捜索
「オートジャイロじゃないか、かなり旧式みたいだけど飛ぶのか?」
ハンガーで整備に打ち込むレイラに、ジュウイチが聞いた。
「あんたの機体にも一応、気化器に防塵フィルターを付けたけど、低空は注意しなよ。それと、砂嵐が来たら速攻で逃げるのを忘れないでよ、パウダーみたいな砂が入れば電装品を一発でオシャカにすんだ。この辺りでは鳥は少ないけど、砂漠に不時着するのは死ぬのと同じなんだからね」
「分かってるって、それよりこれ――」
「部品が無くてね、コイツが間に合っていればエリーも大怪我せずに済んだかもしれない」
ジュウイチの言葉を遮り、レイラが静かに言う。
「レイラ……」
ジュウイチは言葉を失った。レイラのココロの痛みが押し寄せる。
「とにかく、コイツがあれば砂漠に落ちても助けに行ける。普通の機体じゃ、滑走路のない砂地には降りられても、飛び上がれないからね」
「ああ、よろしく頼むよ」
それ以上言葉が無くて、ジュウイチはハンガーを後にした。
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「砂漠地帯にはオアシスが十数か所、しかし地図が古くて当てにはなりませんが」
「新しい地図なんて、もっと当てにならんよ」
腕組みで顔をしかめるコシンスキー、ゲイツは平然と新しい地図を広げる。そこには砂漠地帯が、輪郭だけで真っ白に描かれていた。
「索敵機を出して、シラミ潰しに探すしかありませんな。それまでは待機ですね」
「ああ、どうせ砂漠だ。索敵だけで飛行機は降りられん、戦車隊で行くしかないからな」
「山岳地帯はどうします? 先に車両部隊を出しますか」
「険しい山脈だ、車輌では無理だ。予定通り、飛行機で行くしかない」
「山岳地帯に降りる場所がありますかね?」
「探すしかないだろ。最悪、レイラが修理しているオートジャイロを待つしかない」
「そうですね。軽量化して四人と最低限の装備は積めるようにと、指示はしてあります」
「そうか」
此処まで来て焦っても仕方ない、人類の運命を握ってる様な感覚にゲイツは拳を握り締めた。
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「ラパン、何か見える?」
(綺麗なお花が咲いてるです)
「そう、エミリーにお土産にっ、じゃなくて、人の痕跡とかだよ」
苦笑いしたジュウイチが聞き返す。ラパンの視力は人の何十倍も鋭く、双眼鏡なんて及ばなかった。しかも優れているのは動体視力も同じで、高速で飛ぶ機体からでも小さな変化を見る事が出来た。
(お山の中には動物もいないみたいです、鳥さんの巣は一か所か見付けたですが)
多分、小さな動物は殆んど鳥の餌になったのだろう。この辺りは餌が少なくて、鳥の数も少ないのかもしれないと、ジュウイチはこの場所での不思議な食物連鎖に、恐怖に近いモノを感じた。
『何か見つかったのかぁ? 燃料が少なくなってきたぞぉ~ あたし、今日はエミリーと風呂の日なんだけどなぁ』
退屈そうなアネッサの通信が入る。今日は早く帰りたくて、仕方ない様子だ。この近くの捜索を開始して六日が経ったが、何も手掛かりは見付けられないでいた。
「また空振りみたいだ。鳥の巣一個、見付けたみたいだけど」
『どこだっ!』
アネッサが叫ぶ、ドキっとしたジュウイチがラパンに聞いた。
「どの辺にあったの? 鳥の巣」
(正面の、大きなお山が三つあるです。その左のお山の頂です)
ジュウイチがラパンの言葉を告げると、アネッサはスロットルを乱暴に全開して急加速で向かう。
「何する気だ!」
『知れたことだ! 鳥の野郎を丸焼きにしてやる!』
一度上昇してから急降下、アネッサは巣に向けて機銃を連射した。飛び散る巣の残骸、山々には機銃の咆哮が木霊した。
「気が済んだか? 今日は帰るぞ」
『ああ……』
ジュウイチは溜息を付く、アネッサは小さく返事した。
(あら? おじいちゃんが居るです)
「どこだ!」
ラパンが急に変な声を出す。ジュウイチが眼下の山脈を見るが、見えるはずもない。
「確認する、どこだった?」
(一番大きなお山の、真ん中辺です)
