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Canvas  作者: 紫雨
番外編
9/9

more Happiness

[Happiness]の後日談のようなものを書いてたら少し長くなりました。


 大晦日のお昼、高橋と階堂君と私は、由佳里のバイト先であるファストフード店でハンバーガーを食べていた。


「亜希ちゃんは結局何をあげたの?クリスマスプレゼント」

「…ケーキを、焼いた」

「うん、美味かった」


 ケーキをの材料を探していたら母に見つかり、私の家に招待してクリスマスパーティーをするという大事にまで発展してしまったのだ。


「パーティも楽しかった、ありがとね」

「…いや、あれはほんと…うちの母が、なんかごめんね」

「なんだ、じゃあもう付き合ってんのか」

「…え?」

「……まだなの!?」


 ああ、なんだか既視感を覚えるやりとりだ。




「なんなの高橋!紳士なの!?」

「は?いや別に…」

「高橋は、いいって言ってくれたんだよ…」

「だーーかーーらーー!!亜希ちゃん、こないだオレの言ったこと伝わってないの!?」

「えっと……」

「階堂、やめろよ、余計なこと言うの」

「余計なことってなんだよ!大事なことだろ!オレは二人のキューピットなんだぜ!?」

「ややこしくするのもいつもオマエじゃんか…」

「紳士って言うよりもはや僧だね!高橋モテるのにさーー!」

「うるさい!!」


 がいんと大きな音がして、階堂君の頭の上にトレイの束が落ちてきた。声の主は、由佳里だ。


「声がでかいのよ!それに、亜希が困ってるでしょう!!」

「い、痛い…」


 殴られた頭を抱えるようにして、階堂君は蹲ってしまった。由佳里、強し。





                *   *





 店を出て、高橋と二人で帰り道を歩く。

 日が短いので夕方4時でも薄暗く、街灯がゆらゆらと光る。


 私は性懲りもなくずっと、階堂君の言葉を反芻していた。


「…亜希、前も言ったけど、階堂の言うことなんか気にしなくていいんだからな」

「ん……」

「(聞いてないな…)」



 この間、私が考えすぎてお風呂でのぼせてしまったとき、二人で結論は出した。そのはずなのに、未だに何かもやもやしてる。

 だって、私、高橋のこと、大事に思ってるんだよ。

 階堂君の言う通りなら、傍からみたらそれって、伝わってない――?


「高橋」

「ん?」

「初詣、行こうね」

「うん?そのつもりだったけど」


 ていうか、こないだ約束したじゃん、と不思議そうに彼は言う。

 失敗だ、そうじゃなくて。



「…手」

「ん?」

「…手、繋ご」


 私はそろそろと、高橋の方に手を伸ばした。



「…亜希、どうした?」


 心配そうに私を見る高橋は、私の手を握ってはくれない。

 これではダメなんだ。どうしたら、伝わるのだろう。



 高橋のことが、大事なの。

 だから、彼が嬉しいと、私も嬉しい。彼を喜ばせたい。

 今、私の頭の中は、そんな想いでいっぱいなのだ。



「………亜希?」


 私は手を伸ばしたまま、立ち止まった。

 上手く伝えられなくて、悲しくなってくる。



「高橋、あのね」

「うん?」

「高橋が、喜ぶことを、したいの」

「うん」

「無理してるとかじゃ、なくてね…?」



 ただただ、手をつないだら、高橋が喜ぶんじゃないかって思った。そんな、単純な考え。

 それはとっても、自惚れた発言であるという自覚はあった。

 恥ずかしくなって、未だ伸ばしたままだった手を下ろし俯いた。



「…ねえ、亜希。それってさ」



 高橋が、そっと私の手をとった。



「俺のこと、だいすきってことだよね」



 そして私を覗き込んで、にこっと微笑む。



「…っへ、ええ?」

「だって、俺が嬉しいと、亜希も嬉しくて、幸せにしたいって思うんだろ?」

「…う、うん…」

「それ、俺が亜希に抱いてる感情と、同じだもん」

「そ、そうなの…?」

「俺、亜希のこと、だいすきだから」


 私は一体、今まで、何にこだわっていたんだろう。

 そんなものたちも全部すうっと消えて行って、残ったのはとてもシンプルなかたちだった。




「……私、高橋のこと、すきみたい……」




 私がそう言ったら、高橋はとてもうれしそうに微笑んで、だけど少し遠慮がちに、私を引き寄せて抱きしめてくれる。

 それに応えるように、私も彼の背中に手を伸ばした。

 今まで触れてこなかったのが嘘みたいに、彼の温もりは私になじんだ。




「亜希」


 高橋が、私の名前を呼ぶ。

 それが今までよりもずっと、綺麗な音色に聞こえた。


 見上げれば彼の瞳がやさしく私を見つめてくれていた。

 それを見て私は、吸い込まれるように顔を寄せた。

 すごく、自然に、唇が触れた。


 この時私は、恥ずかしいだとか照れくさいだとか、そんな気持ちはなぜだか一切なくて。ただ、触れたいと。不思議とそう思っていた。


「…っ、ちょ、待って…」

「…?」


 唇が離れると、顔を真っ赤に染めた彼が、顔を手で覆いながら絞り出すように言う。


「幸せすぎて、やばいんだけど……」



 胸にポカポカと、温かいものが生まれたのがわかる。

 あなたが幸せだということが、わたしも幸せなのだということ。



 この瞬間、私はこの想いをずっとずっと、大切にしていこうと心に決めたのだった。





(おわり)

2015.04.22

これにてCanvas完結となります。

階堂と由佳里の話も書きたいな~とは思っておりますが、ひとまず閉店。

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