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海ゆく空のアルドーレ  作者: 真壁真菜
第一章 
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25/48

焦りと笑顔

「お疲れ様、どうでした?」


 着艦した機体から降りて来たグレッグに、エイトが歩み寄りコーヒーを手渡した。横では手を繋いだエミリーがニコニコと見上げている。


「ああ、サンキュー。今日はG地点とH地点を偵察したけど、痕跡は見つからなかったよ」


 疲れた表情のグレッグは無精髭を触った後、ニッコリとしてエミリーの頭を撫ぜた。


「そうですか」


 捜索を開始して七日、まだ何の収穫も無い。山岳地帯捜索では昨日手掛かりを見付け、今朝ジュウイチを見送ったばかりだった。焦りが無いと言えば嘘になる、エイトは何も出来ないでいることを心の中で恥じていた。


「砂漠地帯の入り口、サバンナの上も飛んだよ。サイなんて十メートル以上あるんだぜ、アンタの戦車の装甲なんて、体当たりされたら終わりだな」


 少し言葉のトーンを落とし、グレッグが呟くように言う。


「そうですね。ゾウも巨大化して凶暴になり、昔は人と一緒に仲良く暮らしていたのが夢のようだと、おじいちゃんも言ってました」


見たことは無いが、ゼルダに聞いた事があった。図鑑で見た優しく穏やかな姿を思い浮かべようとしても、エイトには凶暴な牙や、押し寄せる恐怖しか思い浮かばない。


「サバンナは猛獣の総窟だよ。あそこには、もう人は住めない。ライオンやハイエナ、チーターやジャッカル、ワニなんて恐竜だぜ。狼や熊が可愛く見える」


「確かにそうですね」


 狼や熊、鳥や猿達との戦いに、あれだけ苦労してるのに猛獣と言われる獣達の存在がエイトに戦慄をもたらした。


(最初は楽しかったですが、砂ばっかりで飽きるです。あっ、ラビーもこーひー飲みたいです)


 後部座席からピョンと飛び降りたラビーが、顔をしかめた。


「お帰り、ラビー!」


(ただいまぁ、です)


 抱き付くエミリーに、ラビーも満面の笑顔で抱き返す。


「だめよ、この前は夜寝れないって大騒ぎしたじゃない」


泡が弾けるみたいに、ラビーとエミリーの姿がエイトを救った。ラビー達を見ていると、考えても仕方ないよって言われてるみたいな気がした。


(でも、飲みたいですぅ)


 イジイジと、ラビーは爪先で甲板に文字を書く。


「明日は違う子が乗るんだろ? 食堂に行ってリンに入れて貰いな。俺がいいって言ったって、言えば大丈夫だ。エミリーも行ってきな」


(ありがとです、グレッグ。エミリーはミルクですか?)


「ああ、ホットミルクを頼めよ」


 大喜びのラビーは、エミリーを背負うと疾風のごとく走って行った。


「クリムゾン・ナイツ、何だか誤解してた。アンタんとこの、子供みたいな奴。マルコだっけ、言ってたよな……同じ人間だって。俺も今はそう思うよ、まぁ目はとんでもなくいいがな、砂漠のド真ん中、高度百メートルで突然叫びやがった。何だと思う? ラクダのクソをフンコロガシが運んでるだってよ」


 最後の方は大笑いしたグレッグだった。


「そうですね。言葉も通じるし、分かり合える。あの子達は、もう大切な仲間です」


 小さな声で呟くエイト。グレッグが笑いながら、その俯いた顔を覗き込んだ。


「何だ、元気無いな。俺達は探すだけ、アンタにはその後の大仕事が待ってるんだ。今のうちに、精気を養っとけよ」


「えっ?」


「じゃあな。俺は酒飲んで、クソして寝る」


 豪快に笑うグレッグの後ろ姿を見ながら、バレてたのかとエイトは少し笑顔になった。


___________________________



『本当に降りられるのかぁなぁ』


 アネッサの信じてない様な声に、ジュウイチはスロットルを緩めた。山頂付近の風は秒単位で向きを変え、手足に強度の緊張を強いる。


「見てろよ」


 ジュウイチはアプローチに入る、チラっと後席を見るとラパンは嬉しそうにキャノピーの外を見ている。信用されてんのかなと、ふと力が抜け笑みが漏れた。


 目視出来る距離で見た山頂は、端の方は岩肌が脆い様にも見える。着陸のショックで、簡単に崩れるかもと嫌な予感が脳裏を過り、絶壁を落下する機体を想像したが、ラパンの笑顔で簡単に振り払う事が出来た。


「揺れるぞ、しっかり捕まってろよ」


(はいです。ラパン、お手伝いする事ありますか?)


