背中合わせの女神
「クリムゾン・ナイツ、初めて見ました」
「どうですか? 感想は」
格納庫の隅に佇むクリムゾン・ナイツを見て、溜息を付くドーキンスにマーベルが微笑みながら語り掛ける。エイトは銃の手入れをしながら、二人の会話を背中で聞いていた。
「そうですね、深紅の瞳、深紅の髪、赤は人間の美を集約しています。姿かたちの美しさだけでなく、機能美、性能美、能力美、戦闘美、全ての美を兼ね備えています。あの細い手足にどれだけの力を秘めているのかと思うと、感動さえ覚えます」
興奮気味なドーキンスに、マーベルは低い声で答えた。
「戦うボディですからね……でも、あの美しさの先にあるモノは”死”なんですよ」
少し声を落としたマーベルに、ドーキンスは目を伏せる。
「そうでしたね……」
「博士、あの鎧に付いてる紋章、ご存知ないですか?」
マーベルは話題を変え、ドーキンスの横顔から何か探ろうとする。
「背中合わせの女神……祈りと剣」
「エイトさんと、パイロットのジュウイチ君が同じ紋章の付いた銃を持っています。二人ともにその由来は知らず、親から受け継いだモノだと言ってます」
顔を上げたエイトが、無言のままドーキンスの横顔に視線を集中する。
「そうですか。あの艦橋にいた、若いパイロットですね。彼はいつも、あんな感じなのですか?」
「えっ、そうですね」
違和感のある質問だった、聞かれたマーベルは言葉を濁した。その答えを聞くと、小さく咳払いをしたドーキンスが話を続けた。
「私の記憶違いでなければ、ある神の紋章に似てますね」
「どんな神様ですか?」
「時の神、クロノスです」
「だとしたら、あの紋章の意味は?」
「意味、ですか?……神と同じ紋章を持つ者、意味があるとしたら……選ばれし者」
低い声のドーキンスは、何故が目を伏せる。マーベルの中に言葉に言い表せない不安が、首をもたげた。エイトはドーキンスの言葉に、一瞬手を止めたがすぐに作業に戻る。
「あのクリムゾン・ナイツ達、実は私が依頼した訳じゃないんです。彼らから一緒に行きたいと……」
「そうなんですか」
「ええ、何らかの意図がある様に思えます」
「そうですね。いったい彼等は何処から来て、何処に行くんでしょう……」
ドーキンスはもう一度クリムゾン・ナイツを見た。気付いたクリムゾン・ナイツ達は優しい笑顔で二人を見返した。
「まだ、やり直しは出来ますよね……」
呟くマーベルの横顔を、今度はドーキンスが見た。
「確かにあなたが仰った通り、始まりは目先だけしか見てない愚行でした。しかし、我々は救いたかったのです。飢餓や食料をめぐる争いから……人々を。地球という生命体は、その小さな始まりから途方もない坂を転げ落ちています。全ての生命体を巻き込んで――」
「否定も肯定もしないんですね」
黙って話を聞いていたエイトがドーキンスの言葉を遮って立ち上がり、そっと背中を向けた。 見送るドーキンスは、大きく深呼吸すると黙って格納庫を出て行った。
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「砂漠なら、獣なんて居ないよな」
「ああ、ラクダとかしか居ねぇンじゃないか」
嬉しそうなイワンにオットーも笑いながら言う。
「それでもちゃんと整備しとかないと」
マルコが車体の下から顔を出し、二人を睨んだ。
「大丈夫だって、鳥も砂漠には来ないって聞いたぜ。なんせ、食うモノも水も無いんだからな」
「オイラ達、そこに行くんですけど」
浮かれるイワンが嬉しそうに見降ろすと、マルコが眉をひそめた。
「ヘビやトカゲ、クモやサソリがいるぜ。それもかなり巨大化している」
ハッチから顔を出したオルガが、無表情で水や食料、弾薬を積み込む。
「あのシードラゴンみたいな奴だろ、昼間は暑くて夜にしか出ないってさ、アルフさんが言ってたよ。だから、夜は戦車から出なければ安全。俺達は、昼間に行動すれば楽勝って訳だ」
寝そべったイワンが笑い、オットーもつられて笑う。
「全員整列」
エイトがやって来て号令を掛ける、慌てて全員が整列した。
「あれっ? 隊長、エミリーは?」
マルコが周囲を見回す、いつの間にかエミリーは皆の中に溶け込んでいた。アネッサでさえ、エミリーの前ではメロメロだった。
「大丈夫。食堂のリンさんに見てもらってるから」
ニッコり笑って言った後、うほンと咳をするエイト。背筋を伸ばすと続けた。
「普通、砂漠には人は住めない。だから、本当は何が居るか誰にも分からないのよ」
「聞いてたのか」
「しっ!」
エイトが訓示を始めると、イワンが呟きオットーがその脚を蹴った。
「砂漠はアネクメーネと呼ばれる死の場所よ、そこでの機材故障は普通の故障ではない。即、死に繋がると言う事を肝に命じて」
「隊長、そのアクア何とかって何ですか?」
「人が住めない場所の事だ」
イワンの質問には呆れ顔のオルガが答え、エイトは笑顔で銀色に輝く甲冑を紹介した。
「紹介します、クリムゾン・ナイツよ。名前はラビー、我々と行動を共にします」
(よろしくです。名前はエイトに貰ったです、気に入ってるです)
全員の脳裏に可愛い声が響く、驚いたイワン達が顔を見合わせる。勿論、マルコを除いて。
ラビーは短めの剣を両腰に差していた、髪はポニーテルにしている。
「他の子の名前は? あの子はラパンって知ってるけど」
笑顔のマルコが、ラパンの隣にいる二人を見た。
(髪にウエーブがあって、槍を持ってるのがラピーです。ラビーが名前をあげたです)
「微妙に違うのね」
オットーが苦笑いする。
(隣の長い髪を括ってなくて、二本の剣を背中に背負ってるのがラポンです。ラパンが名前をあげたです)
嬉しそうな顔で、更にラビーが紹介した。
「ポン……って」
愛想笑いのマルコが冷や汗を流す、オルガも苦笑いした。
「ねぇ、質問。何で助けてくれるの?」
今度はイワンが手を上げて質問した。
(それは……秘密です)
はにかむ様なラビーの仕草に、皆は顔を見合わせて笑った。エイトには何か引っ掛かるモノが、胸の奥に存在した。
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