第十九話 レッサーデーモン討伐
「ストレングス!」
サルクが身体の強化魔法を自身に掛けた。彼も元聖騎士、一部だが回復系の魔法が使えるのである。これで一気に身体能力が強化される。
「闘気剣!」
続いて武器の攻撃力を上げる技を使った。闘気を刀身に伝わらせて威力を上げる技である。それを受けて剣が淡い光に包まれる。
「行くぞ!」
そしてサルクがレッサーデーモンに斬りかかる。魔物であるレッサーデーモンに知性はないはずだが、この攻撃は危険だと判断したように、剣の斬撃を回避していた。巨体にもかかわらず素早い動きだった。
そしてデーモンが反撃の拳を飛ばしてきた。サルクがそれを避ける。
続いてデーモンの蹴り。これもサルクは素早く避ける。
しかし、回避が続いて、詰めた間合いが離れてしまった。
そこへ火球の魔法が放たれる。デーモンの素早い連続攻撃は厄介だった。サルクがそれを右に動いてかわす。
サルクに命中しなかった火球の魔法は、トニオとマルクのいる場所へと飛んできていた。それをアイリの魔法の楯が防ぐ。
「ありがとう、お嬢さん」
「これくらい私が防ぐから。任せて下さい」
セイジも隣で安堵の息をついていた。まだ魔物討伐は一回しかしたことのないアイリだが、すでに魔法の楯を使いこなしている。見事だと思った。
その間にも戦闘は続いている。
間合いに入りたいサルクは、隙を窺い接近しようと試みる。
それを防ぎたいデーモンは長い間合いでの攻撃を繰り返す。
今のところはデーモンの間合いでの戦いが続いていた。長い腕や足を使ってサルクに攻撃を加えてくる。並の人間なら一撃で倒されること間違いなしの厳しい攻撃だ。サルクもそれを受けるわけにはいかず、冷静に回避に専念していた。
しかし、攻撃の合間には隙ができるものである。デーモンが殴り掛かってきたのを避けた次の瞬間、サルクが飛び込み、剣の間合いに入った。
「斬!」
そして鋭い斬撃を放つ。剣先がついにデーモンを捉え、その腹部を斬り裂いていた。大きな傷を受けて、デーモンがよろめく。
「ここだ!」
サルクが追撃を掛けようとしたが、デーモンも必死で抗い、拳や足を飛ばして反撃してきた。サルクは落ち着いてその攻撃を避ける。火球が一発飛んできたが、それも難なくかわしている。
しかし、デーモンの動きはそれだけでは終わらなかった。
デーモンの体が淡く発光し、腹部に与えた傷が治っていく。回復魔法ヒールを使ったのだ。
「くそ、ヒールが使えるのか」
さすがのサルクも焦りを感じた。これでは一気に倒し切らない限り、延々と戦いが続くことになってしまう。
しかし、戦いを止めるわけにもいかない。サルクは繰り返しデーモンの隙を窺い、攻撃をかわしては間合いに入り、斬撃を浴びせた。
だが、せっかく傷をつけても、すぐに回復魔法で再生されてしまう。このままでは戦いが終わらない。
サルクの焦りにセイジが応えた。
「俺が加勢する」
セイジが前に出てきた。剣を抜いて構えると魔法を使う。
「ストレングス」
身体強化魔法を自身に掛ける。
「闘気剣」
セイジもまた剣の威力を強化させる。
「俺が隙を作るから、一気に斬り込め」
セイジがサルクに声を掛ける。元聖騎士団副団長の実力は折り紙付きだ。サルクも絶大な信頼を寄せている。
「分かりました。頼みます」
そしてセイジが前進し、一気に間合いを詰めた。
飛んできたデーモンの右拳をかわし、左の拳もさっと避ける。そしてその左腕に強烈な斬撃を打ち込んだ。
デーモンの左腕が切断され、地に落ちる。
「もう一撃」
そのままセイジは前進し、デーモンの腹部を強烈に斬りつける。
腹部を大きく斬り裂かれ、デーモンがよろめく。
セイジは、たった二回の攻撃でデーモンに大きなダメージを与えていた。聖騎士団副団長の実力は本物であった。
そしてデーモンが一歩下がり、回復魔法を使おうとした。その瞬間こそがに最大の隙だった。
「ここだ!」
「了解!」
サルクが突進し、大きく跳び上がる。
そしてデーモンの頭上から強烈な斬撃を見舞った。
強化魔法と闘気剣によって威力の増した斬撃は、デーモンの頭部を一撃で斬り裂き、そして上半身までも一気に斬り裂いた。そしてデーモンが地に倒れる。
魔物は倒されると魔石を残して霧状になって消えていく。このレッサーデーモンも例外ではなく、霧状になって消滅していった。
「さすがサルク。見事な腕前だった」
セイジが元部下をそう賞賛した。
「これも聖騎士団で鍛えて頂いたおかげです。セイジさんこそ、さすがは元副団長、見事な攻撃でした。おかげで無事に倒せました」
セイジとサルクは剣を納めると、固く握手を交わした。
アイリとトニオ、マルクの三人も二人の元に駆け寄った。
「セイジ、すごく強かった。サルクさんもさすがでした。これが本当の騎士の強さなんですね。その凄さが分かった気がします」
「ありがとう。アイリこそ、魔法の楯を使いこなしてて立派だったぞ」
