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追放された聖騎士と家族を失った少女の二人旅  作者: たわしまつわ


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第十一話 質の悪い輩のトラブル

 居酒屋の若い女性店員が絡まれているところに、女将が放置はできないと助けにやってきた。

「お客様、当店では飲食は提供いたしますが、店員の貸し出しは行っておりません。そのお手をお放し下さいませ」

 しかし、絡んでいる若い男は、女将の言葉にも耳を貸さない。

「俺は客だぞ。金なら払う。酒の相手をするサービスくらい、ケチケチしないでしてくれてもいいだろうが。ああん?」

 凄みを利かせたつもりの表情と言葉だった。実際、腕をつかまれている女性は余計に怖がった様子になっている。女将もさすがに腹を立て、厳しい表情で言い放つ。

「店の迷惑になるなら、どんなに金を積まれたって客でも何でもないね。とっとと手を放すか、店から出ていくかしておくれ」

 そんな言葉を全く聞き入れず、男はさらに言い放つ。

「店の主人がそんな態度だから、サービスの一つも満足にできないんじゃねえか。店員のしつけがなってないぞ。客の要望に応えるのが店だろうが」

 そんな様子を近くで見ていたアイリも少し怖がっている様子だった。

 自分の大切な連れを怯えさせるのは許し難いと、セイジが眉を寄せる。そもそもこの種の輩が大嫌いな正義感の持ち主である。

 セイジはわざとらしく大きなため息をついた。

「質の悪い輩はどこにでもいるもんだな。自分より弱い相手にしか強気に出られないんだろう。全くもってみっともないな」

 当然、相手の耳に聞こえるように言っている。

「セイジ、いいの?」

 アイリが小声で耳打ちしてきた。こんなところでトラブルに首を突っ込むのはどうなのか、という意味だ。そんなアイリに、セイジは余裕の笑みを浮かべてうなずいた。

「大丈夫だ。大した相手じゃない」

「でも、ちょっと心配だよ」

「俺の元の職業は知ってるだろ。トラブルには慣れてる」

 小声で二人がやり取りをしていた。アイリはまだ心配そうな表情だったが、セイジに対する信頼は厚い。ここは任せようと口を閉じた。

 一方、言われた男はカチンと来たようで、女性店員の手を離すと、立ち上がってセイジ達のテーブルにやってきた。

「おい、お前、今なんて言いやがった」

「みっともないって言っただけだが」

「何だと、この野郎。俺にケンカ売ってんのか」

「いいや。親切で言っておくが、酒を飲むなら節度を守って、他人に迷惑を掛けないようにしてくれ。それがお前さんのためだ」

 セイジは本気で説教をしていた。だが、この種の輩はそんな人の言葉を聞かないのが常である。自分の感情が何より優先で、気に食わない相手を許せないのである。

「そう言うのをケンカを売るって言うんだよ。面白い。叩きのめしてやるから表へ出な」

 ケンカになれば、当然自分が勝てると思い込んでいる。全く質の悪い輩である。

 セイジがやれやれといった感じで立ち上がった。まあ、店の中でケンカを始めるよりはましかな、と思いながら。

 そして二人が表の通りに出る。まだ通行人がちらほらと歩いている。

 店の中にいたアイリも女将も女性店員も他の客も、ケンカの行く末が気になって外に出てきていた。

「痛い目見てから泣き言言っても遅いぜ。覚悟はいいな」

 若い男はあくまで尊大な態度である。さすがのセイジも、もういいだろうと遠慮するのを止めた。相手を軽く挑発する。

「そんな偉そうな口を叩く前に、実力を見せてみな。どうせ大したことないんだろう」

「言いやがったな。これでも喰らいやがれ」

 そしてついに男が殴り掛かってきた。体重の乗ったいい拳を打ち込んでくる。大口を叩くだけあって、ケンカ慣れしている様子だった。

「なるほどね」

 セイジがその拳をひょいと避ける。ケンカには慣れているのだろうが、所詮は素人である。聖騎士として修練を積んできたセイジの相手ではない。

「この野郎、一発避けたくらいで調子に乗るなよ」

 男が続けざまに拳を放ってくる。全て顔面を狙っており、軌道が読みやすい。セイジは両手を軽く振って、繰り出される拳を全て叩いて逸らした。

 それを見ていたアイリが驚いた。セイジが元聖騎士であり、強いということは何となく分かっていた。しかし、大の男を、それもケンカ慣れしているような輩を子ども扱いできるほど強いというのは想像の外だった。

