more Happiness
[Happiness]の後日談のようなものを書いてたら少し長くなりました。
大晦日のお昼、高橋と階堂君と私は、由佳里のバイト先であるファストフード店でハンバーガーを食べていた。
「亜希ちゃんは結局何をあげたの?クリスマスプレゼント」
「…ケーキを、焼いた」
「うん、美味かった」
ケーキをの材料を探していたら母に見つかり、私の家に招待してクリスマスパーティーをするという大事にまで発展してしまったのだ。
「パーティも楽しかった、ありがとね」
「…いや、あれはほんと…うちの母が、なんかごめんね」
「なんだ、じゃあもう付き合ってんのか」
「…え?」
「……まだなの!?」
ああ、なんだか既視感を覚えるやりとりだ。
「なんなの高橋!紳士なの!?」
「は?いや別に…」
「高橋は、いいって言ってくれたんだよ…」
「だーーかーーらーー!!亜希ちゃん、こないだオレの言ったこと伝わってないの!?」
「えっと……」
「階堂、やめろよ、余計なこと言うの」
「余計なことってなんだよ!大事なことだろ!オレは二人のキューピットなんだぜ!?」
「ややこしくするのもいつもオマエじゃんか…」
「紳士って言うよりもはや僧だね!高橋モテるのにさーー!」
「うるさい!!」
がいんと大きな音がして、階堂君の頭の上にトレイの束が落ちてきた。声の主は、由佳里だ。
「声がでかいのよ!それに、亜希が困ってるでしょう!!」
「い、痛い…」
殴られた頭を抱えるようにして、階堂君は蹲ってしまった。由佳里、強し。
* *
店を出て、高橋と二人で帰り道を歩く。
日が短いので夕方4時でも薄暗く、街灯がゆらゆらと光る。
私は性懲りもなくずっと、階堂君の言葉を反芻していた。
「…亜希、前も言ったけど、階堂の言うことなんか気にしなくていいんだからな」
「ん……」
「(聞いてないな…)」
この間、私が考えすぎてお風呂でのぼせてしまったとき、二人で結論は出した。そのはずなのに、未だに何かもやもやしてる。
だって、私、高橋のこと、大事に思ってるんだよ。
階堂君の言う通りなら、傍からみたらそれって、伝わってない――?
「高橋」
「ん?」
「初詣、行こうね」
「うん?そのつもりだったけど」
ていうか、こないだ約束したじゃん、と不思議そうに彼は言う。
失敗だ、そうじゃなくて。
「…手」
「ん?」
「…手、繋ご」
私はそろそろと、高橋の方に手を伸ばした。
「…亜希、どうした?」
心配そうに私を見る高橋は、私の手を握ってはくれない。
これではダメなんだ。どうしたら、伝わるのだろう。
高橋のことが、大事なの。
だから、彼が嬉しいと、私も嬉しい。彼を喜ばせたい。
今、私の頭の中は、そんな想いでいっぱいなのだ。
「………亜希?」
私は手を伸ばしたまま、立ち止まった。
上手く伝えられなくて、悲しくなってくる。
「高橋、あのね」
「うん?」
「高橋が、喜ぶことを、したいの」
「うん」
「無理してるとかじゃ、なくてね…?」
ただただ、手をつないだら、高橋が喜ぶんじゃないかって思った。そんな、単純な考え。
それはとっても、自惚れた発言であるという自覚はあった。
恥ずかしくなって、未だ伸ばしたままだった手を下ろし俯いた。
「…ねえ、亜希。それってさ」
高橋が、そっと私の手をとった。
「俺のこと、だいすきってことだよね」
そして私を覗き込んで、にこっと微笑む。
「…っへ、ええ?」
「だって、俺が嬉しいと、亜希も嬉しくて、幸せにしたいって思うんだろ?」
「…う、うん…」
「それ、俺が亜希に抱いてる感情と、同じだもん」
「そ、そうなの…?」
「俺、亜希のこと、だいすきだから」
私は一体、今まで、何にこだわっていたんだろう。
そんなものたちも全部すうっと消えて行って、残ったのはとてもシンプルなかたちだった。
「……私、高橋のこと、すきみたい……」
私がそう言ったら、高橋はとてもうれしそうに微笑んで、だけど少し遠慮がちに、私を引き寄せて抱きしめてくれる。
それに応えるように、私も彼の背中に手を伸ばした。
今まで触れてこなかったのが嘘みたいに、彼の温もりは私になじんだ。
「亜希」
高橋が、私の名前を呼ぶ。
それが今までよりもずっと、綺麗な音色に聞こえた。
見上げれば彼の瞳がやさしく私を見つめてくれていた。
それを見て私は、吸い込まれるように顔を寄せた。
すごく、自然に、唇が触れた。
この時私は、恥ずかしいだとか照れくさいだとか、そんな気持ちはなぜだか一切なくて。ただ、触れたいと。不思議とそう思っていた。
「…っ、ちょ、待って…」
「…?」
唇が離れると、顔を真っ赤に染めた彼が、顔を手で覆いながら絞り出すように言う。
「幸せすぎて、やばいんだけど……」
胸にポカポカと、温かいものが生まれたのがわかる。
あなたが幸せだということが、わたしも幸せなのだということ。
この瞬間、私はこの想いをずっとずっと、大切にしていこうと心に決めたのだった。
(おわり)
2015.04.22
これにてCanvas完結となります。
階堂と由佳里の話も書きたいな~とは思っておりますが、ひとまず閉店。