表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された聖騎士と家族を失った少女の二人旅  作者: たわしまつわ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/3

第二話 元聖騎士、居候になる

「待って」

 孫娘のアイリから声が掛かった。

 セイジが何事だろうかと足を止める。

「おばあちゃん」

 アイリがクリスタを見た。祖母の方も分かってるとばかりにうなずく。

「セイジさん、もしお嫌でなければ、うちに泊まってはいかがです?」

 初対面の男性相手だったが、セイジの心根の良さは話を聞いていて良く理解できた。この人なら泊めても大丈夫だと二人共思っていた。

「ありがたい申し出ですが、本当にいいんですか? 見知らぬ男を泊めたりして、ご迷惑なのではないですか?」

 セイジとしては当然の疑問である。

 クリスタはアイリと顔を見合わせて、互いにうなずき合った。ここは正直に頼んでしまおうという決意の確認だった。

「迷惑どころか、助かりますとも。私もアイリと二人暮らしで、やはり心細かったのも確かなんですよ。男の人がいれば安心できます。良かったらぜひうちに泊ってもらえるとありがたいのです」

 確かに年配女性と少女の二人暮らしでは、何かあった時に対処に困るだろう。王都の治安は悪くはないが、不心得者はどこにでもいるものだ。自分が泊まることで助けとなるなら互いに都合が良い。セイジは少し考えて、好意に甘えることにした。

「ありがとうございます。そういう事情でしたら、お世話になろうと思います。それで、何泊くらいさせて頂けるのでしょう」

「そこはセイジさん次第ですよ。私達はいつまでいてもらっても差し支えありません。それどころか、安心して生活できるというものです。どうぞ好きなだけうちにいて下さい」

 クリスタの返答はセイジの意表を突いた。傍らでは孫娘のアイリが期待に満ちた目で自分を見つめている。初対面の自分をそこまで信用してくれるのかと、ありがたく思った。聖騎士の身分を失って、この先、何をどうしたら良いか途方に暮れていたが、とりあえず住む場所があるなら、ゆっくりと今後のことを考えられるだろう。

「すごく助かります。では、お言葉に甘えて、この家でご厄介になります。ところで、宿賃はいくらくらい払えば良いでしょうか。普通の宿屋だと一泊で銀貨一枚が相場ですが」

 セイジの申し出に、クリスタが首を振った。

「そんなにたくさんはいらないですよ。食費分、そうですね、宿屋の半分ももらえれば十分です。二日で銀貨一枚、それでいかがです?」

「分かりました。では、先払いで一月分お支払いします。今日からどうかよろしくお願いします。クリスタさん、アイリさん」

 セイジが深々と頭を下げると、二人も同じように頭を下げた。

「こちらこそ、よろしく頼みます」

 互いに頭を下げ合うと、アイリがセイジの肩を叩いた。

「あと、名前は呼び捨てでいいから。私もセイジって呼ばせてもらうから」

「分かった。よろしくな、アイリ」

「よろしく、セイジ」

 二人は握手を交わして、互いに笑みを浮かべたのだった。


「この部屋が空いているから、好きに使って下さい」

 この家は食堂兼台所の他に部屋が二つあった。空き部屋のそこは、以前はアイリの両親が使っていたのだと言う。

「あの、失礼ですが、アイリの両親は?」

「ああ、生きてはいると思います。アイリが四才の時でしたから、もう七年も前の話になります。アイリの母が私の娘で、夫婦それぞれが商店での通い働きをしていたのです。その頃は暮らしが苦しくて、夫婦揃って新しい場所で新しい生活がしたいと何度も言っていましてね。結局、アイリを置いてこの家を出ていったのです。今では西の方の大きな町で暮らしていると、風の噂に聞きましたが、はてどうしていることやら」

 淡々とクリスタは説明したが、それはアイリにもクリスタにも辛いことだっただろう。母と娘を置いて他の町に行ってしまうとは、何とも薄情な話だとセイジは思った。

「すみません、詮索するつもりはなかったのですが」

「構いませんよ。いずれ話す必要のあったことですから」

 アイリの置かれている環境を知ってもらって、孫娘に優しく接して欲しいということだろうと、セイジは解釈した。少女相手に親切にしないのは騎士道に反する。世話にもなるし、最大限優しく接するつもりであった。

「ではセイジさん、荷物を片付けたら、お風呂にご一緒しましょう」

 クリスタがそう言った。ここラスティア王国では、風呂と言えば公衆浴場を指す。燃料や水の準備、設備の建築などに手間と金がかかるので、家に風呂を構えているのは、身分の高い者か金持ちに限られている。セイジは騎士団寮に風呂の設備があったので、今まではそこを利用していて、公衆浴場に行くのもかなり久しぶりであった。

「はい、分かりました。ありがとうございます」

 荷物の整理と言っても、腰に帯びた剣と着替え類を片付けるだけである。作り付けの棚にそれらを収め、布袋にタオルと着替えを用意して、言われた通りに風呂の支度をする。

 食堂に戻ると、アイリが茶器の片付けをしていた。軽く水でゆすいで乾燥棚に干しておくだけだが、さすがに良く手慣れていて、毎日やっているのだろうと感心した。水道などはないから、二階まで水を運ぶのは大変そうだなとセイジは思った。水運びくらい、自分が代わってやった方がいいだろう。

「ごめん、セイジ。お待たせ。じゃあ、お風呂行きましょう」

 片付けを終えたアイリが穏やかにそう言った。両親に出ていかれて祖母と二人暮らし、さぞ寂しいことだろうと思う。しかし、そんなことを全く表に出さず、常に明るい表情の少女だ。立派なことだとセイジが感心する。