「セイジって、本当に強かったんだ」

 思わずそうつぶやいていた。それがセイジの耳にも入ったようで、セイジが親指を立てて見せてきた。そのくらい余裕があったのだ。

「この、このっ!」

 男はそれでも懲りずに拳を振るってくる。変なところで根性のあるヤツだと、セイジが面倒がってため息をついた。

 実力の差もはっきりさせたことだし、そろそろ片を付けるか。

 セイジが動いた。殴ってきた男の腕を空振りさせた直後、その腕をつかみ、後ろ手にねじり上げた。

「いて、いてててて」

「さて、いい加減どっちが強いか分かっただろう。金を払って立ち去るか、それともこのまま腕をぽっきりへし折られるか、どっちがいい?」

 腕をねじられる痛みに男が顔をしかめた。

「分かった、頼むから勘弁してくれ。金払って立ち去るから」

「そうか。それがいいだろう」

 セイジが腕を放すと、男がニヤリと笑った。

「バカめ。これでも喰らいな」

 至近距離なので当たると思ったのだろう。男が勢い良く拳を放ってきた。

 しかし、セイジにはそんな奇襲は通じない。先程までと同じように、拳を打ち払い、軌道を逸らして終わりである。

「なるほど、ぽっきりがいいか」

 空振りさせた拳をつかむと、セイジは再び後ろ手にねじり上げる。

 男が再び痛みに顔を歪める。

「痛え、いてててて、わ、分かった。もうしない。勘弁してくれ」

「今度こそ金払って立ち去るんだな」

「そ、そうする。だから、もう止めてくれ」

 セイジが手を放すと、今度こそ男も懲りたようだった。

「ほらよ、金だ」

 せめてもの腹いせか、男は銅貨を十枚、地面に放り投げた。

「ふざけやがって、覚えてろよ」

 そう捨て台詞を吐いて男は立ち去っていった。

 アイリが素早く投げられた銅貨を拾い集め、女将に手渡す。

「ありがとう、お嬢ちゃん」

 女将がアイリに礼を言って、セイジにも合わせて礼を言う。

「あなたのおかげで助かりました。ありがとうございました」

 しかし、セイジは浮かない表情だった。

「さっきの客、この店にはよく来るのか?」

「いえ、初見です。あんな質が悪い客だって分かってたら、すぐに追い出してますよ」

「そうか。あれはまだ悪いことを考えてる感じだったな。俺には勝てないことが良く分かっただろうから、狙うとすると、この店か、そちらの店員さんかな」

 真剣な表情で女将にそう伝える。すると女将も眉根を寄せた。いろいろな客が来る居酒屋だ。この種の連中が客としてくることもあるのだろう。

「あり得る話ですね。とにかく、話の続きは店の中で。まだ夕食も途中でしたでしょう。まずは召し上がって下さい」

 女将が話を切り上げ、店内に戻る。

 セイジは男の立ち去った方を一瞬見据えてから、店内へと戻った。


「それにしても、セイジって本当に強いんだね」

 食事を再開したところで、アイリがそう言った。元聖騎士副団長というのがこれほどの強さだったんだと、とても感心していた。

「相手が弱すぎただけだ」

 事も無げにセイジが言う。実際、この種の輩を捕らえたことが、それこそ覚えきれないほどに数多くあったのである。

「そんな事ないよ。セイジくらい強くなきゃ、あんなに一方的にやっつけるのは難しいよ」

 アイリとしては頼れる人物が強いと分かり、安心すると同時にうれしかったようだ。表情がとても生き生きとしていた。

「お褒めに預かり恐縮です」

「あ、また生真面目になった。セイジって、そういうところが面白いよね」

 そんな会話をしながら、二人は夕食の残りを平らげていった。

 二人が食べ終わる頃合いを見計らって、女将が先程絡まれていた女性店員を連れてやってきた。

「先程はありがとうございました。私、カリーナと申します」

 女性店員が深々と頭を下げる。

 そして女将が話を続けた。

「お客さん、セイジさんとアイリさんだったね。さっきは世話になった。本当に助かったよ。ところでさ、セイジさんがさっき言ってた、まだ悪いこと考えてそうだって話、私達もそんな気がしてさ。それで物は相談なんだけど、私達を助けてくれないかい?」

 なるほどとセイジがうなずく。確かあの男の捨て台詞は覚えてろよ、だった。何かをやり返そうとする意味合いの言葉だ。やはり女将も店員も気になるのだろう。

 さて、あの男がやり返すとすると何をどうする気なのだろう。セイジは少し考え込んだ。女将とカリーナと名乗った店員が不安そうにセイジを見つめる。アイリも黙ってセイジの言葉の続きを待っていた。

 しばらくして、セイジが口を開いた。

「そうだな、あの男のしつこさから考えて、そこの女性の店員さん、えっとカリーナさんだったね、あなたの帰り道が危ないと思う。夜の暗さに紛れて襲い掛かってくるとか、ありそうだと思う」

 女将とカリーナが顔を見合わせた。確かにありそうだと思ったのだ。

「そうですね、ありそうな話です」

「ねえセイジさん、それって何とかできないかい?」

 困っている人を見捨てられないのはセイジの性分である。聖騎士時代からそうだった。弱い者を守ってこその騎士だという考え方を、長年に渡って培ってきたのだから。

「分かった。今晩、俺が帰宅の時に護衛しよう」

 こういうのを即決するのがセイジらしいところだ。そうくることをアイリも予測していて、同じく即座に言葉を続けた。

「なら私もついて行く」

 さすがのセイジもそれには首を振る。

「ダメだ。危険すぎる」

「さっきも言ったでしょ。私、一人になりたくない。それに何か手伝えることもあるかもしれないし、それにセイジがいるなら絶対安心だから」

 アイリの剣幕も相当のものだった。それほどまでに一人でいたくないと思っていたし、セイジの助けにもなりたいと思っていたのだ。

 セイジがふうと息をつく。この少女は思った以上に頑固だ。

「分かったよ。絶対勝手なことするな。静かについてくるんだぞ」

「分かってる。邪魔は絶対しない」

 アイリの覚悟にセイジもあっさり根負けしたのだった。

「女将さん、そういうわけで、念のため二人で護衛しますよ」

 女将とカリーナが揃って頭を下げた。

「ありがとう、助かるよ」

「お手数かけてすみませんが、よろしくお願いします」

 そして、セイジはカリーナの帰り道を守ることになったのだった。

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