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命の章 ~ 霊 命 ~ 一見を 信じる

魂の蘇りを信じ前世の因縁を持って今を生きる。

前世を示唆され、受け入れてしまえばその姿に来世を夢見る。

残酷な前世であれば穏やかな来世を。悪人であれば善人を。豊かであればさらに豊かな来世を望む。

現世に悩み来世に願いを託すのは人であればこそと手を合わせて気づく。



ハジメテ ナカツセニオリ カズキテススギタマウトキ  ナリマセルカミノナハ

初めて  中つ瀬に堕り  潜きてすすぎたまう時、   成りませる神の名は、

ヤソマガツヒノカミ ツギニオオマガツヒノカミ。 コノフタハシラハ

八十禍津日神、   次に大禍津日神       この二神は

ソノケガラワシキクニ イタリシトキノ ケガレニヨリテ ナレルカミナリ

その穢繁国に     到りし時の   汚垢によりて  成れる神なり



成彦に助け出された卯月は、その後成彦のマンションで生活をしていた。

しばらくは秀の絵を解読しようと躍起になっていたが、ひと通り目を通すと、卯月はその難解さに音を上げた。


そんな中、成彦が何日かぶりに帰宅した。

卯月は成彦にくつろぐ暇も与えずに、絵から感じたことを話し始め、成彦に意見を求めた。

その話しぶりは仕事の報告のようで、成彦はその勢いに苦笑交じりに答えるしかなかった。


成彦は缶ビールを持って来て、落ち着けとばかりに卯月に渡した。

卯月は断ることもなく缶を開けて、ビールに口を付けた。

「美味しいね。でどう思う?」


成彦はやれやれと呆れた顔でテーブルの上の絵を1枚ずつ見ていく。

横たわる全裸の女性の腹部にある黒い塊。

成彦は、この絵は稲木医師の妻那美で、倒壊した建物の中たたずむ全身黒い塊の男が稲木医師、そして祭壇に寝かされた黒い塊の乳児を稲木医師の子供だと推測していた。

祭壇と聞いて、卯月の脳裏に真琴が追っていた教団が浮かんだ。真琴を追い込んだ男。雷樹を犬呼ばわりした男。そして私を襲ったのもあの教団かもしれない。


卯月は首を振り、襲われたときの恐怖を払いのけて、再び次の絵に目を落とした。

山の中、沢の窪みに胎児のように横たわる全裸の女性の首筋に黒い塊。

これは高千穂で発見されたテラさんに間違いないと成彦は断言した。


竹林の中、座禅を組む男には背中に黒い塊があり、海に漂う全裸の女性右足にも黒い塊がある。

成彦は言葉にはしなかったものの心当たりがあるらしく、この2枚の絵に関しては深入りを避けて次の絵に進んだ。


成彦が手にした絵は公園の中で1人の男が、取り巻く浮浪者に差し伸べている黒い手が大きめに描かれている。これが流浪の賢者と呼ばれた芦屋さん。

ビル群の中、焼け爛れた女性はモデルの摩帆瑠だろう。

注意深く見ていくと、その絵の中に座禅を組む瘦せた青年を見つけたが、その絵も動くことはなかった。

「これは若狭さんかなあ?」

卯月が呟いた。


それぞれの絵の中には小さいながら、さまざまなことが書き込まれていた。

初めて見たときには薄く途切れていた線が、ところどころはっきりとした線に変化していた。

次の絵は、苦悩の表情で労働している人々が描かれていて、全体がチラチラと細かく動き、前に見た絵ほど鮮明な部分は見受けられない。

卯月は重苦しさ吐き出すようにフウと溜めた息を吐いた。


晴れ渡る空、穏やかな海、悠々たる山、たおやかに流れる川、実をつける木々に、遊ぶ動物たち。次の絵は豊かな自然を背景に、絵の中央に女性が浮かんでいる。その右側には柔らかい佇まいの女性が立ち、そして左側には仁王立ちの男が描かれていた。そして絵の下のほうには、横たわる人々を襲い掛かろうとしている人々が取り囲んでいる。


