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追放された聖騎士と家族を失った少女の二人旅  作者: たわしまつわ


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第十八話 騎士団駐屯地の事情

「それで、セイジさんは、今何をしているんですか」

 飲み始めて最初にサルクが尋ねてきたのがそれだった。元上官の身の振り方が気になるのは当然だろうと、セイジも簡単に事情を説明した。

「行き場がなかった俺を、このアイリのおばあさんが拾ってくれたんだ。それで一緒に暮らしてたんだが、おばあさんが亡くなってな。その子供、つまりアイリの両親がどこか西の町にいるって話を聞いてたから、こうして二人で両親探しの旅をしてるってわけなんだ」

「そうなんですね。セイジ副団長の面倒見の良さは相変わらずですね」

 サルクは上官としてセイジを尊敬していた。部下への配慮が行き届いていたということである。副騎士団長として優秀だったのだ。

 ところが、セイジは首を振った。

「今振り返ると、行き届かなかったことも多かった。聖騎士団の皆が優秀だったから助かっていたんだ。それに今も、アイリがいないと一人じゃダメでな。助けられていることが多いんだ」

 アイリが驚く。

「え、そんなことないよ。セイジがいつも私の面倒見てくれてるし」

「嘘じゃないぞ。アイリがいるから旅ができてるのは本当だ。一人じゃなくて良かったと何度思ったことか」

「そうなんだ。そう言ってくれるとうれしいな」

 セイジとアイリが互いに笑みを浮かべる。

 そんな様子を見て、サルクが安堵の表情になった。追放された後のことを心配していたのである。

「セイジさんが楽しい旅ができているようで良かったです。しかし、こんな優秀な人を追放するとか、酷い話ですよ、全く」

 駐屯地の隊長としてうかつな発言はできないので、主語はぼかしてあるが、貴族や国王に不満があるのは確かなようだった。

「そういうサルクの方はどうなんだ。駐屯地勤務ってのは」

 今度はセイジの方から尋ねた。サルクも聖騎士団に所属していたほどの優秀な騎士である。町の駐屯地では持て余すのではないかと思っていた。

 実際その通りで、サルクが嘆息と共に答えた。

「今日もそうでしたが、平和過ぎてすることがないです。あってもケンカの仲裁程度で、犯罪もほとんどないし、魔物討伐もありませんね。時々部下の訓練に付き合うのが唯一の楽しみでしょうか」

 なるほどとセイジは思った。確かに持て余していたようだ。

「でも、平和なのが一番でしょう。それはサルクさん達、騎士様方が町を守っているからだと思います。この町にサルクさん達がいるおかげなんだと思います」

 アイリが言うことももっともだ。犯罪を取り締まり、平和な生活を守る騎士の存在は人々の暮らしに不可欠だろう。

「お嬢さんは良いことを言うね。それは分かっているんですよ。だから、毎日町の巡回も欠かしませんし。それでもやっぱり、戦ってこその騎士っていう気持ちがどうしてもあるんです。まあ、俺に限らず、そういうふうに思う騎士は多いと思いますよ」

 そう言ってサルクはエールをあおった。日頃の不満を吐き出して、少し気が晴れたのか、言葉の割に表情はすっきりしていた。

「訓練が唯一の楽しみってことは、トニオとマルクだったか、あの二人の騎士は見所がありそうなのか」

 良いことを聞いてくれたとばかり、サルクの表情がぱっと明るくなった。やりがいがあると言ったのがこれだった。

「それが、どこでどう鍛えてきたんだか、腕前の方はからっきしでしてね。俺が着任してまだ一月くらいですけど、一から基本を教えている最中なんですよ。まあ、その分飲み込みも早くて、教えた分だけ伸びるので教え甲斐がありますね。だから、俺も二人と手合わせするのが楽しみなんですよ。毎回どこかしらに進歩があるものですから」

「そうか。サルクが教えていれば、二人の腕前もぐんと伸びるだろう。それは良かった」

「ご謙遜を。聖騎士団最強と言われたセイジ副団長なら、もっと上手に二人を伸ばせると思いますよ。俺も時々、副団長ならどう教えるかって考えることがあるくらいです」

 そんな調子で、サルクは駐屯地の事情を話してくれた。いろいろ思うところはあるようだが、それでも手を抜くことなく真摯に仕事と向き合って頑張っていることが伝わってきた。

 そうやってのんびりと会話しながら、夕食を取り、エールを楽しんだ。アイリが退屈しないか心配したが、彼女も良く話を聞いていて、時々口を挟むこともあったので、結果的には良かったようだった。

 三人は食事を終えると、駐屯地に戻って就寝したのだった。


 翌朝、セイジとアイリは目を覚ますと、まずは井戸端へと向かった。いつものように顔を洗い、水を飲む。自室から井戸までは思ったより距離があり、駐屯地の建物がいかに大きいかを身をもって知ることになった。

