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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第2部:アテナイ戦争
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血清ポーション

 パナケイアさんの調合室に入った私は、パナケイアさんに必要な道具を揃えて貰う。とはいえ、今回はいつものポーション作りとは勝手が大きく違うのだが。


「こちらがポーション用の瓶になります。毒から生き残った方の血液は、まだ少量しか集まっていませんが……」


「ありがとう御座います。サンプルを作るには十分でしょう」


 私は血液で満ちた小瓶を預かる。これは病院に残っていた患者から集めた血だ。まずは第一弾の作成の為に、少量だけでも集めて貰った。


 そして、今も看護師さんや兵士の皆さんが、退院患者にも声を掛けている。もう少し待てば、より多くの血液が集まるだろう。


 私は同席するパナケイアさん、イノを順に見つめる。そして、パナケイアさんに向けて、堅い声で事前に注意を行う。


「ここで見た事は他言無用。そして、出来上がったポーションは、パナケイアさんが作った事にして下さい」


「私が作った事にですか? それは構いませんが、やはりケンジ様もポーション作りが……」


 パナケイアさんの表情に驚きは無かった。むしろ、腑に落ちたと言う顔をしている。


 これまで私は医者として振る舞い、魔法使いとしての振る舞いを見せなかった。普通に考えれば魔法使いの方が価値ある存在なのだ。それを隠すと言うのは理解が出来ないものだろう。


 しかし、私は度々パナケイアさんにポーションに関する知識を口にした。医者が知るには知り過ぎている内容に、彼女も疑念を抱いていたのだろう。


 私は多くを語る訳に行かず、彼女に静かに頷き返す。そして、手元の小瓶に意識を集中しながら、今から行う作業を説明する。


「血液の中には抗体と呼ばれる物質が存在します。それが毒を中和する働きを持つのです。本来であればその抗体だけを抽出するのが理想となります。けれど、今はその手法を探る時間がありません」


 今もクサリヘビの毒で瀕死の患者がいるのだ。あまり時間を掛け過ぎると、治療が間に合わなくなる可能性が高い。


 だからこそ、魔法による奇跡でその工程を省略する。魔力の少ない私には厳しいが、それでも今回はそうせざるを得ないのだ。


「この血液に掛ける魔法は、『抗体の働き』のみ活性化させるものです。クサリヘビの毒に対する解毒のみに効果を限定します。それと同時に今回は、他人の血液を取り込む副作用には目を瞑ります」


 血液型の違いにより、拒否反応が起きるかもしれない。何らかの想定しない副作用が生じる可能性はある。


 それでも患者の命が最優先である。毒を中和して手足を残す事に注力する。その他の症状は、出た後に対処を考えるしかない。


「魔法の効果を限定し、特化させるのが大切です。そうする事で消費される魔力は抑えられ、魔法の成功率は大きく上がるからです」


 魔力の少ない私では、何でもかんでも魔法で解決する訳に行かない。それだけの奇跡を起こすには、より神に近い存在で無ければならないのだ。


 それこそイノの様に最高神の血を引く存在。選ばれた者であれば、理屈を無視して多くの奇跡を起こせるのだろう。


 しかし、私にそれ程の奇跡は起こせない。だからこそ、私は人の手で行える行為の、そのほんの少し先を実現する事を意識する。


「そして、ポーションを使った際の結果をイメージします。これがどう人体に作用して、その結果がどうなるかが明確である程、ポーションはより高い効果を発揮してくれます」


 私は血中から毒が消え、正常な血液に戻るイメージを込める。手の中の小瓶に魔力を込めるが、消費される魔力はいつもの比では無い。


 血清作りに必要な工程を、魔法による奇跡で代行させ過ぎているからだ。私の体内からはグングンと魔力が奪われ、魔力が足りないのではと不安になる。



 ――いや、駄目だ。不安になるな……!



 魔法とイメージは大きく関係する。失敗するイメージは、そのまま現実にも反映されてしまう。


 私はこれまでの成功体験を思い出す。数々のポーションを作って来た。様々なポーションを作って来た。


 試行錯誤で失敗する事もあった。けれど、数々の実績が物語っている。このアプローチは決して間違っていないのだと。


「――ふぅ……」


 魔力の消費が止まった。つまり、それはこのポーションの完成を意味する。血清ポーションは無事に作る事が出来たのである。


 ただし、私の魔力は半分以上を消費してしまった。これを続けて作る事は出来ないだろう。私の魔力量では、同時に二個以上の魔力ポーションは作れないと言う事だ。


 けれど、それは想定の範囲内。私は微笑みながら娘へと問い掛けた。


「見ていたね、イノ?」


「はい、お父様。イノは全てを見ていました」


 私の問いにイノは応える。彼女の黄金の瞳は力強く、そこからは自信が滲み出ていた。


「ならば、後は任せて構わないね?」


「問題ありません。残りは全て私が作ります」


 キッパリと答える娘のイノ。私は彼女の頭を優しく撫でた。すると、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。


 イノは天才である。私が一度手本を見せれば、それを完全に物にする。むしろ、私よりも効率良く使いこなしてしまう。


 私では無駄が多い工程も、彼女はきっと最適化するだろう。その上で、私とは比べ物にならな魔力量で、沢山のポーションを作り出してくれるだろう。


 私は作った血清ポーションを、専用のポーション瓶へと移し替える。この瓶に入れる事で、時間による劣化を防ぐ効果があるからだ。


 私は蓋をしてからパナケイアさんに瓶を渡す。そして、呆然とイノを見つめる彼女に、私は微笑みながらこう告げた。


「次は傷薬のポーション化をお見せしましょう。私が出来るのは見本を見せる事だけです。後はパナケイアさんが引き継いで下さいね?」


「傷薬のポーション化……?」


 私は彼女が用意していた小さな壺。傷薬用の軟膏を彼女から受け取る。そして、目を見開く彼女に、苦笑しながら説明を始める。


「ポーション瓶に移せないので、魔法の効果は長く持ちませんがね。ただ、考え方としては先ほどと同じになります」


 私は彼女の前で軟膏に魔法を掛ける。傷の化膿を防ぎ、傷の治りを早める効果を付与しておいた。


 そして、パナケイアさんに見本を渡すと、急いで患者の元へと向かわせた。まだ患者は増えるだろうけど、まずは先ほどの三人を急いで治療する必要があるだろうからね。


 そして、彼女が病院に向かって駆ける姿を見送ると、私はその場に力無く座り込む。魔力が枯渇して脱力感が凄まじいのだ。


 まだまだ医者としての戦いは終わりでは無い。けれど、今は少しばかり休ませて貰おう。幸いにして、私より優秀な者達がこの場には沢山居るのだからね。

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