ジュウイチは急反転、そこに向かう。しかし、ジュウイチには確認できなかった。一番大きな山の隣には、山頂が長テーブルみたいな山があった。
幅は約十メートル、長さは百メートルはある様に見える。あそこなら降りられるかもと、ジュウイチはその光景を目に焼き付ける。
「確かに見たんだね?」
(はいです、間違いないです)
『どうした? 何か見付けたのか』
「ああ、人影を確認したそうだ。お前、お手柄だったな」
『何でだよ? あたしは鳥の巣をブッ壊しただけだぜ』
「だからだよ。多分、今までは隠れてたんだ、お前の無差別攻撃に驚いて出て来たんだよ」
『何だよそれ?』
「今は燃料が心配だ、一度帰るぞ」
『へいへい、了解』
ジュウイチとアネッサは翼を並べ、アストレイアに帰等した。
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艦橋では皆が集まり対策を検討していた。今までのミィーテングとは微妙に違っていたのは、エイトの横でニコニコ笑う、エミリーの存在だと誰もが分かっていた。
「ホントに見たのか? あの高度だぞ、しかも一瞬でだなんて信じられんな」
腕組みしたアネッサが、横目でラパンを見る。
(見たです……ホントです)
「俺は信じるよ」
ジュウイチに向けて、寂しそうな声を送るラパン。ジュウイチは、優しくラパンの頭を撫ぜると泣きそうだった顔が、ミルミル笑顔に変わった。
「似顔絵がある、博士に確認してもらう」
さっき書かせた似顔絵を、ジュウイチはドーキンスに渡す。横から覗き込んだ皆の目が、点になる。それは確実に、五歳児の絵だった。
「なんじゃこりゃ、エミリーの方がもっと上手いぜ」
アネッサは笑ったが、一緒に見たエイトは優しくラパンに言う。
「特徴は捉えているわ、私が子供の時より上手よ」
「ラパン、上手よ。お口が可愛いね」
嬉しそうに覗き込んだエミリーの目が、カモメみたいになる。
(ありがとです)
にっこり笑うラパンに、ドーキンスが真剣な目を向ける。
「ここの額の真ん中、ホクロは確かに二つあったんですね?」
(はいです、大きいホクロが二つです)
「断言は出来ませんが、可能性は高いです」
「それじゃ、確認の必要があるな。しかしなぁ、問題はどうやって確認するか、だ」
ドーキンスの言葉にゲイツが立ち上がり、横目でジュウイチを見る。
「行くよ。行けばいいんだろ、どうせ俺しか行けないからな」
「待て、あたしの方が適任だ!」
吐き捨てるみたいに言うジュウイチを押しのけ、アネッサが龍みたいに鼻から息を吐く。
「レイナ、エアブレーキとしてパラシュートを使いたい。出来る?」
「誰に言ってるんだ? 今晩中に出来るさ」
「頼むよ」
完全にアネッサを無視し、ジュウイチはレイナに聞く。
「お前なぁ! 無視するな! あたしだって出来るさ」
鼻息も荒くアネッサはジュウイチに掴み掛るが、あっさりとあしらわれる。
「お前、見たよな。あの、テーブルトップマウンテン。確かに、お前なら降りれるさ、でもそこまでだ。離陸には距離が足りない、あの距離で飛び上がれるのは俺のアンジェリーナだけだ」
「アンジェリーナ?」
アネッサの目が点になり、皆の頭の上に? が沢山浮かぶ。
(飛行機の名前です、ジュイチが付けました)
ラパンの言葉に全員が怪しく笑う、ジュウイチは真っ赤になった。
「何だよ、悪いかよ」
「変態だな」
真剣な顔のアルフが呟く。
「それは言い過ぎね。擬人化するのは、マニアに分類される人には多い傾向よ」
マーベルが更に突っ込む。
「そう言うプレイは、あるって聞くな」
腕組みしたゲイツが、眉間にシワを寄せる。
「まさかお前に、そんな趣味があったとは……」
感心したみたいに頷くアネッサ。
「別にいいじゃない、好き好きだし」
「そうだ、まぁ個人の自由だからな」
苦笑いのエイトに、レイラも笑いを押し殺して賛同する。呆れ顔のコシンスキーは、一人だけ違う方向を見ていた。
「お前らなぁ……」
オモチャにしやがってと、ジュウイチはワナワナと怒りを堪えた。
「まあ、何だ。行くのはジュウイチと言うことで。はいはい、解散、解散」
パンパンとゲイツが手を叩き、皆は笑いながら解散した。残されたままワナワナと震えるジュウイチを、ラパンだけが心配そうに覗き込んでいた。




