表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不機嫌の魔女とショコラティエ  作者: 夜瀬 深月
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/6

映しの魔女

ミルラの友人:ルシエラ・グレイスフィア

 最近、ミルラの様子が変だ。


 ミルラは、前日に使ったポットは洗わず、流しに放置しているタイプの魔女だ。だから僕はいつも、レミナンスに到着したら一番にポットを洗い、お湯を沸かして、新しい紅茶を淹れている。だが、ここ最近は僕の知らない異国の香りのするお茶が、先に用意されているのだ。これだけでも十分に違和感があるのに、それに加えて、普段彼女が僕に押し付けていたラベル貼りの作業も、僕が声を掛ける前に終わらせてしまっている……。


 気分が変わっただけであれば良い。でも、僕がレミナンスを訪れる大義名分を取り上げられていくようで、なんだか悲しくなってきた。そして極めつけは、昨晩。普段僕にほとんど話しかけてくることのないミルラが突然、僕の目を見ながら「いつもありがとう」と言ったのだ。深い夜の色をした美しい瞳で見つめられ、僕の心臓は、これ以上ないくらいに跳ねてしまい、ちゃんと返事ができたかどうかも怪しい。ただ……よく考えるとこれは、物語で言うところの『不吉な予兆』ではないだろうか……。明日、隕石でも降ってきたらどうしよう……。取り留めのない不安が徐々に頭を支配してゆく中で、気がつけば僕は、レミナンスの裏口に辿り着いていた。こうして周りの風景を見ずともレミナンスに来ることができる程、ミルラとの付き合いも長いのだ。不安になる一方で、彼女のことも心配だった。


 僕は両手をぐっと握りしめ「今夜こそは原因を聞くぞ」と気合を入れてから、裏口の扉を開けた――と同時に、表の扉にあるドアベルがこれまで聞いたことのない程、騒がしく鳴り響いた。


 強盗でも来たのかと思い、最近よく鳴る心臓を押さえながら、裏口を入ってすぐのところにある薬草置き場の陰にしゃがみ込んだ。だが、次に聞こえてきたのは、意外にも可愛らしい女の子の声だった。



「ごきげんようミルラ! 久しぶりね! 最近音沙汰無いから心配してたんだけど、元気そうで嬉しいわ! ねぇそれ、誰からの手紙?? あ、もしかしてラブレターとか!? 私にも見せてー!!」



 女の子の突き抜けて明るい声は、普段、秒針の音ですら大きく聞こえるレミナンスの空気を一瞬で、がらりと塗り替えてしまった。


 ……驚いた。


 ミルラにも、ここまで親しげに話せる人が居たのか……。長い付き合いだからと彼女を知った気になっていた自分が恥ずかしい……。このまま、ここに穴でも掘って埋まろうかな……。


 すると、少しの間黙っていたミルラは、迷惑そうな声で呟いた。



「……ルシエラ、うるさい。これは、どちらかというと呪いの類いよ。……あと、リュネ。いつまでそこに居るつもり??」



 あぁ、駄目だ。隠れた所から全部見抜かれている……。僕は、先程の比ではないくらい穴を掘りたい衝動に駆られたが、ミルラに呼ばれた以上どうすることもできず、うつむき加減でカウンターまで歩いた。


 ちらりとミルラを見ると、呆れたように肩をすくめていた。……あまりこちらを見ないで欲しい。カウンターには、透き通るような金色の長い髪を胸の辺りで柔らかくカールさせた女の子が、姿勢よく椅子に座っていた。瞳は、サファイアをそのまま閉じ込めたかのような美しい青色で、「天使みたいだ」というのが第一印象だ。無意識に魅入っていると、その女の子は突然、青い目をぱっと輝かせて、大きな声で叫んだ。



「え!? ミルラの店に男の子が!?」


「……ルシエラ、うるさい。用が無いなら帰って」



 自己紹介すべきだろうか……。僕がそわそわしていると、ミルラは大きく溜息をつき、女の子の紹介をしてくれた。



「彼女はルシエラ・グレイスフィア。『映しの魔女』と呼ばれてて、ガラスや、鏡面に映る人の感情が色で見える。……デリカシーが無いから気をつけて」


「ちょっとミルラ、初対面の人にその紹介はあんまりじゃない?? 初めまして。映しの魔女、ルシエラ・グレイスフィアです。よろしくね、リュネ君!」



 ルシエラさんは、流れるような所作で立ち上がり、ほっそりとした手を僕に差し出した。雰囲気と話し方に落差があって怖いが、僕はルシエラさんの手を取って簡単に自己紹介を済ます。すると彼女は、不意に僕から見て左側にある窓を見つめ、固まってしまった。



「? どうしましたか?」


「あ……いやぁ……な、なんでもないよ……!! うん!! なんでもない!! 窓の外に居た鳥がね!! 煙突にぶつかって落ちただけ!! うん!!」



 彼女は光の速さで僕から手を離し、今度は繊細なスズランの刺繍が入ったワンピースの生地を力強く握っている。この人、ものすごく嘘が下手だ……! きらきらとした青い目が挙動不審に泳ぎ始めたところで、なんだか居た堪れなくなった僕は、暗い目で手紙を見つめ、頬杖をついているミルラに話を振ることにした。



「ねぇ、ミルラ。その手紙、前にノアが持ってきた、アベルさんって人のだよね? 読まないの?」


「……うん。この手紙には……」



 ミルラが話し始めたところで、控えめなノックとドアベルの音が鳴った――。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ミルラとリュネに少しでもご興味を持っていただけましたら、

★評価やご感想を頂けますと、私、泣いて喜びます。


改めて、ありがとうございました!

今後ともよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