「横たわっている人たちは、なぜ黒く塗られていると思う?」

成彦の問いに、卯月はその部分を凝視した。

「分かんない・・・でもこの人たちは動かない」

「周りを囲んでいる者に敵意を感じないか?」

「そんな感じもするけど、この人たちの線は薄くてはっきりとしない」

「そうか・・・俺には線の濃さは一緒に同じに見えるが・・・」

「疑うの?」

「疑っちゃいない。お前さんがそう言うのならそうだろう」

「ふん」

不満をあらわにした卯月を相手にせず、成彦は次の絵を出した。

「またオロチか・・・」

幸せと不幸せが混沌と描かれている人々の日常を、すべて飲み込もうとしているオロチ。

成彦は前の絵にもう一度戻り、卯月に尋ねた。

「繋がりがあると思うか?」

卯月は首を横に振った。

「でもオロチの首が切られてる。前見たときは首が切られていたのは1つだけだったのに・・・」

「はっきりと変化しているのか?俺にはそんな風には見えないが・・・」

「この絵はまだ変化するのかもしれない」

「どんなふうに変わると思う?」

「分かんない・・・」

卯月は残念そうな視線を次の絵に移した。


引き裂かれた空、海に飲まれる太陽神、月に消える天女、荒れ狂う海神、土に消える黒く塗られた人々、拳を振り上げたまま火に焼かれる人々。

この絵はこの世の終わりを告げているように思えた。

「もう止める、またにする」


成彦は疲れた様子の卯月をちらりと見て、残りの絵に見終わった絵を丁寧に重ねて片付けた。

「お疲れさん、飯食いに行こう」


当初は秀の絵を解読することに夢中になり、軟禁に近い状況も気にならない卯月だったが、刻々と変化し、時として光を放つ秀の絵の難解さに悲鳴を上げていた。

絵は留まることなく絶えず動き、それが何を言わんとしているのか、卯月には理解できなかった。そんな焦りは卯月を追い詰め、気楽と思っていた成彦との生活そのものにも息苦しさを感じ始めていた。


そんな卯月の心中を察したのか、成彦は上階のテラに連絡を取った。

テラの住まいが上階だと知り驚いた卯月だったが、時を待たずして頻繫に行き来をするようになった。


テラは成彦の話から、今の卯月の状況を理解しているようで、成彦が留守のときは卯月を受け入れて、卯月の外出時には太力が付き添ってくれた。


気持ちを新たに再び絵と向かい合うことにした卯月は、1枚1枚見るのが面倒とばかりに部屋いっぱいに絵を並べた。

全体を並べてみると、絵の持つ流れが見えてきた。

絵はランダムに絶えず光を放つ。何か所かが同時に光るときもあれば、1か所のときもある。


そんな中、豊かな自然が背景の絵に、ひときわ鋭い光を卯月の目は捉えた。中央に女性が浮かぶ絵の中には、ベッドに横たわる女性がいた。その人は黒く塗られているものの光を放っている。

何の根拠もなかったが、卯月はそれを由宇子だと思った。

見ているうちにその場所の点滅が激しくなった。

卯月の動悸も激しくなり、胸騒ぎがした。

警戒音のように響く胸の動悸に、卯月は不安を感じずにはおれなかった。

突然スマホの着信音が鳴り、その音に卯月は飛び上がった。


慌てて掴んだスマホの画面に由宇子とあった。

ほっとして電話に出ると、由宇子の母親からだった。


「危篤?・・・由宇子が・・・」


咄嗟に点滅の箇所を見た。

点滅から目が離せなくなった。確かに強く早くなっている。この切迫感は何?

