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追放された聖騎士と家族を失った少女の二人旅  作者: たわしまつわ


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第二十一話 ミルタス北のダンジョンにて

 セイジとアイリが夕食を食べながら話していると、隣のテーブルの冒険者達が二人もダンジョンに行くのだと気付いた。

「おい、隣の兄ちゃんと嬢ちゃん、あんた達もダンジョンに行くのか?」

 先程攻撃の話をしていた、戦士と思われる男が声を掛けてきた。

「そうだ。ギルドに泊まるのに銀貨十枚分の魔石を取る必要があるからな」

 セイジの返事を聞いて、男が明らかに侮蔑してきた。

「おいおい、素人の冒険者がそれだけ集めるのに、何日かかると思ってるんだよ。それとも何か、このミルタスの町で当分生活するのか」

「いや、旅の途中だからな。用事が済んだら町を出るつもりだ」

「なら気付けよ。魔石集めるのが無茶だってことによ。全く、これだから素人はしょうがねえなあ」

 呆れかえったように言う男の姿に、まあ侮られても仕方ないなとセイジは思っていた。それに誰がどう思おうと、結果を出せばそれでいい。

「ちょっとダンテ、口が過ぎるわよ。二人ともごめんね。うちのリーダーが口が悪くて」

 女性の一人が割って入った。

「私はエレナ。メイジよ。こっちがヒーラーのジルテ。シーフのケイト。で、戦士のダンテね。ダンジョンで会ったらよろしくね」

 友好的な女性の態度に、セイジとアイリも気を緩めた。

「聖騎士のセイジとスカウトメイジのアイリです」

 その言葉にエレナと名乗った女性が驚いた。

「あら、珍しい。聖騎士だのスカウトメイジだの、複数職の冒険者を見るのは初めてよ。二人共素質はあるってことなのね。あとは経験だけなのかな。頑張って魔物を討伐してね」

「ありがとうございます。頑張ってきます」

 アイリが頭を下げた。

「かわいいお嬢さんね。頑張ってらっしゃい」

 エレナも悪い気はせず、礼を受け取った。

「ほら、ダンテも」

「分かったよ。悪かった。兄ちゃん、嬢ちゃん、頑張って来いよ」

 冒険者稼業の連中は口は悪くても気のいい者が多かった。ダンテもそうした人物だったらしい。

「ありがとう。いい話も聞けたし、参考にさせてもらうよ」

 この程度の社交辞令はセイジでも使う。その言葉に気を良くした四人パーティは、軽く手を振って自分達の会話に戻っていった。

「俺達も食べ終わったら、ギルドの宿舎に引き上げよう」

「うん。話も聞けたし、良かったね」

 セイジとアイリも食事の続きに戻るのだった。


 翌日。セイジとアイリは食事や支度を済ませて、ミルタスの町の北にあるというダンジョンへと向かった。まだ朝も早目の時間である。昼食を買い出したパン屋くらいしか店もまだ開いていない。

 道を歩くこと三十分。切り立った崖の麓に大きな洞窟が見える。思ったより近くにダンジョンの入り口はあった。

 ダンジョンは魔族が造ったとされる証拠に、不思議な材質の壁が挙げられる。人間の文明にはない物質で、淡く発光する素材でできているのだ。おかげで照明器具を持たなくても内部に入ることができる。

 通路は広く、幅も高さも四メートルを優に超える。それが地下三十階層に渡って広がっているのだから、恐ろしいほどの広さがあった。魔族の技術力は人間をはるかに上回るものだったのだろう。その魔族が人間達との戦いに負けて、今では魔族領は奥地に存在するだけになっている。技術力は必ずしも戦闘力に直結しないのである。逆に、人間側は魔法や武技などの戦闘技術が発達し、戦闘力が高かったのだ。

「ここがミルタス北のダンジョンなのね。不思議な壁だね。通路も広いし、何かすごい場所に来たって感じがする」

 アイリの感想ももっともである。二人はついこの前、王都の近くにあるホルクレストのダンジョンに潜ったのだが、アイリはやはりダンジョンという巨大な構造物に圧倒されていた。まだ二回目では当然の反応だろう。

「とりあえず、気を付けて進もう」

「うん、分かった」

 二人はどんどんダンジョンの奥へと入っていく。

「聞いた話だと、浅い階層では弱い魔物しか出ないから、あまり稼ぎにはならないそうだ」

「うん。そうみたいだね」

「だから、アイリには怖いかもしれないけど、できるだけ奥まで行って、強めの魔物を討伐するぞ」

「その分、私はちゃんと自分の身を守らないとだね」

「そうなるな。すまんな、無理をさせて」

「大丈夫。魔法が使えるうちは、ちゃんと自分のことを守れるから」

 ゆっくりだが確実に、二人は前に進んでいく。

「あ、何かいる。三体。多分魔物」

 スカウト職の特性で、アイリの感知能力は高くなっていた。少し離れていても存在を知ることができるのだ。

「了解だ。俺が先行する」

 セイジがぐんぐん前に進んでいく。

 すると確かに前方に魔物が三体いた。狼と同じような形をしたラージウルフという魔物である。

 セイジが剣を抜く。そして一気に魔物に駆け寄り、斬撃を浴びせていく。

 一体につき一撃。セイジの腕前にはそれで十分だった。一度の斬撃がウルフの体を真っ二つに斬り裂いていた。

 たった三回の攻撃で、ラージウルフ三体は地に倒れ、魔石を残して霧状になって消えていった。

「片付いたぞ」

 セイジの言葉に、アイリが魔物のいた場所へとやってくる。そして魔石を拾い、自分の鞄にそれを入れていった。魔石運びは、最初は力のあるセイジがやると言ったのだが、戦闘では役に立たないからとアイリが自分で運ぶことを申し出たのだった。セイジもそれを受け入れたのである。

