギルドに泊まるのもこれで二泊目である。
二人部屋だったのでベッドは二つ。机や椅子、棚や洗濯物を干す場所なども完備されていて、普通の宿屋と比べても見劣りはしない。
セイジとアイリはその部屋に戻ってくると、荷物を下ろして、とりあえず一休みすることにした。
「一日に銀貨七枚ってすごい稼ぎだよね。荷運びの仕事は一日銀貨二枚だったんでしょ。私の三橋屋さんでの見習い仕事も銀貨一枚だった。冒険者って強くなるとすごく稼げるんだね」
アイリがそう言うと、セイジも真面目な顔でうなずいていた。
「全くだ。自分で魔物を討伐しておいて言うのもどうかと思うが、こんなに稼げるなんて思いもしなかったな。なるほど、冒険者になろうという人間が多いのも納得だ」
「そうだね。私でも魔物が倒せるわけだから、鍛えた人達が集まってパーティを組めば、エレナさん達みたいに強い魔物とも戦えるわけでしょ。あの人達もすごかったね。守りを固めて、強敵相手にも長い時間粘って戦ってたのに感心した」
「そっか。いい経験ができて良かったな。レベルも上がったし、将来の選択肢が増えたと思えば、今回は良いことばかりだったな」
「うん。危険なことも分かったし、その危険から身を守る方法も分かった。明日も頑張ってついていくから、よろしくね、セイジ」
こうやって二人でのんびり話をしているのは気分がいい。アイリと一緒にいることが当たり前の生活になっている。セイジは一人じゃなくて良かったとしみじみ思っていた。
「ありがとう、アイリ。明日も一緒に頑張ろうな。明日稼いで、あさってにはまた旅に戻ろう」
「うん。次の町に向かって出発だね」
二人は互いに笑顔になり、拳を突き出して合わせた。
夕食の時、またダンテ達のパーティと一緒になった。
なぜあんなに強い魔物と戦う羽目になったのか改めて聞いてみた。
「いや、あの場所にアラームの罠があってな。どうせ魔物を倒すんだから、アラームで魔物を呼びだせば、探しに行く手間が省けると思って、わざと罠を発動させたんだ。で、その結果、出てきたのがグレーターデーモンだったわけだ。全く、余計なことはするもんじゃないって後悔したよ」
というのがダンテの説明だった。
なるほど、そういうこともあるのかと、セイジは納得してうなずいた。罠は危険だから罠なのだ。自分達も気を付けるべきだと思った。アイリを連れての討伐なのだから。
「普段はあんな無茶な魔物と戦うことはないの。ちゃんと適正レベルの魔物を相手にしているのよ。でも、結果的にセイジさんがグレーターデーモンを倒してくれて、レベルアップが近くなったのは幸運だったわ。ほんと、セイジさんのおかげよね。アイリちゃんもレベルが上がって良かったわね」
こちらはエレナだ。
「もちろん、こんな無茶は今回限りにするつもり。命にかかわる危険は避けるべきだものね。それも骨身に染みたから、いい経験にはなったわね」
アイリがエレナの顔を見つめる。同じメイジとして、経験を積んで強くなれば、彼女のようになれるのだろうかと、多少の憧れを秘めた視線だった。何より美人である。素敵な女性だと思っていた。
「そんな訳だから、アイリちゃんも冒険者になるつもりがあるなら、安全には十分に気を付けた方がいいわよ」
「ありがとうございます。エレナさんは素敵な方ですね。どうして冒険者になろうって思ったのか、話を聞いてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
そんな具合で、アイリはかなりこのエレナに懐いていた。同じ冒険者仲間としても意気投合していた。
「いやあ、セイジさん、俺達もこれからは気を付けますんで。助けて頂いた命を粗末しましませんよ。それより、聖騎士団ってのはどんな感じだったんですか。良ければ教えて下さい」
こちらでも会話が弾んでいた。
夕食の時間、他のパーティと交流をもてて、有意義な時間を過ごしたセイジとアイリだった。
そして翌日。セイジとアイリは再びミルタス北のダンジョンへ向かった。
「昨日と同じ場所でいいだろう。地下十階で適当に討伐して、ある程度稼いだら引き上げてこよう」
「了解。頼ってばかりになるけど、よろしくね、セイジ」
そして二人はダンジョンの中へと入っていく。
昨日も通った道を地下十階目指して進んでいく。
「この先に魔物。三体」
「了解。倒してくる」
アイリが魔物の気配を探知し、セイジが倒すという流れも全く同じだ。
セイジの剣は見事な威力を発揮した。上層階に出てくるような魔物は、どれも斬撃の一撃で仕留めていた。強化魔法も闘気剣も必要なく、持ち前の攻撃力だけで十分に片がついていた。
そして地下十階に到着したところで、昼食休憩を取った。
ギルドの近くのパン屋で仕入れたパンを一人二つずつ。それと水筒の水である。味気ないが、ダンジョンの中では贅沢は言えない。
ついでにアイリがここまでに稼いだ魔石を数えてみた。小さいのが十二個、中くらいのが二個である。もう少し稼げば、目標の銀貨三枚が達成できるものと思われた。
「よし、ならあと少し、頑張って討伐しよう」