絵を前に座り込んだ卯月の目が、もう1か所強い光を放つ箇所を捉えた。

それは中央に浮かぶ女性だった。

そしてその2つの点はシンクロして点滅し始めた。

顔を上げた卯月は、並べた中にぼんやりと光る絵に気づいた。

山中に横たわる女性だった。その絵から、卯月は視線を強い光を放つ女性に移した。

「この人はやはりテラさんだ・・・」


卯月はすぐさまテラに由宇子の危篤を伝えた。驚きはしたもののテラは冷静で、その日のうちに太力の運転で広島へと向かった。


後部座席で横に座るテラを見ると、由宇子を心配しているのだろう。その表情は険しく、両手を重ねて握りしめている。


テラさんは秀の絵に描かれている要になる人に間違いない。

そう判断した卯月は、秀の絵の存在をテラに話すべきだと考え始めた。

何度も自問するたびに、断固として首を横に振る成彦が脳裏に現れた。


堂々巡りの重い気持ちを抱えて、卯月は軌跡(きせき)診療所に着いた。


由宇子の母の和久霧子の出迎えに、面会は控えると言う太力を残して、卯月とテラは由宇子の病室に向かった。

ドアを開けると、カーテンで仕切られたベッドに由宇子は横になっていた。

由宇子の変化を記録している機器がゆっくりと由宇子の危機を刻んでいる。


卯月はその姿に震えが走り、思わず霧子の顔を見た。

「驚くわよね・・・こんな姿だもの」

悲しげな霧子に卯月はかける言葉がなかった。

そこにはやせ細り、骨格に皮膚が張り付いた由宇子がいた。

「先生は大丈夫とおっしゃるの。那美さんと同じ経過を辿るはずだからって。でも那美さんは20年かけて身体の変化を受け入れたの。由宇子はたった3ヶ月で・・・変化が早すぎて由宇子の身体が持たない可能性があるかもしれない」


茫然と立ちすくむ卯月の肩を、テラが優しく撫でた。

テラの平然とした瞳が大丈夫と告げている。


「きっと大丈夫。お母さま、椅子をお借りしてもよろしいですか?由宇子ちゃんと少しお話できますか?」


霧子はテラの申し出に快く椅子を準備した。

テラは由宇子の傍らに音を立てずに座わると、由宇子の瘦せた手を両手で包み込んだ。


卯月はそのテラの姿に、高千穂の夜が蘇った。

テラさんの様子はあのときと同じだ。

奇跡が起こるかもしれない。きっとテラさんが由宇子を助けてくれる。


卯月はふと部屋の空気に違和感を覚えた。

息苦しい。

めまいがする。


異変に気付いた霧子が、卯月を部屋の外に連れ出した。


「あとはテラさんに任せましょう」

霧子も何かを感じたようだ。

卯月は離れがたい気持ちを抑えて、霧子の言葉に従った。


テラは一晩中由宇子に付き添い、一瞬たりとも触れた手を離すことはなかった。

卯月は霧子とまんじりともせずに、別室でテラの戻りを待った。


その結果、不思議なことに由宇子の血圧や体温の低下は止まり、それは低い数値のままであったが、人が命を繋ぐことのできる基準値を何とか維持していた。


卯月とテラは、母親の霧子から由宇子がこの姿になるまでの経緯を聞いた。

「由宇子・・・こんなになるまで・・・なんで頑張るの?・・・」

「由宇子は一貫して冷静でした。立てなくなっても手が動けば、意識がなくなるまで記録していました。こんなに強い子だとは思っていませんでした」

テラは会話を聞きながら涙を堪えていた。

「由宇子は大丈夫ですか?」

「ええ、きっとやり遂げるでしょう」

「やり遂げる?」

「これは由宇子の使命でしょうね。由宇子は必ず全うするでしょう」

「・・・」

「卯月さん。心配しないで。大戸野先生がいてくださいますし、この状態を克服された那美さんの存在は心強い」


卯月は「由宇子の使命」という霧子の言葉を心に刻み、東京へ戻ることにした。

由宇子が持ち直したと太力に知らせると、太力は「よかったな」とだけ言って運転し始めた。


テラは夜通しの看病で疲れたのだろう。軽い寝息を立てている。


卯月は朝食の席で昨夜の由宇子の様子について何も言わないテラに、何を話していたのかと尋ねた。

卯月の簡単な質問に、テラはキョトンとしていて答えられず、会話がまったくかみ合わない。

「あのときと同じで記憶がないのかもしれない。昨夜のテラさんはテラさんじゃなかった」

その時間帯の記憶がない。

それも高千穂の夜と同じなのか?

