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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第2部:アテナイ戦争
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祝勝会

 お昼に発生したアトランティス軍の攻撃は数時間で収まった。私達はお昼を食べる暇こそ無かったものの、それ程の被害も無くアテナイ軍はアテナイを守り切った。


 そして、今回の規模であれば、通常は十名程の兵士が再起不能となる。手足を切断せざるを得ず、兵役を続けられなくなるそうだ。


 けれど、今回は血清ポーションに治癒の軟膏。この二つの活躍で、そういった事態は回避出来た。重症の患者であっても、数日の入院で完治するだろうとの事である。


 私達は遅めの昼食兼夕食として、マカーオーンさんの家で祝勝会を開く事となる。そして、パナケイアさんの用意したご馳走とワインを前に、私は兄妹からの歓待にたじろいでいた。


「ケンジ先生! 本当にありがとうござます! 俺は医者をやっていて、今日ほど感動した日はありません!」


「私も同じです! ケンジ様もイノちゃんも、本当に素晴らしい! お二人は私にとっての憧れなのです!」


 祝勝会が始まってまだ数分。手元のワインだって、まだ口を付けていない。それにも関わらず、二人の熱量は相当に高いものだった。


 隣を見るとイノは、手元の盃に魔法を掛けていた。この地では衛生管理の問題で、子供でもワインを飲む。


 けれど、アルコールが体に悪い事をイノは知っている。なので、彼女は魔法でアルコールを揮発させているのだろう。


 イノは我関せずと言う態度だが、それは仕方が無いのだろう。余りペラペラ話して、迂闊に情報を漏らす訳にも行かない。彼女の存在は極力隠す必要があるからね。


 私は仕方が無いなと思い、前のめりな兄妹の相手を始める。


「事前にお伝えした通り、あのポーションと軟膏はパナケイアさんが作った物です。私達が作った事は誰にも話さないで下さいね?」


 これは重要な話なので、私は強めに念を押す。けれど、二人はそれに対して渋い表情となる。


「これ程の偉業を奪う訳には行きません。血清と言う概念は、医学の進歩に大いに寄与するでしょう。それを我々が発見した事にする等、余りにも恥ずべき行為です」


「魔法の概念も大きく変わります。魔法とは神々から授かった奇跡。教えられた通りに行使するのが常識だったのです。ケンジ様の教えは、それらを覆す物なのです」


 魔法の概念を覆す? それに、神々に教わった通りに行使するのが常識?


 パナケイアさんの説明に私は内心で唸る。そして、その常識がどうして出来たのかは想像出来た。


 神々は自らの権威を示す為、自らの血を引く者達に魔法を与えた。しかし、その魔法を使って人間が進歩し、力を付ける事を神々は避けたかったのだ。


 だからこそ、必ず教えた通りに使う様に指示した。神々が予期せぬ形で、人間が神の予想を超えない様にだ。


 そう、神々を超えかねない存在……。――アスクレーピオスの様な存在が、人々の中に多く生まれぬ為にである。


「……血清ポーションや治癒の軟膏は秘匿すべきでしょうね。使うのはこの病院内だけにすべきです」


「「――なっ……! どうしてですか……!!!」」


 兄妹は同時に叫ぶ。彼等からすれば、これは医学にとって大きな進歩だ。それを隠すだなんて、とんでもないと思っているのだろう。


 しかし、私はゆっくりと首を振る。そして、言いたくは無いが、彼等に最も伝わる言葉で伝える事にした。


「私の考え方は神々にとって都合が悪いのです。その知識を持つと知れ渡れば、お二人はきっと――父と同じ運命を辿ります……」


「「――っ……?!」」


 彼等の父であるアスクレーピオスは、友人の子を蘇生させてゼウスに殺された。魔法がもっと自由に使えると知れ渡れば、きっと二人は同じく殺される可能性が高い。


 そんな危険な知識を与えた事に罪悪感はある。けれど、私は今回の件に対して、反省しても後悔はしていなかった。


「今回は目の前の命を助ける為、止む無く知識を共有しました。けれど、本来ポーション化は教えるべきでは無かったのです。私が医者としてこの場に居る意味を、お二人ならば理解して頂けますね?」


「「…………」」


 そう、これは私が独断で行った事だ。全ての責任は私にある。女神アテナやテセウス王だって、私に求めたのは医学を伝える事だけだった。


 けれど、それでも私は行動を起こした。目の前の命を見捨てられなかったから。それをする位ならと、私はリスクを取ったのである。


 命に真摯に向き合う二人ならば、わかってくれると私は信じていた。そして、その想いを二人は汲み取ってくれた。


「わかりました、ケンジ先生。ポーション化について秘匿します。使うのはこの病院内だけにし、これがポーションであると言う事は誰にも告げません」


「承知しました、ケンジ様。私は魔法に頼らずに、いずれは血清を完成させてみせます。それは医者としての私が、成すべき事だと考えているからです」


 そして、二人は腰を上げる。身を乗り出して、私の左右の手をそれぞれに握りしめた。


「けれど、私はこのご恩を一生忘れないでしょう。私はこの先の人生、貴方を心の師と仰ぎ続けます。必ず、ケンジ先生の弟子に相応しい、立派な医者となってみせます」


「私と兄が学んだのは、医者としての在り方です。ケンジ様の生き方は、父のそれと何ら変わりません。偉大な恩師に出会えた事こそ、私達にとっての生涯の宝なのです」


 何やら大仰な言葉を掛けられ、私には戸惑いしか無かった。こんな時に、どう切り返せば良いのか、上手い言葉が見つからなかったのだ。


 私は困って隣のイノを見る。すると、彼女は顔を上げて、兄妹に対して満面の笑みを浮かべた。


「だから言ったでしょう? お父様は、人に教える天才なのだと!」


 それは私の欲した返しでは無い。けれど、目の前の兄妹にはそうでは無かったらしい。


 二人は満面の笑みで頷き出す。そして、二人はイノに対して、普段どんな事を教わっているのかと尋ね始める。


 イノはそれに嬉しそうに応じるが、私からすると脚色されて、かなり盛られた内容に感じるものであった。

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