「祈ってくれ!」


 ジュウイチは出来るだけ低空で、山頂のギリギリから車輪を着地させた。アストレイアで慣れてるとはいえ、勝手は雲泥の差だ。


 砂埃が舞い上がる、地震みたいな振動は地面のデコボコを嫌でも知らしめる、車輪のブレーキは砂の浮いた地面ではタイヤロックしか生まない。緊急のパラシュートレバーを(信じてるぜレイラ!)と心で叫んで一杯に引いた。


 首を後ろに持って行かれそうなGが、強烈に掛る。目前には、大きな岩が迫る。このスピードでの衝突は、大破どころか粉微塵の結末しかない。しかし、機体は大きく左右に振られながら何とか岩の手前で停止した。


「参った~もうやらねぇぞ」


 全身の力が抜けたジュウイチが、ズルズルとシートに崩れる。その瞬間、機体が猛烈に横に持って行かれる、突風をはらんだパラシュートがまだ付いている。慌てて投棄ボタンを押すが機体の横滑りは止まらない。


「ラパン! パラシュートを切って!」


(はいです)


 声と同時に飛び出したラパンは、一瞬でパラシュートを切断した。


『詰めが甘いんだよ、ラパンが居なきゃ葬式だったなぁ』


 無線の向こう側、アネッサのニヤついてる顔が頭に浮んだ。


「うるせぇ、計算どおりだよ」


 ガクガクと震える膝を叩き、ジュウイチはなんとか機体を降りた。二人で機体の方向転換をすると、ジュウイチはその場にヘナヘナと座り込んだ。


『燃料の続く限りは援護してやるよ、めんどくさいけど』


 携帯無線機からのアネッサの嫌そうな声。


「はいはい、お願いしますよ……」


 返信したジュウイチは、一気に水を飲むとやっと落ち着いた。そして、小銃とリュックを背負い立ち上がる。ラパンもレイラに作って貰ったリュックを背負うと満面の笑顔になった。


(レイナラ作ってくれたです、ウサギのマークが付いてるですぅ)


「よかったね、それじゃ行くか。道は分かる? 俺も通れる道だよ」


 釘を刺しておかなければ、とんでも無い道を行きそうだから溜息混じりに言う。


(はいです、行くです)


 険しい? そんな生易しいモノではなかった。空から見れば美しいだけの大地は、二本の足で歩くには、手強わ過ぎる。


第一、生まれた時から城壁の中で育ったジュウイチには、ロッククライミングに近い岩場の移動など、未知の経験だった。


 ヒョイヒョイ先を進むラパン、ジュウイチは考え続ける。帰りもここを通るのかと、他に別の道はないのかと。


「一休みだ」


 息を切らせたジュウイチが、岩場の途中に座り込む。後ろを見上げても、殆んど進んで無い様に見えた。


(はいです)


 ラパンが直ぐに戻ってくる。


「ラパンは凄いな。一人なら、あっという間に降りられるんだろうな」


(ラパンは、すごいです)


 元気一杯のラパンに、ジュウイチは苦笑いする。大自然の厳しさを知っていたつもりでも、それはほんの一部でしか無い。


 これから行く山腹は森林地帯であり、城壁の中の人工的に近い森とは全然違うのだ。自分の力の無さ、自分の小ささを、照りつける太陽の下ジュウイチは改めて思い知った。


「ね、嫌じゃなかったら教えてよ。何で、ラパン達は旅をしていたの?」


(……それは、ですね、その……)


 ラパンは口籠る。ジュウイチは無理には聞けないなと、大きく深呼吸した。


「ごめんね、興味があってさ。それに今回ラパン達が助けてくれて、嬉しかったんだ。クリムゾン・ナイツは人とは関わらないって、ずっと前から聞いてたからね」


(……探してたです)


 沈黙を指先で弄んだ後、ラパンが呟いた。


「何を?」


(エイトとジュイチ、です)


「エイトと俺?」


(はいです)


「何で?」


(守る為です)


 俯くラパン、その表情からは何も窺えない。


「何か、意味が分からないな。俺やエイトを守る為に旅をして探してたの?」


(……はいです)


「それは、誰かに言われたの?」


(……母様です)


「ラパンのお母さん? どうしてって……知ってる? 訳を」


(知らないです……ただ、ジュイチ達を守る様に言われたです)


「達? という事は他にもいるの」


(はいです、沢山いるそうです)


「それなら、人全体を守れって言う事なのかな?」


(……違うです、ジュイチ達だけ、です)


 意味が分からかった。ただ言葉を発するラパンに元気が無い様に見えて、ジュウイチはそれ以上は聞けなくて、話題を変える。


「でもさぁ、俺、こんなトコ初めてだし不安だけどさ、ラパンが居てくれて本当に心強いよ」


(ホントですか?)


「ああ、頼りにしてるよ」


(頼られるです。ラパン、がんばるです!……あの、おベント食べていいですか?)


「えっ、うん。いいよ」 


 ジュウイチの言葉にラパンは笑顔を取り戻す。その笑顔がモゾモゾに変わり、ジュウイチの”いいよ”って笑顔を受け、リンに作ってもらった弁当を満面の笑みで取り出した。


 笑顔って凄い、全てを助けてくれる。ジュウイチは軽くなったココロと、疲れなんか吹き飛んで力が湧いてくる事を本当に凄いって思った。


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