4月13日
AM5:30。
モル達の「プぃぃぃい!」という餌くれ催促の鳴き声と共に、眠たい目を擦りながらも起きた私は、寝ぼけ眼で準備を始める。
私が準備している傍ら、父モルの豆太郎がケージをカジカジしながら「はよ飯くれぇぇ」とせがんでいる。
ちなみに豆太郎は、貫禄増し増しの一キロ越えの三毛モルだ。目の周辺がパンダみたいな柄をしているが、名前からして『金太郎』みたいな響きでとても相応しい。
しかし、どうしてこんなにずんぐりむっくりになった。時たま草入れの前でおっさんの如く、寝ながら牧草を食っている所を見かけることがある。
あと、その貫禄増し増しの豆太郎の息子が小豆だ。茶色ベースの三毛モルだが、父モルの豆太郎より、半分程の大きさしかない。
が、こいつも同様。デグーの様にケージをカジカジしながら「はよ飯寄越せぇぇ」とせがんでいる。
普通より小さく生まれてしまったせいか、8ヶ月ほど経った今でも、オスなのに1キロにも満たないのだが、やんちゃでいたずらっ子でもあるから、油断はできない。父モルの豆太郎の耳をかじるわ足をかじるわ、飼い主の足の爪狙ってかじるわ甘噛みするわで……。
オマケに脱走癖もある為、掃除をしようとすると、度々ケージから飛び出しては「ぷぷぷぷぅ~」と、陽気に鳴きながら部屋中を駆け回るものだから、誰に似たのやら……。
全くこのモル達は、いつ見ても可愛いんだから。
と、親バカを発揮していた私に関してはえっと、確か、お腹に子供がいるかもしれない可能性がある。んだよね。
にわかに信じ難い現実離れした様な感覚だったが、生理が1ヶ月以上来てないからそうか。と自分に言い聞かせて納得してしまう。
でも、同棲して13年経ってから、妊娠発覚かぁ……。
不安だけど、今日一日、他の作業員にバレないように、頑張って仕事しよ。噂が広まるのだけは、何としても避けたいのでね。
なので、眠気を押し殺しながら朝の支度をし、家を出ることにした。
と言っても、派遣社員な為、送迎バスに揺られながらの出勤だ。本当に有難い。
少し仮眠をとりながらも、密かに連載している『ある小説』の執筆をスマホでしつつ、秘め事も同時進行で行っていく。
ちなみに今、密かに書いている小説は、サスペンスとか群像劇みたいなモノだ。実は彼(旦那)にも秘密にしている秘め事だ。
読者はきっと、作者が送迎バスに揺られながら、眠気と戦いながらの傍らで、裏組織、裏何でも屋がメインの小説を書いているだなんて、思わないだろう。
それが私という人間だ。
職場に到着すると、早速今回の人員配置が、目に付いた。
あー。OK。場所を把握した私は早速着替えることにする。
「あー。おっはよー」
「あー! おはようございますぅー!」
船ちゃんだ。
私とほぼ身長が変わらない、黒髪ボブショートで、銀縁のメガネをかけた子だけど、年は21歳だ。肌からしてピチピチで若えぇ……。
あ。ここでは本名で言わず、私の中で決めた愛称で呼ぶことにする。
ちなみに船ちゃんとは向かい側のロッカーで近いから、よく話しちゃうんだよね。特にモル達の話で。
「そーいやうちの小豆がさぁ、よく草入れのスタンドを頭でグワッと上げてひっくり返すんだよね~」
「ありゃりゃ! あずきちゃん、元気なこと!」
「でしょ!」
仕事の話はそっちのけで、モル達の話をしてしまう。
でもお陰で私が『妊娠している』という事を隠せているのも事実だ。
もしまめあず達がいなかったらとっくにバレていただろう。すまない。隠れ蓑で君たちの話をしてしまって。
後で家に帰ったら、ご褒美として快腸ぐらしを献上せねば。こう見えて、家の中での私は、モル達の下僕でもある。
「おっはよぉ~ございまぁ~~す」
そして、気だるそうにフラフラと歩きながらやってきたのは、岡さんだ。
「あ。おはよー、ございます」
「あーっ! しるだぁ! しるしるぅ!」
「しるってなんだ! 私の名前はしるじゃないんだけど……」
「だってぇー、作ってるのしるじゃん! だからあだ名はしるしるぅ!」
「……はぁ」
思わずため息をついてしまうが、彼女、年は私の倍あるのに、何故か話す言語がこれなのよ。かれこれもう、50近いはずだ。それなのに、話し方からして、あまり知性を感じないのが不思議だ。
と、直接言ったら、ディスってしまうので、言わないでおこう。
オマケに彼女は大のおしゃべり好きだ。口から生まれたのであろうかと思うほどに、喋り出すと、永遠と止まらない。
湯水の様に湧きまくって喋っては、ウザがられる。という人だ。
「今日外皮頑張ってねぇ~」
「うぃー」
私は適当に返事をし、髪の毛がはみ出ない程の長いネット付きの白い帽子に上下の長袖制服という完全防具の状態に着替えると、時間までに休憩室で待つことにした。
これが現場で作業する時の私らの格好だ。仕事モードと言っておこう。
そういえば今日は10キロ以上あるイカリみたいな形をしたホッパーを持ち上げては取り付けて……、だったなぁ。