 そして、三人で連れ立って家の外に出る。もちろん、扉にはきちんと鍵を掛ける。そして一緒に公衆浴場へと向かった。


 王都くらい人口が多い都市では、公衆浴場もあちこちに存在していた。一つの公衆浴場で、一度に百人以上は入れるようになっている。その中で家から一番近い場所の公衆浴場を二人は良く利用していた。

 中に入ると、受付で利用料金銅貨三枚を支払う。銅貨は五十枚で銀貨一枚に換算されるから、三枚というのはかなり安い値段だ。これも王国が公衆浴場に対して運営費の一部を支援しているからできることである。国民から徴収した税をきちんと国民に還元しているだ。ちなみに金貨一枚は銀貨二十枚、銅貨では千枚になる。

 合わせて木札をもらい、代わりに貴重品を預けるようになっている。脱衣所に貴重品を置いておくわけにはいかないからだ。帰りに木札とまた交換するという仕組みである。

「じゃあ、セイジ、また後で」

 もちろん男湯、女湯で分かれているので、ここでアイリやクリスタとは一旦別行動になる。

 まずは脱衣所で衣服を脱ぎ、タオル一枚を持って浴室へと入る。浴室では桶とタオルを使ってまず体を洗い、湯舟を汚さないよう配慮する。髪の毛を合わせて洗っておく。この時代の王国にも石けんはあるので、洗い終わるとすっきりきれいになる。

 そして大きな浴槽にゆっくりと浸かる。

 聖騎士団を追放されたのは今日の午前中のことだったので、まだそれから大した時間が過ぎたわけではない。それでも温かな湯に浸かると、衝撃的な事実から立ち直れるような気がしてくるから不思議だ。当面の住む場所も見つかったし、アイリやクリスタが一緒で独りぼっちではない。それでも聖騎士団の仲間の顔を思い浮かべて、自分が追放されて迷惑を掛けたなと心苦しさも感じていた。

 そんなことを考えながら浸かっていると、時間が経つのも速い。体も十分温まったところで湯舟を出て、タオルで体を拭いていく。脱衣所を濡らさないために、浴室で体を拭くのがマナーである。

 そして脱衣所で再び新しい衣服を着る。脱いだ服は明日にでも洗濯した方がいいだろう。体を洗い衣服を変えたことで気分もさっぱりしている。

 そして受付に戻り、木札と貴重品を替えたら終わりである。受付の周辺はロビーになっていて、所々に長椅子がある。男女で湯殿が分かれるので合流するための広場になっているのだ。傍らには店があり、風呂の後に喉が渇いた客のために飲み物を販売していた。

 さすがに風呂の時間はセイジの方が短かったようだ。アイリとクリスタはまだ戻ってきていない。セイジは長椅子に座って待つことにした。確かに喉も渇いていて、飲み物の店の誘惑に一瞬だが負けそうになった。

 それでもそれを我慢することしばらくして、アイリとクリスタが姿を見せた。二人共身綺麗になって、同じようにさっぱりした表情をしていた。

「お待たせ、セイジ。それじゃあ、家に帰りましょう」

 アイリはすっかりセイジに懐いてくれたようだった。セイジとしても、こんなかわいい少女が親しく接してくれるのは、まるで妹ができたみたいで素直にうれしいと思っていた。


 夕食はクリスタを中心に、アイリもいろいろと手伝いをしながら調えてくれた。テーブルの上に並んだ料理は、ベーコンとジャガイモの炒め物、煮豆、野菜のたっぷり入ったスープとパンだった。いかにも家庭料理といった感じの素朴な献立だった。

 クリスタとアイリが隣の席に座り、セイジはその向かい側に座る。

「いただきます」

 三人の挨拶が唱和し、食事を始める。

「やっぱり、一人増えると賑やかな感じになってうれしいですよ」

 クリスタがそう言った。孫と二人も悪くはなかったが、人数が多い方がうれしいのも確かだった。

「それは良かったです。お料理、どれもおいしいです。こんなにお世話になって本当に助かります」

「口にあったようで何より」

「うん。私もおいしいって言ってもらえてうれしい」

 二人が穏やかな笑みを浮かべる。ああ、本当にこの二人の世話になっているんだなと実感し、失った聖騎士の身分を嘆くのはもう止めようと、セイジは心の底で思っていた。

「ねえ、セイジも何か仕事をするんでしょ。得意な事とかってあるの?」

 アイリがそう聞いてきた。今は騎士団寮を出てきたときに持ち出した金貨が十分にある。しかし、一日中暇を持て余すのはどうかと思う。先のことを考え、今の貯えにはなるべく手をつけず、仕事をして稼ぐのが良いのは確かだなと、セイジも前向きに考えられるようになっていた。

「計算が得意なら商店の仕事がいいだろうし、器用なら工房とか。体を動かすのが得意なら荷運びかなあ」

 アイリがいろいろと提案してくれる。本当に親身になって自分のことを考えてくれているようだった。何とも優しく親切な少女だと、セイジはアイリを高く評価していた。

「そうだなあ。事務仕事も一通りはできるけど、どうせなら体を動かす仕事の方がいいかな。鍛錬ができない分、体を動かしたいな」

 それがセイジの正直な気持ちだった。

「そうですか。なら、卸売市場とかがいいでしょう。いつも人手が足りないという話なんですよ」

 クリスタがそう勧めてくれた。セイジもそれにうなずく。

「なら、明日早速行ってみますよ」

「セイジは見た目それほどでもないけど、すごい力持ちだもんね。私達の荷物も軽々と運んでたし」

 アイリにそう言われて、セイジも悪い気分ではなかった。

「褒めてくれてありがとう。そうだね。せっかくだから力を生かした仕事、やってみることにするよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