二人が拳をぶつけ合う。
「隊長、お見事でした」
「あんな風に戦えるよう、俺達もこれからの訓練、頑張りますよ」
二人の部下も隊長の手を握り、功績を称えていた。
サルクはここまで案内してくれた住人に、無事に魔物が討伐されたことをみなに伝えるよう話すと、自分達は駐屯地へと戻っていった。
こうしてレッサーデーモン討伐は無事に終わったのである。
「トニオ、マルク、詰所の方は頼む。俺は報告書を書いておくから」
駐屯地に戻ってから、サルクは早速仕事に戻った。
「セイジさんも少しお付き合い下さい」
「了解だ。職務熱心なことで何よりだ」
「いえ、冷静に戦いを振り返りながら報告書を書き上げるのは、俺にとっても良い修練になりますから」
「騎士の模範のような言葉だな。さすが駐屯地の隊長だ」
そして二人は言葉を交わしながら、報告書の作成を行った。
アイリがその姿を物珍しそうに見ていた。
「ねえ、セイジ。何でこんな報告書を作るの?」
率直な疑問だった。まだ十一才の少女には当然だろうとセイジは思った。
「こうやって誰にでも読める書類にしておくことで、また同じようなことがあった時に役立てるためだよ。あの時、レッサーデーモンが出ました。回復魔法を使うので厄介な相手でした。でも、二人がかりで回復魔法を使う隙を与えずに倒しました。そういうことを次に戦う人も知っていれば、苦労しないで倒せるからな」
「なるほど。確かにそうだね」
「その他にも、他の地方の人達に、スオニの町にレッサーデーモンが出現したという情報を知らせる意味がある。そんな強力な魔物が出現することもあるんだって知れば、他の地方でも同じようなことがあるかもしれないって、備えることができるからな」
「そうかあ。騎士様の書類にも大事な意味があるんだね」
アイリはとても感心して説明を聞いていた。やはり騎士のやることには一つ一つ意味があるのだと知り、報告書が書きあがる様子を興味深そうに眺めていた。
「すまんな、こんなことに付き合わせてしまって」
「ううん、いいの。見ているだけでもいい経験になるから」
サルクが報告書が書き上げるまで、セイジとアイリはその傍らで付き添っていた。そのサルクが少し手を止めて詫びてきた。
「二人とも済まないな。今日出発のはずだったのに、討伐に付き合ったせいで明日になってしまって」
セイジとアイリが揃って首を振った。
「手助けできてよかったよ。いい戦いだった」
「私も初めて騎士様方の戦いが見られて、いい経験になりました」
「ありがとう。そう言ってもらえるとありがたい」
そしてサルクは報告書を仕上げると、写しを一通作成した。王都に報告するためである。王都へ向かう旅人に頼み、魔石と一緒に王都の騎士団本部へと運んでもらうのである。
「さ、一段落着いたし、昼食にしましょうか」
サルクの言葉に二人はうなずき、近くの料理屋へと向かった。
その日の夜は、昨日と同様に駐屯地で泊めてもらった。
アイリが戦いを振り返り、セイジに尋ねた。
「ねえ、セイジ。聖騎士団にいた頃、今日みたいに魔物と戦ったことってあるの?」
「もちろん、何度もある。何らかの原因でダンジョンから出てきた魔物を討伐したこともあれば、訓練の一環としてダンジョンの中で魔物と戦ったこともある。魔物の種類をある程度知ってるのはそのおかげだよ」
「そっかあ。今日もすごい戦いだったから、本当にびっくりした。サルクさんも強かったけど、やっぱりセイジは別格だったね。攻撃をひょいとかわして腕を一撃で斬り落としてて。一人で倒し切れるところを、あえてサルクさんにとどめを任せたんでしょ。それも合わせて、本当に強いなあって、とても感心してたんだよ」
アイリが自分の事のように、うれしそうにセイジの活躍を話していた。セイジとしては当然の働きだったのだが、普通の人の目から見るとすごい大活躍ということになるらしい。そういうものかと改めて思った。
「それを言ったら、アイリもマジックシールドを見事に使えていたな。騎士二人も守れたし、その年で大したものだと思ったな」
「うん、頑張った。私にもできることがあるって分かってうれしかった」
「それは良かった。今日の戦いにも意味があったな」
二人は話しながら、満足そうな表情を浮かべていた。
翌日、一日遅れになったが、二人がスオニの町を出発することになった。
サルクと部下のトニオとマルクが見送ってくれた。
「セイジさん、アイリさん、昨日は本当に助かりました。改めてお礼を申し上げます。お二人が良き旅を送れますよう」
三人が揃って頭を下げてきた。
「こちらこそ、二泊も世話になった。ありがとう」
セイジとアイリも礼を言って頭を下げる。
「これからも町の平和のために頑張って下さい」
「ありがとう。お嬢さんも元気でな」
そうして二人は三人の騎士達に手を振って、元気に出発していった。




