第二十二話 グレーターデーモンとレベルアップ
悪魔の特徴である角の生えた頭。少し黒みがかった青色の表皮。腕が二本に足も二本と体は人型をしている。体長四メートルを超える巨大な魔物。それがグレーターデーモンだった。
今も腕を振り下ろし、足で蹴り上げ、魔法を放ちと激しい攻撃が続いている。シーフのケイトは必死でかわし、ヒーラーのジルテはホーリーシールドでひたすら攻撃に耐えている。
そんな忙しい所に、聖騎士の男性とスカウトメイジの少女が現れたのである。昨日話をした時は、この二人は冒険者としては素人だった。こんな危険な場面にいていい存在ではない。戦士のダンテはそう思った。
「悪いことは言わない。さっさとここから逃げ出せ」
ダンテが手短に伝える。冒険者として弱い者を守るのは当然の事である。その間は自分達で食い止める気でいた。
「こいつの強さは見ての通りだ。あんた達素人の手に負える相手じゃない。命が惜しかったらとっとと逃げるんだ」
親切心でそう言っているのがセイジとアイリには分かった。
しかし、セイジが異論を挟んだ。
「そうは言うが、ダンテさんだったよな。ダンテさん達にこのグレーターデーモンを倒せるようには見えないんだが」
「……」
痛い所を突かれてダンテが黙り込む。
「もし四人が構わないなら、俺が倒してもいいんだが」
セイジはごく平然と告げていた。本当に、この聖騎士はグレーターデーモンを倒せるのかと、ダンテが内心で疑う。隣にいたメイジのエレナも同じことを思っているようで、眉を寄せて疑いの視線を向けていた。
「ねえ、ダンテさん、エレナさん、早くしないと仲間がもたないよ」
アイリが割って入った。デーモンの攻撃は全く止まらず、二人は防戦一方である。確かにそう長いこと食い止めることはできないだろう。
「おい、セイジと言ったな。本当に倒せるのか?」
ダンテが焦りながらセイジに問いかける。
「もちろんだ」
セイジも真剣な表情で簡単に答えた。
こうなっては仕方ないと、ダンテとエレナが互いにうなずき合う。
「分かった。助力を頼む」
「承知した。二人はデーモンの気を逸らしてくれ」
「いいだろう。頼んだぞ」
ダンテとエレナがデーモンに接近する。
ダンテはケイトと合流し、隙を作ってはデーモンの足元に斬りつける。
エレナとジルテが魔法の楯で攻撃を防ぎ、味方を守る。
この四人も十分な経験を積んだパーティなので、いくら相手が強くても、そう簡単に壊滅したりはしない。しっかりと攻撃を防ぎ、あるいは避けて、反撃もきちんと加えていた。
「じゃあ、私は離れてるから。セイジ、あとはお願い」
邪魔にならないよう、アイリがデーモンから距離を取る。
そしてセイジの出番である。
「ストレングス」
身体を強化する魔法を自身に使う。
「闘気剣」
武器を闘気で強化する技も使う。前回、レッサーデーモンを倒した時と同じ手順である。
そうして攻撃力を上げた状態で、デーモンの足元に一気に突進する。
それに気付いたデーモンが蹴りを放ってきた。直撃する軌道で放たれた蹴りを、セイジは紙一重で避ける。
「斬!」
その蹴り上げられた足にセイジが斬撃を加えた。凄まじい勢いで振り下ろされた剣が、デーモンの足を見事に斬り飛ばした。
片足を失って、デーモンがバランスを崩し、前に向かって倒れ込む。両腕で体を支え、頭部に大きな隙ができた。
「斬!」
セイジが素早い動きでデーモンの正面に回り込み、その頭部にまたも凄まじい威力の一撃を加える。デーモンの頭部が真っ二つに斬り裂かれる。
「とどめ!」
セイジが頭部を失った上半身にさらに斬撃を加えた。先の二撃と同じように、凄まじい威力が上体を真っ二つに斬り裂く。
さすがのグレーターデーモンも体を斬り裂かれては終わりである。魔石を残して霧状になって消えていった。
「嘘だろ?」
大激戦を繰り広げながらも、ダンテ達のパーティは四人がかりでまともに傷をつけられなかったのだ。それほどの強敵をたった三回の斬撃で倒してしまうなど、このセイジという聖騎士は底知れぬ強さをもっているのだと初めて分かったのである。それは四人にとって衝撃的な事実だった。
「セイジさん、でしたね。あなた、レベルは一体……?」
エレナが驚きの表情で問いかける。
セイジはギルドの受付職員アイリスの言葉を忠実に守って答えた。
「悪いがレベルは秘密なんだ。他人に明かすなとギルドの職員さんにも釘を刺されているんだ」
「そうなのか。それだけレベルが高いってことだよな」
「私達はみなレベル十五だけど、ご覧の通り、グレーターデーモンには歯が立たなかったわ」
「それをあんなに簡単に倒せるなんて、どれだけ強いのよ」
「ああ、驚きだ。これほど強いのになぜ名前が知られてないんだ」
パーティの四人が口々にそんなことを言っていた。
「みなを信用して打ち明けるが、俺は元々王国聖騎士団の副団長だったんだ。グレーターデーモンを倒せたのも、訓練も実戦経験も十分に積んできた成果なんだ。それこそ血のにじむような努力を重ねてきたからな。特別な能力があるわけじゃないんだ」