簡潔に言えば、材料をひたすら混ぜる作業だ。
一人作業とはいえ、お腹に秘め事を抱えながらの作業だ。無理しないように程よく頑張ろう。
そう自分に言い聞かせながらも、現場へ降りると、早速作業を行うことにした。
だけど、近くにホースが付いたおかげで、水を20キロほど測るのがとても楽になった。改善、ありがたい。
それと、工場での作業は、常に危険と隣り合わせだったりする。
指を挟んだら骨折するな。とか、滑って転んだら痛いよな。とか。あとは回ってる時は手を入れたら、海外でよく見るスプラッター映画みたいになってしまうな。とか。
オマケに今の私は秘め事を抱えながらだ。余計にその辺に気を使ってしまう。
だけど、工場は常日頃から、危険を見つけながら、少しずつ対処していくから、今では何処に危険があるのか、探すのが大変なぐらいに、完璧に整っている。
そんな訳で黙々と作業をしていると、あっという間に午前の休憩の時間になった。
休憩等は場所によっては自力のところもあるが、基本は交代が来る。
やり慣れている人が来るから、交代も安心だ。
ここに着色料が入れてある容器があります。あと3つ程残っているので平気です。と簡単な引き継ぎをし、上にある休憩室へと向かう。
上には無料で飲める冷たい水があるので、飲み物には当分困らないだろう。
自販機が3つ程並んでいて、そこにキャッシュレス決済ができる自販機が二つと、お金を入れるとカップが出てくる自販機がある。
私は基本、無料で飲める冷たい水を飲むのだが、最近、冷たすぎてひんやりすることがあるので、お湯で少しぬるめの温度に調整して飲む事にしている。
こうなったのも、秘め事を抱えているからだろう。初期とはいえ、あまり冷たすぎる飲み物は良くないとジェミーが教えてくれたのでね。
今は何かとジェミーやらチャッピーがアドバイスをくれる時代になって便利だな。と思っていた。
ちなみに創作のプロット等のまとめやら人物設定に関しては、チャッピーと話しながら決めることが多いが安心していい。書いている小説全部、AIに丸投げしている訳では無い。
オリジナルが溢れているし、完結済みの小説に関しては、趣味全開の作品と感想で言われたほどだ。
そう思い耽っていたら、あっという間に休憩時間が終わってしまった。
あぁ。もっと妄想を膨らませたかったのに。
そして再び戻って作業をしていると、グルグル回るホッパーを見て、こう思うことがあった。
そういえば、とある洋画ホラーで、これに近い機械に人間が入って、巻き込まれていたよなぁ。
その機械は今、私の目の前で回っている物よりも数倍大きいけど。
今度、デスゲームモノを書く時、取り入れてみようかな。
こんな感じで小説のネタを集めつつ、作業をしているのだ。
「あ。もうこんな時間だ……」
時計を見るとAM10:30。室くんという、面倒臭い先輩が出社してくる時間だ。
あぁ。そいつは私にとっては、とてつもない程の難敵だ。
何故ならしつこく質問攻めをしてくるわ、私がいるところにふらーっと現れては「そういえばさ、こんな事があってさぁ~……」とか、彼の話の9割は仕事の話ではなく、『しょーもない雑談』で埋め尽くされるのだ。
仕事に来ているんだから、真面目に仕事しろ。と何度も言っているが、全く聞かないのが、困り要素だ。担当にも言ったこともあるが、担当も呆れ返る程だ。
あまりのウザさにいっその事、ホッパーに突っ込んでやろうかと殺意を抱いた事さえもあったが、それで逮捕されるのは流石に嫌だからやらない事にしている。
小説として書くなら、確実にネタとして仕込んでやっていたかもだが。
そんな訳で室くんが意気揚々と出社してきたのだが、何故か周囲に人がいないか、キョロキョロと確認しながら来ては、こう話しかけてきたのだ。
「ええっと、社畜ちゃんは、その、ラーメン好き?」
「は? 好きだけど……」
「そうなんだぁ! ラーメン食べないのかと思っていたよ!」
「なんでぇえ!?」
「え? だって、『そういう庶民的なもの、食べないから』ていいそうで……」
「いやいやいや! ラーメンは庶民的なものでは無いからね!? 現に高級ラーメンってあるほどだし……!」
そう。彼と会う度に、こんな会話が続くのだ。とても面倒臭いし、若干ストレスが溜まるのよね。しかも、前にも同じ事を聞いていたのだが、ちゃんと人の話、聞いてないだろ。こいつ。と思いながら、私、社畜は適当に相槌を打っている。
こいつ程面倒臭い人間はどこ探してもいないだろ。と思うのだが、顔だけは無駄に良いから余計にムカつくのよ。昭和ベース寄りの顔つきで、小麦色の肌。眉もキリッとしているから、黙ってればモテるのに……。
と毎度思うけど、朝に会った岡さん同様、口から生まれた奴だ。こいつらの脳内には、黙るという選択肢は、脳内でとっくに消えているだろう。
なので、適当に相槌を打ちながらやり過ごすのが正解だったり。