そうだとするとこれ以上問い詰めるのはテラには酷だと卯月は判断した。


あのままテラさんと一緒に由宇子を見ていたら、何か分かったかもしれないのにと悔やまれた。

だがあのとき過呼吸のような、酸欠のような状況になったのは何故だろう?過度のストレスのせいだったのだろうか?

何もかもが雲をつかむようなことばかりで卯月は窓の外を眺め、ため息をついた。

「私は何をしたらいいの?何ができるの?私の使命って何?・・・」

暗くなった景色の中に街灯の光が流れて消えていく。


「秀さんの絵だ・・・」


家に帰り着いた卯月は、早速絵を確認した。

すると由宇子とテラと思しき2か所の点滅が消えていた。


卯月は絵が示す事柄について、理屈を付けることを止めた。

「私は見たままを信じる」

私にできることは絵のメッセージを受け取ること。そして受け取ったことを成彦に伝えると決めた卯月だった。


翌日帰宅した成彦に事の顛末を興奮気味に話した。

淡白な成彦の反応に卯月は拍子抜けしたが、それも仕方ないとそれ以上の説得は諦めた。


そんな生活を送る中、成彦は長期の出張に出ることになった。

ワインをグラスに注ぎながら成彦が言った。

「お前さん、ジャーナリストを辞める気は・・・ないよな」

突然何をいうのかと卯月は怪訝な顔をした。

「なんでそんなこと言うの?危険な目にあったから?」

成彦からワインを受け取り、卯月はふんと笑った。

「まあ、飲んで・・・」

「佐多さん、あのとき助けてくれて今も守ってくれていることには感謝している。ありがとう・・・でも・・・」

「なぁ、危険な仕事は止めないか?」

「危険?・・・そうね、あのときは正直言って怖かった・・・」

「だろう?もう手を引くんだ」

「・・・嫌よ・・・」

「お前さん、とんでもないことに首突っ込んでるんだぞ」

「分かっている。でも止めない・・・」

「・・・」

「ありがとう・・・心配してくれてるのよね」

「・・・」

「途中で止めるなんてできないの」

「何かを追っかけるのは止めたほうがいい。お前さんが自分のために動いているのではないことは分かっている。正義感や使命感がお前さんを突き動かしているのも知っている」

「そうよ、だから何。あんた何者?公務員だったよね。どんな仕事をしているの?なんで私の人生をとやかくいうの?余計なお世話よ」

卯月は答えない成彦へのイラつきを抑えようと、空になったグラスにワインを注いで飲み干した。


「なあ、俺と結婚して名前を変えてみないか?」

成彦はそんな卯月から顔をそらし、本気とも冗談とも取れる言い方で卯月のイラつきを笑った。

「はぁぁ・・・何言ってんの?」

「そうだよなぁ、何言ってんだろうな、やはり無理があるよな」

「そうよ、だってあんたはわたしの好みじゃないし、運命の人じゃない」

「そうか?俺は運命的な出会いをしたと思っているがな・・・」


その言葉に卯月は真顔になり、ワインを一気に飲み干した。

卯月にしては長い間を置いたあと、成彦と真剣な表情で向き合った。


「いいよ、結婚する」


その答えに驚く成彦を、卯月はケラケラと笑った。

「いいのか?」

「うん」

「結婚だぞ・・・」

「うん、成さんの嫁になってあげる」

成さん・・・成彦は懐かしい響きに一瞬戸惑った。

この部屋で成さんと呼ばれることは二度とないと思っていた。

「あんたでいい」

「あれ?照れてんの?な・る・さん」


卯月の鋭さに辟易しつつ、面白がっている成彦がいた。

「親に・・・」

「結婚したって言えばいい」

「それでいいのか?」

「それでいいよ」

「お前さんにとって結婚とはなんだ?」

「人並みの儀式・・・どうでもいいこと」

「儀式か・・・」

「お葬式と同じこと。別れの儀式・・・出会いの儀式」

「・・・」

「それだけのこと・・・」

「その・・・結婚というと一般的にはその、愛だとか連れ添うだとか言うもんだが・・・」

「愛?愛おしい?そんなもん続くもんじゃない」

「ほう・・・そろそろかな?」