「これって、いくらくらいかなあ」

「そうだなあ。魔石の相場は俺は知らないけど、この程度だと、銅貨十枚ってところじゃないかな」

「そっか。じゃあ、まだ先は長いね」

 銀貨一枚は銅貨五十枚である。その銀貨十枚分集める必要があるのだから、弱い魔物を倒しても稼ぎが足りないのは確かだった。

「やっぱり深くまで潜らないとダメみたいだね」

「そうだな。とりあえず、地下十階辺りを目指してみよう」

 二人はそう結論付けると、先へと進んでいった。


 本当に広大なダンジョンだった。地図がなければ間違いなく迷っていたことだろう。

 途中で出てきた魔物を倒しながら、二人は順調に進んでいた。ボーリングビートル、ジャイアントスパイダー、ヒュージマンティス、ロックゴーレム、ガーゴイルなど、様々な魔物が出てきた。しかし、どの魔物もセイジが全て一撃で倒していた。セイジのレベル七十三という数字は決して間違いではなく、冒険者換算でそれほどの強さがあったのだった。

 地下五階を過ぎたところで、二人で昼食休憩を取る。

「何か、魔物が次から次へと出てくるイメージだったけど、ダンジョンが広すぎて、魔物と出会うのはたまになんだね」

 ダンジョンに来る前に買い出したパンをかじりながら、アイリがそんな感想を言っていた。言われてみれば、確かにそうだ。魔物も決して少ないわけではないが、広いダンジョンの中ではそうそう出会わないのだ。

「本当なら、私の探知魔法で魔物を見つけて、それを倒して戻ればいいんだと思うんだけど」

「それは魔法の無駄遣いだな。回数が少ないうちは、守りの魔法のためにとっておいて欲しい」

「うん。分かってる。もしもの時はマジックシールドでちゃんと守る。そう言えば、魔石も結構集まってきたね。今いくらくらいなんだろ」

 アイリが鞄から集めた魔石を取り出す。大きなものは一つもない。中くらいのが三つと、後は小さい物が十二個である。

「多分だけど、銅貨で二百枚に届かないくらいかな。銀貨四枚弱ってところか。まあ、結構な稼ぎにはなったな」

「うーん、考えてみると、他の冒険者の人達はもっと苦労して魔石を集めてるんだよね。ズルしてるわけじゃないけど、セイジが強すぎて簡単に倒しちゃうから、それほど手間がかからなかったでしょ。真面目に戦ってる人に申し訳ないくらい」

 アイリの感想ももっともだ。それだけ聖騎士時代にセイジが修練を積み重ねていたということなのだが、確かに冒険者としては素人のセイジが簡単に魔物を倒すのが面白くないと思う者もいるかもしれない。

「俺としては、冒険者も悪くないって思ったな。危険はあるけど、魔物討伐はいい修練になるし、やっぱり戦いは高揚感があっていい」

「そっか。セイジくらい強いと、そう思うんだね」

 のんびりと会話しながら二人は昼食を進めていった。


 そして地下十階。とりあえずの目的地である。

 端から順にこの階層を探索していく。ここでも何体か魔物を倒し、また魔石の稼ぎを増やしていった。

 そしてある程度進んだところで、他の冒険者が戦闘を行っている場面に遭遇した。

「マジックシールド!」

「ホーリーシールド!」

 メイジとヒーラーが魔法の楯を展開している。

 シーフが魔物の攻撃を牽制し、戦士がその隙に攻撃を加えている。しかし、あまり攻撃の効果は出ておらず、魔物は派手に暴れて冒険者を手こずらせていた。

「あ、昨日の夕食の時、隣にいた冒険者さん達だ」

「そうみたいだな。討伐する魔物がかち合った時は、まず相談だったな」

 セイジとアイリは、戦闘の邪魔にならないよう気を付けながら、後衛のメイジに話し掛けた。

「確かエレナさんでしたね。手助けは必要ですか?」

 セイジののんびりした言い草に、エレナがカチンときたようだった。

「そんな場合じゃないって。見て分かんないの? グレーターデーモンよ。本来なら地下二十階より下に出るって言う大物なのよ」

「すまん、魔物の種類にはうとくてな。そんなに強敵なのか」

「そうよ。だから話なんてしてる余裕ない。守るので精一杯」

 話をしている間にも、そのグレーターデーモンから魔法の火球が飛んでくる。エレナのシールドが役割を果たし、その攻撃を防ぐ。

「このっ、アイシクルランス!」

 氷の槍の魔法をエレナが放つ。槍は勢い良く飛び、デーモンの胴体に突き刺さるかに見えた。しかし、体に接触する寸前、氷の槍は霧散してしまった。グレーターデーモンの魔法無効化の能力である。至近距離かつ高威力の魔法でないとダメージを与えることはできないのだった。

「というわけよ。ダンテ、ちょっと来て」

「何だよ、戦闘中だぞ」

 デーモンに斬撃を加えていた戦士が、一撃を入れたところで後方に下がってきた。

「ジルテ、ケイト、しばらく耐えてくれ」

 二人にデーモンの攻撃を引き受けてもらい、ダンテがエレナのところへやってくる。そこには昨日の晩に出会った青年と少女の二人組がいた。ダンテが目を丸くする。

「おいおい、何でこんなところに素人がいるんだよ」

 ダンテの嘆きをよそに、デーモンの攻撃は激しく続いていた。

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