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豆狸一話完結読み切り短編集  作者: 豆狸
2026新作

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離れのお嬢様【奪取】

プラオダラ様


 お手紙ありがとうございます。

 貴女からお手紙をいただくだなんて思ってもいませんでした。

 お体は大丈夫でしょうか?

 貴女は未来の伯爵夫人となられるのですから、ご自愛くださいませ。

 あの方のことを支えてあげてくださいませね。


 せっかくお手紙をいただいたので、こうしてお返事を(しる)しておりますが、なかなか難しいものでございますわね。

 なにしろ私と貴女が顔を合わせたのは数えるほどでしたから。

 貴女が伯爵家へいらしてから、私が婚約者だったあの方とお会いしたのも片手で足りるほどでしたわ。

 いいえ、お会いすることはできました。

 ただ、私があの方と会うとすぐに貴女の侍女が現れて、貴女の体調が悪いと告げていたのです。あの方はいつも、私を置いて貴女のところへ行かれましたわ。だからお会いする回数が減ったのではなく、一緒に過ごす時間が減っていたわけですわね。


 私もお見舞いに同行すれば良かったのかもしれませんけれど、体調が悪いときに良く知らない人間の相手をさせるのも大変かと思い、遠慮していましたの。

 ……うふふ。本当のことを言いますと、あの方と貴女が仲良くしてらっしゃるのを見るのが嫌だったのですわ。

 あのころの私はあの方をお慕いしていましたもの。

 でも貴女に勝てるわけありませんものね。

 貴女はあの方だけでなく、伯爵家の人間すべてに愛されていらっしゃいましたもの。


 跡取り息子の婚約者でしかない私など、離れのお嬢様の前には塵芥(ちりあくた)でしたわ。

 今になってあの方が私を愛しているなんて言われても、とても信じられませんわ。

 あの方はご自宅の使用人達の私への対応を(とが)めたことはありませんでしたもの。

 なによりあの方ご自身が、だれよりも貴女を優先なさっていたのですもの。

 貴族家に生まれ育った令嬢として、手元不如意な親族の面倒を見ることに抵抗はございませんわ。高貴なるものの義務ですし、素晴らしい善行だと思います。


 だけど、すべてに優先させるのは違うのではありませんか?

 あの方が医師か薬師で貴女が患者なら、私より優先する場合もあるでしょう。

 でも一生に一度の初夜で貴女の体調が悪いと言われて、花嫁の私を置いて離れへ行くのは違うとは思いませんか?

 医師か薬師だったとしても、初夜くらいは代理を用意して花嫁を優先するべきでしょう。

 あのとき勝手に婚家を飛び出したことは申し訳ないと思っています。ですが、あのときの私にできることがほかにあったでしょうか?


 あの方も貴女も、ふたりに恋愛感情はないとおっしゃいましたね。

 それがなんだと言うのでしょうか。

 時間は有限なのです。

 貴女と会うことに使ったあの方の時間は、私と会うための時間を削って作られたものです。

 あの方は私よりも貴女を優先していた、それがすべてではありませんか。


 貴女の婚約者だった方も、そう考えたから貴女との婚約を解消なさったのでしょう?

 もともと伯爵家は貴女の元婚約者のお家と比べると財力に劣りますし、貴女ご自身のご実家はさらにそうなのだとお聞きしております。

 私との結婚が無効になって社交界でのあの方の評判は地に落ちました。

 あの方は半狂乱になって私の名前を呼んでいる、お手紙にはそうお書きになっていましたね。

 でもそれがなんだと言うのでしょう。


 貴女にそんな気はなかった、あの方が勝手に離れへ押しかけて来た、とも(しる)していらっしゃいましたけれど、では貴女の侍女は主人の気持ちを無視してあの方を呼びに来ていたのでしょうか?

 だとしたら貴女ご自身が、伯爵家のご当主に報告しなければならなかったと思いますわ。

 まさか私が悪役を買って出て、貴女のところへ行こうとするあの方を力ずくで止め、他家の使用人である貴女の侍女を辞めさせれば良かったとでもおっしゃるのでしょうか。

 どうしてそんな真似をしなくてはいけないのです?

 そうでなくても、いつもあの方に置き去りにされていた私には『捨てられ令嬢』という悪名がございましたのに、その上に他家に介入する『出しゃばり令嬢』という汚名を着ろとおっしゃるのでしょうか?


 たられば、をいくら語っても仕方がありませんね。

 私は新しい人生を歩んでいきます。

 貴女はあの方の妻となって、伯爵家を支えて行ってくださいませ。

 離れのお嬢様のお手並み、楽しみに拝見させていただきますわ。

 それではこの辺りで筆を置かせていただきます。


これまで奪取されていた時間を取り戻して幸せを目指す令嬢より


<終>

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