 そして、サルクと一緒に朝食に向かう。駐屯地から一番近い料理屋で食べるのが定番となっていた。

 三人が料理屋に着くと、すでにサルクの部下、トニオとマルクの二人が朝食を取っていた。隊長より先に用事を済ませ、詰所を開けるためである。

「今日もちゃんと私より先に朝食を済ませているな。先を見通して動けることは大切だ。二人共、立派だ」

「ありがとうございます。隊長」

 二人は敬礼を返すと、そのまま詰所へと向かった。サルクも良い部下に恵まれて良かったと、セイジは思った。

 そして三人も朝食を取る。セイジもアイリも食欲は十分で、今日も元気に歩けそうだと意欲を高めていた。サルクはそんな二人を見て、面白いと思っていたようだった。

「それにしても、二人はずいぶん仲が良いな」

「まあね。何せアイリは俺の恩人だから、大事にしてるんだ」

「それはお互い様だよ。セイジは恩人だし、大事に思ってるよ」

 それは良い出会いだったのだろう。サルクは元副団長が今の生き方に満足しているのを感じ、良かったと思っていた。

 朝食を終えて、三人は騎士団の駐屯地に戻った。

 セイジとアイリは荷物を回収し、また旅に出ることになる。そのはずだったのだが、唐突な出来事によって、そうはならなかった。

 詰所から部下二人が飛び出してきて、急を告げたのだった。

「大変です、隊長。町の外れに魔物が出現したそうです」

 サルクがこの町に着任して初めての緊急事態だった。

 元聖騎士団の一員として、このような事態にも備えはある。サルクは武器を手に取ると、三人で出動の準備をした。

 そうなるとセイジも放ってはおけない。

「俺も行こう。冒険者になったからな。魔物討伐は仕事の一環だ」

 そしてアイリに声を掛ける。

「アイリは留守番、って言いたいが、聞かないよな。一緒に行くか」

「さすがセイジ、分かってるのね。もちろん私も行く」

 そして魔物を発見した住人の案内に従って、三人の騎士と二人の冒険者が魔物討伐へと向かったのだった。


 急いで現地へと向かったが、魔物の方でも移動を続けていて、結局接触したのはもう町外れでなく、町の範囲内と呼べる場所だった。

「君は後ろに下がっていなさい」

 サルクが町の住人に声を掛け、五人はさらに魔物に接近していった。

 三十メートルほどの距離に接近したところで、セイジがみなを止めた。

「待て、並の魔物じゃない。あれはレッサーデーモンだ。ダンジョンでも中階層より下に出現する強敵だぞ」

 魔物と言っても、精々ボーリングビートルかジャイアントスパイダーと言った昆虫型を想像していたのだが、その予測は見事に外れた。思った以上の強敵が現れたのである。

 サルクの表情が曇った。部下達に良い実戦経験を積ませられると思っていたのだが、相手が悪すぎる。とは言え、騎士が戦わないという選択肢はあり得ない。

「セイジさん、まずは部下達に戦わせてやって下さい」

「サルク、いいのか?」

「これも経験です。トニオ、マルク、まずは二人で戦ってみろ。危なくなったら手を貸す」

「了解です。では、行きます」

 そして二人はレッサーデーモンに突撃していった。

 レッサーデーモンは体長三メートルを超える巨体を持つ、赤褐色の悪魔型の魔物である。頭には角が生えていて、いかにも凶悪な容貌をしていた。膂力は強く、体表は硬く、遠距離の魔法を無効化する能力ももつ。逆に初級までとはいえ魔法を放つこともできる。冒険者でも、パーティのレベルが十以上はないと互角に戦えないと言われている。

 魔物の方でも接近してきた人間に気付いていて、応戦の構えを取っていた。そしてまずは火球の魔法を放ってきた。

「魔法はしっかり回避だ。何とか剣の間合いに入るんだ」

「了解です!」

 トニオとマルクはサルクの指示を聞いて、しっかりと火球の軌道を見て、確実に回避していった。まだ若いが修練を積んだ騎士である。その程度のことは十分にできるのだ。

 そして少しずつ間合いを詰め、剣の届く距離にまで接近した。

「よし、今だ!」

 二人が剣を振りかざし、真っ向から斬りつけた。

 デーモンが両手をかざしてその剣を止めた。

「な、斬れないだと!」

 剣を弾き返した勢いで、二人が大きく後ろに押し出される。そこにデーモンが接近し、その頑丈な両腕を振るってきた。

 二人は剣でその攻撃を弾き返そうとした。強烈な衝突の末、勢いの勝ったデーモンの腕が二人を吹き飛ばしていた。剣を手放さなかっただけでも大したものだった。それほど強烈な一撃だった。

「確かに強い」

「でも、俺達だって!」

 二人は諦めずにデーモンへ接近し、再度の攻撃を試みた。デーモンの振るってくる両腕をかわし、その隙に間合いを詰めて、その腹部に斬撃を見舞った。しかし、高らかな金属音と共に、その剣の一撃はまたもや弾き返されていた。

「くっ、効かない」

 接近し過ぎたところに、デーモンの蹴りが飛んできた。二人は慌てて飛び下がり、その蹴りを避ける。

「もういい、下がれ。俺がやる」

 そこにサルクの声が掛かった。さすがに部下二人が大事である。これ以上の無理はさせられないと判断したのだった。

「ですが、隊長」

「いいんだ。二人ともよくやった。並の魔物なら、十分に倒せていたと思うぞ。後は任せておけ」

 トニオとマルクも騎士である。隊長の命令にはきちんと従った。後ずさりしてデーモンから距離を取る。

「今度は俺が相手だ。行くぞ」

 サルクが突撃していく。デーモンが火球の魔法でそれを迎え撃つ。サルクは素早い動きでそれをかわしていく。

 しかし、外れた火球がトニオとマルクに襲い掛かった。

「マジックシールド」

「ホーリーシールド」

 アイリとセイジが魔法の楯を展開させた。デーモンの放った火球の魔法が楯に当たり、霧散していく。

「ありがとう、助かった」

 トニオとマルクが礼を言う。

 しかし、その間にも、サルク隊長とレッサーデーモンが激突していた。

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