いつのまにか2本目のワインのボトルが床に転がっていた。

「愛なんて・・・親の愛でさえ鬱陶しいのに夫婦?他人同士の愛?煩わしいだけじゃん。ねえ、そう思わない?成さん」

卯月はケラケラと笑ってそのまま寝てしまった。

抱き上げて寝室に行こうとすると、卯月は嫌がった。

「寝ているときも抵抗する。本当に束縛が嫌なんだね」

「私はテラさんを信じるの・・・あんたなんか・・・」

テラさん?あんたなんか・・・なんだ?成彦は続きが気になったが、起こすことなく卯月の寝言に笑った。

「情に厚い人かと思ったが・・・これなら拗れることなく事は終わるな」

結婚という監視下に置かれる卯月。思兼の冷静な言葉を思い出した。

寝息を立てている卯月にタオルケットをかけて、成彦は明日の準備を始めた。


そして翌朝、寝ている卯月の顔をまじまじと見つめて、押印済みの婚姻届をテーブルに置いた。


玄関のドアを閉めながら成彦は少し不安げに呟いた。

「覚えていてくれよ・・・知らないはないからな」


数日後、勤務先に卯月からメールが届いた。成彦は婚姻届のことかとメールを開いた。


 「成さん、大変。テラさんが消えた」


 「大丈夫だよ、太力さんが一緒だから」


 「でも、何にも言わずにどこかに行くなんてないよ」


 「連絡をしてみるから」


 「何かわかったら教えてね」


 「ウロウロするんじゃないぞ」


 「はい!」


あいつ婚姻届には触れなかった。成彦はクスリと笑い、スマホを閉じた。


「思兼、ターゲットが動いた。スマホは自宅において移動している。追跡装置を切り替えてくれ」


その一言でイレーザーの指令室は緊張に包まれ、となりの会議室には任務を遂行するイレーザーが集まっていた。


「今回の任務はターゲットの安全の確保と、生化学研究所の制圧。班編成とバディは各個人に指示する」


思兼の言葉を聞くイレーザーの中に、緊張した面持ちの雷樹の姿があった。

雷樹は誇り高き犬となるために、大きな一歩を踏み出そうとしていた。



一方、卯月はテラに連絡が取れず気の休まらない日々を送っていた。

自ら動くことを我慢しながら成彦の連絡を待っている卯月は、秀の絵の変化を見て気を紛らしていたのだが、秀の絵はチラチラと細かく動くところはあるものの特に大きな変化は見られなかった。


ところがテラが消えて1週間ほど経った日の夜、卯月がテラと想像する女性がぼんやりと光り始めた。そして朝方まで続いたその発光は、何の前触れもなく絵に吸収されるように消えた。

それはまるで終わりを告げるような消え方だった。

「じっとしていられない。行方不明者の届け・・・警察・・・成さんは何をしてるの?」

そんなイラつく卯月の気持ちを察したように、スマホが着信を知らせた。

成彦からだった。

 「テラさんは安全なところに保護されているから心配無用」

卯月は胸を撫で下ろし、改めて秀の絵をまじまじと眺めてみた。


そこには計り知れない秘密を隠し持ち、時を選んでそれを卯月に告知する絵が静かに存在していた。


翌日卯月は、秋津総合病院に立ち寄って帰宅すると言う成彦と、浅草駅で待ち合わせをした。

息の詰まる1週間を孤独に過ごした卯月は無性に秋津都に会いたくなり、成彦に頼み込んだのだ。

病院での別行動を条件に、成彦は承知した。


卯月は観光客で溢れる浅草駅の構内で気にかけていた人物を見かけ、迷わずに声を掛けた。

それはともに教団を調べていた棚伏雷樹だった。

だが雷樹は素っ気なく、はっきりと卯月を避けているのが分かった。

卯月はもやもやとした気持ちを抑えて、雷樹に連絡先を渡して離れた。


「どうしたの?棚伏雷樹・・・」


卯月は立ち止まり去っていく雷樹の後ろ姿を目で追ったが、諦めて成彦との待ち合わせの場所に向かった。

禊ぎをして何柱もの神様を生み出されるイザナキノミコトですが、最初に現れたのは悪神だったそうです。

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