二人は食事を終えると、昨日と同様に、端から順に魔物を探して地下十階を巡っていった。
最初にマンティコアに遭遇した。人の顔をした、体が獅子の形をした魔物である。体長は三メートルくらい。尻尾が鞭のようにしなり、それで攻撃してくることもある。面倒なのは魔法を使ってくることである。
「よし、倒してくる」
いつも通り、セイジが剣を抜いて突進していく。
そこで珍しくセイジが油断した。何発か火球の魔法が飛んできたのを無造作にかわしたのだが、そのうちの一発がアイリめがけて飛んでいったのである。セイジが突進する際に、アイリにその場から離れるよう指示を出し忘れたのだ。
「しまった、アイリ!」
アイリは自分に向かって火球が飛んでくるのを落ち着いて見ていた。この魔法は以前にも防いだことがある。
「マジックシールド!」
アイリが魔法の楯を展開させた。魔法の楯は強力で、大抵の攻撃を防ぐことができる。以前、セイジの部下だった聖騎士と一緒にレッサーデーモンと戦った時、その騎士の部下を同じ魔法で守ってやったことがある。今回もそれと同じように、いとも簡単に火球の魔法を防いだのだった。
無事を見届けて安心したのも束の間、セイジはマンティコアに一気に接近し、剣を振るった。
「斬!」
いつものように強烈な一撃がマンティコアの頭上を見舞った。剣は見事にマンティコアの顔面を真っ二つにし、大きく斬り裂いた。その一撃でマンティコアは倒れ、魔石を残して霧状になって消えていく。
その魔石を拾うと、セイジは慌ててアイリの元に駆け寄った。
「すまん、俺のミスだ。魔法が来るから、離れるようにちゃんと指示を出すべきだった。無事で良かった」
セイジがそう言うと、アイリがにっこりと笑って首を振った。
「一緒に戦ってるんだから、このくらいは私だって考えてるよ。それに、離れようと逃げてるところに魔法が飛んでくる方が危ないかもしれないし、私だって魔法が使えるんだから大丈夫だよ」
昨日一日の経験でアイリは一気に逞しくなったようだった。実際、レベルも上がって能力も上がり、使える魔法も増えている。確かにそれほど心配することではなかったのかもしれない。とは言え、自分のミスはミスなので、セイジは頭を下げた。
「ありがとう。そう言ってくれるのはうれしいけど、やっぱり指示の出し忘れなんて大きなミスだったよ。本当にごめんな」
「相変わらず生真面目だなあ。セイジ、分かった。じゃあ、次からは気を付けてもらって、私からも声を掛けるようにするよ」
アイリがセイジの手を取る。その気持ちが十分に伝わり、セイジも肩の力を抜いた。同じ冒険者仲間として、アイリのことを信頼してもいいのだと感じた。
「分かった。互いにしっかり声を掛け合おう。頼むぞ、アイリ」
「うん、任せて。ちゃんと自分の身は守るよ」
互いの頼りにしていることを示すように、二人は拳を合わせると、互いに笑みを浮かべたのだった。
その後は安全に気を付けながら、二人は魔物討伐を続けた。
キメラやレッサーデーモンなど比較的強い魔物が出る階層だ。レベル十を超えたパーティでなければ戦えないような相手を、セイジはいとも簡単に倒していく。レベル七十三という冒険者証の数値通りの強さを発揮していた。
そうして適当に五体ばかり倒したところで、稼ぎも十分とみて引き上げることにする。
帰り道は魔物も少なかった。三回ほど出現したが、これもセイジがあっさりと片付けている。
そして地下一階へと戻ったところで、アイリが自分も魔物を倒してみたいと言い出した。セイジ一人に倒してもらってばかりでは何のために同行しているか分からない。自分の力を発揮して見たくなったのだった。
「分かった。次に出た魔物はアイリに任せよう」
セイジも賛成し、出口へ向かいながら魔物を探した。
そして現れたのがラージアント三体であった。体長一メートルほどの蟻の形をした魔物で、噛みつく以外の攻撃方法はない。動きも遅く、アイリ一人でも十分に倒せるだろう。
「自分が攻撃した後、隙を作るな。魔法を撃ったらすぐ動くんだ」
「分かった。やってみる」
そしてアイリが交戦に入った。
「ウィンドカッター!」
アイリが先制で圧縮空気の刃の魔法を放つ。それが一体のアントの顔面を直撃し、大きく斬り裂いた。そしてアントが魔石を残して霧状になって消えていく。これでまず一体。
接近してきたアントに対し、アイリは大きく距離を開けて、その攻撃を空振りさせる。そして即座に次の魔法を放つ。
「ファイアボール!」
高熱の火球がアントの体に直撃し、一気に焼き尽くす。これで二体。
残り一体は仲間が消滅しても構わず迫ってきた。魔物に恐怖心などはなく、知能がないことが良く分かる。
「ウィンドカッター!」
アイリが魔法を発動させる。先程と同じように、一撃でアントの体を大きく斬り裂く。これで三体目。
「よし、倒した」
アイリも、もう弱い魔物なら一人で倒せる実力を身に付けていた。
「強くなったな。見事だった」
セイジはそう褒めたが、言った後で、はて、褒めて良かったのだろうか、冒険者になるわけでもないのにと首を傾げた。そんなセイジの様子を見て、アイリは声を立てずに笑ったのだった。