セイジの言葉に、四人がなるほどとうなずく。
「それから、このことは他人には言わないでくれ。聖騎士団を追放されているのを知られるのは、恥でしかないからな」
「分かった。今回は助かった。ありがとう。礼を言う」
ダンテがそう言って頭を下げると、他の三人もそれに倣った。
「四人が攻撃を引き付けてくれたおかげだ。こちらこそ礼を言う。ありがとう、助かったよ」
セイジが礼を返すと、とんでもないとばかり、四人が手を振った。
「いや、セイジさん謙遜のし過ぎですよ。全部セイジさんのおかげです。魔石ももちろんセイジさん達が持っていって下さい」
「そうか。何か悪いな。アイリ、しまっておいてくれ」
「うん、分かった」
アイリがうなずき、グレーターデーモンの魔石を拾って鞄にしまい込む。その時、アイリがふと鞄のポケットを見ると、何かが淡く発光していた。取り出してみると、冒険者証が光を放っていたのだった。
「何だろう。これって光ることもできるのかな」
そうつぶやいて冒険者証を見ていると、光っているだけでなく、数値が書き換わっていることに気付いた。
「あ、レベルが五になってる。能力値もみんな少しずつ上がってる。使える魔法の回数も増えてるし、魔法の種類も増えてる。私、何もしてないのに、どうしてレベルが上がったんだろう」
アイリの疑問にはメイジのエレナが答えてくれた。
「一緒に戦いの場にいたからよ。後ろに控えていても、いつでも魔法の楯を使えるようにしてたでしょ。そういう場合でも仲間が魔物を倒した時の経験を得ることができるのよ。もちろん、私達も戦ってたから、セイジさんがグレーターデーモンを倒した経験は、私達もちゃんと得ているの。おかげさまで、レベル十六まであと少しになったわ」
「そうなんですね。そっかあ、こんな私でもレベルが上がって強くなれるんだ。ちょっとうれしいです」
アイリが笑顔でそう言った。実際、使える魔法の回数と種類が格段に増えたのは、とても大きな成果だった。
「良かったわね。これからも頑張ってね」
エレナも笑顔でそう返すと、仲間達と共に移動を始めた。
「エレナさん達はこの後どうするんですか?」
「グレーターデーモン戦で消耗し過ぎたからね。今日はギルドに引き上げることにするわ。また後で会いましょう」
「はい。それではお気を付けて。またお会いしましょう」
そうしてダンテ達のパーティは引き上げていった。
セイジとアイリは手を振って彼らを見送ったのだった。
「さて、俺達はもう少し討伐を続けるか」
「うん。分かった」
それからも二人は地下十階を歩き回り、魔物を探した。
そして見つける度に討伐していった。
アイアンゴーレム、キメラ、アースジャイアント、レッサーデーモンと四体ばかり倒したところで、ギルドに引き上げることにした。
地図に従って上の階層を目指し、地下九階、八階、七階と順調に戻っていく。他の冒険者達が討伐した後だからか、帰り道では魔物と遭遇することはなかった。
地下一階まで戻ったところで、魔物と遭遇した。
「ジャイアントスパイダー三体か。アイリの練習台にちょうどいいな」
セイジはそう言って、そのうち二体を即座に片付けた。残り一体。
「試しに戦ってみるといい。ホルクレストでジャイアントホーネットを倒したのと同じ要領でいけるはずだ」
「うん、分かった」
そしてアイリがジャイアントスパイダーと対峙する。まだ十一才の少女には、牛くらいの大きさの魔物は十分強敵である。威圧されないように気持ちをしっかりと保ち、アイリが両足でしっかりと踏ん張る。
スパイダーがそんなアイリに接近してきた。前足を振るって攻撃の態勢に入る。アイリは落ち着いてその攻撃をかわし、魔法を発動させる。
「ファイアボール!」
覚えたばかりの火球の魔法を放った。拳大の高熱の火球が、スパイダーの顔面を焼いていく。かなり効果があったようで、スパイダーの動きが一気に鈍くなっていた。
「もう一発、ファイアボール!」
再びアイリの魔法が放たれ、スパイダーの顔面に直撃する。二発目の火球を受けて炎が上半身にまで広がり、スパイダーが地に倒れた。そして魔石を残して霧状になって消えていく。
「やった、倒した!」
アイリが素直に喜びを表現していた。レベルが上がった成果だろう。魔法の威力も上がっていて、いとも簡単に魔物を倒すことができたのだった。自分が強くなったんだと実感して、とてもうれしそうにしていた。
「良かったな。ダンジョンに来ることにして正解だったな」
「そうだね。私でも冒険者になれるって分かったし。でも、エレナさん達が苦戦してたみたいに、魔物を甘く見ると大変なことになるんだよね。そういうことが分かったのも収穫だったよ」
そうして二人は冒険者ギルドへと引き上げていった。
結局、この日の稼ぎは銀貨七枚にもなり、受付の職員アイリス嬢がため息交じりに言ったものである。
「当然と言えば当然の結果ですけどね。それにしてもセイジさん、グレーターデーモンも倒したって言うし、強過ぎです」
セイジは苦笑でそれに応えたのだった。




